表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1058/1299

寄り道

 自走可能な部屋。

 僕は改めて思った。

 それって、キャンピングカーだよね。


 キャンピングカー。

 それはアウトドアが好きな人が乗る、趣味の乗り物。

 そしてめちゃくちゃ高くて、金のある人しか買えない物。

 だと僕は思っている。

 だから金持ちで僕達みたいな一般人とは、話が合わないんだろうと、一方的に思っている。

 僕の偏見なので、かなり偏った考えだけどね。


 でもコバの自走式工房は、キャンピングカーとは少し違う。

 キャンピングカーはキャンプで使用する、あくまでも趣味の車だと思う。

 しかし自走式工房は、その名の通り工房なのだ。

 働く為の車なのだ。

 どちらかと言えば、弁当やアイス等を販売しているバンやトラックに近いだろう。

 それ等と違う点は、かなり大きくて人が住める事だ。

 だから僕は思った。

 それって、24時間ずっと仕事場に篭っているのと同じではないのかと。

 起きたら目の前に仕事がある。

 休みたいのに仕事が目に入るというのは、気が休まらないんじゃなかろうか?

 コバや昌幸は別として、信之や信繁。

 それに高野達はやっぱり休みたいと思うんだよね。

 この世界に労働基準法なんて無いけど、ある程度のコンプライアンスくらいは守るべきだと思う。


 だけど少しだけ違和感もあった。

 高野田中鈴木は別として、他の連中って仕事が趣味みたいなところがありそうだと。

 もしかしたらこの状況、彼等が望むべき環境なのかもしれない。

 仕事が趣味の人って定年退職する時、どうするんだろう?

 全然関係無いけど、ふとそんな事を疑問に思ってしまった。












 ハクトと長秀は、飛行機に駆け寄った。

 特に長秀は、いい大人が子供のようにはしゃいでいる。



「落ちないとは言えない。でも何も無ければ、限りなく確率は低い」


「何も無ければと言うと?」


「何処ぞの魔族がフライトライクで攻撃してきたり、何処ぞの騎士がワイバーンに乗って突っ込んできたりしなければ。という意味だな」


「うぐっ!」


 なんて嫌な言い方をする男だ。

 しかも文句はまだ続いていて、大破した機体が幾つだとかパイロットを育てるのも大変なのだとか、そんな事をずっと言っている。

 僕は右から左に聞き流すと、ギュンターが真顔で話し掛けてきた。



「魔王様、コレは我が帝国でも唯一損傷が無い機体です。どうか何事も無いよう、よろしくお願いします」


「それは・・・善処します」


 まあ僕には、その程度の返答しか出来ないよね。

 僕だって快適な空の旅を楽しみたいけど、フライトライクは秀吉達も手に入れてるし。

 オケツの甥?

