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領地

 400年。

 400年もの間、恨みを通り越して怨念と言っても過言ではないモノを、ずっと心の中に抱えて生きる。

 それはどういう感覚なのだろう?


 猫田さんは実は又左の部下ではなく、秀吉が放っていた密偵だった。

 しかも彼も転生者で、秀吉と同じく神の被害者でもあった。

 そんな被害者が奇跡的に知り合って、そして復讐を誓う。

 彼等の凄いところは、その気持ちを神様にぶつける点だろう。

 こう言っちゃ悪いが、僕はこの世界に神様が龍に乗って顕現した時、あぁ絶対に逆らったら駄目だなと思った。

 腰は低く、僕達に対してもフレンドリーな態度で接してくれる神様。

 たまにやらかしてそれを誤魔化したりする辺り、親近感さえ湧くレベルだ。

 でもあの登場の仕方を見たら、住んでる世界が違うとハッキリ分かった出来事でもあった。

 そんな神様に喧嘩を売る。

 というよりも殺意を抱くという時点で、秀吉達は無謀というより死に急いでいるようにも思えるくらいだ。

 だけど彼等は、それを400年も考え続けた。

 僕達を欺きながら生活し、おそらくは二人以外にも仲間を増やしながら、その気持ちを持ち続けた。


 しかし僕は、妙な疑問があった。

 彼等は僕達と接していた時、本当は何を考えていたのだろうか?

 まず最初に思ったのは、僕達がこの世界で初めて出会った人物。

 それが猫田さんだった。

 猫田さんは僕達を能登村に連れていってくれたり、一番最初に面倒を見てくれた人物でもある。

 そんな彼が、魔王である僕をどう思っていたのか。

 厄介?

 チャンス?

 多分聞いても、答えてくれないだろう。


 それでも僕達はやっぱり、まだ猫田さんを憎みきれない。

 心の何処かで、操られているんじゃないかと思ってしまう。

 猫田さんが敵だった。

 おそらくこの世界に来て、一番ショックだった出来事かもしれない。









「小僧が。剣を向けるとは、万死に値する」


「飛べ!」


 猫田さん、じゃなかった。

 小六が殺意をヨアヒムに向けると、なんとヨアヒムの影が鋭角になり、影の持ち主である本人を刺そうとしてきた。

 兄の言葉に反応したヨアヒムは、間一髪でそれを避けてみせる。



「た、他人の影も操れるのか!?」


「違うよ。アレは秀吉だ」


「フフフ、流石は今代の魔王様。頭の出来が違いますね」


「ど、どういう事ですか?」


 長秀が混乱しながら尋ねてくると、ヨアヒムの影が本人から離れ、秀吉の下へと戻っていった。



「今見た通り、アレは影じゃなくて秀吉が作り出した、あの黒い物体だ」


「大正解。すぐに気付かなかった丹羽殿は、減点ですかね」


「くっ!」


 悔しそうな顔を見せる長秀だが、少し考えれば分かる事だと思う。

 フォローするとすれば、僕は冷静だったから答えられた。

 阿形と吽形が心配な長秀には、その辺りを考える余裕が無かったとも言える。



「これでひと仕事終わりましたので、私達は失礼します」


「ひと仕事終えた?」


「はい」


 彼等が現れてやった事。

 何だろう?

 ・・・ハッ!



