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兄vs兄、弟vs弟

 少しだけ凹んだ。

 長秀が意外と、僕の事を甘く見ていた事に。


 本心かは分からない。

 いや、本心だろうな。

 彼の中で僕は、頭が多少良くて色々な魔法が使える程度の人間なんだろう。

 その証拠に、阿吽の踏みつけを避けただけで、かなり驚かれていた。

 もう少し付け加えると、魔法を使っても避けられないと思われていたんだろう。

 前述した通り、地面に穴を作って回避するなど、方法はいくらでもあった。

 だけどそれすら彼の中では、僕は咄嗟に行動出来ないと思われていたんだろうね。


 そして凹んだ大きな理由が一つある。

 それは空の光が薄くなり、気付けば僕の事を魔王として認識し始めているという点だ。

 記憶が封印されていて、僕は魔王を僭称するクソガキ扱いであれば、まだ理解出来る。

 多少小賢しいガキ程度では、阿吽の攻撃は避けられまい的な考えが出来るからね。

 しかし彼は、僕の事を認識していたのだ。

 という事は、僕だと分かった上であの発言をしている事になる。

 だから彼の中で、僕は阿吽に簡単に潰されると思われていたのが分かる。

 確かに僕は強いかと聞かれたら、自分でも首を傾げそうな気がする。

 純粋な戦闘力だけなら、兄の方が強いと思うし。

 様々な魔法が使えるのは応用力が利くから、便利ではあるだろう。

 だから僕は、その魔法が戦闘以外の事で役に立っていると自負している。


 でも一つ言いたい。

 強いと聞かれたら首を傾げるが、誰も弱いとは言っていない。

 兄よりは弱いと思う。

 だけどそれを他人から指摘されるのは、どうなんだって話だ。

 僕を弱いと言って良いと思ってるのは、兄以外だとムッちゃんとヨアヒムくらいだろう。

 正直な話、長秀にそう思われていて結構イラッとしている。











 俺にもあの痛みは経験がある。

 悪ふざけで軽くバットの先端で、弁慶の泣き所をコツンと叩く。

 それだけで泣きそうなくらい痛いのだ。

 コツンとやられただけで痛いのだから、フルスイングを食らった阿吽の痛みは、俺の何倍にも痛いはず。

 大きいから少しはダメージが低いかと思ってフルスイングしたけど、あの様子だと痛覚は変わらないんだろうな。



「お、おのれ!」


「キレた?」


「キレてないですよ。この程度で私はキレませんよ」


 平静を装う阿吽だが、実際は内心穏やかじゃないのは俺でも分かる。

 目にはまだ涙がうっすらと残り、顔は赤くなっているからだ。

 まあそれが、怒りなのか恥ずかしさからなのかは、俺には分からんけど。



「でも、他にもこういう所も防ぎづらいよね」


「グフッ!」


 転がっている阿吽の鳩尾に向かって、鉄球を投げつけてみた。

 手でガードしようとしたみたいだけど、咄嗟に出たその手は開かれていた。

 指の隙間から腹に鉄球が当たると、阿吽は悶絶して口から涎が出ている。



「ほらな。大きいと当たりやすいだろ」


「だ、だったら!」


 阿吽が小さくなっていくと、身長的には俺と変わらないいつものサイズまで戻った。



「吽形」


「なるほどね」


 阿吽は執金剛神の術を解き、二人に戻った。

 確かにこのサイズであれば、一人相手ならこっちの方が効率が良さそうだ。



「兄上。魔王様を本気で殺しに行くつもりじゃないと、勝てませんよ」


「分かっている。不本意だが、死んでもらう」


 不本意と言ってる割には、顔はそうは言っていない。

 最初から、本気で殺そうと考えていたように思える。



「二人相手でも、不公平だと言わないで下さいよ」


「言わないよ」


 こっちだって、やろうと思えばもう一人増やせるし。

 でも今は、それが出来ない。

 弟は途中から、この場を離脱しているからな。



