モブではない山田
うーむ、なんか納得がいかない。
どうしてダークエルフが、藤堂高虎なんだ?
僕は初めて自分以外のダークエルフと会って、凄く驚いてしまった。
信長の子孫は様々な種族と結婚をしていたが、ダークエルフはロベルトさんとその父であるカーリスさんくらいしか、見た事が無かった。
しかし彼等は既に死んだ身。
生きている人は初めてだ。
ロベルトさんに少し聞いた話だが、元々ダークエルフはこの辺りの出身ではないらしい。
どちらかと言うと、沖田が居た大陸に近い地域に住んでいたという。
本来なら未踏の山々を越えなければいけないのだが、彼等の先祖はたまたまこちらに偶然来れた人達という話だった。
だからこの辺りにはほとんど居ないのだから、僕はロベルトさんの隠し子と勘違いされたという訳だ。
じゃあ彼は何処から来たのか?
僕は少し不思議に思ったのだが、よくよく考えると今は飛行機は存在している。
海を渡るような長距離飛行じゃなければ、飛行機だって融通が利いたのかもしれない。
洗脳したヨアヒムに内緒で飛行機を使用して、新たな仲間を見つける。
そんなに難しい話じゃなかったんだろう。
ただ、そんな苦労して見つけた仲間に、どうして藤堂高虎なのか?
彼は以前にも言ったが、主君を色々と変えている。
浅井長政から羽柴秀長へ。
そして豊臣から徳川へと変わっていく。
戦国時代は人生において、主は一人が基本だった。
それこそ下剋上の心配もあったし、そんなコロコロと主君を変えるような人物は、危険視されたのもあると思う。
だけど彼は、それでも重用されていた。
特に徳川家康は、死ぬ間際に彼をその場に居る事を許したというくらいだ。
終身雇用が普通だった時代に、キャリアアップを図ってどんどん転職していく。
藤堂高虎はある意味、時代を先取った人物だったのかもしれない。
でも僕としてはあのダークエルフに、もうちょっと違った人物でも良かったんじゃないかと、思ったりしている。
山田が山田で、誰が山田?
僕は頭が混乱した。
「もう同じ扱いって事は、キミ達所詮はモブでしょ?」
「あんな最弱の山田と俺達を、一緒にされちゃ困るな」
「そうそう。最強の山田はあんな奴とは違う」
一人が自分を最強だと言うと、他の連中から待ったが入った。
「ちょっと待て。最強の山田は俺だよ」
「違う!俺だって!」
「いやいや俺だから」
「じゃあ俺で」
「どうぞどうぞ」
何だ。
やっぱりネタ枠じゃないか。
「おい、山田モブABCD」
「誰がモブABCDだ!」
こんな雑魚っぽい連中、名前を覚える気にもなれない。
しかし違和感はある。
多分山田というのは、彼等の本名なんだろう。
自信満々に山田と言ってるし、彼等はさっき落ちたのも含めて、全員ヒト族だ。
おそらく召喚者だろうし、日本人なら山田という苗字は珍しくない。
そんなネタ枠っぽい山田モブABCDだが、本当にネタ枠の雑魚なら福島や加藤といった武将の名を冠する連中が黙っていないと思うんだよね。
「俺達には立派な名前がある!」
「俺は山田慶次」
慶次か。
確かにカッコイイ。
こんな名前なら、友達に下の名前で呼んでくれと言いたくなる。
「俺の名は山田長秀」
長秀か。
ちょっと昭和っぽい名前だけど、コレも分からんでもない。
「俺の名前は山田一益」
「一益?」
うん?
長秀に一益って、偶然かな?
「俺は山田牛一」
「牛一!?」
「ワタクシと同じ名前ですね」
まあまあ珍しい変わった名前だけど、日本人って言っても一億人以上居るんだ。
そんな人だって居るさ。
って、んなわけあるか!
