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混乱する魔族

 又左は戻ってこなかった。

 僕の声も慶次の声も、誰の声も届かなかった。


 イッシーに大怪我を負わせたのは、やはり又左本人だったようだ。

 でも本当は皆、もっと前から薄々気付いていたと思う。

 慶次の槍を弾き余裕で反撃出来る奴なんて、そうそう居ないから。

 これがもし普通の槍を使っていたなら、話は変わる。

 秀吉の部下にも、僕達が知らない強者が居るから。

 だけど今回の件は、ちょっと違う。

 又左の長槍を、手足のように操っているのだ。

 あんな使いづらい武器、他人ならそう簡単には扱えない。

 そう、アレは又左専用の武器なのだ。

 弟である慶次だって、又左の槍を上手く扱えない。

 又左と同様に使える人物が居るとするなら、それはイッシー以外に居ないだろう。

 そのイッシーも、又左ほどではないと本人は言うけどね。


 だから僕達は、少し分かっていた。

 現実から目を背けていたんだ。

 又左が僕達に、刃を向けてきた事に。

 仮面を付けて顔が見えなかったのを良い事に、敢えて知らないフリをしていた。

 だけど現実を知ると、それはそれでショックが大きい。

 特に慶次は、自分の兄に殺されそうになったのだ。

 僕達よりもショックだろう。


 もし仮に僕が兄に殺されそうになったら、どうするかな?

 ・・・やり返すんだろう。

 素直に刺されるほど僕は腑抜けていないし、何より腹が立つ。

 僕もショックはあるけれど、それ以上に腹立たしさの方が大きそうだ。

 僕の兄さんが、何を操られてるんだってね。

 正直なところ又左も兄と同じで、隙はあった。

 又左が秀吉に加担していたとは思えない。

 アレは絶対に、洗脳されているに違いない。

 こっちもショックを受けたんだ。

 向こうにもショック療法と称して、パンチの一発でもお見舞いしないと、割に合わないな。

 今度あったら、ぶん殴ってやる。









「ブホッ!な、何で!?」


 イッシーにビンタされた。

 しかもわりかし本気で。

 左の頬がめちゃくちゃ痛いんだけど。



「・・・右手が動く。右手が自由に動くぞ!」


「イッシー殿、やりましたね!」


「サンキューな!」


「良かったよぉ〜!」


「ハクトも色々サンキュー」


 皆がイッシーを囲んで、喜んでいる。

 分かる。

 皆イッシーが回復して喜ばしいのは分かる。

 でも一つ言いたい。



「どうして僕は引っ叩かれたのかな?」


「あぁ、すまない。ちゃんと治ったのか確認したかったのと、言って良い冗談と悪い冗談があるだろって言いたかった」


「それについては謝罪するけど。でも治したのに叩かれるのは、あんまり納得いかなかったり・・・」


「いや、今のは魔王が悪い」


「ですね。人の一生に左右する事を、あんな扱いをされるなんて。イッシー殿に同情しますよ」


 ヨアヒムとギュンターが、追い打ちを仕掛けてきた。

 しかもギュンターに至っては、イッシーにめちゃくちゃ同情してるし。

 この中間管理職め!

