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思い込みと勘違い

 ええい!

 この天才め!

 まさかヨアヒムが、自分の力で創造魔法と同じ力を手に入れるとは思わなかった。


 ツィータの魔法は時間を作るという創造魔法だったが、実際には少し違う。

 作るというよりも、引き延ばすといった方が正しいだろう。

 時間という概念を限りなく薄く延ばして、一分を一日という単位に変える。

 それがツィータから聞いた時間に関する創造魔法だが、ヨアヒムはそれを自分流にアレンジした。

 ただし創造魔法が使えないヨアヒムには、それをやるのに色々な魔法を使うみたいだね。


 流石にオリジナルの魔法を、どうやってやるの?なんて軽々しく聞かないけど。

 だってそれって、自分の経験を教えてくれって言ってるようなものだし。

 彼だって創意工夫をして、苦労してその魔法を作ったあげたはずなのだ。

 それを何も考えずに、どうやってやるの?って聞くのはおかしいと思うんだよね。

 あくまでも僕の意見だけど。


 それに兄も同じような事言ってたし。

 凄く曲がる変化球を投げる人に、どうやって握ってるんですか?と聞いてる後輩が居たらしい。

 その人は腕の長さや指の長さが違うから、同じような変化はしないからと教えていたみたいだけど、それでもそういうのはあまり感心しないと言っていた。

 教えを請うなら、それなりの事をするべきじゃないのかってね。

 聞くだけ聞いて、あざーす!じゃおかしいだろって。

 知識は財産。

 僕も兄も、その辺は似たような考えだ。


 創造魔法と同じような効果の魔法。

 そんなのを作りあげたヨアヒムは、本当に天才だと思う。

 悔しいけど、魔王を名乗るのは僕達よりも相応しいんじゃないかとさえ思ってしまった。










 俺が創造魔法という言葉を口にしたからか、阿形の警戒心が一層高まった。

 さっきまでは怒りが全面的に出ていたが、今は冷静さも取り戻しているように見える。



「アンタが創造魔法なんか使えるわけないだろ!」


 前言撤回。

 冷静だったらこんなに口は悪くない気がする。



「そう思うなら、掛かってくる事だ」


「チィ!」


 俺が挑発しても、阿形は乗ってこない。

 やっぱり口の悪さはそのままなだけで、冷静なんだと思う。



 しかしそれは俺にとって好都合だった。

 俺が教わった事は、すぐに出来る事じゃないからだ。

 今なら警戒して、俺に襲いかかってこない。

 だから俺は、この時間を利用してフエンの教えを実行する事にした。



「ん?何をブツブツ言っている」


 阿形が俺の異変に気付いた。

 しかし今更止められない。



「俺は・・・」


「だから何を言っている!」


 マズイ。

 阿形が近付いてきた。



「俺は強い。俺は最強」


「は?」


 阿形が止まった。

 俺が言っている事が聞こえたからだろう。

 逆に言えば、意味が分からない事を言っていて、不審に思っているからかもしれない。



「俺が一番。俺イズナンバーワン。俺が最も強いんだ。俺が最強。違う。最も狂うと書いて最狂だ!」


「な、何だ!?魔力が膨れ上がっていく!?」


「イッチバーン!!」


 俺が右手を突き上げると、魔力が空へ放出された。

 放出された魔力が落ちてくると、再び俺の中に戻ってくる。



「何だこの魔力量は!」


「ワタシガイチバンデース!」


 俺は地面を蹴り、警戒している阿形へ向かった。

 走るというより跳ぶと言った方が正しいのか。

