救出作戦
山田モブABCD。
プラスして落ちたEも加えておこう。
面倒なのでこうやって覚えてみたが、彼等の能力はまだ未知数である。
分かっている事は一つ、名前が僕の仲間と同じだという点だけ。
慶次に長秀、一益と牛一。
そして家康。
しかも秀吉が後から命名したわけじゃなく、本名だというじゃないか。
僕の火球を避けた事を考えると、その辺のモブとは違うのだろう。
ハッキリ言って、僕としては不気味な存在だと思う。
考えてみてほしい。
秀吉は万全の準備をして、この騒動を起こしている。
であれば、ネタ枠など用意しているはずは無いのだ。
名前が同じだから選びました。
なんて理由だけで、彼等がここに居るとは思えない。
だからそれなりに力があるはずなのだ。
その一端として分かっているのが、山田モブEこと家康のタフさなのだろう。
彼と同じ名を持つマッツンも似たような感じではあるが、流石に空から落ちて無事だとは思えない。
無事かもしれないけど、怪我くらいはする。
と思う。
するよね?
・・・マッツンだから怪しいな。
もし家康の力がヒントとなるなら、他の山田モブABCDも同じような力を持つのだろうか?
気になるところではあるが、脅威は山田五車星だけじゃない。
加藤清正や福島正則。
藤堂高虎に、石田三成と一文字違いの石田通成。
彼等は明らかに山田五車星よりも格上だと思われる。
特に石田はリーダーとして、ヒト族なのに魔族を従えていた。
秀吉の奴、世界中を歩き回っていたのは、人材確保もあったんだな。
そして僕は思った。
山田五車星って何?
強いのか弱いのか、判断しかねるんだけど。
もうちょっと良いグループ名があったんじゃないの?
「やめてよ。他の皆が見てるんだから」
「フ、だったらやめる」
本気か冗談か分からなかったけど、お市が頭を下げるのはあまり好ましくない気がした。
彼女は妖怪達にとっても、高貴な存在。
信長の娘として魔王とも対等であり、妖怪達の誇りとも言える。
そんな人が、戦いを終えた妖怪達の前で頭を下げるというのは、見ている妖怪達も良い気はしないだろう。
それにここを守ったのは、あくまでも妖怪達。
蘭丸達や僕も手を貸したけど、あくまでも補助だと僕は思っている。
「やっぱり権六が戻ってくるまでの代理とはいえ、代表が頭を下げるのはあまりよろしくないよね」
「代理?それはどういう意味じゃ?」
僕の言葉に食いつくお市。
肩を強く掴まれて、凄い圧力で迫ってきた。
美人が本気の目で迫ってくると、ちょっと怖い。
「そ、その前に。皆を中に案内してほしいんだけど」
「分かった。その話、後で聞かせてもらおう」
太田とゴリアテの率いるミノタウロスとオーガ。
そしてムッちゃんとシャマトフセという騎士。
彼等に壁の中へ入ってもらうと、僕達はすぐに城へ案内された。
「ひとまず、記憶が戻って良かった」
「その節は、本当に申し訳ありませんでした」
しきりに頭を下げるゴリアテ。
すると蘭丸が、隣に座っている水嶋の脇腹にパンチを入れる。
「おいジジイ、お前もだろうが」
「フン!あんなの防ぎようがないわ」
「ジジイ!」
「まあまあ。爺さんの言う通り、アレを防ぐには反魔石しか方法はなかったから。仕方ないよ」
「本人が良いと言ってるんだ。他人が口出すな」
爺さん、それは火に油を注ぐ言葉だって。
案の定蘭丸がキレて、爺さんに掴みかかっている。
しかしそれ以上に余裕が無い人が、その前に居た。
「貴様等、妾の城で暴れるなら永久に氷に閉じ込めるぞ」
冷たいを通り越して寒いと言える冷気が部屋に充満すると、二人は苦笑いをして握手を交わす。
