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過去の精算

 セリカをギャルから物腰の柔らかい女性へと変身させ、蘭丸とくっつける為に宴会を準備した。

 色々と画策した結果、蘭丸は彼女への興味を示し、以前とは違い好意的になった。

 作戦は成功し、二人きりの様子を覗き見していたが、大勢で覗こうとしてバレてしまった。

 自分が覗かれていれば良い気はしない。

 早々に立ち去ろうとしたところ、母の一声がその関係を急速に変えるものとなった。


「じゃあ婚約しなさい」


 当事者の二人に加えて、僕も驚きの声を上げる。

 何を言っているのかよく分からないまま、蘭丸はセリカと婚約していた。

 全ては仏の掌で踊っていた。

 僕も蘭丸もセリカも、長可さんの思うように動いていたかのように進み、気付いたら宴会は婚約の祝いの席へと変更。


 翌日にはその婚約について話し合った結果、蘭丸は僕の家にしばらく住む事になった。

 一人前にならないと婚姻しないらしい。

 蘭丸を受け入れるとも返事しないまま、僕は蘭丸を一人前にする事が決まってしまった。


 蘭丸の件が片付いたので長浜へと戻ろうとした頃、安土へ新たな来訪者がやってきた。

 それは魔族を忌み嫌うヒト族の国、ライプスブルク王国の姫だという話だった。





 王国の軍人ではないとは、なんとなく思ってはいた。

 理由は、軍人なら嫌っている魔族に、友好的には接してこないと思ったから。

 来るとしたら外務省の職員的な人かと思っていたんだけど。

 流石に大臣クラスの人が来るとは思わなかったけど、予想を反して姫が来るとはね。


「長可さんは、その姫を直接見ました?」


「はい。年は成人してかなり経っているようですね。見目麗しい、清楚な方でした」


 つーことはアラサーくらいって事かな?

 ある意味精神年齢だけなら、僕等と変わらないかも。

 姫と言われるくらいだから綺麗かと思ったけど、長可さんが綺麗って言うくらいだ。

 美人だと期待しておこう。


「それと護衛は当たり前なのですが。魔族の都市へ来たからかかなり警戒心が強かったのですが、姫は大胆というか物怖じしない性格のような印象を受けましたね」


「その理由は?」


「物珍しいのか、ラーメン等の屋台を間近で見たがり、近衛の者に止められておりました。それに加え、様々な魔族を見るのが初めてのようで、道行く魔族に話し掛けようとしようとして、これもまた止められております」


 これは本当に見学しに来ただけか?

 どちらの行動も、物珍しさに動いた結果のようにも思える。

 そもそも、よくこの安土へ来る気になったものだ。

 忌み嫌う魔族の、しかも魔王が統べるこの安土。

 他の王族は止めなかったのだろうか?


「とりあえず、来賓として扱うように。此処に来た理由も分からないし、下手に挑発するような言動は慎んでくれ。特に血の気の多い連中には」


「かしこまりました」


 長可さんが側近のような人に声を掛け、今言った事を皆に伝達するように手配している。

 こうやって見ると、僕って偉いんだなと少し実感した。


「魔王様。あまり待たせると失礼に当たるかと。それに綺麗な方を長々と待たせるのは、同性としてあまり関心しませんよ」


 それもそうだ。

 長可さんが綺麗って言うくらいだから、早く見てみたい気もする。


「急ごうか。長可さんの言う通り、待たせ過ぎて機嫌損ねるのも、良くない」



 部屋の前に着くと、中から少し声が聞こえる。

 兄さんなら聞き取れるんだろうけど、わざわざ交代して盗み聞きするのも微妙だ。

 長可さんと護衛に太田達が後ろに居る。

 僕の印象も悪くなりそうだし、素直に入る事にしよう。


「お待たせしました。こちらが今代の魔王である、阿久野真王様です」


 長可さんの紹介で、僕が入る事になっていた。

 普通にノックして入ったら、魔王っぽくないから駄目らしい。

 魔王っぽさって何だ?