「お前等、全員名前パクリだろ!」
「誰がパクリだ!本名だっつーの!」
マジかよ。
百歩譲って、慶次と長秀は分かる。
あんまり見ないけど、年配の人なら一益も居るだろう。
でも牛一は無いでしょうよ。
この人の親、何を考えて牛一にしたのよ。
親にあって、理由を聞きたいわ。
しかし、本来はどうでもいいのだが、気になる事がある。
気にする必要は無いと言われたらそれまでだが、僕はどうしてもそれが誰なのか、彼等に聞きたかった。
「山田モブABCD!」
「だからその呼び方を止めろ!」
「じゃあ山田A。キミはさっき、落ちていったアイツは最弱だと言ったな?奴の名前は何だ!?」
そう!
僕が気になって仕方なかったのは、僕の火球が避けられずに落下していった山田モブEである。
四人揃って最弱だと認める山田。
この四人の名前を聞くと、それなりに強い人と同じなのだ。
その中で最弱と呼ばれる彼の名が、僕はどうしても知りたかった。
「アイツか?アレは山田家康だ」
「い、家康!」
ちょっと想定外の名前で、ビックリしてしまった。
ここでマッツンが入ってくるとは思わなかったからだ。
「奴は山田の中でも最弱。しかしその弱さは群を抜いている」
「何故俺達と肩を並べるのか、不思議なくらい弱い。しかし奴には、特殊な能力がある」
「どんな能力?」
すんなり教えてくれるとは思えないけど、聞くだけ聞いてみた。
そしたら普通に教えてくれた。
「奴は異常なくらいタフだ」
「そ、それはどっちの意味で?」
「肉体的にも精神的にも、タフだ」
マジかー。
マッツンは確かにタフである。
どんな攻撃も痛いというだけで大抵は済むし、どんな罵詈雑言を言われても、笑って流せる精神力もある。
火球を食らって空から落下したから、僕はてっきり死んだと思っていた。
だが彼等の様子からして見捨ててるのではなく、大した事ないと確信しているのかもしれない。
そんなマッツンモドキを不気味に思っていると、今度は向こうが驚く出来事が起きた。
「ヘーイ!飛べたぜぃ!」
「コイツ、タケシじゃないか?」
ようやく空へ上がってきたムッちゃんを見て、山田モブAが驚いている。
同じ召喚者だから、その実力は知っているらしい。
「皆、一旦引くべきだ」
「何を言っている!」
「正気か?この人数で負けると思ってるのか?」
召喚者連中はタケシの脅威を知っているが、他はそこまでじゃないのか?
もしかしてこの辺の連中、世間に紛れていたんじゃなく、本当に隠遁生活してたのかも。
「タケシは別格なんだ。この人数で戦うにしても、俺達も無事じゃ済まない」
「ハーハッハッハ!フライトライク、面白いじゃないか!」
「おい、ちょっとバカっぽいぞ。本当に凄いのか?」
加藤が疑いの目を向けると、必死になって否定する山田組。
だが、その否定を無駄にする出来事が起きた。
「お前等が越前国を襲った連中だな?今すぐに引かないと、ブン殴るぜ」
「やれるものならやってみろ」
挑発する加藤。
するとムッちゃんは、フライトライクのバイザー部分に足を掛けた。
「この野郎!天誅じゃあ!あぁぁぁぁ!!」
ムッちゃんはやっぱり馬鹿だった。
アクセルから手を離して、加藤のフライトライクに飛び移ろうとしたが、加藤がそのまま見ているはずが無い。
彼はちょっと高度を上げると、ムッちゃんはそのまま落下していった。
「・・・本当に別格だな」
「ち、違うんだよ!本当に強いんだよ!」
「あぁ、うん」
福島と加藤の優しい目が、山田達へ向けられる。
僕はそれを見なかった事にした。
「だ、誰かあぁぁぁ!!」
忘れてた!
後部座席に騎士が座っていたんだった。
僕は慌てて彼を掴むと、フライトライクはそのまま落下していった。
そして爆発した。
「あ・・・」
何故だろう?
