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窮地の越前

 転移魔法。

 実に魔法らしい魔法だ。


 僕は五代目魔王であるテラから、転移魔法を教わっていた。

 しかし教わる前に僕は、ある疑問があった。

 それは空間転移というのは、創造魔法と何が関係しているのかという点だ。

 転移するというだけなら、光魔法や影魔法みたいな魔法の方が、それっぽい気がする。

 しかしどちらもそういう魔法は存在しないし、秀吉が現れるまではそんな魔法は無かったとも言える。

 だからテラが使っていた空間転移は、まさに魔王に相応しい魔法だと言えるだろう。

 でも空間転移のどの辺りが、創造魔法なのか?

 僕は全く分からなかった。


 そして結論から言うと、確かに創造はしていた。

 空間転移のやり方は、行きたい場所まで誰にも邪魔されない空間を作る事にあった。

 その空間に入ると目的地までの距離が無くなり、瞬時にワープ出来るような感じだった。

 要は猫型ロボットのドアと、同じ要領である。

 ただ問題なのは、行き先をハッキリと思い浮かべないといけない点だと思う。

 ざっくりとした多分この辺りというのは、転移出来ないらしい。

 だから猫型のドアと違って、確実にハッキリと覚えている場所しか行けないのが難点だろう。

 それでも各城のような、忘れようにも忘れられない場所なら、問題無いと言える。


 僕の中では空を飛ぶ事と転移というのは、やはり憧れの魔法だった。

 その中でも優先されたのが空を飛ぶ事だったので、魂の欠片に反映されたのは分かるが、まさか無いと思っていた転移魔法まで使えるとはね。

 凄く嬉しいんだけど、欲を言えばもっと早く覚えたかった。

 そうすればトライクで長々と、あっち行ったりこっち行ったりする事も無かっただろうに。

 やはり便利だったり強力な魔法は、ゲームみたいに後半にならないと覚えられないんだなぁと、強く実感した出来事だった。









 カッコイイ事を言っている。

 でも実際は、あまりカッコ良くない。

 何故なら兄は、お市に喝を入れる時、背中を叩こうとしていたのだ。

 しかし途中で何かを思ったのか、その手を途中で止めていた。

 一喝したセリフは良かったのだが、叩こうとした手は宙ぶらりんで止まっている。

 その様は間抜け以外の何物でもない。



「フッ。こんなチビの魔王に諭されるとはの」


「チビは余計だ」


 何事も無かったかのように、手を引っ込める兄。

 ハッ!

 まさか、いやそんな事は無いと思うけど。

 もしかして兄は、お市の尻を叩こうとしたんじゃないか?


 背中を叩くのだとばかり思っていたが、お市と僕達の身体では身長差が少しある。

 もし背中を引っ叩くつもりだったなら、手の軌道は顔より少し上になるはずだ。

 しかし兄は、それを真横に振ろうとしていた。

 となると当たる場所は・・・やはり尻!

 兄はこのどさくさに紛れて、お市の尻を叩こうと・・・違うな。

 触ろうとしていた!



