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阿形のプライド

 ヨアヒムはいつまで謝れば良いのか?

 難しい点だよね。


 ヨアヒムが僕達に対してやった事は、確かに許される事じゃない。

 魔族を蔑ろにして、挙句奴隷にまで貶めたりしていたのだから。

 しかし遡ってみると、僕の前の魔王であるロベルトさんも、秀吉に操られていたとはいえ、帝国と普通に戦争をしてしまっている。

 どちらが先に仕掛けたか知らないけど、二人が操られていた時点で戦争は不可避だった。

 そしてロベルトさんが負けて、帝国は勝った。

 戦勝国なのだから、敗戦国に対して強く出るのは当然かもしれない。

 でも正確に言ってしまうと、僕達は国ではない。

 あくまでも魔族という種族なだけで、各領主とは同盟都市みたいな関係に近いのだ。

 だから長秀や他の領主達からしたら、帝国が強気に攻めてくる事に憤慨するのも分かる。


 そして今度は、ヨアヒムが負けたわけだが。

 だけど考えてみてほしい。

 その原因が洗脳にあり、洗脳していた相手が秀吉という魔族なのだ。

 となると、魔族に対して攻撃を仕掛けていたヨアヒムも、被害者になるんじゃないのか?

 そして最大の加害者は、同じ魔族である秀吉になるんじゃないのか?

 そうなると長秀がヨアヒムに対して言っている事は、矛盾している気がするのだが。

 森を焼いたのは帝国軍である。

 しかしその帝国を裏で操っていたのは、秀吉になる。

 じゃあ長秀が責めるべきは、秀吉になるんじゃないの?

