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創造の使い道

 魔王レンジャー。

 信長レッド!

 フエンブルー!

 みたいにやるのも面白いとは思う。

 なんて言ったけど、完全なる年功序列で、チームワークもへったくれも無さそうだな。


 僕達が洞窟で出会ったのは、かつて魔王だった人達。

 しかも全員が幽霊だった。

 魔王が世襲制なのは、僕が魔王になった時に聞いている。

 信長の息子が二代目であり、そのまた息子が三代目と、代々受け継がれている。

 その大きな理由の一つが、創造魔法によるものだ。


 魔族は弱肉強食という点で、強い者がトップに立つ。

 ベティのように何度もトップを決める種族も居れば、権六のように長い期間変わらない所もある。

 その中で魔王は、少し特殊なポジションにあると思われる。

 そもそも強さだけで言ったら、僕が本気の又左や太田より確実に強いかと聞かれたら、僕は即答出来ない。

 相性の問題もあると思うけど、接近されたら弱い僕なんかは、佐藤さんに勝てる気がしない。

 近付かれる前に倒せよと思うかもしれないけど、そんな簡単な話じゃないし。

 ロベルトさんも僕と似ていて、話した印象からめちゃくちゃ強いって感じはしない。

 やはり魔王と名乗れるのは、創造魔法による点が大きいと思う。


 でもね、僕は気になる点がある。

 創造魔法と普通の魔法、違いは何なのか?

 例えば土壁は、土で壁を造るという魔法である。

 創造魔法と同じで、土が無ければ造れない。

 代わりに金属で代用する事も可能だが、結局素材が必要という事だ。


 だけどロベルトさんの話だと、少し勝手が違うらしい。

 創造魔法の入り口にしか立っていない。

 一体どういう意味なんだろう?









 創造魔法と普通の魔法の違いは何なのか?

 何かを作り出すという意味では、普通の魔法だって同じじゃないのか。

 そう考えると、魔王になる資質は誰にでもあるんじゃないのか。

 そう思っていた時もあったんだけど、ロベルトさんの言葉は僕のそんな考えを否定した事になる。



「乗り物が必要無いとは、どういう意味ですか?」


「そのままの意味だよ。自分で乗り物より早く、移動すれば良い」


「それは出来ますよ。身体強化をすればね」


 魔力の消費は激しいけど。

 僕は無理でも、兄ならトライクよりも速く走れる。

 だけどロベルトさんは、そんな僕の考えを一蹴する。



「身体強化で走れば良いと、考えていないかい?それは魔力を大量に消費するよ。長時間は保てないと思うけど」


 あら、やっぱり心の中が読まれたか。



「おいロベルト。実際にやって見せろ」


「え?私も死んでるので、無理なんですけど」


 信長がロベルトさんに指示を出すが、それは即否定された。

 だが信長は、また怒り口調でロベルトさんを叱責する。



「このうつけが!この身体はお前の物だろうが!だったらお前が動かせない道理は無い!」


「え・・・」


 この人、無茶苦茶言うなぁ。

 信長の言い分は、死体でも自分の身体なら、幽霊が操れるはずだと言ってるようなものだ。

 それって火葬や土葬の前に乗り移れば、生き返るのと一緒じゃないか。

 ロベルトさんもそれが分かってるからか、微妙な顔をしている。

 だが初代魔王である信長の言葉は、絶対だ。

 彼は渋々僕の方へ来ると、透けた身体でこの肉体に触れた。



「あ、入れる」


「何ですと!?」


「ん?キミは・・・誰?」


【おい!俺の所にこの人来たぞ!】


 なっ!?

 そういう事か!



 僕と兄は一つの身体を二人で使っている。

 魂のある場所が、以前より拡張されているのだろう。

 要は僕達がこの身体を使う事によって、外見は変わらないが中はリノベーションされたのと同じ。

 おそらくロベルトさんが居るスペースも、出来たという事だ。



「ほら、言ったではないか」


「すいません・・・」


 なんとなく謝ってしまった。

 僕が謝ったのか。

 それともロベルトさんが謝ったのか。

 どっちか分からないけど、僕達は出来ないと決めつけていたからか、信長がドヤ顔で言ってきた。



「ロベルト、創造魔法の見本を見せるのだ」


「じゃあ分かりやすく、まずは翼から」


「つ、翼!?」


 何を言ってるんだ!?



「い、痛っ!イダダダダ!!」


 背中が割れるように痛い。

 こんな痛みは初めてだ。

 痛みで涙が止まらず、前が見えない。



「はい、出来たよ。背中を触ってごらん」


「え?」


 手を後ろに回すと、確かに翼が生えている。

 ど、どういう事!?



「お前達、同じ身体で喋ってるから、一人芝居みたいで面白いぞ」


「・・・そうですか」


 この人、自分勝手だなぁ。

 その辺ではある意味、信長は魔王って言えるよ。



「創造魔法は何かを作り出す。それは何も、物だけじゃないんだよ」


「か、身体も作れると?」


「そう。本来のやり方は、回復魔法を使いながら変えていく。そうすれば痛みも無いからね」


 だったらそれをやってくれよ!

 痛くて号泣したよ!



「自分の身体を作り変えていると分かるように、さっきは敢えて回復魔法は使わなかったんだよ。だから気持ち悪いかもしれないけど、こういう事も出来る」


 お?

 背中が動いている感触はあるけど、今度は痛みを感じない。

 今度は何が出来たんだ?



「はい、これで腕が六本になった。これなら君も動かせるよ」


【俺も!?ほ、本当だ!】


 えっ!?