 たまに言われるので気にしているのだが、全く思いつかない。

 偉そうにしていれば良いだろうと思ってはいるけど、たまに駄目出しで、それは馬鹿のする事ですと言われる事もある。

 だから下手に偉そうにすると、馬鹿っぽく見えるので、結局は周りの言いなりで魔王っぽくやっているのだ。


「わざわじゃご苦労だった」


 上から目線の言葉で、姫達を労う。

 ただ、言い慣れないので噛んでしまった。

 そもそもご苦労なんて言葉、一般人なら使わないし。

 普通なら、お疲れさまとかって言い方だろう。

 部下が居るわけでもあるまいし、そんな事言わないから。

 って、今は部下だらけなんでした。

 言葉使いも直さないといけないんだろうな。


「お初にお目にかかります。ワタクシ、ライプスブルク王国第三王女、キルシェブリューテ・ツー・ライプスブルクと申します。キルシェとお呼びください」


「分かった。僕の事はマオでいい」


 代表者として名乗ったその女性は、長可さんが言う通り綺麗な人だった。

 むしろ綺麗というよりは、可愛いと言った方がしっくりくる。

 話し方もおっとりしていて、世間知らずな可愛い系王女が僕の第一印象だ。

 それよりも気になる事がある。


「それで、ちょっと確認していいか?」


「何でしょう?」


「後ろの護衛の一人、お前会った事あるよな?」


 そう。

 訪問者の一人に、小人族を蹂躙した時の大将が居たのだ。

 顔を隠しもせずに、堂々としている。

 少しは気まずいとか思ったりしないのだろうか?


「あの時の男は死にました。今の私は、キルシェ様の為だけに生きる男」


 いや、お前がやった事に変わりはないから!

 何がキルシェ様の為だけに生きる男だ。


「申し訳ありません。彼はあの時の失態で、死罪になっております。此処に居るのはコモノという別の男という事で、納得していただけないでしょうか?」


 死罪?

 あの時は、かなりの人数を倒したからな。

 結果も出せずにおめおめと帰還した結果、死罪になりかけたところを王女に助けられたって感じかな。


「それは僕が決める事じゃないな。小人族に言うべきだ」


 汗をかき始めるコモノと名乗る男。

 小人族という言葉に反応したのが明白だった。


「分かっております。私はあの時に死んだ男。此処で死んでも変わりはない」


「そうか。そこまで言うなら聞こうじゃないか。太田!」


 小人族を呼びに行かせ、代表者であるスイフトだけがやって来た。

 他の者は、あの出来事がトラウマになっていて、顔を見てフラッシュバックするのが恐怖となっているらしい。

 それだけの事をこの男はやっている。

 そう簡単に自分は一度死んだから許せなど、言える立場に無いのだ。



「失礼します」


 入ってきたスイフトの顔は、緊張で汗がびっしょりだった。

 その緊張というのも、魔王である僕や長可さんといったお偉いさんに会うからではない。

 やはり目の前のこの男、コモノの顔を見ているからだ。


「この男はな、一度死んだ身らしい。だから此処で死んでも仕方がないと思っている。スイフト、キミの考えを教えてもらいたい」


「あの、この際ハッキリと言わせてもらっても、よろしいのでしょうか?」


「むしろその為に来てもらってるから」


 汗を拭い深呼吸をした後、覚悟を決めた目でコモノを睨みつけた。


「許せるわけないでしょう!ただ静かに暮らしていただけなのに、何の意味も無く殺される身になってみればいい!何故、私一人だけが此処に来たか分かるか?他の者は未だに恐れているからだよ。お前達からされた事が頭から離れず、目を閉じるとふと思い出し、泣き叫ぶ者も居る」


「・・・すまない」


「何故、魔王様がお前達を帰したのか。私はまだ納得出来ていません。あの場で同じように殺してくれたら、そう思わずにいられないのです」


 僕も静かに聞いていたが、あの時にそんな事を思っていたなんて。

 言いたくても、言い出せなかったのだろう。


「コイツが死ねば皆が生き返るなら、喜んで殺しますよ。でもそういうわけじゃない」


「すまない」


「分かっているのです。この世は所詮、弱肉強食。弱い種族は搾取されるだけの存在だという事を」


「それは違う!」


 思わず叫んでしまった。

 でもそんな事は、元々日本人の僕からしたら納得出来ない。

 力が無いから搾取されるだけ?

