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ゆるふわ系おっさん

 神様からの電話に反応した、王国の王女キルシェ。

 数年ぶりの電話に出てみると、今更の爆弾発言を聞く事となった。

 召喚者と言われる転移してきた者達。

 それとは違い、生まれ変わりでこの世界にやってきた転生者の存在を、このタイミングで聞かされたのだ。

 言うだけ言って出前が来た為に切られた電話。

 このバ神様が!

 イライラを募らせながら、再び会議室へと戻る事となった。


 兄の助言で王女の正体が、先程聞いたばかりの転生者ではと疑う僕等。

 安土への訪問の真意を問いただしたところ、耳に入った再びの爆弾発言。

 貴方の全てが知りたい。

 その言葉には、身体も含まれていた。

 舞い上がるDT。

 長年付き添った親友との別れを告げるべく、自分の家へ王女を連れて急ぐ。

 家に戻り、蘭丸も誰も居ない事を確認して施錠した。

 二人きりの部屋で、僕はとうとう大人の階段を登る決意をした。


「は、初めてなので、優しくしてくださ・・・ぶべら!」


 優しい抱擁を期待した僕に返ってきたのは、王女の右ストレートでした。

 そして僕は、別人かと思われた王女を見る事になった。





 えーと、ぶん殴られたのは間違いないよな?

 まあ頬は、痛くないと言えば痛くない。

 でも心は痛い。

 罵詈雑言を、若い女の子に浴びせられるのは慣れている。

 しかし、直接的に拒否されたのは初めてかもしれない。

 泣きそうである。


「おい!お前、煙草は持ってないのか?」


「煙草は嫌いだ。持ってない。というより、本当に王女?」


 今までと違い、片膝立てて、胡座をかいているような座り方をしていた。

 その姿は、何処にも王女の欠片も見当たらなかった。


「うるせーよ。好きで王女になったんじゃねーから」


「それは僕も同じだ。好きで魔王になったわけじゃない」


「それだよ。聞きたかったのは」


 は?

 全てを知りたいって、そういう意味なの?


「お前、転生者だろ」


「転生者?僕が!?」


 まさか逆にそう言われるとは、思いもしなかった。

 でも、僕等は転生者ではない。

 ん?

 転生者になるのか?

 でも身体は傷ついてるけど残ってるし。

 考えても分からん!


「僕等は転生者じゃない」


「嘘つけよ。お前の持ってるモノ、日本で見た事あるヤツばっかりだぜ」


「何を根拠に?」


「最初に目についたのは、防衛隊が所有していたバイク。じゃないな、アレはトライクだ」


 ほぅ。

 トライク知ってるって事は、バイク乗りだったのかな?

 つーか、その前に王女の情報を得ないと!

 僕だけ情報抜かれるとか、そんなのはフェアじゃない。


「召喚者に聞いたかもしれないじゃん?」


「そうかもしれない。でも、ラーメン屋は違うだろ!ラーメン屋なんか作るのは、召喚者に聞いただけじゃ普通は作らないからな」


「それは何で?」


「自分で食べる分を作るなら分かる。でも店を出すなんて考えは、元々居た人間しか分からんだろ!店構えだって、有名店のパクリっぽいし」


 うっ!

 どうせ召喚者くらいしか知らないから、パクっても問題無いと思ってたんだけど。

 こんなところで指摘されるとは思わなかった。


「つーかさ。人の事聞く前に、自分の事話せよ。自己紹介も無しに、人の事を根掘り葉掘り聞くのはおかしいだろ?」


「それもそうだ。自分の話をするのは何年ぶりだろう?」


 素直に話してくれるらしい。

 あのゆるふわ系と思われた王女だったが、今ではガサツ系に大変身だ。

 謁見用にドレスを着ているのだが、お構いなしに寝そべっている。

 こんな姿を王国の家臣が見たら、怒るんじゃないか?


「俺の名前は。って、今更過去の名前なんか知っても関係無いか。アレだ、転生したってヤツだ」


「そりゃ分かるわ!」


 アレ?

 コイツ、こんなアホだったか?

 昨日までの聡明な感じが全くしない。


「元々はエリート商社マンってヤツだったんだな。こう見えて」


「マン!?ウーマンじゃなくてマン!?何で女に転生しちゃってるのさ?」


「そんなのは知るか!」


 まあ転生出来た理由なんか、分かる方がおかしいか。

 でも原因はあると思うんだけど。


「あんまり言いたかないんだがな。簡単に言えば浮気されてヤケ酒しまくったら、階段から足を踏み外して、打ち所が悪かったらしくてな。そのまま死んだっぽい」


「・・・ご愁傷様です」


 彼女が居るだけ羨ましいと思ったが、これはこれで可哀想だ。

 素直にご愁傷様って言えた。


「ガキに慰められたかないわ!って、中身の実年齢は違いそうだな」


「こっちに来る前は大学四年だったから、もうすぐアラサー?」


「アラサーって何だ?」


 元日本人なのに通じないのか。

 というよりも、転生してきたならもっと前の時代から来たって事?


