表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1059/1299

ロックという男

 飛行機の旅かぁ。

 僕も経験があるとはいえ、少しだけ興奮した。


 ヨアヒムの計らいで飛行機で移動した僕達は、かなり楽をさせてもらった。

 しかも飛行機の中は、なかなかの快適空間。

 前世というか、日本に居た頃も修学旅行や何かの旅行で飛行機は乗っているが、毎回エコノミークラスだった。

 不満があるというわけじゃないし、むしろそれが普通だと思っていたが、まさか異世界に来てあの頃よりも快適な空の旅を満喫出来るとは思わなかった。

 勿論、機内サービスみたいなものは無かったよ。

 でも座席間隔はあの時よりも広いし、兵達がリラックス出来るようにしたのか、ヒーリングミュージックのような音楽がまた心地良かった。

 それに気持ちを落ち着けるようになのか、アロマの香りもしていて、長秀は森の匂いだと喜んでいた。

 至れり尽くせりの空の旅。

 僕は飛行機を降りて思った。

 これは完敗だと。


 フライトライクのような趣味丸出しの嗜好性では、勝っている自信はある。

 しかし快適性と実用性を兼ね備え、戦後の事まで考えると、絶対に飛行機の方が良い。

 異世界なんだ。

 やりたいようにやるのがベストだと思っていた。

 でもやっぱり、便利な物は便利。

 自分で言うのもなんだけど、バイクで飛ぶとかアホだよね。

 完全に趣味の世界。

 気持ち良さは飛行機に勝るけど、それは好きな人にしか分からないと思う。


 悔しいけど飛行機には、やっぱり勝てないと思った。









 サングラスをしていない挙句、いつもと違って真顔だったから、最初は分からなかった。

 しかし口を開けば、そのメッキは簡単に剥がれた。



「テメェ!長可の姐さん達に、何してくれてんだ?あぁん!?」


 睨みつける長谷部。

 ちょっと間違えると、おっさんを恐喝しているみたいな絵だが、僕も止めるつもりは無い。



「ちょっと、ちょっと待ってほしい!」


「長谷部くん、少し下がりましょう」


 顔と顔がくっつくんじゃないかと思うくらい、長谷部は睨んでいた。

 それを官兵衛が止めると、長谷部は無言で後ろに下がる。



「待ちましたよ。さあ、皆に分かるように説明して下さい」


 あ、これ官兵衛も怒ってるヤツだ。

 待ってほしいと言われたから待った。

 だから早く説明しろ。

 相手を肯定しての圧力というか、逆に何も言わせないようにしておいて、説明を求めるやり方。

 逃げ場を無くすという面では、むしろこっちの方がタチが悪い。



「はい。まず、裏切ってすんませんでした!」


 全裸で土下座をするロック。

 まさかの認めた上での謝罪に、皆は固まった。



「裏切っている事は認めるのか?」


「はい。すいません」


「それならどうして裏切ったか、説明してもらおうか?」


 頭を上げたロックは、いつになく真面目な顔をしている。

 そのせいか皆も責めるのを止め、彼の話を聞く事にした。



「とりあえず最初に言っておくと、俺っちは魔王様に助けられる前から、秀吉様に仕えてたんだよね」


「は?」


 ちょっと待て。

 でもコイツとの出会いは、コバと一緒に変な培養液に漬けられて、エネルギーを吸われてたはずなんだけど。



「出会った時、死にかけてなかった?」


「アレ、俺っちは普通の水だったんだよね。勿論、隣のコバは本物だよ。だから見られてもバレないように、同じような色に着色してた」


 マジかよ。

 アレが芝居だったのか。

 これには流石のハクトも、驚きと怒りが入り混じったような顔をしている。

 あの時、二人を心配していたからな。



「じゃあ同じ場所に居たけど、コバは裏切っていないんだな?」


「俺っちが知る限りではね」


 自分が知らないうちに、裏で秀吉が手を回していなければという話だった。



「それじゃあ俺達と一緒に居たけど、秀吉に全ての情報を流していたんだな?」


「否定は出来ないね。でも訂正させてもらえるなら、全てじゃないと言っておこう」


「全てじゃない?」


 そんな事をして、ロックにメリットはあるのか?



