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阿形と吽形

 人に頼る。

 案外僕も耳が痛い言葉だ。


 兄は阿形に対して、誰かを頼るべきだと言った。

 今なら僕もその言葉を理解しているけど、日本に居た頃の僕は阿形と同じだった。

 友人は数えるくらいしか居なかったし、しかも心から信用出来るかと言われたら、ちょっと自信は無い。

 阿形は長秀と吽形しか、心から信用は出来ないと言った。

 あの頃の僕も、兄と少ない友人の中から一人か二人だろう。

 僕の場合は、自分からあまり友達を作る方じゃなかったというのもあるけど、阿形は違う気がする。

 何というか、エリート意識が高くて周りと距離がある感じ?

 もう少し態度を軟化させれば、もっと周りからも話し掛けられやすい気がするんだけど。


 それともう一つの大きな問題点は、吽形の存在だろう。

 普段からずっと一緒に居る事で、他は必要無いという考えもあると思われる。

 僕も同じだから分かるけど、自分が興味無い話に合わせるのって、疲れるんだよね。

 高校時代も同級生は、流行りの音楽や部活に遊びの話とかしていた。

 でも僕は帰宅部だったし、流行りの音楽にも興味は無い。

 話を振られたら会話に参加出来るくらいの知識はあったけど、だからといって同じだと思われるのは困る。

 こういう言い方は相手に失礼かもしれないけど、自分とは合わないなと思う人は、無理して関わってほしくないんだよね。

 向こうだってコイツ暗いなと思ってただろうし、気を遣われるのも疲れる。

 阿形がこの時の僕と同じ気持ちだったとしたら、わざと人を寄せ付けないオーラを出していた可能性はある気がした。


 なんて言ったけど、それはあくまでも過去の僕の話。

 今はハクトや蘭丸も居るし、ちょっと馬鹿で合わない時もあるけど、ムッちゃんだって居る。

 だからあの頃の僕と阿形には、こう言ってやりたい。

 その考えは、自分を狭めるだけだってね。









「う、うるさい!」


 おいおい、子供かよ。

 反論出来なくなったら、うるさいって。

 なんか今までの阿形とは、全然違う気がする。



「本当に今のままで、領主に選ばれると思ってる?」


「私以外に領主になれる者は居ませんよ!」


「え?吽形は?」


「吽形には無理です」


「どうして?こう言うと怒るかもしれないけど、俺には阿形と吽形の差なんて、ほとんど無いと思うけど」


 これは紛れもない本当の言葉だ。

 阿形達二人とあんまり仲が良いわけではないので、そう思えるんだけど。

 でもコイツ自身、長秀と吽形以外に信用出来る相手が居ないと言っている。

 だから二人の事を本当に知っているのは、長秀だけなのかもしれない。



「私が吽形と変わらない?そんな馬鹿な」


 アレ?

 思った反応と、ちょっと違う。

 もっと仲が良いイメージだったけど、今の感じは吽形を少し下に見ているような言い方だった。

 もしかして、そんなに仲良くないのか?



 おっと、そんな事を考えていたら、丁度良いじゃないか。



「戻ってきたのか?」


「うん。吽形からは逃げられないと思ってね」


 阿形と話していて気付いたのだが、何故か目と耳が回復していた。

 激しい金属音で痛めた耳も、聞こえるようになっていた。

 おかげで弟がこちらに戻ってきていた事に、気付いたのだが。



「吽形!?お前、何をしている!?」


「俺も気になっていたんだけど。どうして吽形は、お前に従ってるんだ?」


 不思議な事に、吽形は弟の後ろに付いてきていた。

 空を見上げると、まだ微かに光は残っている。

 クリスタルはまだ外していないはずだ。



「ちょっとね。ちょっとだけ、彼の本能的な部分を刺激してあげたんだよね」


「・・・お前、なんか怖いな。精神魔法とか、変な事してないよな?」


「してないよ!さて、吽形。君の兄さんは目の前に居るけど。君の気持ちを伝えるには、丁度良いんじゃない?」


「吽形の気持ち?」


 弟が話し掛けると、吽形は弟の前を通り過ぎて、俺の方に向かってくる。

 一瞬身構えたが、阿形と違い俺に対しての敵意を感じない。



「兄上」


「吽形!私を助けなさい!」


「兄上、私は・・・私も領主を目指しては、駄目なのですか?」


「吽形?」











 吽形はしつこかった。

 空を飛んだ僕は、先にクリスタルのある場所にたどり着くと思っていたのだが、対策が為されていた。



「マジかぁ・・・」


「諦めなさい」


 光の柱が立っている場所に到着すると、そこには何も無かった。

 というよりも、どうやら僕は誤誘導されていたらしい。



「光の屈折を利用して、別の場所に誘導した。人形に効果があるか分からなかったが、上手くいって良かった」


 なるほど。

 よく見ると大きな鏡のような物がある。

 本当の光が出ている場所から光を反射させて、ここが光の出ている位置に見えるようにしていたようだ。



「でも吽形。君が空に飛んでこられなければ、僕はこのまま本当のクリスタルのある場所に、行くだけなんだけどね」


「それに対しても、対策がされている」


「なっ!?何だこれ!?」


 森の中からいくつもの網が飛んできた。

 前と左右からの網は避けられたが、まさか後ろからも飛んできているとは。

 網に絡まった僕は、下へと引きずり落とされてしまった。



「まさか、仲間が居る場所まで誘導していたなんて」


「森魔法で先に連絡をしておいて、お前をここに誘き寄せたんだ」


 うーむ、敵ながら良い作戦だ。

 よく見ると、妖精族が沢山隠れていた。

 僕は彼等によって網を引っ張られて、墜落してしまったらしい。



「アストロボーイ作戦は失敗だったか」


 10万馬力は無いにしろ、この飛び方は気に入ってたんだけどなぁ。



「人形よ。ここで諦めて潰されろ」


「人形人形ってうるさいな。僕は魔王だぞ」


「魔王だと思ってるだけじゃないのか?」


 むむむ!