 全然分からないけど、肩甲骨辺りが勝手に動いている感じはする。

 これ、兄さんがやってるの?



【すげー!これ、やろうと思えばキャッチボールを二人同時に出来るぞ】



「そして残りの二本を私が動かすと、こうなる」


「うおぉぉ!!な、何か凄い!」


 六本の腕があるとか、攻守完璧じゃないか!

 いや、それだけじゃない。

 ムッちゃんが聞いたら、垂涎ものの技も出来る。

 あの悪魔超人の技だって、出来るという事だ。

 8の字はひっくり返ってもバスターが決まるはず。



「まあ君達が扱うなら、四本が限界かな。私は八本まで扱ってたけど」


「八本!?どうやって!?」


「私はね、様々な生き物を観察していた。自分で空を飛ぶ為に翼をじっくり調べたり、速く走る為に動物や魔物の足を調べた。それこそ陸だけじゃなく、海の生物もね」


 蛸か!

 蛸を参考にするって事は、もしかして・・・



「そうだよ。腕の長さだって変えられる」


「そ、創造魔法凄いな・・・」












 想像以上に奥が深かった。

 話を聞いただけで、入り口にしか立っていないと言われた意味が分かったよ。



「おいロベルト、お前だけ教えるのはズルくないか?」


「と、父さん!だって初代様からの命令だし」


「こんな事言ってますけど、皆様はどう思われますか?」


 皆様って、他の魔王全員が頷いているじゃないか!



「俺達もお前に、熱く指導してみたいぞ!」


「ちょっ!」


 ゆ、幽霊に囲まれてしまった。

 ある意味呪われたのと同意じゃないのか?



「すいませんが、外にも一人待たせているんです。それに秀吉を倒さないと、僕達に関する記憶が・・・」


「そうだ。お前、猿に何をされたのだ?」


「猿?」


「秀吉とはあの猿だろう?」


「いえ、ネズミ族ですよ」


「ネズミ?彼奴、退化したのう」


 信長は楽しそうに笑っている。

 この人だけ、僕に教える気が無さそうだな。



「それで、何をされた?」


「それが・・・」


 僕は信長を筆頭に、魔王達に事情を説明した。

 するとロベルトが、ようやく自分が何故死んだのか理解したようだ。



「アイツは魔王になる為に、私を利用したのだな」


「魔王とは、創造魔法が使える者がなる。ロベルトを殺したところで、なれないんだけどなぁ」


 他の魔王達が頷くと、何か思い出したようにドワーフのワッシャーが不思議な事を言い始めた。



「ちょっと待て。アイツはどの魔王の時代から居たのだ?」


「そういえばネズミ族の領主って、僕の時は変わらなかったような」


「俺の時は若かったぞ」


「私も若かった。しかし皆さんの秀吉と私の知っている秀吉が、同一人物である可能性はあるんですかね?」


 顔を見合わせる一同。



 領主は代々、名前を継いでいる。

 だが秀吉の場合は継いでいるのではなく、身体を乗り換えている。

 それを知らなかった彼等は、全て同一人物だったとは考えていなかったようだ。



「全部同じですよ。信長の時代からずっと同じです」


「何だと!?覚えていないぞ?」


「え?だって信長は、有能な人なら魔族でも登用したって聞いたけど。秀吉は有能だったから、領主になれたんじゃないんですか?」


「ワシは知らん」


 どういう事だ?



 信長はこの世界に来て、十年足らずで死んでいる。

 ただし天下は統一しているし、次世代の子供も残した。

 有能な人物を子供の為に残したいから、色々とスカウトしたんだと思ってたけど。



「秀吉という名は、ワシは与えていないぞ。フエン、お前はどうなのだ?」


「秀吉は俺の時代で、頭角を表した人物です。しかしその時から、秀吉は自分で名乗っていましたよ。親父殿に名前をもらったと言ってね」


「何!?」


 時代が古過ぎてよく分からなかったが、秀吉は偽りの経歴で名乗っていたみたいだな。



「それって俺達も、油断してたらロベルトみたいに殺されてたかもしれないって事?」


「いや、多分それは無いかと。憑依という魔法?術?それとも固有能力?よく知らないけど、それがあるから、何百年もかけて強くなったんじゃないかな」


「ジルバの言う通りだ。俺が秀吉を領主にした時、奴は多少魔法が使えるだけで、そこまで強く感じなかったぞ」


「なるほど。じゃあ今は、ロベルトを殺せるくらいまでは強くなったって事だね」


 妖精のテラが言うと、ロベルトは微妙な顔をして俯いた。

 これって他の魔王から、お前は弱いから死んだって言われてるようなものだしなぁ。

 ロベルトさん自体もこの創造魔法を作る為に、戦いよりも生物の観察に力を入れていた気がするし。

 あまり強い方じゃなかったのは、本当なんだろうな。



「という事はだ。コイツを殺せたくらい強いなら、お前よりも強いんじゃないのか?」


「え?」


「記憶を取り戻したところで、返り討ちに遭うんじゃないかって言ってるんだよ」


「それは・・・」


 無いとは言い切れないな。

 権六との戦いとマッツンが良い勝負をしたくらいしか、僕は知らない。

 アレが本気だったのか。

 それとも手の内を隠していたのか。

 もし後者であれば、僕は負ける可能性もある。


 考え込んでいると、信長が鶴の一声で僕の今後が決まった。







「お前はハッキリ言えば、赤の他人である。しかし魔王と称している者が、猿なんかに負けるのは気に食わない。だからお前は、此奴等に強くしてもらえ」

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