「それでムッちゃん、その人は?」
「あぁ、コイツはサマ。俺のお助けキャラだ」
「説明が雑!」
困った顔をするサマ。
改めて自己紹介を頼むと、彼は姿勢を正して話し始めた。
「オケツ・シャマトフセ。騎士王の遠縁に当たり、この度はタケシ殿の補佐として、騎士王から派遣されました」
「オケツ!?アイツの親戚!?マジかよ!」
「騎士王の親類の割には、しっかりしておるの。あんな優柔不断で頼りない奴より、よっぽど騎士っぽい」
「確かに。オケツより全然頼りになりそう」
「兄さん!お市!そういうのは本人の前で言っちゃ駄目よ」
「ハハ、キチミテ様はそういう扱いなんですね・・・」
自分の所の王がボロクソ言われて、苦笑いしか出来ないサマ。
まあ彼のおかげで、ムッちゃんは何とかなったと言っても良い。
後日、空間転移でオケツにお礼を言いに行こう。
「ところで一益は?」
「あのおっさんなら、自分の領地に帰ったぞ。秀吉に騙されていた事にキレてた。ドワーフ達が利用されているんじゃないかってな」
可能性は結構あるな。
一益や昌幸並みの腕前じゃなくても、かなり良い腕を持つ鍛治師は居る。
彼等が秀吉達に、武具を提供していないとも限らない。
「魔王、もう良いであろう。さっきの話を聞かせてくれ」
本当はすぐに、こっちに話題を振りたかったんだろう。
でも僕の気持ちを汲んで、待っていてくれたみたいだ。
「それなんだけどね、あの黒い物体に飲み込まれた連中なんだけど、生きてる可能性があるんだよ」
「真か!?」
「う、うん。実は・・・」
僕は歴代の魔王に修行をしてもらった事。
その時に空間転移という魔法を教わった事。
その空間転移の使い手が、彼等は別の場所に飛ばされただけではないかと言った事を伝えた。
「あの時の魔法で、死んではいないと思う。ただ、何処に行ったのかまでは分からないんだけどね」
別の場所で囚われの身になっているかもしれないし、もしかしたら別の場所で、トドメを刺されているかもしれない。
もしくは別の出られない空間に閉じ込められて、餓死している可能性だってある。
生きているかもしれないというだけで確率は限りなく低いが、小さな希望でもあると無いでは違う事もある。
特に彼女の場合、生きているかもという希望だけでも、立ち上がる力にはなると思った。
「あくまでも、可能性の話」
「それでも良い。空間転移の使い手なら、テラじゃな?奴が言うなら、信用に足る話じゃ」
そっか。
お市は他の魔王も知っているんだ。
テラって呼び捨てにしたから、ちょっとドキッとしてしまった。
「それで、お前達は今後どうするのじゃ?」
「まずは仲間と合流する。そして秀吉達と、全面戦争に入ると思う」
「分かった。妾はここを守る義務がある。だから一緒に戦えぬが、支援だけは協力させてもらおう」
お市が手を差し伸びてきた。
さっきよりスッキリした顔をしている。
権六の話を聞いて、希望が湧いてきたからかもしれないな。
「なあ、他はどうなっているんだ?」
「他って言うと?」
「北の連中だよ」
「それと、安土に残ったコバさんもだね」
蘭丸とハクトに言われて気付いた。
北と南で戦っていた人ばかり気にしていたが、コバも僕達の協力者だった。
ある意味周囲は敵だらけの中に残って、一人で頑張ってくれていたんだ。
言われるまで忘れていたから、申し訳ない気分になってきたな。
「とりあえずよ、慶次とイッシーを助けたか聞こうぜ」
「助ける?どういう意味?」
兄さんの言葉に、ハクトが質問する。
その説明をすると、彼等はとても驚いた。
「ちょっと待て。それってあの二人を捕らえられる人物が、秀吉側に居るという事じゃないのか?」