 とまあこんな事言っても、長秀も洗脳されてるようなものだから、あまり強く言っても仕方ないんだけどね。


 だけど子供の喧嘩と同じ。

 やられたからやり返した。

 でも相手の方が強くやり返してきた。

 じゃあ自分も、同じくらいやり返さないと気が済まない。

 そんな事を言っていたら、いつまで経っても落とし所は見つからない。

 自分から折れろとは言わないけど、何処かで妥協するべき点はお互いに見つけないとダメだと、僕は思う。










 やっぱりまだピリピリするな。

 でもさっきよりは、はるかに動きやすい。



「ど、どうやって盗ったのだ!?」


「どうやって?言っても分からないさ。敢えて言えば、魔法だな」


「ま、魔法!?」


 俺は丹羽から、薬が入っていると言われた巾着袋を奪取した。

 蹲っている間にその中身を漁ると、色々な物が入っていた。

 薬のような物から、ただの草まで。

 どれがこの毒の薬か分からない俺は、とにかく手当たり次第口の中に放り込んだ。

 薬と薬の化学反応なのか、口の中で炭酸を飲んだようなパチパチとピリピリの間みたいな反応がある。

 苦さと酸っぱさが入り乱れ、口の中がとにかく変な感じがした。

 おかげですぐに立ち上がる事は出来たのだが、まだ足に麻痺は残っている。

 だから俺は、時間稼ぎに徹した。



「先に言っておくが、約束通り四属性の魔法は使ってないぞ。そうだな、分かりやすく言うと、創造魔法・・・」


「そ、創造魔法だと!?陛下、言うに事欠いてそれは無い!」


「どうしてそう言い切れる?」


「創造魔法は、魔王様だけの魔法だからだ」


「その魔王に教わったと言ったら?」


「な、何ですと?」


 長秀の声がひっくり返った。

 あまりの事に驚きが隠せなかったみたいだ。

 それに本当の事を言えば、創造魔法とは少し違うと思う。



 俺は魔王達が居た洞窟で、ツィータという魔王の手伝いをしていた。

 それは時間を作る魔法だった。

 魔力を貸していただけとはいえ、目の前でどのような魔法なのか見ていたのだ。

 しかも延々と、二ヶ月近くも。

 実際には一日に満たないくらいの時間みたいだが、あの洞窟の中だけは、それだけの時間が流れていた。

 そして魔力をツィータに貸した時、俺はツィータに話を聞きながらそれがどのような魔法なのか、ほんの少しだけ理解した。


 そして洞窟から出た後、トライクの後部座席で何度か試してみたのだが、これがまた難易度が高い。

 ツィータのように数ヶ月という時間を作るのは不可能だったが、俺は大量の魔力を消費して、数秒という時間なら作る事に成功したのだ。


 油断したのか、ようやく妙な足の動きをやめた丹羽に、俺は大量の魔力を費やして数秒の時間を作り出した。

 そして丹羽の腰から巾着袋を奪い、今に至るのだった。



「言ってしまえば、エセ創造魔法かな?でも効果は抜群だ」


「創造魔法を自分流に作り変えた!?馬鹿な!」


「俺を罵るのは構わないけど、事実はコレが物語っている」


 巾着袋を持ち上げると、丹羽の顔色が真っ赤に変わった。



「だ、だが!私がまだ敗れたわけではない!」


「それはそうだけど、じゃあここで質問。丹羽はこの毒に対する耐性はあるのかな?」


「何?」


「俺に使ったフルーレに塗っていた毒。お前は効かないのかと聞いている」


「・・・まさか」


 俺は巾着袋を持った左手の甲を、右手の人差し指で示した。

 丹羽が慌てて左手を確認すると、そこには何の傷も残っていない。



「だ、騙したな!」


 丹羽が俺から目を離した瞬間、また魔力を大量に消費してすぐに奴へ駆け寄る。

 そしてフルーレを掴むと、その先端で奴の足を刺した。



「油断大敵。でもその反応は、お前にも通じるという事だ」


「貴様!」


 怒り狂った丹羽は、俺に対しての言葉遣いが荒くなった。

 だけどこうなれば、話は早い。

 冷静さを欠いた丹羽など、身体強化をしてしまえばどうとでも捌ける。


 俺は逃げに徹すると、しばらくして丹羽の動きが目に見えて鈍くなったのが分かった。



「毒が効いてきたみたいだな」


「こ、このような終わり方で良いのか!?」


「俺は戦争しに来たんじゃない。だからお前を殺そうとも思っていない。傷つけずに勝てるなら、そっちの方が良いんだよ」


 これは本当の事だ。

 それに丹羽を無傷で捕らえたとなれば、魔王にも恩が返せたと思うし。

 孫子のように戦わずして勝つ事は無理だとしても、それに近い勝ち方だと俺は思っている。



「私の完敗ですね。もう手足が痺れて、動かなくなってきました」


「そのまま寝ると良い。起きたら今までの悪夢は、全て忘れているさ」


 丹羽は俺の言葉を聞いてか聞かずか、寝息を立てている。



 勝敗は決した。

 魔王達がまだアングリーフェアリーと戦っているのは、戦闘音から確実だろう。

 ならば俺がクリスタルへ向かうのが上策。



「待ってろ。そのクリスタル、俺が外してやる」









 意外と冷静だな。

 阿形と対峙している俺は、素直にそう思った。



 弟を阿形と吽形の目から逸らす為、色々と挑発的に攻撃していたのだが、予想に反して阿形は冷静だった。

 まず巨大化している姿では、上から離れていく弟の姿が見つけやすいと考えた俺は、奴を小さくする事から始めた。

 狙い通りに執金剛神の術を解除させ、普段と変わらない姿に戻す事に成功。

 そして二人がかりでかかってこいと挑発して、それも上手くいったと思ったのも束の間。

 阿形は吽形と顔を見合わせると、吽形が頷いてその場から去ってしまったのだ。

 俺は弟が東に向かったと分からせないように、ポーカーフェイスを装ったのだが、どうやら無駄だったらしい。

 阿形がニヤリと笑うと、人形を追っていったと言われてしまった。



「どうしてバレちゃったかなぁ」


「簡単ですよ。魔王様のおかげです」


「俺の?」


 どういう意味だろう?

