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魔王からのプレゼント

 恐るべしヨアヒム。

 洞窟に入ってきていきなり、僕よりも目立っていた。


 四代目魔王であるツィータが、創造魔法で時間を操る事が出来ると言い出した。

 信長の命により、僕に力を与える為だったのだが、肝心の魔力が無い。

 その魔力を代用させてもらう為に、ヨアヒムには協力してもらう事になったのだが。

 そこでヨアヒムの魔力量が、魔王と同等レベルだと判明したのだ。


 ちょっと考えてみてほしい。

 ヨアヒムは僕と同じで、主属性の魔法だけじゃなく光魔法のような特殊な魔法も使える。

 そう、使えないのは創造魔法だけなのだ。

 魔力量が魔王と同等だというのなら、もし彼が創造魔法を使えたら、今目の前に居る面々と肩を並べられる存在だという事になる。

 しかも僕みたいな創造魔法の入り口しか知らないような情弱魔王だと、下手すれば負けていた可能性だってあった。

 そうなれば魔王に勝った魔帝として、新たな時代を本当に築いていたかもしれないのだ。

 今でこそこんなに頼りになる存在だが、一歩間違えると命と魔王の座の両方を、同時に奪われていた。


 そして実際に奪われたモノもある。

 それが魔王からの注目だ。

 彼が洞窟に入ってから魔王達の興味が、明らかに僕よりもヨアヒムに向いているのだ。

 ヒト族が魔法を使う時点で目立つし、何もそれが悪いと言っているわけじゃない。

 でもね、一応僕が魔王なんですよ。

 兄と僕が魔王なんです。

 それを放ってヨアヒムにばかり興味を持たれると、心に傷を負いますよ?

 あまり目立つのが好きじゃない僕だけど、これはちょっと凹みます。


 手伝ってもらうとは言ったけど、このままだと全てヨアヒムに持って行かれてしまう。

 ここは全力で歴代魔王の力を学ばないと、僕の存在が薄くなってしまうからね。

 打倒ヨアヒムだよ!










 信長の目の前で膝をつき、ノートとペンを差し出すヨアヒム。

 期待に目を輝かせながら、まだかまだかと待っているが、その時はやって来ない。



「ヨアヒムと言ったか。悪いが無理だ」


「な、何故に!?」


「ワシはペンを持てない」


「ハッ!ロベルト様もそうだった・・・」


 さっきロベルトに肩を叩かれるかと思いきや、透けた手が身体を通過していた事を思い出すと、ヨアヒムは分かりやすいくらい肩を落とした。



「すまんなぁ。しかしヒト族が、そこまでワシに興味を持つとは。ちょっと意外だな」


「あぁ、その辺は特殊な事情がありまして」



 そもそも信長は初代魔王として有名だが、ヒト族からはそこまで好かれていない。

 能力のある人を束ねて様々な国々を破り、天下統一という偉業を達成した彼は、元々能力の高い魔族からの人気は高い。

 しかし平凡なヒト族や権力を笠に着ていた連中からは、疎ましい存在だった。

 ヨアヒムの祖先が、そういう考えのヒト族だったわけではない。

 しかし大半のヒト族は信長と言えば、天下統一などと言いながら、死後にまたすぐに混乱を招いた者という意識の方が強いのだ。

 現にヨアヒムの国であるドルトクーゼンも、信長に仕えた有能なヒト族が、独立して出来たと言われている。



「特殊な事情とは何だ?」


 面白い事には興味があるのか、信長はヨアヒムを見てその答えに期待している。

 僕が言っても良いのだが、やはり本人の口から話すのが筋だろう。

 ヨアヒムにそれを促すと、彼は恐る恐るこう言った。



「実は私、転生者なんですよ」


「何だと!?そこのところ、詳しく!」


 信長の反応が、オタクっぽいのだが。



「え?でもちょっと暗いですよ」


「大丈夫!ワシ、wktkしてるから」


 こんな信長、見たくなかった・・・。

 いや、見ないようにしよう。



「信長の相手は、このままヨアヒムに任せるとしましょう。僕達は特訓を」


「え?」


「おい!時間が無いんだろ!?」


 他の魔王達も、ヨアヒムの話に耳を傾けている。

 信長が楽しめるようにと、ヨアヒムは生前の頃の話から細かく話していた。

 これは下手をすると、数時間は掛かってしまう。

 だから僕は、魔王達に早くしろと怒鳴りつけた。



「今代の魔王は怖いなぁ」


「おいロベルト。お前よりも魔王っぽいんじゃないのか?」


「父上、それは言わないで下さい」


 ロベルトさんの父であるカーリスさんが、僕の事でロベルトさんを揶揄っている。

 照れているようだが、他の魔王と比べると親子っぽい雰囲気はある。



「仕方ない。始めるとするか。まずは俺だな」


「お願いします!」


 最初に名乗り出たのは、二代目魔王であるフエンさんだ。

 彼は獣人族であり、どんな創造魔法を使うのか気になるところでもある。



「じゃあ最初に、腕立て一万回から行こうか」


「魔王チェンジでお願いします」


 アホか!

 創造魔法なのに、どうして急に筋トレになるんだよ!

 しかも一万回とか、頭おかしいとしか思えないレベルだぞ。



「何故出来ないのだ?」


「普通に無理だから。一万回も腕立て出来る人、居ない・・・わけじゃないけど、無理だから」


 居るわけないと言い掛けたけど、頭の中に武藤って人が笑いながら腕立てしている姿が浮かんでしまった。

 超回復しながら、やれば出来るとか言って高速で腕立てしてそうだ。



「しかし、コレから始めないと意味が無いぞ」


「僕にムキムキマッチョマンになれと?」


「違う。腕立てや腹筋は、体内の魔力の通りを良くする為に行うんだ」


 理由があったのか。

 そうなると、無碍に断るのが難しい。

 だけど、僕には絶対に出来ないと断言出来るし。



【あまり好きじゃないが、ここは俺の出番だな】


 兄さん!

