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瀕死のイッシー

 小さな希望。

 人によっては天国にも地獄にも感じる言葉。


 僕はお市に、越前国領主である柴田勝家が生きているかもしれないと伝えた。

 旦那が生きているかもしれないと言ったら、彼女はその希望を聞いて少し元気が出た気がする。

 でもこの小さな希望というのは、どちらにも取れる言葉だと思うんだよ。


 希望はあると言われれば、それを胸に頑張ろうと思える人は大勢居ると思う。

 でもそれが、小さかったらどうだろう?

 これは僕の個人的な意見だが、希望があると言われた時の可能性が7割くらいだとしよう。

 じゃあ小さな希望ってどれくらいだ?

 僕は3割を切るくらいだと思っている。

 この3割という数字、絶妙な割合だと思うんだよね。

 もしこれが野球で3割も打てるなら、その人は凄い。

 普通に考えたら、試合に出ればほぼ必ず一本はヒットを打てるのだから。

 しかしこの3割という数字が、手術の成功率だったとしよう。

 それしか無いの!?

 3回に2回は失敗してしまうの!?

 というように、突然印象は悪くなってしまう。

 もしそんな手術を受けないといけないという人が居たら、即答出来る人はかなり少ないだろう。

 命に関わるものでなければ、受ける人なんかほとんど居ないんじゃないか?