ガソリンとか入ってるわけじゃないのに、誘爆している。
他のフライトライクも、続々と爆発していった。
幸いミノタウロスとオーガの一団は離れていたので、影響は無い。
しかし潤滑油か何かが燃えているのか、黒煙が空まで上がってきた。
「ゲホゲホ!ちょ、ちょっと移動出来ませんか?」
「あ、ごめんね」
僕は人形だから気にならなかったけど、黒煙で呼吸がしづらいらしい。
敵の連中も一斉に移動を開始すると、山田の一人が叫んだ。
「あ、アレを見ろ!」
「あの爆発の中で、平然としているだとぉ!?」
爆発の中から現れたのは、上半身裸のムッちゃんだった。
仁王立ちしてこちらを見ると、山田達の顔色が青く変わっていく。
「だ、だから言ったんだ!アイツは普通じゃないって!」
「すまない山田。俺達が間違っていたようだ」
素直に非を認める加藤と福島。
どうやらこの様子だと、撤退してくれそうだ。
「アチチチ!だ、誰かー!助けてー!」
「・・・無視すれば良くないか?」
て、撤退しないの!?
あんまり余裕無いんだから、撤退してくれよ。
「違う。アレはああやってバカをしているように見せて、俺達を油断させる作戦だ」
そうだ。
真の馬鹿だと気付かないように、そうやって勘違いしてくれ。
「しかし、ここまで攻めておいて撤退するのは、勿体無くないか?」
「俺もそれは思う」
いやいや!
勿体無いで命を捨てる事は無いよ?
危ないよ〜?
「あの、人形の方」
「何?」
「心の声がダダ漏れですけど」
「マジで!?」
早く帰ってくれと思っていたからか、口に出してしまっていたようだ。
口動かないけど。
「でも向こうには、聞こえていないみたいですね。良かった」
「そうだな」
向こうはまだどちらにするか、決めかねているみたいだ。
だったらもう一発くらい、特大の火球で邪魔してみるか。
「ぬおっ!?風魔法だけでなく、火魔法まで使うのか!」
「タケシだけじゃない。あの人形も居るんだ。ここで怪我を負っても、あまりよろしくないぞ」
「石田、キミが決めてくれ」
どうやら山田達を含めても、この中のリーダーはやはり石田三成になるらしい。
正確には名前がちょっと違うけど、彼は秀吉の信頼が厚いのは名前と同じみたいだな。
「撤退しよう。秀吉様の任務はまだまだある。ここで無理をして、リスクを背負う必要は無い」
「だな。野郎共、撤退する!」
下へ合図を出す加藤。
すると地上で戦っていた連中も、一斉にトライクで移動を開始した。
「誰も追うなよ。ムッちゃんもだ!」
太田やゴリアテがやらかすとは思えないが、ムッちゃんは別である。
彼は近くを走ってきた奴に、パンチとか入れそうだし。
念を押して言っておかないと、ちゃんと撤退してくれなくなる。
「行ったな」
何とか越前国を守る事には、成功したようだ。
壁の上からも、蘭丸達の喜ぶ声が聞こえる。
「君も今から下ろすから」
「すいません」
見知らぬ騎士を地上へ下ろすと、太田とゴリアテ、ムッちゃんが駆け寄ってきた。
「皆、無事で良かったよ」
「魔王様、本当にすいませんでした」
ゴリアテが平身低頭、大きな身体をめちゃくちゃ小さくして、頭を下げてきた。
しかし彼は悪くない。
僕はすぐに頭を上げさせると、壁の中から勝ち鬨が聞こえてきた。
「ほら、勝ったんだから頭を上げないと。みっともないぞ」
「その通りじゃ。何じゃ?驚いた顔をして。敵が撤退したから、こっちに来てやったというのに。・・・だがお前達のおかげで、本当に助かった。魔王達が来てくれなければ、妾は大事なものをまた失うところだった。本当にありがとう」