「全てではないのなら、どんな情報を流さなかったのか。言えますか?」


「言えるよ。まず安土とフランジヴァルドの地下通路。これは教えていない」


「教えていないというより、覚えきれなかったんじゃ?」


 沖田がちょっと酷い事を呟くと、彼はそれを即否定した。



「別に覚えなくても良いじゃない。直接歩いて、地図を書いちゃえば良いんだもの」


「それもそうでござるな」


「でも、それはしなかった。ゴリアテっち達防衛隊が厳しくて、無理だと報告はしたけどね。他にも色々あるよ」


 彼は色々と説明を始めた。



 芸能事務所を作ったのは、元々自分の夢と被っていた。

 しかし現実は、様々な領地へ行って、現地の偵察も兼ねていたという。

 コバの護衛も、似たようなものだった。

 新しい兵器や発明品を見ては、秀吉が必要だと思う物をリストアップ。

 それと城の敷地内に工房があるから、城への出入りも普通に出来たのも大きかったらしい。



「そうなるとフライトライクを奪ったのは、貴方ですね?」


「そうだね。それと同時に、城を襲撃した」


「お前!」


 慶次が正座しているロックの首を掴み、片手で締め上げて持ち上げた。

 苦しそうな顔をするロックを、僕と官兵衛が止めた。



「止めろ!ロックには肝心な事を聞いていない」


「そうです。それを聞かないと、疑問が残ってしまいます」


「ゲホゲホ!な、何かな?」


 官兵衛でも分からない疑問が残ると言うと、慶次は渋々手を離した。



「何故全ての情報を流さずに、最低限の情報だけを渡していたんです?」


 そう。

 僕もそれが分からなかった。


 ロックは敢えて、本当に必要な情報は流さなかった。

 その中の一つが、コバの移動式工房だ。

 ロックがフライトライクを奪い、城を襲っている最中に、コバは逃げる事が出来た。

 でもそれは、その情報を秀吉に流さなかったから出来た事なのだ。

 もし工房が走るなんて知っていたら、フライトライクを奪うよりも先に、そっちを襲いそうなものである。



「うーん、言っても信じてもらえるかなぁ?」


「さっさと吐け!」


「慶次!ちょっと黙って。言ってみてよ。聞いてから決めるから」


「それじゃあ。まあ一言で言えば、俺っちはこっちの方が良かったんだよね」


「は?」


 コイツは何を言っているんだ?

 僕達は全員が、理解が出来なかった。



「ど、どういう意味ですか?」


「だから、マオっち側の方が居心地が良いんだよ。俺っちは多分、秀吉様からしたら捨て駒に近いと思う。でも皆は、俺っちを仲間と認めているでしょ?」


「う、うーん?」


 僕は少し首を傾げると、ロックは少し微妙な表情を見せた。

 だがそれから少し笑った。



「そう!そういう反応だよ。おふざけしても笑って許せる、そんな関係。それに俺っちの夢も、叶えさせてくれたしね」


「ロックさん・・・」


 ハクトを見ながら叶ったと言ったロックに、ハクトもちょっとだけ笑った。



「要はさ、皆を見捨てたくなかったワケ。だから必要最低限の情報だけ流して、俺っちは自分の夢を楽しみたかったのよ」


「だったらおっさん、魔王様に助けてくれって、全て話せば良かったんじゃねーの?」


「かー!若いねえ。それが出来たら、苦労はしないのよ」


 それが出来ない?

