時間をつくる
僕の身体って、今とても変な場所になっている。
だって身体は一つなのに、僕と兄、そしてロベルトさんの魂が入っているんだから。
以前僕は、魔力は魂の大きさに関係していると聞いた事があった。
その魂が二つもこの身体に入っているのに、ロベルトさんも加わる。
普通であれば、パンクしてもおかしくない気がするのだが。
しかも僕を見れば分かるが、元はロベルトさんの身体でも、今は更に縮んでいる。
もしかして縮んだから、身体の中の方は大きくなったとか?
身体の大きさと魂の容量は、反比例する?
でもそれなら、小人族や妖精族、ネズミ族のような元々身体が小さな連中は、魔力容量が多い事になる。
この三種族が共通して言えるのは、獣人のような身体の大きな連中と比べると、魔法が得意だというくらいだ。
しかしそうなると、エルフはどうなんだという話になってしまう。
彼等は決して小さいわけじゃないし、魔法が苦手でもない。
話が逸れてしまったが、この身体は元々、僕達を受け入れるだけの余裕があった可能性もある。
ロベルトさんは歴代魔王の中でも、突出して強かった。
しかし鍛えていなかったから、本来はもっと魂と魔力が内包出来る身体だったのに、そうはならなかった。
だから僕達も一緒に居られる?
仮定の話だけど、そう考えられなくもない。
でもロベルトさんも不思議に思っていたし、今回は例外なのか?
他の魔王の反応を見ていないけど、どうなんだろう?
結局のところ生命の神秘というのは、どの世界に行っても分からないものなのかもしれない。
強くしてもらえ。
願ってもない命令だけど、時間はどうなんだろう?
僕達がここで時間を食っている間にも、他の皆が苦しむ事にならないだろうか?
特にハクトと蘭丸に関しては、家族とも敵対する道を進んでいる。
彼等の為にも、僕の事なんかで苦しんでほしくない。
「でも、仲間達が待ってるので・・・」
「時間が気になるの?」
僕が断ろうとすると、イタズラ好きな小さな鳥人族、ツィータが話し掛けてきた。
「そうです」
「だったら僕に任せなよ」
「何をするんです?」
「時間を作れば良いじゃない」
「はい?」
この人は何を言ってるんだ?
するとツィータの親である三代目魔王ジルバが、横から説明を始めた。
「創造魔法は何も、身体を作り変えるだけじゃないって事だ」
「僕はね、時間を創れるんだよ」
「はい?」
時間を創る?
意味が分からないんだけど。
「時間って何を元にして創るんですか?」
「魔力だ」
「魔力ですか!?え、でもそうなると、誰の魔力を使うんです?」
「あっ!そうだよぉ。僕も死んでるって、すっかり忘れてた」
この人達がどれだけ凄くても、彼等は死んでいるから分からない。
やり方を知っていても、魔力を持っていないのだ。
そのせいで僕達は、彼等が隠れていた事に全く気付かなかったのだが。
「阿久野くんの魔力を使っちゃうと、教えても余裕が無くなるし」
「ん?僕の魔力でって事は、他人の魔力でも出来るんですか?」
「出来るよ〜」
「なるほど・・・」
そうなると一つだけ手はある。
だがこれは、ロベルトさんにはキツイ出会いになりそうな気もする。
やはり本人にも、確認を取った方が良いだろう。
「ロベルトさん。自分を殺した相手って、誰だと思ってます?」
「さっきの話を聞く限り、ヒト族も利用されてたみたいだし。どちらかと言えば秀吉だろうね」
「そうですか。ヒト族に恨みは?」
「特には無いかな。むしろ操られて戦争したのは、私も同罪だし」
ロベルトさんの口調を聞く限り、彼は帝国に同情的な雰囲気がある。
だったら問題無い!
「ちょっと皆さんに聞きたいんですけど、ここって魔王以外は立ち入り禁止ですか?」
「いや、そんな事は無いですよね?」
ロベルトさんが信長に確認を取る。
すると信長は、面白い事を言い出した。
「そうだな。今はそんな空気になっているが、ワシが一人の時はよく呼び寄せたものよ。特に転移者はな」
「そうなの!?」
「そうじゃなければ、こんな口調にはなっておらんわ。今更候とか言うのも、アホらしい」
そういえば現代風な喋り方をしていた。
転移してきたから、てっきりこっちの話し方で慣れたのかと思ってたけど。
「転移者からは。ワシが死んだ後の話を色々と聞いた。だから猿と徳川の小僧の話も知っているし、ワシが死んだ後に信長公記という物が作られたのも知っている。更に言えば、南蛮と戦争して負けた事や、その後は急速に発展した事もな」
「そこまで!?」
信長が珍しいものや新しいものが好きというのは聞いた事あるけど、後の時代の話まで興味があったとは。
この人が生きて天下を取っていたら、どんな未来が待っていたんだろう?