「簡単に言えば、三十歳前後って事。そもそも王女は幾つなのよ?」


「俺か?俺が死んだ時はピッタリ三十歳だ。誕生日に死んだからな。今の身体は二十歳だな」


「誕生日に死んじゃうなんて。ご愁傷様でした。でも中身考えるとジジイですね」


「うるさいわ!中身は今でも、三十歳のままだと思っているがな」


 話してみると、なかなか面白いおっさんのようだ。

 見た目が見た目だから違和感が凄いけど、直視しないで話している分には気楽に話せるな。


「話を元に戻そう。僕の事が知りたいんだったっけ」


「そう。当初にこの地に訪れた理由は別だったんだが。トライクにラーメン屋、それとさっきのは携帯電話か?」


「これはスマートフォンって言って、携帯電話とパソコンが一体化したみたいな感じかな」


「二十年と経つとやっぱり違うんだなぁ。今の日本に行ったら、取り残されそう・・・」


 二十年前って、僕等も生まれて間もない。

 記憶も定かではないし、思い出話には参加出来ないな。


「で、理由が変わってどうするの?」


「それなんだがな。お前、俺のスポンサーにならないか?」


「スポンサー?」


「そうだ。俺の計画の為に、金を出して欲しい」


 初対面にして金を出せとな。

 随分と面の皮が厚い奴だ。

 可愛い顔して、ファンデーションで塗り固めてるんじゃないだろうな?

 なんて毒吐いたけど、ナチュラルメイクで可愛いのはズルイ。


「元々の予定では、俺達全員は王国から安土へ亡命する予定だったんだ」


「亡命!?そんなの許す気は無いよ!」


「帝国の人間は受け入れているのに?」


 それを言われると反論しづらい。

 でも、そんな事したら確実に王国と戦争になる。


「まあ、その辺をとやかく言うつもりは無いよ。計画は変更だと言ったろ?」


「何で僕達なんだ?そもそも王国の人間が、魔族を頼って平気なのか?」


「それは、お前達魔族の方が安全だからだ」


「安全?帝国の方が良いんじゃないの?」


「アイツ等は駄目だ!お前も既に経験しているだろうが、搾取する事しか考えていない。もし俺達が帝国に頼ったら、今後政権が変わらない限り、ずっと頭が上がらなくなるだろう」


 そこまで酷いかな?

 そんなあからさまな事したら、国際社会で孤立するんじゃないの?

 と言っても、この世界は武力が結構物を言う。

 王国の戦力より帝国の戦力の方が凄そうな気もする。


「帝国に頼らない理由は分かった。それで、何で安土なんだ?例えば丹羽長秀の領地、若狭でも良かったじゃないか。それにもっと言えば、貿易で金が潤っているらしい秀吉の長浜とか、鍛治が得意な滝川だって居る。それにまだ他の国や大きな魔族領だって、探せばあるだろう?」


「それにも理由はある。まず滝川は無しだ。理由は簡単。帝国と繋がっているから。やろうとしている事を、そのまま奪われて終わる」


 なるほど。

 王国も滝川一益が帝国と繋がっている事は知っていたか。

 でも、他にもまだある。


「それと丹羽は少し専門外な気がした。頼っても金を借りるだけになりそうだったからな。木下は、難しかったんだよなぁ」


「難しい?」


「あの国は貿易の中心だろ?金もあるし、良いかなと思ったんだけど。そのタイミングで領主が行方不明になってるって話だったからなぁ」


「お、お前!それ何で知ってるんだ!?」


「そりゃ、俺の所の密偵の力だよ」


 むぅ。

 少人数の割には侮れないな。

 なかなか良い部下を持っていそうだ。


「他にも国や領主は居るが、ちと遠いのもある。話をしに行く過程で、俺の計画がバレたら盗まれるかなとも思ったからな」


「大体の事は分かった。それで?安土に来たのは、金だけ出せって感じじゃなさそうだ」


「お前、頭の回転速くて助かるわ。この話に乗るなら、全てを話そうと思う。ただし、聞いたら必ず乗ってくれないと困る」


 難しい選択だなぁ。

 そんな話を僕だけで決めろって言うのか。

 あ!