「何だよ。何かあるのか?」


「兄さん、相手は人妻だよ。人妻じゃなくても、お触りは犯罪だからね?」


「誰がお触りだ!人をチカンみたいに言うな!」


 本気で怒られてしまった。

 僕の勘違いだったらしい。



「チッ!またドローンが飛んできた」


 兄は鉄球を投げて撃墜すると、僕の言葉にイラッとしているのか、八つ当たり気味に早く行けと言ってきた。



「お市、越前国は今は貴女が大将だ。僕達は貴女の指示に従う。だから、凹んでいる暇は無いよ?」


「ハハッ!人形の方にまで心配されてしまったか。いかんな」


 少し渇いた笑いをした後、お市は自分の頬を軽く叩くと目が覚めたのか、僕達に的確な指示を送り出す。



「魔王、貴様は妾の護衛じゃ。あのドローンというヤツを落とせ。人形の魔王は、天狗の援護。可能なら殲滅しろ」


「了解!」










 僕は足に火を入れて浮かび、そのまま落下を始める。

 すると兄は壁の縁まで行き、僕の周りに鉄球を投げ始めた。

 どうやら周囲のドローンを、先に落としているらしい。

 あんな高さからよく見えるものだと感心していたが、コレは僕じゃなかったら怒っている案件でもあった。


 ハッキリ言おう。

 爆風で空が上手く飛べない。

 何度か壁にぶつかっているが、人形の身体では痛みも無く、擦った傷が付いた程度だ。

 しかしこれが生身の身体なら、骨折していてもおかしくない。

 弟に全く気を遣っていないのか。

 それとも馬鹿だから、何も考えていないのか。

 もし他の人だったらと考えると、ちょっといただけない作戦である。



「居た。予想より少ないな」


 思わず独り言を呟いてしまったが、見た感じ今は五人しか居ない。

 天狗の数が負けていると聞いたのだが、別の場所に移動したのか?

 しかも相手はヒト族。

 これは見た感じ、召喚者っぽいな。

 いや、転移してきた連中の可能性もあるのか?



「おーい、助太刀に来たよー!」


「魔王様の人形!助かります!」


 天狗が落ちてくる僕を見つけて、寄ってきた。

 数にして十人か。

 下を見ると、かなりの数の天狗が落ちている。

 やられてしまったのだろう。



「この五人にやられた?」


「いえ、もっと居たのですが。此奴等以外は、居なくなりました」


 ふーむ。

 考えられるのは、コイツ等に任せて反対に移動したか?

 となると、蘭丸達がピンチかもしれない。

 だけどあの二人なら、それも乗り越えられると信じている。



「援軍?いや、軍どころか一人か」


「おいおい。人形なら一人じゃなくて、一体だろ?」


「ハハッ!違いない」


 なるほど。

 数で負けてるのに、この余裕。

 天狗達を追い詰めるだけの力は、あるって事だろうな。



「待てお前達。聞いていた話と少し違うが、これは魔王人形だ」


「魔王人形!?秀吉様が警戒しろと言っていた、あの人形か!?」


 どうやら一人は、そこそこ偉いのか?

 秀吉から直接話が聞けるくらいの立場の人間が、ここには居るみたいだ。

 だったらその警戒がMAXになる前に、倒させてもらおうか!



「不意打ち最大火球!」


「ぬあっ!」


 よし!

 四人なら上手く避けられてしまったが、一人は当たって落ちていった。


 しかしちょっと予想外だったな。

 フライトライクは僕達の技術。

 空を飛ぶにはアクセルだけじゃなく、ハンドルバーの操作も必要になる。

 普通のバイクとは違うので、慣れが必要なのだ。

 しかし四人には軽々と避けられている。

 この短期間で、ここまで上手く操れるとは思わなかった。

 敵ながらあっぱれとしか言いようがない。



「貴様!よくも!」


「敵なんだから、当たり前だろ」


「この人形、思ったよりやる。しかも感情や人格まであるみたいだな」


 なるほど。

 この感じだと彼等は、僕がある程度賢いAI程度にしか思っていなかったのかもしれない。

 秀吉から警戒しろと言われていたのに、そこまで本気にしていなかった?