「そ、そうだよ!助けに行って逆に捕まったりしないかな?」
蘭丸とハクトが心配そうに話すと、それに対して爺さんが反論する。
「沖田と丹羽殿が出たのだろう?余程の大軍でない限り、負けはしないと思うぞ。それにあの二人は、戦って無傷じゃなかったはず。聞いたところ、比較的軽傷の沖田とほぼ無傷の丹羽殿。だったら心配は要らないだろ」
「そ、そうかなぁ?」
「ハクト、お前は心配性なんだ。もっと味方を信用しろ!」
「信用しろとか。俺達を殺そうとしておいて、よく言うぜ」
「それはそれ。これはこれ」
爺さん、都合良いな。
まあ性格上、この人なら二人を本気で殺そうとしかねない。
ちょっと前まで味方でも、自分の敵になったら容赦無くヘッドショットとか狙ってきそうだし。
「とりあえず、電話してみるか」
沖田と長秀、二人とも電話は持っている。
ひとまず長秀に電話を掛けてみると、コール音は聞こえるが出る気配は無かった。
次に沖田に掛けてみた。
ちょっとコール音が続いてから、ブツッという音の後に通話に切り替わった。
「もしもーし。アタシ、マオちゃん。今貴方の後ろに居ないよ」
「そんな事は分かっています!」
「ご、ごめんなさい・・・」
あまりに余裕の無い沖田の声に、兄はしどろもどろになりながら謝る。
僕は電話を奪うと、彼に本題を聞いた。
「慶次とイッシーはどうなった?」
「二人の奪還には成功しました。しましたが・・・チィ!」
電話を落としたのか、沖田の声が遠くなる。
すると誰かと戦闘をするような音が、受話器から聞こえてきた。
剣と剣がぶつかるような金属音に、魔法を使ったような爆発音。
ちょっとすると、誰かに電話を拾われたような音がする。
「お待たせしました!今、追われていまして」
「誰に!?」
「敵の軍勢です。しかも厄介な事に、相手はかなり強いです」
「何だって!?」
あの沖田が強いというレベルの相手。
もしかして長秀が電話に出ないのも、それが理由か?
「相手は誰だ?」
「魔族です。一人一人も強いですが、それ以上に統率が素晴らしく、かなり面倒です。もしかしたら今逃げている方向も、向こうの作戦の内かもしれません」
「そこまでか。ちなみに長秀は?」
「丹羽殿は魔法で、足止めに専念しています」
なるほど。
だから電話に出なかったのか。
「慶次とイッシーは無事なの?」
「二人ともトライクの後部座席で、気を失っています。特にイッシー殿は、慶次殿との戦いが激しかったようで、体力的に余裕は無いですね」
やっぱり大変だったか。
一番の懸念がこの二人の対決だったが、イッシーは死力を尽くして倒してくれたんだろう。
沖田から聞いただけで、頭が下がる思いだ。
「それで、大丈夫なのか?」
「官兵衛殿に電話をして、増援を要請しました。帝国の兵を派遣してくれるそうです」
「そうか。それなら良かった」
ヨアヒム本人は出られないとは思うが、まだ帝国には召喚者だって居る。
ヨアヒムなら迅速に動いてくれるはずだから、安心出来るだろう。
「ちょっと待って下さい。慶次殿が意識を取り戻しました。え?何ですか?」
沖田が慶次に近付いたんだろう。
何か小さな声で話しているが、内容までは聞こえない。
すると沖田は慶次と電話を代わったのか、荒い息使いが聞こえてきた。
「慶次?無理しなくて良いよ」
「ハァハァ。無理しないと、ダメでござる」
「どうした?」
「あ、兄でござる。敵の部隊を率いているのは、兄上でござる!拙者とイッシー殿が抵抗した時、向こうの大将が使っていた槍は、兄上と同じ物だったでござる!」