「さてと、俺の時間潰しに本気で付き合ってくれよな」










 まさかこうも上手くいくとは。


 僕は兄と入れ替わった際、そのまま人形の方に乗り移った。

 理由は単純に、この三人と戦うよりもクリスタルを優先したいと考えたからだ。

 彼等は僕達を、魔王だと認識している。

 既に光が薄くなり、もうすぐ消えるのではないかと考えた僕は、もしかしたらこの北東のクリスタルをどうにかすれば、完全に正気を取り戻すのではないかと思ったのだ。

 だから僕はそれを兄に説明し、阿吽がスネを叩かれて転げ回っている時に、リュックの中から飛び出していた。


 木々に隠れながら北東を目指せば、流石の阿吽も気付かない。

 そして兄は大きいと不利だと言い続け、阿吽の視界を上からではなく下へと戻してくれていた。

 おかげで僕は、上からの阿吽の視線を気にせず、向かう事が出来るようになった。



「ここからは足を車輪に変えて走れば」


「すぐにたどり着くと思いましたか?」


「え?吽形!?」


 振り返った僕の目に入ったのは、少し息を切らした吽形の姿だった。

 後から急いで走ってきたのだろう。

 僕は隠れながら向かっていたから、全力で走れば追いつくと思われる。


 しかし疑問もあるな。

 どうやってこの場所が分かったんだ?

 最短距離だとバレると思い、光から少しズレた位置に向かっていたのに。



「どうやってここが?」


「ここは何処ですか?」


「森の中だね。・・・あぁ、なるほど。森魔法を使えば、吽形には僕の位置なんて丸分かりって事ね」


「正確には、私ではなく兄なんですけどね」


 チッ!

 甘く見ていた。


 森魔法は長秀が使っているのを知ってるけど、阿形も吽形も使っているのを見た事が無かった。

 だから領主だけが使える、特別な魔法だとばかり思っていたけど。

 そうではなかったらしい。



「残念でしたね。もう少しでクリスタルでしたが」


「そう?もう少しだって分かったから、別に残念とは思ってないよ」


「・・・負け惜しみを!」


「そう思うのは吽形の勝手だけどね」


 吽形の余裕ぶった顔が、みるみる変わっていく。

 コイツ、阿形が居ないと意外と分かりやすい性格だな。



「申し訳ありませんが、その人形は破壊させていただきます」


「出来るもんならやってみろ!」


 吽形がスティレットを左手に持ち、突撃してくる。

 僕は足の代わりにしている車輪で全速力で下がると、吽形は驚いた顔をしている。

 僕はそれを見て、ニヤリと笑った。

 人形だから表情変わらないけど。



「さあ、追いつけないキミが僕の目の前に居る。右手に火球、左手に風魔法。効果範囲は広いけど、避けられるかな?」


 僕が両手を前に出すと、火球は風魔法で扇状に広がっていく。

 正直なところ、威力は低い。

 だけど見た目だけは派手で、目眩しにはなる。



「クッ!」


 顔を両手で覆った吽形は、そのまま地面に転がった。

 炎が当たる面積を小さくしようという考えか?

 しかし、その考えは失敗だね。



「あばよ、吽形。先にクリスタルへ行かせてもらうぜ」


 僕は怪盗がインターポールの警部に言うように、余裕ぶって言ってみせた。

 そして両手を広げウイングを作ると、足から風魔法とは魔法を使ってジェット噴射の要領で空を飛んだ。



「ま、待てー!」











 ようやくデカブツ共が居なくなったな。

 本来ならこの丹羽に集中するべきだったのだろうが、俺もあの男もそれどころじゃなかった。


 某四本足のバケモノと、小さな巨人とも言うべき妖精。

 この二人の六本の足が、俺達の周りで容赦無く暴れ回っていたからだ。

 丹羽の行動を警戒して前に集中していれば、真後ろから薙ぎ倒された木が飛んでくるし、向こうも俺を気にしてジリジリと近付いてくると、目の前を蹴り飛ばした木が飛んできていた。