 だから二人きりが都合良かったのか。

 なるほど。

 長浜さんや他に頼りになりそうな連中と話し合う余地を与えず、僕の独断で決めれば、誰も反対は出来ない。

 よく考えられてるなぁ。

 でも、まだ人間だな。


「相談相手を連れてきてもいいのかな?」


「それは困る。さっきも言ったが、この計画が漏れると俺の人生プランが台無しになる」


「連れてこなければいいんだな?」


「相談出来ればな」


 言質は取った。

 ニヤリとした僕を見て、まさかと言った表情をする王女。

 まさかではなく、そういう手があるのだよ。

 便利な便利な諜報魔法、森の囁きという魔法がね。


「長可さん?聞こえる?」


「何でしょう?」


「誰も居ない場所へ移動してほしい。極秘の相談がある」


 彼女を人気の無い場所へと移動させ、王女の話を一緒に聞く事にした。


「さあ!話してくれて構わんよ」


「お前、魔法ってズルイなぁ。確かに連れてこなければとは言ったけどさ」


 頬を膨らませて、ふて腐れた顔をしている。

 見た目は可愛い。

 だが中身はジジイ。

 騙されてはいけないのだ。


「仕方ない。俺も王族の一人だから、約束は守らないとな」


「魔王様?この方は?」


 そういえば話し方が素だから、王女だって理解してない?

 これはどうするべきか?


「おい、長可さんにもお前の声聞こえるようにしてるんだけど。そのままで良いのか?」


「そういえばそうだった!」


 小声での相談で、本人もミスったと気がついたようだ。

 流石は二十年も猫被ったおっさん。

 すぐに元に戻った。


「ワタクシが魔王様にお願いしたい相談は、これなんです」


 大きく広げた紙を見せてきて、僕に分かるか判断させている。


「船の設計図?」


「そうです。ワタクシ、外洋に出て漁業を行いたいのです」


「外洋ですって!?」


 長可さんからの応答は、驚きの声だった。

 そういえば前にも聞いたような気がする。

 外の海は危険だと。


「森様の仰りたい事は分かります。命の保証が無いという事ですよね?」


「その通りです。外洋ともなると、陸地とは全く違う生態系。それに陸地の魔物と比較出来ないほどの、大きな魔物がおります」


「しかしそのような危険から、どの国や領地も外洋への進出はしておりません。その為、外洋の魔物や魚はとても貴重な素材や食料となるのです」


 長浜に向かった時に食べた魚も、あんまり美味くなかった。

 チカなんか、ストレートにマズイと言っていた。

 猫田さんの説明だと淡水魚って話だった。

 海水魚はどうしたのかと思ってたけど、こういう理由があるのか。


「でもさ、それなら戦艦とか作れば良くない?」


「戦艦?」


 長可さんには聞き慣れない言葉だったらしい。

 一から説明したが、あまり分かっていないような返事だった。


「魔王様。森様の代わりにワタクシが説明致します。この世界に、戦艦など存在致しません。そして、それだけの造船技術もありません」


「王女殿下の仰る通りです。外洋に出る為の船など、どの国もどの領主も作れません」


「しかし、ワタクシが考えたこの設計図なら、おそらくは可能になると思われます」


「なるほど。それを作ってみたいから、協力をしてくれと」


 ニコッと笑って頷く王女。

 僕は騙されん!

 そんな可愛い顔に騙されはしないからな!


「魔王様。その話はとても危険です。過去にいくつもの船を作ってきましたが、誰も成し遂げておりません。それに、何故そのような設計図を、殿下のような方がお持ちなのか。私は出所不明な不確かな物に頼るのは、断固反対です」


「と、言われていますが?」


「それに関しては問題無い。何故なら、造船所で見た事がある物をそのまま書いたからだ」


 僕にだけ聞こえるように、小声で返事をしてきた。

 確かに、そんな事を言っても長可さんには通じない。

 でも僕なら分かる。


「つーか、何でそんなの覚えているんだ?」


「それは内緒!と言うと信用してもらえないだろうから言うが、何故か頭の中に記憶が残るんだ。忘れたくても忘れられないというデメリットもあるけどな」


 何かで見た事がある。

 カメラアイだかビデオアイだったかな?

 発達障害がある気配は無いので、サヴァン症候群というヤツとは違う気がする。


「魔王様?」


「あぁ、ごめん。断るか少し考えていたんだ」


「断らないのですか!?」


 長可さんにはあり得ないと言った話なのだろう。

 でも、その設計図が本物なら。

 僕等は、この世界で計り知れない力を手に入れる事が出来る。


「この話、乗ってみよう」


「流石は魔王様!ワタクシ、惚れてしまいそうですわ!」





 初めてモテている気もするが、おっさんに惚れられても嬉しくない。

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