 親戚であるシャマトフセが居るといっても、騎士王国だってまだどのような態度を取るか決まっていない。

 無事に航行出来れば良いけど、それは向こうの出方次第なんだよね。



「ちなみに砦の近くに降りると、何処を目指しているのかバレてしまいます。なので少し離れた、上野国付近で降りるのが最善だと思われます」


「了解しました」


 官兵衛はパイロットと、入念な準備をしている。

 どうやら降りる場所を、地図で確認しているらしい。



「では翌日、上野国付近に向かいます。皆さん、休んで下さい」










 翌日になると、僕達のフライトライクは既に積み込みが完了していた。

 数日分の食料と水。

 そして復路の燃料を積んだ飛行機は、帝都を飛び立とうとしていた。



「本当に世話になった」


「迷惑を掛けた分の方が大きいからな。この程度でお返し出来たと思っていない」


 僕はヨアヒムと握手を交わすと、官兵衛はヨアヒムにある物を差し出した。



「携帯電話。良いのか?」


「おそらくこれからは、情報が勝負の鍵となります。誰が味方で誰が敵か分からない今、情報の共有は命綱ですから」


「そういう事だ。これは魔族専用の携帯だから、自分の魔力が必要となる。でもヨアヒムなら、関係無いだろ?」


 僕と官兵衛がそう言うと、ヨアヒムは試しに僕に電話を掛けた。

 着信音が鳴り、通話が出来る事を確認する。



「これはまた、この世界ではかなりのオーバーテクノロジーだな。こんなのが使われていたら、俺達も負けるわけだ」


「オイラとしては、どうして帝国は作らなかったか。不思議ですけどね」


「無理だな。本来なら電波塔や基地局といった施設が必要なのだ。そんな物をこの世界中に張り巡らせるだけで、数十年は掛かるだろう」


「そうなんですか。オイラも仕組みまでは知らなかったので」


「魔力で繋がる、魔族だけの特権だと思えば良いさ」


 ヨアヒムは苦笑いをしながら、官兵衛とも別れの挨拶を交わした。

 官兵衛の方も快く手を差し出したのを見ると、あの頃の忌わしい記憶は払拭されたのかもしれない。



「さらばだ魔王。また共に戦おう」


「うん。色々とありがとう。ムッちゃんもまたね」


「俺も!俺も行く!」


 ムッちゃんも飛行機に乗ろうとすると、後ろからギュンターが頭を叩いた。



「バカタレ!お前が行ったら、誰が陛下を守るのだ」


「そうだった。じゃあ魔王様、今度は秀吉をぶっ飛ばす時に」


「そうね。ムッちゃんには期待してるよ」


 皆と別れの挨拶を済ませると、ヨアヒム達は飛行機から離れた。

 飛行機が滑走路を走り始めると、彼等が手を振ってくれていた。









 飛行機の中は、意外と快適だった。

 敵地に攻め込む為だから、もっと簡素で兵を詰め込めるだけ詰め込むような感じで、内装はもっと簡素だと思っていたんだけど。

 これならリラックスして過ごせそうだ。



「ヨアヒム陛下、清々しい人物でしたね」


「そうだね」


 長秀は帝国に阿形達を預けるのに心配をするかと思われたが、それは杞憂だったようだ。

 むしろ何か思うところがあるみたいで、怒りを滲ませている。



「あんな傑物を洗脳して、操っていたとは。木下、いや豊臣秀吉は許せませんな」


「そうですね。オイラの足が不自由になったのも、帝国ではなくあの人が原因だったという事ですし」


「それは俺も悪かったんですけど・・・」


「長谷部くんのせいではないですよ!」


「そうでござる!諸悪の根源は、秀吉!兄上だけおかしいのも、奴のせいでござる!」


 うーむ。

 怒りで皆のモチベーションが上がるのなら、別に良いかな。

 慶次の言う通り、秀吉が悪いのは間違っていないし。

 何よりベティや権六、そしてマッツンを消したのは、許せる行為じゃない。



 快適な空の旅路を眺めていると、いよいよ着陸予定地である場所に着いた。

 やはり降りる時は怖かったのか、長秀の顔は強張っていた。



「到着です」


 パイロットから予定通り着陸したと、アナウンスが入る。

 外を眺めると、見覚えがあるような無いような場所だった。



「アレ?僕、見覚えあるよ」


「そうなの?」


 ハクトがキョロキョロ見回すと、やはり知っていると言う。

 しかし僕は、全く覚えていなかった。



「覚えてない?こっちの方に、温泉があったはずだよ」


「思い出した!」


 そうだ。

 上野国は厩橋城のある都市の他に、温泉地が点々とあるんだった。

 確かこっちは草津だったかな。



「・・・ちょっと寄ろうか?」


「魔王様!」


 長秀が僕に大声を出す。

 やはり寄り道をするのは、駄目だよね。



「名案です」


「へ?」


「我々は闘い尽くめでした。少しは身体を休めるのも、アリだと思います」


「えっと、良いのかな?」


 僕としてはありがたい言葉だったけど、長秀一人の賛成を得ても仕方ない。

 だけど予想外に、皆も賛成だった。



「官兵衛さんの足にも、良さそうだし」


「イッシー殿の腕にも、良さそうでござる」


 自分の希望というより、誰かを慮るか。

 なんかむしろ嬉しいな。



「よし!一日くらいは羽目を外そう!」









 温泉街に着いた。

 うーむ、平和だ。

 外では争いと混乱がひしめいているのに、どうしてだろう?