 お願いします!



「ちなみに他の魔王も、筋トレとか身体を動かす系ですか?」


「俺はそうだな」


「私は違いますよ」


 ドワーフのワッシャーさんみたいに、腕を回しながらそうだと言えば、エルフのジルバさんは違うと言ったりしている。

 どうやらこれは、役割分担が必要らしい。

 さっきは人形に入れなかったけど、今はどうなんだ?



「あ、入れた」


「人形が動いた!?って、阿久野くんか。・・・じゃあ目の前の阿久野くんは誰?」


 ロベルトさんが混乱していると、他の魔王達も僕の周りに集まってくる。



「ロベルトさん、僕の中でもう一人会いましたよね?アレは僕の兄です。そして今は兄が、この身体を動かしています」


「お願いしゃす!」


 勢いよく頭を下げる兄に、フエンさんとワッシャーさんは満足そうに頷く。

 体育会系は向こうに任せよう。



「なるほど。二人でこの身体に存在しているのか。面白いな」


「だから私達よりも、魔力量が多いのかもね。納得だ」


 興味津々に、人形をジロジロと見てくる一行。

 見せ物みたいでちょっと嫌な感じだが、彼等は納得出来たのか話題を変えてきた。



「というわけで、僕が皆さんから創造魔法について学びます。あちらのフエンさんとワッシャーさんの方は兄に任せるので、よろしくお願いします」


「役割分担か。便利だな」


「では早速、創造魔法の基礎から学んでいきましょうか」


 三代目であるジルバさんがやる気を見せると、他の魔王も一緒に話を聞こうという姿勢を見せてくる。


 創造魔法の基礎は、このジルバさんが作り出したと言っても過言ではないらしい。

 そのせいか、死んでも好奇心旺盛な面々は、僕と一緒に勉学タイムへと突入するのだった。











 洞窟に入ってから、約二ヶ月。

 僕達はいよいよ出発する時が来た。



「皆さん、色々とありがとうございました」


「二ヶ月もの間、よく頑張ったな」


「それも全て、ヨアヒムのおかげです」


 疲れきったような顔を見せるヨアヒム。

 彼はこの二ヶ月間、ツィータさんに魔力を吸われながらも過ごしていた。

 彼の魔力が尽きていたら、こんな長期間も洞窟で修行は出来なかったのだ。



「お、俺頑張ったと思うぞ?」


「自画自賛?だけどヨアヒムくん、魔力量増えたよね。僕が時間を作っている間にも、少しずつ増えてたもの」


「そ、そうなんですか?」


「自覚は無いか。でも現実時間で丸一日、魔力が尽きなかったのは君の魔力が凄まじかったからだよ」


 ツィータさんが小さな子供の姿とはいえ、魔王から褒められたヨアヒムは、満足そうな顔をしている。



「ハッキリ言って全盛期の僕達よりも、魔力量だけなら上になったね。君も創造魔法が使えれば、魔王を名乗れるレベルだよ」


「そうですか。ありがとうございます!」


 感謝しながら笑顔を見せるヨアヒム。

 しかし魔力の残りは少ないからか、ちょっと辛そうだ。



「疲れただろうし、もう外で休んでいて良いよ。トライクは運転出来るよね?」


「あぁ、やり方は教わったからな。それでは魔王の皆様、私は先に失礼させていただきます」


 彼は各々の魔王に挨拶をすると、トライクで徐行しながら外へ向かっていった。



「行ったな?」


「行きましたね」


 信長が尋ねると、ロベルトさんが確認してヨアヒムの姿が見えなくなったと言った。



「さて、阿久野よ。よくやったな」


「はい、皆さんのおかげです」


「まさか全員の創造魔法を学ぶとは、思わなかったぞ」


「そこは兄と僕の役割分担が、大きかったですね」


 皆から称賛を受けた僕は、少し変な気持ちになった。

 親戚のおじさん達に褒められているような、そんな気分だ。



「では最期に、お前に褒美をやるとしよう」


「褒美?創造魔法を教わったのが、もう褒美ですよ」


「ハッハッハ!コレを見ても、そう言えるかな?」


 信長が指で示した方を見ると、大きな石が二つ並んでいた。

 アポイタカラかオリハルコンか?



「親父殿。褒美というよりも、返却と言った方が良いと思うのだが」


「まあそうとも言うな。ワハハ!」


「返却?」


 僕が石に近付くと、それが何かようやく理解出来た。

 それはずっと見つからなかった、僕達の半身とも言える存在だった。



「た、魂の欠片!しかも二つとも!?」


「コレがあったから、ワシ等は存在していられたのだ」


 魂の欠片の力で?

 見た感じ片方は僕のだと思うけど、もう一つは兄の欠片に思える。



「手に取ると良い」


「は、はい」


 僕が右手に自分の欠片を、そして左手に兄の欠片を持つと、突然欠片が光り始めた。



「な、何だ?」


 眩しさから腕で目を覆うと、魔王達のものではない、知らない声が聞こえてくる。



「健一、康二」


「だ、誰!?」


【俺達の名前を知っている!どういう事だ!?】


 兄にも聞き覚えが無いという声に、僕達は身構えた。

 光の先を目を細めて見てみると、何者かが立っているのが分かる。



「健一、康二。久しぶりだな」


 久しぶり?

 僕達は光が収まるのを待つと、それが誰なのか、ようやく理解出来た。










「お父さん!お母さん!」

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