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最後の欠片

 久しぶりに勉強をしているという、この感覚。

 悪くない。


 僕と兄は、歴代の魔王から創造魔法について、改めて学ぶ事になった。

 しかし意味が分からないのが、二代目魔王であるフエンが言ってきた筋トレ。

 体内の魔力の通りを良くするとか言っていたけど、何その血管みたいな仕組み。

 運動をすると血管が広がると言うが、それとは違うのか?

 そんな疑問を抱いていると、まさにその通りだった。

 魔力の通りを良くするというのは、血管を広げるのと同じ。

 要は筋トレじゃなくても、良かったらしい。

 兄は途中でそれに気付いて、筋トレに飽きたので別の事で身体を動かしていた。


 そして三代目の基礎知識に関しては、僕が知っていた魔法の知識と、ほぼ変わらなかった。

 今は高校や大学に行くのが当たり前だけど、昔はそうじゃなかったのと同じ。

 昔なら大学でしか習わなかったようなレベルが、中学や高校でも教わってますよという感じだ。


 三代目が大した事無いなら、歴代魔王の創造魔法も大した事無いのか?

 少しそんな疑問が湧いてきたが、やはり世代を追うごとに創造魔法のレベルも変わっていた。

 その証拠が、四代目による時間を作るという創造魔法。

 魔力を使って自分の周りだけ、時間の流れを遅くするという魔法らしい。

 こんな魔法が日本に存在したら、受験生は大喜びだっただろうね。

 センター試験前日になっても、数週間の余裕はある事になるんだから。

 まあ日本人に、創造魔法は使えないけど。


 四代目以降、彼等も特殊な創造魔法が使えた。

 兄の方は、創造魔法というよりも、別の魔法に思えたけど。

 でもやっぱり、僕の中で一番興味があったのは、ロベルトさんの身体を作り変える魔法かな。

 彼の父親であるカーリスさんとの共同の成果だという話だが、実際に体験しただけあって凄いと思った。


 魔族って弱肉強食なのに、どうして弱い人も居るのか?

 そんな疑問もあったけど、彼等の魔法を知ったら、これは確かに他の魔族からも凄いと思われると実感した。

 そう考えると僕も魔王として、何か足跡を残さないとダメだなと、少し焦りも感じたのだった。











 正解だとは言えない。

 何故なら僕と兄は、両親と過ごした記憶が全くと言っていいほど無い。

 小さい頃に二人とも亡くなっていて、覚えているのは写真による姿だけだからだ。

 その写真だって、毎日ずっと見ていたわけじゃない。

 何かの拍子に目に入ったり、修学旅行や終業式の時といったイベントの時に挨拶代わりに見ていたくらいだ。

 薄情だと思うかもしれないけど、記憶に無い両親よりも、育ての親である親戚の方が、僕達にとっては親に近い存在なのだ。


 でも、そんな僕達でも分かる事はある。



「お父さん、お母さん」


 え?

 ちょっと待って。

 今は僕が身体の表側に出ているはず。

 それなのに兄が喋っている。

 いや、姿が見える。



「兄さん!どういう事!?」


「アレ!?どういう事!?って、お前もだぞ!」


「え?」


 そ、そういえばいつもより視点が高い。

 もしかして、魔王の身体じゃない?



「それが本当の君達の姿か」


 カーリスさんがそう言ったのを聞き、僕達は自分達が本来の姿であると分かった。



「健一、康二。大きくなったな」


「えっと・・・はい?」


 兄が言葉につっかえて、しどろもどろしている。

 その気持ちは分かる。

 今更親父だと言われたところで、何と答えて良いのか分からない。



「康二は健一よりも、少し細めなのね」


「は、はぁ・・・」


「ご飯は食べてる?大きな病気とか、なってない?」


「えっと・・・はい」


 しまった!

