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山田

 自分の所の技術をパクられる。

 こんなに腹が立つ事だとは思わなかった。


 フライトライクは、敵の手に渡ってしまった。

 僕についての記憶が封印されている間に、秀吉がコバから奪ったのだと思われる。

 しかし空を自由に飛ばれるというのが、こんなに厄介だとは。

 今までは自分達が使っていて優位に立っていたから、そこまでは気付かなかった。

 いざ目の前で使われると、腹立たしいね。

 まだ使っている台数は少ないけど、おそらく秀吉の事だから科学者だって仲間にしているはず。

 おそらくこの技術は、全て丸裸にされているだろう。

 ただし、勝手知ったるその技術。

 問題点も知っている。

 だからそこまで気にする必要は無いかなと、なんとなく思っていた。


 何故ならフライトライクには、魔力が必要なのだ。

 もし扱っているのが魔族であれば、フライトライクを動かすのに問題は無いない。

 しかしヒト族だった場合は違う。

 その場合は魔力を大量に貯蓄出来る、アポイタカラが必要になる。

 しかしアポイタカラは、伝説の鉱石。

 秀吉もその産地は知らないし、数に限りがあるはず。

 だから増産しようにも、通常のフライトライクを作るにしてもクリスタルにも限りはあるし、そこまで心配は要らないのだ。


 唯一懸念として考えられるのは、その科学者がコバ並みの能力を持っていた場合。

 そうなるとフライトライクを、別の形で運用しようという考えが生まれる気がした。

 元々クリスタルを使った武器も、僕達しか作れない。

 おそらくどうやって作るのか、その考えに至りそうで怖い。

 いつか自分達が作った物が、自分達の首を絞めるのではないか?

 そんな気がしている。









 ハクトに言われて、後方のタケシ組も確認する水嶋。

 しかしスコープを覗いても、まだ姿は見えなかった。



「お前、聴力が上がっているな?」


「そうですか?自分では気付かないけど」


 本人は気付いていないが、確実にレベルアップしている。

 水嶋は自分が負けたのも偶然ではないと、改めて思った。



「お、本当に居た。誰だアイツ?あの鎧は・・・騎士か?」


「騎士?帝国の人?」


「あの感じ、騎士王国だと思う。ただ、凄く挙動不審だけど」


「挙動不審の騎士。何だろう、誰かを思い出す」


「俺もだ」


 姿は見えないハクトは、視力を強化した蘭丸に尋ねた。

 デジャブなのか、全員が同じ事を言った。



「魔王も太田達に気付いたようだな」


「ハァ、良かった」


「だな」


 魔王が太田達と合流したのを見て、三人は安堵する。

 ようやく重責から解き放たれた。

 三人は全く同じ事を思ったのだった。










「お前、何で敵を連れてきたんだ!?」


「ち、違う!俺はあの人形が秀吉様が言ってた人形で、強力だから助けを求めに来たんだ」


「人形?」


 フライトライクで合流してきた男に対し、元々居た連中は懐疑的な目を向けた。

 だがそれが魔法によって半分が叩き落とされて、部隊が半壊すると、その危険度を理解した。



「ほ、ほら!」


「アレは放置出来ないな」


「お前以外の奴はどうした?」


「追ってきたって事は、足止めに失敗したんだろう」


 彼等が話している間に、僕が置いてきた連中も追いついたようだ。



 風魔法で残ったのは、元々居た五人に加えて、増援を呼ぼうとした奴と足止めに失敗した三人で、合わせると九人。

 この五人はフードを被っていて、顔は見えない。

 ヒト族なのか魔族なのか、まだ把握は出来ていない。


 そして上を見る限り、蘭丸達が降りてくる様子は無かった。

 防衛を任されている限り、それが最善だと思う。

 でもちょっと、この人数を一人で相手にするのは難しいかも。



「魔王様ー!」


 そんな時だった。

 フライトライク目掛けて、手斧が飛んできたのは。

 僕はそれが誰だか、すぐに分かった。



「太田!ゴリアテも居るのか!」


「魔王様、話は後です。奴等を排除しましょう」


 ゴリアテも大盾を構えると、それを空に向かってぶん投げた。

 なかなか豪快だが、奴等をかき乱すには最適な攻撃だったようだ。



「クソッ!増援がやって来るだと!?」


「奴等が連れてきた兵、手練れだぞ」


 太田達の後ろに居たオーガとミノタウロスの混成軍が、二人を追い抜いていく。

 すると下で戦う妖怪達の援護をし始め、徐々に敵を押し始めた。



「ゴリアテ殿。コレはまだ動きます」


「私達も上がるぞ」


 ゴリアテが敵の乗っていたフライトライクに目を付けると、ゴリアテと共に空へ上がってきた。



「おーい!俺達も乗せてくれー!」


「ん?おぉ、タケシ殿!と、誰ですか?」


「彼はサマ。騎士王国の騎士王の親戚だって言ってる」


「サマじゃないです!シャマトフセです!」


「まあどっちでも良いじゃない」


 何者だ?

 ムッちゃんと同行してきてるんだから、敵じゃないのは分かる。

 でもどうして越前国まで、一緒に来たんだろう?