 これは挑発され返されているのかなと思ったが、どうやら本当に俺のせいだったみたいだ。



「私と吽形を執金剛神の術で大きくしたままであれば、魔王様が勝つのは容易だったんじゃないですか?」


「容易とは言えないけど」


 でも戦うのは楽だったとは思う。

 口にはしないけど。



「分かってるんですよ。わざわざ口に出したのは、目を逸らさせるのが狙いだって」


「へぇ。そこまで分かってるんだ。まあ、他にも狙いはあるけどね」


「他の狙いですか?」


 おっと、こっちは気付かなかったようだな。



「お前に勝つにしても、あまりボコボコにしたくなかったんだよね」


「それはどういう意味ですか?」


「そのままの意味だ。お前等が大きいままだったら、俺は小回りの利く小さい身体でお前等を翻弄して、一方的に攻撃出来たと思うぞ」


 スネをバットで叩くのも、簡単だったと思うし。

 やっぱり攻撃面積が大きいのは、不利だと思う。



「それは、私達に余裕で勝てると言っているのですか?」


「余裕とは言わないけど。でもあのままなら勝てただろうな」


「なるほど。よ〜く分かりました」


 うん?

 分かったと言ったと思ったら、急に俯いてしまったぞ。

 もしかして落ち込んでる?



「まあそんな気にするなよ」


「気にするなよ?」


「そう。お前が別に弱いわけじゃないんだからさ」


「弱いわけじゃない?」


 アレ?

 なんかいつもと雰囲気が違うような・・・。



「もしかして、怒ってる?」


「怒ってねーよ!俺を怒らせたら、大したもんだよ。なあ、名前だけの魔王様よぉ!」


 怒ってるうぅぅぅ!!

 めちゃくちゃ口調が悪くなってる。

 こ、これはまさか、アングリーフェアリー?



「アンタよお、魔王のくせに大して創造魔法も使わないで、魔力で強化した体力だけで戦ってるくせに、よくもまあそんな偉そうな事言えるなあ?」


「え・・・」


「アンタがやってるのって、獣人族と変わらんだろ?それが何だ?又左殿や太田殿から魔王魔王ともてはやされて、勘違いしちゃったか?」


 む!

 今のは聞き捨てならんな。



「おいテメェ。もてはやされてとか言ってるけど、お前にあの二人の何が分かるんだよ。アイツ等の魔王に対する気持ちを、馬鹿にしてんじゃねえ!」


「それはこっちのセリフだ、バカ野郎!こちとら若狭の守護として、悪意ある者を排除してきてるんだ。それが何だ?上から目線で弱くはない?大概にしろよ、この脳筋魔王が!」


「ああん!?」


「ナメてんじゃねーぞ!」


 この野郎、俺の胸ぐら掴んで睨んできやがった。

 ナメられたらそこで魔王終了だぞ!



「このやらぁ!」


「殺す!」


 ダガーを右手に持ち、構え直した阿形。

 奴の殺気が肌にひしひしと感じる。

 コイツ、キレて本気で殺しにきてやがる。



「お前、そういう態度なら俺にも考えがあるぞ」


「先に喧嘩を売ってきたのは、アンタだろうが」


「そうだな。だから俺は、有言実行に移す事にした」


 言った事を実行する。

 すなわち、阿形をぶっ飛ばす!



「やれるものならやってみやがれ!」


「言われなくてもそのつもりだ。お前の望み通り、創造魔法を使用した上で、お前を倒してやる」


「はっ!アンタが創造魔法を使えないのは、分かってんだよ。魔法特化型と違って、アンタはただただ身体を使ってぶっ壊すだけだ」


 ぐぬ!

 それは反論出来ない。

 しかも俺が教わった創造魔法も、似たような感じだし・・・。

 いや、弱気になったらいかん。








「創造は破壊から始まる。二代目魔王フエンの言葉だ。ぶっ壊す事の何が悪い。俺はフエンの意志を継ぎ、奴の創造魔法を使う者。お前にはそれを、身をもって体験してもらうからな」

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