 もし秀吉の統治下にあると、流石に見つかると面倒だ。

 ここは確認しておくのがベストだろう。

 だから街に入って一番近い温泉で、受付をしているお姉さんに話し掛けてみた。



「お姉さん、ちょっと良いですか?」


「あら、またお客さん。久しぶりに続くわね」


「久しぶりに続く?」


「最近はね、パッタリと客足が途絶えたのよ。少し前なら、商人が必ず立ち寄ってくれていたんだけど。でも最近になって、ヒト族のお客さんが来てね」


 ヒト族の?

 帝国は密偵くらいで、公にこういう場所には来ないと思われる。

 それに騎士王国は、まず外に出てこない。

 という事は、王国や連合が動いてる?



「どんな連中でしたか?」


「そうねえ。仲が良さそうなのが一組と、怪しいおじさんが一人」


「二組?同じグループではなく?」


「別々に来たから、違うんじゃないかしら」


 うーむ、謎だな。

 グループならまだ分かる。

 ヒト族が一人で旅をするのは難しい。

 だから商人と護衛とも考えられるし、全員が魔物を倒せるような冒険者的な連中かもしれない。

 でも一人で来てるおっさんは、何者だ?

 ヒト族の国からここまで一人で来るなら、それなりに強くないと無理だぞ。



「それでお客さん達、入るの?入らないの?」


「入ります!」


 ヒト族の客はちょっと気になるけど、所詮はちょっとした少人数のグループと、単独行動をしているおっさんだ。

 襲われても対処出来る自信はある。

 それは皆同じ気持ちだったのか、入ると言ったら和やかな空気になった。



「露天風呂がオススメよ。楽しんでね」


 お姉さんに皆の分の入湯料を支払うと、僕達は真っ直ぐ露天風呂へ向かった。



「露天風呂でござるか。今日は天気も良いし、気持ち良さそうでござるな」


「ちゃんと身体を洗ってから入れよ」


「イッシー殿。そういう小言を言うと、年寄り臭いでござるよ」


「おまっ!いやまあ、もうおっさんだけどさぁ。ハッキリ言われると凹むわ」


 肩を落とすイッシーだったが、今回は同じおっさんが同行している。

 そのおっさんはイッシーの肩を叩くと、気持ちは分かると頷いていた。



「丹羽殿も、阿形や吽形が居ますからね。あの二人はしっかりしてそうだけど、頷いたって事はダメなんですか?」


「そうですねぇ。あの二人も他人の目が無いと、子供っぽくなるんですよ」


「意外ですなぁ。しっかりしているように見えるのに」


 確かに意外な事実だ。

 でも本人達が居ない場所で暴露されるのは、ちょっと可哀想な気もする。



「あ、先客が居たでござる」


「慶次殿、迷惑が掛かるから静かにしましょう」


「騒いですまないでござる」


 官兵衛に注意された慶次は、先客に謝罪する。

 しかし先客は手を軽く挙げただけで、何も答えなかった。



「無愛想な人ですね」


「こっちを見向きもしないし」


 沖田と長谷部は、謝ったのに何も言わない男に、ちょっと苛立ちを感じている。

 だがうるさくしたのは、こっちである。

 だから二人とも何も言わなかった。


 しかし空気が重いのは困る。

 それを察したハクトは、その男に話し掛けた。



「こんにちは。おじさん、何処から来たんですか?」


「うぇ!?お、俺っちに聞いてる?」


「ん?俺っち?」


 聞いた事のある声に加えて、あまり聞かない一人称。

 僕は思わず、露天風呂に飛び込んだ。



「ぶあっ!飛び込むのはダメでしょうが!あ・・・」









「だったら僕達を裏切って、長可さんを監禁するのは良いのかな?んん!?どうしてこんな所に居るのか、説明してもらおうか!ロック!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