 いや、四人ともしっかり避けてるし、それは無いか。

 多分落ちたあの男だけが、僕の事をナメていたんだと思う。



「まあその辺の人形とは違うんでね。ママゴトしてるんじゃないから」


「・・・どうする?」


 残った連中が話し合いを始めた。

 ここでまた不意打ちも考えたが、同じ手は通用しない。

 それに奴等は避けているのだから、どちらにしろ無駄かなと思った。

 それに今帰ってくれるなら、戦力が不足している越前国としてはありがたい。

 逃げなかった連中にだけ、反撃を集中させれば良いのだから。

 と考えていたのだが、それは甘かったと痛感した。



「おい!何処へ行く!」


「お前は危険なのは知っている。だからお前を倒去るように、反対側に増援を要求する」


「そんな事、みすみす見逃すと思ってるのか!」


 フライトライクをフルスロットルにしたのか、かなりのスピードで飛んでいく。

 僕がそれを追おうとすると、残りの三人が行かせまいと封鎖してきた。



「行かせるわけがないだろう?」


「無理矢理通るに決まってるだろう」


 風魔法の上級魔法を左右の手から作り出し、敢えて左右を交差させる。

 すると乱気流が起こり、僕の目の前に居た四人のフライトライクがその不規則な暴風に、コントロールを失った。



「体勢を立て直せ!」


「じゃあ、頑張ってね〜」


 僕はその乱気流を下から抜けるように通り過ぎると、反対側まで一直線に飛んで行った。











「クソッ!アイツをこっちに呼ぶべきだったな」


「蘭丸くん、仕方ないよ。向こうはお市様一人で、頑張ってるんだから」


 蘭丸は魔王を案内して戻ると、壁の上から弓で応戦していた。

 だが戻った直後、敵の増援がやって来たのだ。



「女を一人で任せて、お前は楽しようって魂胆か?これだから若い奴は」


「うるせークソジジイ!ちゃっちゃと働け!」


「年寄りにも頼るなんて、困った若者だ」


「こんな時だけ、ジジイぶるんじゃねーよ!」


「それは僕もそう思う・・・」


 壁の外では土蜘蛛が壁にくっつきながら、フライトライクと戦っている。

 最初は互角の戦いを見せていたが、後からやって来た連中は格が違った。

 その為一気に劣勢に追い込まれ、このままだと土蜘蛛の全滅が見えてきた時だった。



「おい、また一人増援が来たぞ」


「ふざけるなよ!今でも手一杯だぞ」


「来たものは仕方ない。いや、後ろからもう一人来てる。アレは・・・魔王だな」


 水嶋がスコープを覗きながら答えると、ハクトは壁に身体を乗り出した。

 下を見ると、フライトライクを何かが追っているのが見える。



「マオくんだ!凄い速いけど、どうしてこっちに?」


「アイツ、反対を放棄したのか?」


 魔王はフライトライクの軍勢を見つけると、同じく風魔法を使った。

 さっきよりも台数が多いフライトライクは、乱気流で空中でお互いがぶつかり、コントロールを失って落ちていく。

 落ちた連中は魔王が指示を出したのか、土蜘蛛が下に降りてトドメを刺しに行っていた。



「風魔法か!やるなぁ」


「半分は減ったよ。これなら勝てるね」


 安心する二人に対し、水嶋の意見は違った。



「お前等、ちゃんとよく見ろ。残った連中は増援組だぞ」


「あの強かった連中か。となると、マオの奴一人じゃ危ないな」


「僕達も降りよう」


「駄目だ。俺達は上に残るぞ」


「蘭丸くん!?」


 見捨てるような発言をする蘭丸。

 思わずハクトは反論しそうになったが、水嶋が何も言わないのを見て止めた。



「確かにアイツ一人じゃ危ないかもしれない。でも俺達は、お市様からここを任されたんだ。任された仕事を放棄して、下に降りるのは違うと思う」


「蘭丸くん。ゴメン、僕が間違ってた」


 ハクトは素直に謝ると、水嶋は心配は無いと言い始める。



「魔王一人では、手に負えなかったかもしれない。だが見てみろ。ようやく、奴等が到着したぞ」


 目を細める蘭丸に対し、ハクトは耳を澄ました。

 すると、ハクトが先に気付く。








「蘭丸くん!太田さんとゴリアテさんが来たよ!それに後ろには、タケシさんも居る!っと、もう一人居るけど。アレは誰だろう?」


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