「タケシ殿、コレを操作出来るんですか?」


「任せろ。運転してるのは見てるからな。右側を捻れば進むはず。・・・アレ?」


 フライトライクに跨りアクセルを回すものの、うんともすんとも言わない。

 それは、たまたま魔族用のフライトライクだった。



「じゃあこっちだ!あ、こっちは大丈夫みたいだな。サマ、後ろに乗れ」


「おぉ!コレが魔王様が発明したと言われるトライクかぁ。緊張しますね」


 タケシに促され、意気揚々と後ろに座ったサマ。

 しかし彼は、すぐに後悔する事になる。



「よーし!空へレッツゴー!」


「おわあぁぁぁ!!」


 アクセルを一気に全開まで回すと、前輪を浮かせて走り始めるトライク。

 その先には、オーガとミノタウロス、そして敵が入り乱れて戦っていた。



「アレ?おかしいなぁ」


「アンタ!おかしいって何だ!?操作の仕方、知ってるんじゃないのか!?」


「いや、見た事はあるんだけど。違ったみたい」


「オイィィィィ!!」


「とりあえず危ないから、どけどけー!」


 オーガとミノタウロス達は、トライクを知っている。

 ぶつかればそれなりの衝撃とダメージがある。

 だから真っ直ぐに進んでくるトライクを見て、彼等は戦闘を中断して逃げた。



「あばっ!」


「ぶつかった!?良いのですか?」


「良くはないけど、敵だから。気にしたらダメだよね」


 アンタのその考えがダメだろ。

 そう言いたかったサマは、言葉を飲み込んだ。



「な、何だあの男は!」


「形勢逆転どころか、混乱を招いているぞ」


「隙アリ!」


「しまった!」


 ムッちゃんが混乱させているのを見た敵一行は、地上へ視線が釘付けになっていた。

 僕はその隙を突いて、彼等の一人のフードを外す事に成功する。



「マジか。まあ予想はしていたけど、やっぱり魔族だったか」


「知っていたのか?」


「まあね。だってヒト族だけで、秀吉が軍を集めるのは無理がある。となると、やっぱり魔族の存在があるわけだ」


 それに猫田さんの例がある。

 彼みたいに僕達の中に紛れている人物は、少なくない人数が居るはずだ。



「ならば隠しても無駄だな」


「なっ!ダークエルフ!」


 フードを外した男は、僕等と同類だった。

 僕は初めてダークエルフの姿を見た。

 ロベルトさん達は生身じゃなかったので、実際に見るのは彼が初めてだろう。


 そして一人はヒト族だったが、他にはネズミ族と妖精、そして妖怪らしき姿があった。



「ネズミ族はまだ分かる。でも妖精と妖怪なら、長秀やお市に悪いと思わないのか?」


「俺達の主君は豊臣秀吉様。丹羽も柴田も知った事ではない」


「・・・なるほどね」


 彼等は秀吉を、豊臣と言った。

 仲間内ではこの騒乱を起こした時点で、秀吉は木下でも羽柴でもないのだろう。

 天下人の名前を騙るとは、なかなかイラッとさせてくれるよ。



「では、名乗っておこうか。私の名は石田」


「石田?秀吉の配下で石田って言ったら、石田三成か!?」


 ヒト族である彼が名乗ったのは、石田という姓。

 しかし下の名前は言おうとはしない辺り、多分三成じゃないんだろう。



「彼は石田通成だ」


「おい!どうして名前まで言うんだ!」


「だってお前、自分から名乗っておこうかって言ったじゃないか」


「だから石田までで止めたんだろう!?」


 どうやら彼は、名前にコンプレックスがあるようだ。

 通成と書いてミチナリか。

 一文字違いで、友人から揶揄われたりしたんだろうな。



「俺は福島、福島正則」


「俺は加藤清正だ」


 妖精が福島正則で、妖怪が加藤清正か。

 彼等は確実に、秀吉から名前を付けられた連中だろう。



「私は羽柴秀長」


「お前、秀吉の弟か!?」


「違いますが、遠縁で関係はあります」


 なるほど。

 秀吉の血筋という辺りは、同じってワケね。



「ダークエルフ、アンタは?」


 実は聞いた時、僕は少しドキドキしていた。

 同じダークエルフに対して、秀吉は何という名前を与えたのか?

 とても気になったのである。

 しかし、誰だろう?

 大谷吉継辺りかな?

 それとも、五大老から毛利輝元とか?

 僕が彼の名前を楽しみにしていると、ネズミ族である秀長が前に出てきた。



「彼は藤堂高虎。私が見つけた剛の者です」


「と、藤堂高虎!?」


 なんつー微妙なところを持ってきやがるんだ。



 藤堂高虎は加藤清正と黒田官兵衛と並び、城造りの名人として有名だった。

 だけど彼は、秀吉の部下というよりも弟の秀長が見つけ出したと言った方が良い人物で、何よりも主君を沢山変えた人物として有名なのだ。

 元々は信長の義理の弟である浅井長政から始まり、最後は徳川まで乗り換えている。

 しかも珍しいのは、豊臣家の家臣の中でも徳川家に乗り換えたにも関わらず、かなり厚遇された人物だったらしい。

 要は秀吉からしたら、あんまり信用ならないぞって話なんだろう。



「ハァ・・・それで、そっちは?」


 僕はダークエルフの名前にガッカリしながら、反対側に居た四人のヒト族に尋ねた。



「俺の名は山田」


「山田?」


 んー、秀吉の配下に山田姓って居たっけ?



「俺の名も山田」


「え?」


「そして俺の名も山田」


「ちょ、ちょっと待って。僕の聞き間違いかな?」


「間違いではない。三人とも山田だ」


 意味が分からん!

 いや、分かるけど。

 日本人に山田さんはそこそこ居るけども。

 そうなると、もう一人も?



「俺も山田だ」


「やっぱりね!」


 僕が残った一人を見ると、彼はすぐに答えてくれた。


 ん?

 じゃあもしかして・・・。



「あの火球で落ちた奴も山田だったりする?」


「よく分かったな」


「だよね!って、山田ばっかりじゃねーか!」








「安心しろ。奴は山田の中で最弱。我等山田五車星と呼ばれるが、奴は山田という名の飾り。真の姿は、山田四天王よ!」

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