 いや、大将はもはや中間ではないな。



「しかし、こりゃ凄いな。俺の超回復は自分しか効果無いけど、これは他人に使えるんだもんなぁ」


「まあね」


「何かデメリットとかあるの?」


 ハクトはこの魔法が、とても気になる様子。

 まあ回復魔法が使える人なら、絶対気になるよね。



「デメリットというか、これも空間転移と同じで、魔力消費が激しい。だからしょっちゅう使えるわけじゃない」


「マオくんで消費が激しいなら、僕じゃあ使えないね」


「まあ一応、創造魔法だしなぁ」



 ちなみにこの魔法は、ロベルトさんの父であるカーリスさんの創造魔法である。

 実はこの魔法、完全回復という名前なのだが、これはロベルトさんの身体変化にも繋がる魔法なのだ。

 ロベルトさんの身体を作り変える魔法は、背中に翼の骨格を作ったりして空を飛んだり、腰から更に足を増やして四足歩行になったりする。

 それはある意味、身体を欠損と回復というものに通じているらしく、要はカーリスさんの魔法をアレンジして出来たのが、ロベルトさんの創造魔法という事になるのだ。


 カーリスさんがこの創造魔法を編み出していなければ、ロベルトさんも自分だけの創造魔法なんて、完成していなかったと言っていた。



「イッシー、違和感とかは?」


「違和感はあると言えばある。右腕が抉れていた時は、激痛と痒みのようなものがあった。気のせいだと思うけど、なんか痒く感じる」


「血流が良くなったからじゃない?」


「言われてみればそうかもしれない!」


 血行が良くなると、痒くなったりする。

 イッシーの違和感は、多分それだと思われる。



「でもまあ大事を取って、しばらくはリハビリ期間が必要かな」


「そうだな。俺も身体が鈍っているだろうし、慶次、リハビリに付き合ってくれるか?」


「勿論でござる!」


 イッシーはこちらを見てきた。

 多分慶次に気を遣ったんだろう。


 リハビリと称して慶次を巻き込めば、彼も又左の事を考える時間も少なくなる。

 慶次の気分転換には、丁度良かったのかもしれない。



「皆さん、落ち着いたところで状況を整理しましょう」


 官兵衛の一言で、各々が今分かっている事を全て話した。



「越中国が陥落したでござるか」


「慶次は覚えてないかもしれないけど、ベティは秀吉に消されてしまった」


 あの場に居なかった彼は、関ヶ原の戦いの結末を知らないかもしれなかった。

 そして予想通りそれは的中し、ベティだけでなく権六や本多忠勝、そしてマッツンまで消された事を知らなかった。



「マッツンは良いとして、他のお三方がやられたのは大きいでござるな」


「私も同意見だ。狸は置いといたとしても、柴田殿や佐々殿の穴は大きい」


 マッツンの評価は最底辺だからなぁ。

 彼が居なきゃ僕達は逃げられなかったかもしれないし、ここはここは彼の名誉の為にも、真実を伝えよう。



「実はね、そのマッツンが秀吉を追い詰めていたんだ」


「魔王様、何の冗談を言っているんですか」


「場を和ませようとしているでござるか?」


 酷い。

 信じてもらえない。



「あの、マオくんの話は本当です。皆で見たんです」


「僕も見ました。あの人、力を隠すのが上手かったのか、アレを見るまで信じられませんでしたけど」


「ほ、本当だと言うのか」


「信じられないけど、魔王様以外にも言っているのでござる。真実なのだろう」


 ようやく信じてもらえたが、マッツンの評価が変わったくらいで、特に進展は無い。


 そこで官兵衛は、他の情報を得る事を提案した。



「越中国は陥落しました。越前国は、何とか防衛しています。では、他の領地や国はどうなのでしょう?」


「それは私も気になっています。阿形と吽形の怪我が治り次第、一度若狭国に戻りたいと考えています」


「お二人なら、まだ安静にしていないと駄目ですね」


 ギュンターは医務官から、阿吽の二人はまだ寝ていないと駄目だという報告を聞いていた。

 すると沖田が、長秀に提案を持ち掛けた。



「であれば、僕と向かいませんか?」


「沖田殿と?」


「危険なのであれば、僕も協力しますよ」


 長秀が連れていた妖精族だけでは、心許ない。

 だから阿吽が回復するまで待つかという判断もあったが、やはり情報を得るのは早い方が良い。

 そこで阿吽の代わりに、沖田が協力を申し出てくれた。



「願ってもない!こちらこそよろしくお願いします」


 長秀は即答で逆に頼む形で、沖田の手を取った。

 これで若狭国の状況は分かるはず。

 一益には後で電話するとして、問題は長浜と僕達の家である安土だ。



「官兵衛、長浜をどう思う?」


 自分の生まれ育った場所である。

 裏切っているかもと言わせるのは酷かもしれないが、官兵衛の口からどう思っているか、それが知りたかった。



「分かりません。しかしテンジ様は、領主の座を返上したと聞きました。だからおそらく、我々とは敵対する道を選んでいると思われます」


「それはテンジも?」


「どうでしょう。電話を掛けても、ずっと出ないんです」


 官兵衛はテンジを心配していた。

 何度か隙を見ては電話していたみたいだが、コール音は鳴るが出ないらしい。



「じゃあ僕が電話してみるよ」


 今この場で電話して出るとは思えないが、なんとなく掛けてみた。



「・・・もしもし」


「で、出た!」


「その声はもしや、魔王様ですか?」


 受話器から聞こえてくるのは、小声で話しているような小さな声だった。

 どうやら隠れて話しているらしい。



「要件だけ聞く。お前は秀吉の味方か敵か、どっちを選んでいる?」


「私は、魔王様の味方です。そして私は今、長浜から遠く離れた森の中に居ます」


「遠く離れたって、今何処に居るんだ?」


「実は、上野国へ向かっています」


「上野国!?」


 僕がその言葉を口にすると、官兵衛が一益と合流したか聞いてくれと言ってきた。



「まだです。しかし滝川殿も、状況が悪化しております」


「それは、どういう意味?」


「厨橋城は炎上しました」


「も、燃えた!?燃やされたのか!?」


「分かりませんが、城と鍛冶場は半壊しているみたいです」


 なるほど。

 秀吉の破壊工作だな。

 鍛冶場が使えなければ、新しい装備は作れない。

 戦力補強をさせない為の工作だろうな。


 僕が納得していると、横でソワソワし始めた男が居る。

 長秀だ。



「ま、魔王様。テンジ殿に若狭国の情報は無いのか、聞いてもらえませんか?」


「というわけで、若狭国の情報は知ってる?」


「知っておりますが、丹羽殿が居られるんですか?」


「隣でソワソワしてる」


「・・・聞いても怒らないで下さいね?」


 あぁ、これは駄目なヤツだ。

 僕はすぐに諦めると、長秀は僕の様子を見て悟ったのか、肩を落とす。



「若狭国は乗っ取られました」


「は?燃えたんじゃないの?」


「実は、別の者によって奪われているみたいです」


「えっ!」


 驚いた声を上げた事で、また長秀はソワソワし始めた。

 僕は長秀に待ってもらい、テンジから更に詳しい情報を聞く。



「誰に乗っ取られたか分かる?」


「の、乗っ取られた!?」


 僕の言葉に長秀が大きな声で驚いたが、とりあえず無視。

 しかしテンジでも、名前までは知らないと言う。

 ただし、かなり有力な情報は持っていた。



「魔族ではないみたいです」


「じゃあヒト族か」


 守護者や領主が不在だったとはいえ、妖精族を倒せるヒト族。

 それはもう、召喚者しか居ない。



「俺、分かったかもしれない」


「陛下!帝国の人間だと言うのですか!?」


「違う。若狭国の城は、佐和山城だったな?」


「はい」


 あ・・・。

 僕も分かった。








「相手は石田三成だ」

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