 まさか。



「精神魔法か?」


「ご名答」


「オイラ達に話せるという事は、情報を流せという程度のものですね」


「その通り。どうせ俺っちには、秀吉様から重要な情報なんか回ってきやしないからね。捨て駒扱いであんまり信用されていないなら、俺っちだって最低限の情報だけしか回さないってワケ」


 話しても痛くない情報だけが、ロックには渡されるって感じか。

 ロックは得た情報を、少しだけしか回さなかったらしい。

 そうやって時間を稼ぐ事で、自分の夢に力を注いでいたみたいだ。



「だったら契約を破棄すれば!」


「いや、止めた方が良いと思う。多分ロックの契約が破棄されれば、向こうも僕達がやったと気付くだろう」


「ですね。だからこの状況を、逆手に取りましょうか」


「え?ブアックション!」


 官兵衛が不敵な笑みを浮かべると、ロックは大きなクシャミをした。



「と、とりあえず風呂入りませんか?流石に僕達も、身体が冷えてきた」








 沖田が身体を摩りながら皆に促すと、全員風呂に入っていく。

 その中で正座を続けるロック。



「ロック、お前も入れ」


「良いの?」


「裏切りは許せない。でも本心では微妙だと分かったから、僕は少し溜飲が下がったかな」


 まあ僕は許せても、他はそうじゃないんだけど。



「ロック、貴様に聞きたい事があるでござる。兄の今の状況は、貴様の情報が原因なのか?」


「兄?又左っち?そういえば見てないけど、遠征中?」


「分かった。拙者もまだ全ては信じないが、許すでござる」


 嘘を吐いているような素振りは見えない。

 慶次もそれを信用して、ロックを許す事にしたらしい。



「アンタ、安土炎上の件は関わってるのか?」


 ド直球に聞く長谷部だが、それに関してはロックも思うところがあるようだ。



「アレね!あの炎上、あわよくば俺っちも始末しようとしていた節があるんだよね。じゃなきゃ、帝国兵が俺も狙ってくるのおかしいでしょ!」


「・・・そういえばおっさんも戦ってたな」


「そりゃそうだよ!俺っちも死にたくないんだから」


「そっか。じゃあ良いよ」


 長谷部は官兵衛を見て答えると、官兵衛も小さく頷いた。



「ちなみにロック、お前が知ってる情報ってあるの?」


 僕は皆が許した事で、今度は僕が質問をしてみた。



「俺っちが知ってるのは一つ。安土の乗っ取りかな。それに伴って、安土城を取り壊そうと考えているみたい」


「な、なにぃ!?」


「代わりに新しく、大坂城を築城しようとしてるっていうのは聞いてる。だから城を造れる人材を、探してるみたい」


 アイツ、そんな事を。

 しかし安土城は、僕達が頑張って造った城。

 許せないな。



「安土城を壊して、大坂城ですか。魔王様の威信を壊して自分が頂点だと、世界中の人々に知らしめたいのでしょう」


「なるほど。そういう考えか」


 そうなると、少しだけ藤堂高虎の件も納得が出来るかもしれない。



 実は黒田官兵衛と加藤清正。

 そして藤堂高虎は、あの時代において城造りの名人として有名だった。

 官兵衛はこちらに居るとして、加藤清正と藤堂高虎という名前を与えたのは、あの二人が築城が出来るからなのかもしれない。

 そうなると、官兵衛も再び狙われる?



「ロック、秀吉に官兵衛の話はしているか?」


「そりゃマオっちの頭脳だし、してるけど」


 それを聞いて睨む長谷部。

 官兵衛も少し不安そうな顔を覗かせたが、話を聞くとそれも誤魔化していたようで、安心していた。



「城造りに関して、何か聞かれたりした?」


「あっ!聞かれた!官兵衛っちが城を造ったのかってね。勿論、違うって答えたけど」


「で、造った人の名前を教えたの?」


「教えたよ。帝国の人だったし、てっきり秀吉様も把握している人だと思ったから」


 なるほど。

 そうなると秀吉は、帝国にもスパイを潜ませている可能性が高いな。



「魔王様」








「おそらく城造りが上手いという事で、ビビディは狙われている。ヨアヒムにはその事を、連絡しておこう。ただし、もう少し温泉を堪能してからだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