 俺と丹羽は目を合わせると、お互いに何をするべきかアイコンタクトで理解した。

 そこからは一時休戦である。



「そろそろ良いでしょう」


「邪魔者は消えたからな。俺の邪魔をするなら、少々痛い目に遭ってもらう」


「そうですか。私はてっきり、以前のように森でも燃やして、私達を殺しにかかってくると思っていたんですけどね」


「チッ!」


 バツが悪いヨアヒムは、舌打ちをした。

 今にして思えば、森を燃やして都市ごと消し去ろうという考えは、悪いと思っていたからだ。

 自分が命令したわけではないが、それを言ったら言い訳になってしまう。

 かと言って謝罪してしまうと、全ての非を認めなくてはならない。

 魔王を通してそれなりに償いを考えていた彼は、このような事態になってしまい、それどころじゃなくなってしまったのが現状だった。

 それでも少しは悪いと思っているのか、ヨアヒムは長秀にある条件を提示する。



「分かった。アンタには四属性の魔法は使わない。基本は剣で戦うと約束しよう」


「ほう?私程度なら、剣だけで勝てるとお思いで?」


「身体強化はさせてもらうがな」


「それでも充分に傲慢な考えだ」


 長秀はレイピアを立てると、精神を集中している。

 それを見たヨアヒムは、腰の剣を抜き両手に持って構えた。


 次の瞬間、目をカッと見開いた長秀が動く。

 独特の動きで上半身が上下せずに走り出した長秀は、目の錯覚で突然近付いてくるように見えた。



「んん!?ぬおっ!」


 近くに寄ってきている。

 見間違いじゃないと目を細めて見ていたヨアヒムは、急に目の前に突き出されたレイピアを、首を傾げて避けた。

 そこからは長秀の独壇場だった。

 レイピアを鋭い突きで、上半身下半身問わずに攻め続けると、ヨアヒムは持っていた剣を振り回しながら防戦一方で少しずつ下がっていく。



「なかなかやりますね」


「帝国式剣術をナメるなよ」


「それはこちらのセリフです」


 長秀が手を休めずに突いていたレイピアを一度引くと、今度は違う剣を抜いた。

 一度引いて距離が出来た分、見やすい。

 ヨアヒムは少し安堵していたが、それは間違いだった。



「うぐっ!」


 避けたはずのレイピアが、急に曲がって太ももに突き刺さる。

 深くは刺さっていないが、それでもバランスを崩すだけのダメージはあった。

 そこからヨアヒムは、一方的に攻撃を食らい始める。



「な、何だ!?」


「軌道が読めませんか?まあ私も、少し意地悪でしたね」


 両腕と両足、様々な箇所を突かれると、小さなものを合わせれば無数の傷がヨアヒムの身体中に作られた。

 魔法を使わないと約束していたヨアヒムは、足に身体強化を集中して距離を取った。



「その動き、知っているような気もするが・・・あっ!」


 ヨアヒムは長秀の武器の構え方を見て、それが何かを思い出した。



「フェンシングか!」


 その言葉を耳にした長秀は、耳がピクリと動いた。



「どうしてその名を知っているんです?」


「どうして?それくらいは俺も知っているさ」


「この武器はフルーレと言います。フルーレはレイピアよりも細く、耐久力はありません。しかし細い分、曲がる。私もこの武器を手にした時は、苦労しました」


「それがどうした?」


 ヨアヒムが平然と言ってのけると、長秀が言葉を続ける。








「このような武器、今まで存在しなかったんですよ。何故なら、作る技術が無かったから。コバ殿が作ったこの武器は、帝国でも使っている者は居なかったはず。それなのに貴方が知っているのは、何故なんでしょうか?」

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