「どうしました?」


 僕が突然振り返ると、長秀が不思議そうな顔をする。

 なんとなく狙いが分かった気がする。



「戦力の大幅な削減」


 僕が言うと、秀吉の耳がピクリと動いた。

 視線をこちらに向けると、目が笑っていない笑顔で口を開く秀吉。



「まさか読まれているとは思いませんでしたよ。でもそれだけだと、まだ半分ですね」


「半分ねぇ。・・・引き抜きかな」


「なるほど。貴方はかなり危険なようだ」


「褒めてもらってありがとう」


 皮肉を込めて言ったつもりだが、軽く流されてしまった。

 しかしヨアヒムと長秀は、僕等のやり取りを聞いて攻撃を仕掛けようとしている。



「阿形と吽形を殺そうとしたのは、戦力を削く為か!」


「おい、そんな事の為に帝国をぐちゃぐちゃにしておいて、逃げるつもりかよ」


「二人はしばらく回復出来ない。だったらここに居る必要は無い」


「それに陛下と魔王様。二人同時に相手にするのは、少々荷が重いですから。ここは一旦、退かせていただきます」


「逃がさない!」


 長秀が二人の足を蔦で絡め取るが、瞬時に燃えて炭になってしまった。

 ヨアヒムもそれに合わせて氷の矢を放つが、それは小六の影から黒い針が飛び出して、全て相殺させていた。

 二人の攻撃を凌いだ秀吉達は、ゆっくりと空に浮かび上がった。



「またすぐに、会える日が来ますよ。きっとね」


「それでは行きましょう」


 小六が黒い物体の中に入ると、秀吉も後を追う。

 しかし半分身体を入れた後、また顔をこちらに覗かせてきた。



「そうそう。世界は既に変わっています。誰が敵で誰が味方か。疑心暗鬼になりながら、生活を送って下さい」


「世界が変わった?」


 僕達に言葉を残すと、今度こそ二人は姿を消した。

 呆然とする僕達四人は、秀吉が居なくなってその場で座り込んだ。









 阿形と吽形は、痛みに顔を歪める事も無く眠っている。

 それだけでひとまず安心は出来た。



「魔王、さっき言ってた事を説明してくれるか?」


「私もお願いします」


「お、俺も!アイツ等が何を狙っていたのか、知りたい」


 兄は猫田さんの件で、凹んでいた。

 だからまだ心ここに在らずといった感じだったが、ようやく話を聞こうという気になったようだ。



「これはあくまでも僕の勘だけど、多分秀吉の第一の狙いは、僕達の同士討ちだね」


「同士討ちは戦力の削減が狙いか」


「そう。秀吉が世界を覆うように使った、僕に関する記憶を封印する魔法。これは多分、僕に手を貸してくれる仲間と、記憶を封印された仲間が戦い合うように仕組まれていたんだ」


「なるほど。俺や蘭丸達が、手を貸した仲間」


「私達が記憶を封印された仲間ですね」


 ヨアヒムは秀吉にハメられたと思っているからか、怒りを我慢しているような雰囲気だが、長秀はもっと酷い。

 僕と敵対したという負い目があり、更にはヨアヒムに負けたというのもあって、とても恥ずかしいような情けないような表情をしていた。



「引き抜きというのは、おそらく潰し合いをしていた中で、誰が強かったかというのを確認したんだと思う」


「でも誘われたからって、秀吉の仲間になるのか?」


「記憶が封印されていた時は、彼に対して好意的に思っていましたが、光が無くなった今、それは無理だと思うのですが」


「うーん、それは僕も自分で言って、ちょっと謎なんだよね」


 誘われたからって、それに乗る奴なんか居るかな?