 ひと蹴りで阿形の懐に飛び込むと、奴は右手のダガーで俺の拳を防ごうとしていた。

 それを見た俺は、瞬時に左拳を広げて阿形の手首を掴んだ。



「よいしょー!」


「う、うわあぁぁぁ!!」


 掴んだ手をおもいきり振り上げ、そのまま手放すと阿形は空を舞った。

 追撃をしようと見上げて待ち構えると、阿形もやはりバカではない。

 何かを呟くと、俺の手足に蔦が絡んできた。



「くっ!この!」


 投げナイフで身動きを封じた俺に牽制してきたが、この程度は掴む事さえ容易に出来る。

 人差し指と中指で挟んで止めると、阿形は俺を警戒して下がった。



「身体強化ではないのか!?」


「違うから。創造魔法だから」


「馬鹿を言え!何を創造魔法してると言うのだ!」


「フゥ、やれやれだぜ。そこから説明しないといけないとは」


 俺は手を広げて、大きなジェスチャーをしてみせると、阿形がイラっとしたのが分かった。



「これはな、力を創造したんだよ」


「・・・意味が分からない」


「だから、俺には力があると創造したんだ」


「はい?」


 阿形は間の抜けた声で返事をした。



「俺には力がある。俺が一番強い。俺にはお前を倒す事が出来る。そう思い込むんだよ。マインドコントロールってヤツだ」


「そ、それと創造魔法に、何の関係があるんです?」


「思い込めば何でも出来る。お前の攻撃も見切れる視力もあるし、お前の攻撃を避ける肉体もある。全ては思い込みから始まるのだ」


「だから!何処に創造魔法の要素があると聞いている!」


「あるじゃないか!創造してるだろ!」


「・・・それはもしかして、想像なのでは?」


 ん?

 何が違うんだ?

 阿形が何を言っているのか、よく分からない。

 それが向こうにも通じたのか、大きなため息を吐いて俺に言ってきた。



「貴方が言っているのは、想像。自分がどんな事でも出来ると頭の中に思い浮かべる事。そしてそれが必ず出来ると信じ込む事が、マインドコントロールなのでしょう?」


「そ、想像?創造魔法とは違うの?」


「魔王様が使う創造魔法とは、何かを創り出す魔法です。だから全く違うと思いますよ」


「な、なにいぃぃぃ!!」


 ちょっと待てよ。

 俺、二ヶ月近くもコレに時間を費やしたんだぞ。

 創造魔法って教わってやったのに、どういう事だよ!

 あの二代目のおっさん、騙したな!


 そもそもおかしいと思ったんだよ。

 フエンの奴が教えてる時、ワッシャーがニヤニヤしてたのを見たし。

 あのドワーフ、俺が間違って教わってる事に気付いてやがったんだ。

 それなのに何も言わないとか。

 許せない!



「クッソー!あのおっさん共、絶対に許さねえぇぇぇ!!」


「やはり貴方は、魔王の器ではないのかもしれない。だったらここで、私がその命を断ち切ってあげますよ!」


 阿形が左拳で攻撃を仕掛けてきた。

 俺はそれをいなすと、反撃にバットを振る。

 それをダガーで受け流し、再び左拳で殴り掛かってくる。


 どうやらダガーは防御に徹して、格闘で俺に挑もうという考えのようだ。

 と思っていたのだが、それはフェイクだった。



「イタッ!な、何だぁ?随分と細い針だな」


「暗器です」


 俺は阿形の左拳を右手で受け止めると、手のひらを何かが貫いた。

 それは細いが、強度のある硬い針だった。



「フフフ、もう終わりですよ」


「あん?手を針で貫いたからって、俺が受け止められないとでも思ってるのか?」


「違いますよ。ほら、もう効いてきた」


「あら?な、何だ?」


 足の力が急に抜けて、膝から崩れ落ちてしまった。

 足が痺れてる?