 反応が兄と同じだ。

 目の前の男女が顔を見合わせ、途端に笑い始めた。



「やっぱり兄弟だな」


「は、はは・・・」


 頭を掻きながら苦笑いする兄と僕。

 なんとなく居心地が良い。



「御二方、もうそろそろ」


「分かりました。健一、康二、こちらへ」


 僕と兄は、両手を女性に両手を引っ張られた。

 触れないはずなのに、どうして?



「今の君達は、魂だけの状態だ。だから君達の本当の姿だし、またある意味、君達の姿も変えられる」


「あ・・・」


「兄さん」


 手を引っ張られて父の下へ連れて行かれると、僕達は気付いた。

 また視点が低くなっている事に。



「フフ、懐かしい」


「あぁ、本当にな」


 僕達は二人に抱き締められると、自然と涙が溢れてきた。



「お父さん!俺ね、プロの野球選手になったんだ!と言っても、ドラフトに選ばれただけだけど」


「ケンは凄いな」


「お母さん!僕も大学行って、就職が決まったんだよ。仕事をするのってどんな気持ちなのか、楽しみにしてたんだけどなぁ」


「コウちゃんは、小さい頃から図鑑とか好きだったものね」


「えっとね、他にも色々と話したい事があるんだ」


 僕と兄は、堰を切ったように言葉を繰り出した。

 だけど、その時間も長くは続かなかった。



「阿久野くん、そろそろお別れの時間なんだ」


「すまんな。異世界から魂を呼ぶというのは、思った以上に大変だったんだ」


 ジルバさんとワッシャーさんが、微妙な面持ちで僕達に伝えてくれた。

 やはり魔王達が、何か頑張ってくれていたらしい。



「健一、康二。お前達はまだ生きている。どんな姿になっても、お前達は私達の息子だ」


「二人とも、精一杯生きてね。そして精一杯、人生を謳歌しなさい。怪我や病気には気を付けて」


「うん、うん!」


「お父さん!お母さん!」


 二人が僕達から手を離すと、透けていた彼等の身体が更に薄くなっていく。

 僕達はそれを見て、また手を掴もうとした。

 しかし空を切るその手に、涙が溢れてくる。



「大人になった二人に会えて、本当に良かった」


「皆様のおかげで、このような時間が過ごせました。本当にありがとうございました」


 母が魔王達に頭を下げると、魔王達はお礼を言われると思っていなかったのか、全員がギクシャクし始める。



「いえ!また安らかに休んでいて下さい」


「ありがとう。二人とも、仲良くね」


「うん!」


「それじゃ、元気でね」


「うん!バイバイ!」


 僕達が手を振ると、二人は笑顔で姿を消した。

 何故か僕と兄は、子供の頃と同じように手を握っていた。











 行ってしまったか。


【アレ?身体の中に戻ってる!?】


 夢のような時間だったけど、夢じゃなかったんだろう。

 身体に戻った後も、手を握った感触がまだ残っている。



「ワシ等からのプレゼントは気に入ったか?」


「えぇ。かなり驚いたけど」


 感慨に耽っていると、空気を読まない信長が話し掛けてきた。

 渋々それに応じると、今度はロベルトさんも話し掛けてくる。



「良かった。今のは私達の感謝の気持ちです」


「感謝?」


「実は私達、本当はお互いの姿が見えないんですよ」


「どういう意味ですか?」


「ワシ等は魂としてこの姿になっているが、お互いの事を認識していなかったのだ。しかしこの石のおかげで、この地にへっぽこ丸達が居る事を知った」


 なるほど。

 全員、自分独りしか居ないと思っていたのか。



「じゃあお互いに認識出来たのは、ここ数年?」


「そうだね。洞窟の一番奥に知らぬ間に置かれていたこの石の周りだけ、私達は他の皆を認識出来るようになるらしい」


「魔力も使えて、俺達は皆がどんな創造魔法が使えるようになったのか、発表会とかやったんだ」


 魔王の魔王による魔法の発表会。

 想像しただけで笑える。