 吽形の奴、人相手じゃないと敬語じゃないのね。

 いつも吽形は丁寧だったから、辛辣な態度になるとちょっと新鮮な気持ちになるけど。



「兄上に報告して、人形をどうするべきか聞かなくては」


「どうして?別に報告する必要無いんじゃない?」


「口を挟むな」


「どうして阿形に伝えるの?吽形が自分で決めれば良いじゃない」


「うるさい!兄上は次期領主になる男だ。だったら領主になる人に決めてもらった方が良いじゃないか」


 うん?

 何だろう、凄い違和感。



「もしかして、毎回阿形に聞いてるの?」


「以前は違ったけど、今はそうだ」


「どうして今はそんな事してるの?」


「兄にそうしろと言われたからだ」


 阿形がそんな事言ってるのか。

 あんまり感心出来ないな。

 僕は網の中で思った。

 それって吽形の考えを否定してるんじゃないかと。



 吽形は出来る男である。

 初めて会った時もそうだったけど、エリートって感じがする。

 しかも見た目や雰囲気だけじゃなく、それだけの実力も兼ね備えていた。


 でも阿形は、そんな吽形の力を認めていないのか?

 だって認めているなら、吽形に任せれば良いだけ。

 彼くらいの能力があるなら、任せちゃえば早いのだから。

 わざわざ自分に報告してそれから命令を待つなんて、無駄にしか思えない。



「吽形はそれで良いの?」


「良いも悪いも、兄からそう言われている」


「だから、吽形は言われるがままで良いの?」


「それは・・・そうするしか無いだろう!」


 僕が人形だからかな?

 意外と吽形が、本音で話している気がする。

 僕が魔王の時は、だいたい阿形も吽形も一線を引いているんだよね。

 本人は認めなくても、それは雰囲気で分かる。

 でも今は違う。

 阿形が近くに居ないからか。

 それとも彼の中で、人形相手だからというのもあるのか。


 僕は少し周囲を見回した。

 妖精族が僕を警戒しているのが分かる。

 だから僕は、両手を上にしてこう言った。



「降参する。そして周りに居る君達に、ちょっと話を聞きたい」











 僕の言葉を聞いて驚いたのか、妖精族の連中はお互いの顔を見合わせている。

 吽形も不思議そうな顔をしているが、スティレットを僕に向けながら近寄ってきた。



「な、何を考えている?」


「だから話を聞こうと思ってね。警戒して近寄ってくれないから、ここからちょっと大きい声で話すね」


 まあ普通に考えれば当たり前だよね。

 無詠唱で魔法を使うような人形だ。

 不用心に近寄って、いきなりドカンとやられかねないし。



「君達は阿形と吽形のどっちが好き?」


 周囲が騒ついた。

 もしかしてこの質問、タブーだったのかな?



「ちょっとお前!」


「本人の前だから、答えられない?」


「そんな事は無い!吽形様に決まっている!」


「お前達!」


 あらら、ちょっと面白い。

 吽形は連中を嗜めようとしているだろうけど、耳は真っ赤になっている。

 相当恥ずかしいんだろう。



「阿形は駄目なの?」


 僕が目の前の人に目を合わせて話を振ると、すぐに答えてくれた。



「阿形様は、近寄り難いんだよなぁ」


「分かる!なんか俺達を寄せ付けないというか」


「僕達に実力が足りてないのは分かるんだけど。信用されてないって丸分かりなんだよな」


 阿形に対しての不満は、結構溜まっているみたいだなぁ。

 これは少し予想外。



「それに対して吽形様は、私達にも親身になってくれる」


「困っていると、すぐにフォローしてくれるし」


「吽形様には話しやすい」


 反面、吽形は他の連中の評判は良い。

 外見は似ているのに、こうも差が出てくるとは。

 同じ双子としては、ちょっと分からなくもないけど。

 でも、だからこそ同じ弟として言いたい。



「吽形、皆はこう言ってるけど。お前、もう少し自分に自信持ったら?」


「な、何を言う!次期領主に従うのは、当然じゃないか!」


「でも僕が今聞いた感じ、どうもお前の方が領主に向いている気がしないでもないんだけど」


「貴様!兄を愚弄するか!?」


 うげっ!

 吽形を怒らせてしまったか。

 スティレットを網の中に突っ込んできた。

 しかし僕が突かれそうになると、予想外に周囲の妖精族が止めに入ってきた。



「吽形様、俺もこの人形に賛成なんですが」


「おい!」


 吽形が、それ以上言うなという感じで怒鳴ると、他の連中からも似たような声が上がってくる。



「あれあれあれ〜?もしかして皆、吽形に領主になってほしいんじゃないの〜?」


「き、貴様!皆を誑かすつもりか!?」


「それは無い!」


 僕が揶揄うような雰囲気から真面目な雰囲気へと様変わりさせると、吽形の顔も一変した。



「人形、お前は何が言いたいんだ?」








「何が言いたいか?簡単な事だよ。吽形、お前我慢してないか?兄である阿形に、遠慮していないか?弟だから、兄に従わないと駄目だと思っていないか?本当の自分を押し殺しているように見えるのは、気のせいなのか?」

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