 極端な例で話したけど、小さな希望というのはそういうものだ。

 そんなのほとんど無理じゃないかと思う者。

 僅かでも可能性があると喜ぶ者。

 もし僕が同じ立場なら、前者だと思う。

 何故なら生きている可能性が低いのに、わざわざ希望を持たせるなと言いたい。

 死んだと思って諦めていたら、生きていた。

 僕はそっちの方が嬉しいからね。

 小さな希望。

 与えるべきか与えないべきか。

 人によるんだろうなぁ。










 電話越しに聞こえた声は、かなり真剣だった。

 あんなに切羽詰まった慶次の声は、そうそう聞かない。



「慶次、それが本当ならどうして攻撃されたんだ?」


「分からないでござるよ!うっ!」


 いかんな。

 慶次を興奮させたら傷に障る。

 僕は沖田と変わるように諭した。



「話は聞いたたよね?」


「はい。僕も確認していますが、本人かどうかは判断しかねます」


「何故?」


「槍を振るう姿は見ましたが、顔を隠していたので本人かどうかは分かりません」


 槍だけ又左から奪ったとも考えられるか。

 しかし沖田の考えは、慶次と変わらないらしい。



「言い難いですが、アレは前田殿の兄だと思います」


「理由は?」


「爪と槍を交えた感覚でしょうかね」


 達人同士の剣による会話みたいなものかな。

 普通ならそんなのアテにならないと突っぱねるところだが、慶次も同じ意見なのだ。

 二人がそうだと言っているなら、限りなく可能性は高いと思われる。



「沖田殿!もうすぐ破られる!」


「また連絡します!」


 長秀の声が聞こえたと思ったら、電話が切れてしまった。

 相当余裕が無いらしい。

 そして電話が切れる直前の声は、皆にも聞こえていた。



「・・・結構危ない?」


「おいジジイ!やっぱり危なかったじゃないか!」


「うるさい!そんなの俺が全部分かるか!」


 蘭丸と水嶋が言い争いを始めると、再び冷たい空気が流れる。

 それを感じた二人は、すぐに口を閉じた。



「魔王、空間転移はまだ使えるか?使えるのなら、何人じゃ?」


「出来なくはないけど、もう一回使ったら僕自身は戦うのは難しいね。それでも良いなら、僕が自分の身体に戻るとして、二人までかな」


「二人か。ならばタケシとハクト。この二人を連れていけ」


 お市は二人を指名すると、二人は顔を見合わせた。



「どうして俺達?」


「戦闘力という意味では、貴様が一番じゃ。そしてハクトは、回復も出来るし魔法で足止めも出来る」


「なるほど」


 二人は自分達が選ばれた理由に納得する。

 しかし僕は逆に、この二人を連れていって良いものか悩んだ。



「良いの?越前国でも重要な人材だと思うけど」


「大丈夫じゃ。むしろ奴等は、タケシと魔王を恐れていた。二人がここから突然居なくなったなど、誰も思いもしないだろう」 


 そっか。

 逆にチャンスだ。

 奴等は僕とムッちゃんを警戒していた。

 となると、ここに居るという情報は秀吉にも行くはず。

 だったら動かないように、僕達をここに閉じ込めておこうと考えるかもしれない。



「空間転移なら、気付かれずに移動出来る。マオくん、イッシーさん達を助けに行こう」










 僕は帝国へ戻ると、ヨアヒムと官兵衛に情報を共有してから、すぐにムッちゃんとハクトをトライクに乗せた。



「もう駄目・・・。兄さんにバトンタッチ」


「ほ、本当に一瞬なんだね」


「これはすげーな。俺もビックリしたわ」


 もうほとんど、自分の魔力は無い。

 あとは頼んだ。



【よっしゃ!久しぶりにトライクで爆走してやるぜ!】





 俺は出発しようとアクセルを握ると、官兵衛が近寄ってきた。




「気を付けて下さい。おそらく、一筋縄では行かない気がします」


「分かった。とりあえず二人の救出を最優先に考えるわ」


 官兵衛が警戒するレベルか。

 やっぱり相手は又左なのかな。



「タケシ!暴れてこい」


「イエッサー!滝川のおっさんには結構やられたからな。俺もやれるって見せないと」


 ムッちゃん、一益にやられたのか。

 意外だな。

 俺の中ではここが一番アンパイな気がしたんだけど。

 まあ魔法が解けてる時点で倒したんだろうけど、結構って言ってるから普通にやられたんだろう。



「連絡によると、ここからそう遠くはないです。帝国の方々は騎馬隊で向かいましたが、トライクなら数時間で到着すると思われます」


「了解だ。じゃあ、いっちょ助けに行ってくるわ」


 俺はアクセルをぶん回し、帝都を出て北に向かった。






「マオくん、そろそろスピード落として!」


「敵か?」


「北の方から、戦っている音が聞こえてくる。沖田くんかもしれない」


 俺はアクセルを緩めると、徐行しながら進んでいく。

 するとハクトからストップの指示が来た。

 その直後、左からトライクが飛び出してくる。



「トライク!?」


「イッシー隊か!」


「魔王様!?どうしてここに?」


 トライクが二台で並走してきたが、俺達に気付くとターンして戻ってくる。

 乗っているのは獣人だった。



「イッシーと慶次が捕まって聞いてな。助けに来たんだ。沖田と長秀が、既に救出したみたいだけど。沖田達が何処に居るか分かるか?」


「なるほど。そうでしたか」


 二人は顔を見合わせると、俺達を案内してくれる事になった。



「どうして二人だけなんだ?」


「我々も救出を試みたのですが、失敗して散り散りになりました」


「話によると、なかなか強いみたいだな」


「そうですね。まさか失敗するとは」


 二人がゆっくりと走り、俺はその後ろをついていく。

 すると後方の方から、何か焦げたような臭いがしてきた。



「なあ、後ろから煙が上がってるけど」


「マオくん、後ろの方で戦闘してるよ」


 ムッちゃんとハクトから後方の話をされたので、後ろを振り返った。

 すると、ムッちゃんが突然トライクから飛び出した。



「な、なんだぁ!?」


 俺が驚いた直後、頭の後ろから金属音が耳に入る。

 前を向くと、獣人が俺に向かって剣を振り下ろしていた。



「おい、どういう事だ?」


「チッ!退くぞ!」


 ムッちゃんが真剣な声で、獣人に問い掛ける。

 しかし彼等はアクセルを握ると、すぐに走り去っていった。



「もしかして、敵だったのか?」


「トライクに乗ってるのに!?」


「でもお前、俺が剣を弾いていなければ、死んでたと思うぞ」


 むむ!

 でも俺はトライクに乗ってた事で、てっきりイッシー隊だと思って油断していた。

 たしかにムッちゃんが弾いてくれなければ、頭を斬られていたと思う。



「マオくん、やっぱり後ろに戻ろう。多分、あっちが沖田くん達だよ」


(僕もそう思う。アイツ等が敵なら、僕達を味方から引き離したかったんだろう。だからもっと、北に行かせようとしたんだ)


 なるほど。

 まんまと引っ掛かったわけだ。



「戻ろう」








「沖田殿。そろそろ魔力が心許ない。あまり魔法での足止めは出来なくなるぞ」


「分かりました。ここからは隠密行動をして、隠れて待つ事にしましょう」


 追っ手を振り切った沖田と丹羽は、これ以上の逃走は難しいと考えた。

 官兵衛に助けを求めて、既に半日。

 帝国兵を救援に送ってくれるというので、イッシーと慶次の安否を考えると、待つ方が最善だという考えに至ったのだ。



「間に合いますかね?」


「間に合ってくれないと困るな」


 丹羽はイッシーを見て言った。

 慶次は意識を取り戻したが、イッシーはまだ目を覚まさない。

 怪我の具合が悪化しているのは、目に見えて明らかだった。



「丹羽殿、もう薬は無いでござるか?」


「すまない。私も戦闘で使ってしまい、切らしてしまった」


「クソッ!イッシー殿、頑張るでござるよ」


 イッシーは全く微動だにしない。

 三人は不安に思いながら隠れていると、突然蔦の壁の向こう側から、戦っている音が聞こえてきた。



「向こう側から?イッシー隊の連中か?」


「彼等には散開してもらったが。絶対に戦わないようにと伝えてある」


「では、誰が戦っているのでござるか?」


「救援なら南から来るはずなんですけど」


 しばらくすると、呻き声が何度も聞こえてきた。

 どうやら一方的な展開になっているらしい。



「このまま隠れていた方が良いと思うか?」


「僕が様子を見てきます。二人は待っていて下さい」


「危ないと思ったら、すぐに逃げるでござるよ」


 沖田が蔦の壁へ向かう。

 蔦にたどり着き聞き耳を立てると、誰かが文句を言いながら戦っているのが分かった。

 沖田はこの時、複数人が一方的に倒していると確信する。

 蔦から離れ丹羽達の所へ戻ると、彼は今置かれている状況を説明した。



「もし今来ているのが敵だったら、僕達に勝ち目は無いです」


 沖田が断言した事で、彼等の顔に焦りの色が浮かぶ。

 最後の手段は、誰かを犠牲にする事。

 それだけは選ばない。

 そう心に決めつつも、選択の時が迫る。



「やり過ごしてくれ!」


 素通りをしてくれれば問題無い。

 三人の思いは同じだったが、とうとうその時がやって来てしまった。



「んがぁ!何なんだよ!この蔦、やっと無くなりやがった。これくらい、燃やしちゃおうよ」


「フッフッフ。自慢じゃないが、俺は魔法が苦手なんだぜ。こんなの全部燃やせないから」


「マオくん、それ自慢する所じゃないよ」









「魔王様!」

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