 ロックとかマッツンなら怪しいけど、他の連中でそれは無い気がするんだよなぁ。

 しかし僕等が考え込んでいると、兄は首を傾げて何が分からないのかと言ってきた。



「分かるの?」


「簡単じゃない?それこそ精神魔法を使うだろ」


「洗脳か!」


「そう。多分全員を洗脳するつもりは無いんだろう。だから、強い奴だけを洗脳する」


 兄の言葉には、説得力があった。


 無駄に全員を洗脳しようとすれば、秀吉だって魔力が無くなってしまう。

 しかし選抜していたのなら、話は変わる。

 彼が見込んだ人だけを選び、そして洗脳していく。

 少数精鋭だから、洗脳の度合いも深く出来そうな気もするし。



「一度帝国に戻ろう。強い奴を選ぶと言っても、秀吉の前に連れて行かないと洗脳は出来ないはず。すぐに選抜されそうなメンバーと合流して、説明をしなければならない」


「わ、私もお邪魔してよろしいですか?」


 長秀が遠慮気味に言うと、ヨアヒムは快諾する。



「ここからは帝都の方が近い。阿形と吽形は、帝都で休ませよう」


「ありがとうございます」








 僕達はギュンターを途中で拾い、帝都へ急ぎ戻ると、すぐに城へ入った。

 そして阿形と吽形を治療に専念させる為、このまま城で療養する事になった。


 城に戻ったギュンターの動きは早く、各方面へ偵察隊を派遣。

 更には秀吉による引き抜きを警戒するよう、各地へ手紙を回していた。

 というのも、全て官兵衛が言ったからやった事なのだが。



「我々が出来るのは、今のところこれくらいですね」


「ギュンター、ご苦労だった」


「これくらいの仕事は当然です」


 官兵衛が指示を出して、それを横から帝国兵に命令しただけだからな。

 当然と言えば当然だろう。

 更に言えばこの人、ゲロ吐いてただけだし。

 キリッとした顔でヨアヒムに言ってるけど、今回本当に役に立っていない。



「でも偵察隊は大丈夫なのかな?」


「魔王、それはどういう意味だ?」


「俺には理解出来なかったんだけど、秀吉が最後に捨てゼリフで吐いていった、世界は変わったって言葉。アレが気になるんだよ」


 そういえば連絡する事ばかり考えていて、すっかり忘れていた。

 意外にも兄さん以外、それに気付いていた人は居なかったらしい。

 その言葉を聞いた官兵衛は、黙り込んだ。



「勢力が変わったとか」


 ギュンターが最初に意見を述べると、ヨアヒムが反応する。



「国が無くなるとか、そういう意味か?」


「そうです!流石は陛下」


「現実的ではないですね」


「あ、はい。そうですよね」


 ヨアヒムの意見をすぐに肯定したギュンターだが、官兵衛によって即否定されると、真顔で答えていた。



「官兵衛殿、それが国じゃなかったらどうですか?」


「国じゃなかったら・・・まさか!」


 長秀が尋ねると、官兵衛は顔が青くなった。

 地図を見て、色々と調べ出す官兵衛。

 すると彼は、ある答えにたどり着いた。



「丹羽様の言葉を参考にしましたが、もしそれが本当なら、確かに世界は変わります」


「どういう事?」


「おそらくですが、我々魔族の領地は既に無いと思われます」


「何だと!?」


 官兵衛が地図の上に、いくつかの石を置いた。

 そこは僕達の街である安土や、若狭国がある場所だ。



「まず安土は、確実に奪われたと思われます。そして若狭国も、丹羽様や阿形殿と吽形殿という守りの要が居ませんでしたので、可能性はかなり高いです」


「な、何と!」


「長浜に関しては、テンジ様が魔王様と秀吉のどちらを選ぶか。もし魔王様を選んでいたとしたら、長浜は今頃かつての安土と同じ目に遭っていると思われます」


 かつての安土。

 それは炎上を示しているのは明白だった。



「越中国は抵抗したとしても、既に領主は不在です。落とすのは簡単かと」


「ベティの奴が居れば・・・」


 黒い何かに呑まれたベティは、何処に行ったのか不明である。

 しかし居たところで、秀吉に洗脳されていただけのような気もした。



「問題はこの二つ。上野国と越前国。上野国は記憶を取り戻した滝川様が、取り戻そうとするかもしれません。そして越前国は、お市様が健在です」


「一益が洗脳されている可能性は?」


「ありますが、おそらくタケシ殿が助力しているかと」


 考えられそうだけど、巻き添え食らってムッちゃんが洗脳されそう。

 それが一番怖いと思ったら、隣でヨアヒムが汗をダラダラ流している。

 おそらく同じ事を考えているんだろう。



「結論から言って、俺達は何をするべきだと思う?」


 兄が官兵衛に尋ねると、彼はハッキリとこう言った。








「まずは仲間の合流を。秀吉に洗脳されるのを阻止しないと、また仲間同士の争いが始まります。そして力を結集した後に、領地の奪還を目指します」

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