「超強力な麻痺毒です。大型の魔物ですら瞬時に動けなくなるくらいなので、人に使えば死に至る事もありますが。流石は魔王様と言っておきましょうかね」


 何が流石は魔王だ。

 完全に上から目線で言ってきてるじゃないか。



「そんなモン、効かない!」


「何を言ってるんです。負け惜しみですか?」


「効かない効かない効かない効かない!俺は麻痺なんかしてないし、身体の力なんて抜けてない」


「貴方は歴代でも一番の魔王かもしれませんね。そう、一番愚かな魔王だ」


 馬鹿にしやがって。



「俺は麻痺してない。俺は痺れてない。俺は動ける。むしろ薬でリフレッシュ!」


「鬱陶しい。そろそろ終わりにしてあげます。最も愚かな魔王として、後世に伝えてあげますよ!」


「ううぅぅるせえぇぇぇぇ!!俺は動ける!俺イズナンバーワン!オンリーワンでナンバーワン!毒なんか効かねえんだよおぉぉぉ!!」


 俺が叫ぶと、身体が急に爽やかになった。

 例えるなら、ミント系の飴のスッとした感じが、身体全体に広がったような。

 そんな感じである。

 すると痺れていた足が、力を取り戻した。



「イチバーン!」


「は?な、何故立てる!?」


「言っただろう。俺の創造魔法だ」


「だからそれは、想像であって創造ではないと言っている!まさか、思い込みで毒が無くなった!?」


「フハハハ!これが魔王の力だ!恐れ慄け!」


 魔王は気付いていなかった。

 本当に身体の中から、麻痺毒が抜けていた事に。



 フエンが教えた思い込みは、彼の創造魔法の基礎だった。

 思い込みから始まり、それを真実に変えていく魔法。

 思い込む事で身体を作り変えるという、ちょっと異質な魔法だった。

 強いと思い込む事で筋肉を新しく作り出し、戦いに適した身体へと変化させる。

 見えない物を見ようとして、その戦いに適した眼に変わる。

 五感は鋭く、肉体は強く変わる。

 それがフエンの創造魔法だった。


 そして戦いに適していない毒は、身体を作り変えて取り除かれる。

 それを知らなかった魔王は、思い込みで消えただけだと勘違いしていた。



「そんな馬鹿な創造魔法、あってたまるか!」


「あるんだから認めろよ!」


「絶対に認めない!」


 阿形がダガーを俺に向かって投げると、奴は袖から再びダガーを取り出した。

 ストックがあるんだろう。

 ダガーを避けて左ジャブを数発入れると、阿形はのけ反った。

 その勢いを利用してバク転をすると、ズボンの裾の部分から長い刃が飛び出してくる。



「食らえ!うわっ!」


「だから俺は最強!そんな攻撃食らわな〜い!」


 俺はそれを真剣白刃取りの要領で挟むと、横に倒して阿形を地面へと転がした。

 倒れた阿形を踏みつけようと、連続で地団駄を踏むようにしたが、奴は転がって逃げていく。



「狙ってるんだろ?その鎖分銅で、俺の動きを止めようって」


「なっ!?」


 右の袖に隠した鎖分銅を、腕を振って投げつけようとした時だった。

 動きを読まれただけなら分かる。

 しかし使おうとしていた暗器まで当てられた阿形は、驚きのあまり動きが止まってしまった。



「HAHAHAHA!全部見えてるぜぇ!」


 その隙を逃さずに前に出ると、袖に手を突っ込み鎖分銅を抜き出す。

 阿形は慌てて後ろに下がるが、俺は阿形の足に合わせて足を前に出した。

 そして鎖分銅を投げつけると、阿形は絡まってバランスを崩した。

 その阿形の下がる足に合わせて引っ掛けると、そのまま尻もちをついて倒れ込む。

 両手は塞がって倒れた阿形の前に立つと、奴は俺に向かってこう言ってきた。



「どうして動きが読める!」








「どうしてかだって?何故かお前がこれからやろうとしている動きを、目が先に映しているからだ。最初は勘違いだと思ってたから、戸惑ったんだけどな。その動きに合わせて先に攻撃すると、上手くいくんだよ。これも全て、俺が最強だからだな」

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