「だから別に構わないぞ」
「そしたらとびきり魔力がある奴が、外で待ってるんですけど」
「そうか。ロベルト!」
「迎えに行って参ります!」
足が無いのに、走っているように見える。
何というか、パシリが板に付いてるなぁ・・・。
「暇だな」
ヨアヒムは洞窟前の岩を魔法で削り、平たくして寝転がっていた。
帝国から離れ、秀吉の魔法を解除しなくてはならないのは理解しつつも、このような何も無い時間は、本当に久しぶりだった。
「あの〜、阿久野くんの連れの方?」
「うおっ!誰だ!?」
頭の上から声が聞こえ、慌てて起き上がるヨアヒム。
彼は声を掛けてきた人物を見て、驚愕した。
「魔王ロベルト!生きていた・・・と思ったが、勘違いだったようだ」
「貴方は・・・帝国の王子?大きくなりましたね」
二人が直接会うのは、これが初めてではない。
かつてバスティが王権を持っていた頃、まだ魔族とも友好な関係であり、ヨアヒムも子供の頃に魔王だったロベルトと対面した事があった。
「申し訳ありません!私が隙を突かれて洗脳されてしまったから、魔族と戦争など起こしてしまいました。貴方の命は、私が奪ったも同然です」
姿勢を正したヨアヒムは、ロベルトに向かって頭を下げた。
しかしロベルトは、それを見て逆に自分も謝り始める。
「頭を上げて下さい。私こそ申し訳ない。魔王でありながら、魔族である木下に操られてしまった。配下である魔族に操られていた私の方が、罪は重い」
「しかし、殺してしまったのは事実です」
「それに関しては残念ではありますが、このような形で存在はしているのでね。気にしないで下さい」
肩を叩こうとするロベルトだが、ヨアヒムには触れる事が出来ない。
ある意味肩透かしを食らったヨアヒムを見て、ロベルトは苦笑いをして見せる。
「ところで、君にお願いがあるんですよね」
「お願いですか?何でも言って下さい」
「君の魔力を借りたい。って、君はヒト族だよね?そんなに魔力あるの?」
「大丈夫です。私も魔法が使えますから」
ヨアヒムの言葉に耳を疑うロベルトだったが、目を見てそれが偽りでないと感じた。
「でも私、洞窟には入れないのですが。何故ですかね?」
「入れない?おかしいですね。あ、コレかな?」
ロベルトが指をさしたのは、ヨアヒムが身に付けている反魔石だった。
「でも、コレを外すと記憶が」
「ちょっと待って下さいね。君の魔力を借りて、こんな感じかな?」
反魔石を握るヨアヒムの手に、ロベルトが手を重ねるように動くと、魔法が発動した。
それを間近で見たヨアヒムは、何が起きているのか理解出来なかった。
「石が身体の中に!?」
「阿久野くんの記憶は消えていないようですね。後で取り出すので、今はコレで我慢して下さい」
「こんな魔法、知らない。やはり魔王は凄い!」
「フフフ。でも弱いから、負けちゃったんですよね。魔族は弱肉強食なのに」
未知なる力を見たヨアヒムは感動と興奮をしていたが、ロベルトの一言でその興奮が一気に冷めてしまった。
「連れてきました」
「幽霊だらけ!?」
透けた身体を持つ魔族が、何人も居る。
ヨアヒムは身構えると、その中に一人だけ実体のある人物を発見する。
「魔王!」
「入れたんだ?ロベルトさんが迎えに行ってくれて良かった」
「お前、ここは一体?」
混乱するヨアヒムだったが、時間が勿体無い。
僕はすぐに許可を出すと、ツィータがヨアヒムの前に移動する。
「なっ!?鳥人族の子供の幽霊?」
「どうも、四代目魔王のツィータだよ。キミの魔力を借りて、時間を創造するから。よろしくね」
「はい?ぬあっ!?」
何を言われたのか理解出来ないまま、ヨアヒムは急に魔力が消費される。
先程のロベルトと比べると、減少具合が早い。
「ちょっと、彼は何者なんだい?この魔力量、魔王に匹敵するじゃないか」
「君、そんなにあるの!?」
「俺、そんなにあるの!?」
ツィータが魔法を使いながら驚くと、他の魔王だけでなく、本人も驚いている。
「この子よりは少ないけど、多分僕や他の魔王と同等にあるんじゃないかな」
「僕よりは少ないのか・・・」
ちょっと安心してしまった。
まさかこれで魔力量が同じくらいだって言われてたら、僕のアイデンティティーが創造魔法以外に無いという事になる。
それはつまり、魔法での戦闘で押され気味だった僕は、ヨアヒムに創造魔法以外で勝てるところが無いという事に繋がる。
危なかった・・・。
「ツィータ、これで時間はどれくらいになるのだ?」
「そうですね。一分当たり一日まで延びてます。だから一時間で、二ヶ月と考えてもらえれば良いかと」
「フム、よくやった!」
ツィータは信長に褒められると、嬉しそうに笑った。
逆に他の魔王は、羨ましそうな顔をしている。
「じ、時間は有限だ!早速俺がお前に、魔法を教えてやる!」
「待って下さい。私の方が彼に教えるなら向いてますよ」
「いや、俺が教えますから」
魔王が魔王を牽制している。
おそらく信長に褒められようと、自分が教えたがっているのだろう。
誰でも良いから早くしてくれ。
「なあ、阿久野よ。彼等は一体何者なんだ?」
「あぁ、全員魔王だって。もっと言えば、歴代の魔王達だね」
「歴代の!?え、ちょっと待ってくれ。そうすると、あのチョンマゲの偉そうな御仁は、まさか・・・」
「初代魔王、織田信長ですな」
「マジで!?」
随分と興奮しているな。
しかし、その気持ちは分からなくもない。
日本人なら知らない人は居ないであろう、織田信長。
それが目の前に居るのだから、ビックリして当然だ。
「ちなみにお前を呼んで良いと許可してくれたのも、彼だよ」
「何だって!?ちょっと待てよ。確か俺の荷物の中に・・・」
ヨアヒムはバッグの中をガサガサと漁ると、突然ペンとノートを取り出した。
「信長様!サイン下さい!」