「しかしお前が近くに来た時、この石の持ち主がお前だと気付いた」


「しかも持ち主が、魔王を名乗っているとなればね。会うしかないでしょ?」


「なるほど。それで僕達は、招き猫を使って呼ばれたんですね」


「その通りだ」


 という事は、魔王達が僕達に興味を示さなければ、最後の魂の欠片は見つからなかった事になる。

 魔王によって管理されていたのは、偶然なのか。

 それとも必然なのか。



「おかげで俺達も、楽しい時間を過ごせた。だからお前達に、これを返そうと思う」


「あ、ありがとうございます」


「礼を言うのはこちらの方です。長い、本当に長い間、私達は孤独でしたから」


「でも返したら、またお互いが見えなくなってしまうんじゃないですか?」


 死んでもずっと独りというのは、正直難しい。

 僕なら辛くて発狂するだろう。

 だけど、流石は魔王達。

 その心配は要らないようだ。



「そこで登場するのが、創造魔法だよ。僕達は創造魔法を使って、自分達という存在が分かるような魔法を生み出したんだ」


「でも信長は魔法使えないんじゃ?」


「フッフッフ。ハーハッハッハ!!ワシも魔法を覚えたからな!」


「なっ!?」


「死んだら魔力が増えたのだ。そしてコイツ等に聞いて、その魔法を教わった」


 死んでも成長を続けられるとか。

 信長、本当のチートキャラじゃないか!



「だからもう、この石は無くても大丈夫。そして私達はこの石の持ち主に感謝するべく、持ち主の願いを叶えようと魔力を温存していたんだ」


「まさか異世界から呼び寄せる事になるとは、俺達も思わんかったがな」


「ごめんね。魔王全員の魔力を使っても、短時間が限界だったよ」


「いや、本当にありがとうございます」


 僕は深々と頭を下げた。

 本当に感謝しかない。



「ちなみにこの石は、死んだ者に会いたいという気持ちが込められていた。お前達は両親を忘れていたようだが、心の奥底では会いたかったんじゃないのかな?」


「えっと・・・」


 顔がとても熱い。

 多分僕は今、顔が真っ赤になっているんだと思う。


 自分の心を兄にも見せないようにしていたのに、まさか他人であるこの人達に当てられるとは。

 とても恥ずかしくて、言葉に出来なかった。



「さて、それではお前達もやるべき事があるはずだ」


「そろそろ私達とも、お別れの時間ですね」


 フエンさんとジルバさんが、僕達の背中を押す。

 ずっと触れられなかったはずなのに。

 これが存在を認識させるという事か。



「阿久野くん、個人的なお願いをしても良いかな?」


「はい?」


 ロベルトさんが僕に向かって、神妙な面持ちで言った。



「木下秀吉は強い。殺された私が言うのも微妙ですが、彼にはまだ秘密があると思われます。おそらく私を殺した時よりも、更に強くなっているはずです」


「そうですね。それは見ていて思いました」


「仇を取ってくれとは言いませんが、油断せずに必ず勝って下さい」


「はい!」


 僕はロベルトさんと握手を交わすと、信長が最後の一言を言ってきた。



「阿久野、悪の魔王か。第六天魔王よりはインパクトは弱いが、なかなかに刺激的だな。猿、ではなくてネズミだったか。魔王を称しておいてハゲネズミなどに負けたら、承知せんぞ。勝ってこい!」


「はい!では、出発します!」


 信長の一喝を聞いた僕達は、時折振り返って手を振りながら洞窟の外に向かって走り出した。



 でも、途中で立ち止まった。



【どうした?】


「ちょっと休憩しよう」


【何故?ヨアヒムが外で待ってるぞ】










「だからだよ。このままだとヨアヒムに、今の話を説明しないといけない。両親に会って泣いたとか、絶対に知られたくないし。ここで言い訳を考えてから行こうよ」

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