 そんな世紀末みたいな世界は、何も面白くないじゃないか!


「力だけが優遇されるなら、僕はお前の事なんか見捨ててただろう。でもお前は、僕の人形を完成させてくれただろ?力が無くても出来る事は、沢山あるんだよ。自分で自分の可能性を卑下しちゃ駄目だ」


「魔王様・・・」


「それに、その考え方をしていたのは僕だけじゃないはずだ」


「初代魔王、織田信長様ですね」


 僕の考えを読んだのか。

 それに答えたのは意外にも、王国の王女キルシェだった。


「僕は別に弱肉強食を否定はしないよ。そりゃ強い方が色々と便利だろうし。でも力が無くても役には立つ。力のある者は、守る代わりに自分が出来ない事をそういう者達に頼むとかどんな方法でもやり用はあるよね」


「適材適所ですね」


「王女はその辺分かってるね」


 何故か王女と、意気投合したような感じになった。

 初対面なのだが、考え方が似ているのか?

 それを考えるのは後でもいい。

 まずはこっちだ。


「魔族は弱肉強食の世界です。私達が狙われる立場なのは分かっております。でも、魔王様のような方がいらっしゃる限り、私達は誇りを胸に生きていけます」


 そんな事を言われると、ちょっと恥ずかしい。

 でも、小人族が役立たずなんて言わせない。

 今でもスイフトが完成させた人形は、バッグの中に入っている。

 いつでも僕があの人形に移る事が出来るのは、間違いなくスイフト達のおかげなのだから。


「それでも私達は、この男を許す事は一生無いでしょう。だから!」


 拳を振り上げたスイフトは、コモノの頬目掛けて殴った。

 その強さはとてもひ弱で、おそらく子供が殴るのと同じくらいだと思う。


「私が今まで受けたどんな剣撃や魔法よりも、痛いです」


「その痛みを忘れないでください。私達にした事を忘れないでください。過去を精算したなんて言わないでください。貴方がした事は、それだけの重さがあるのですから」


「本当に申し訳ありませんでした。その言葉を胸に刻み、これからを生きていきたいと思います」


 納得は出来ないと思う。

 家族を仲間を友達を、そんな人達を殺した相手なんだから。

 それでも前に進む為に、こういう選択を取ったスイフトは弱いなんて思えないけどね。


「場の雰囲気が重くなってしまって、申し訳ない。しかし、これはケジメなので。あのような言い方をされたら、僕は黙っていられなかったんだ」


「いえ。魔王様の仰る通りです。ワタクシも王国民が同じような事態に遭ったなら、黙ってはいられなかったと思います」


「そう思ってくれるなら助かるよ。でも此方から振っておいてなんだけど、流石にこの雰囲気の中ではお互いに話しづらいだろう。明朝、仕切り直して続きをやらないか?」


「それがよろしいかと」


 長可さんも向こうの家臣団も納得してくれた。

 あのまま話を続けても、お互いに気まずいだけだ。

 言いたい事も言えないまま終わるかもしれないし、それならリセットして一からやり直した方が良い。






 翌日、朝から同じ会議室へと同じ面子で集まった。

 小人族との一件は、何とか終わった。

 これからは、過去から未来の話をしようと思う。


「まず王女殿下。貴方がこの安土へ訪れた真意を聞きたい」


「真意でございますか?」


 とぼけたような喋り方をしているが、昨日の話に参加してきた様子から、地頭は悪くない。

 間違いなく誤魔化している。


「そもそも魔族を嫌う王国の王族が、わざわざ魔族が集まっている場所へと足を運ぶ事自体がおかしい。警戒して遠巻きに偵察しているだけなら分かる。だけど貴方は、僕への謁見を求めた。それには意味があるはずだと考えるのは、当たり前じゃない?」


「そうですか?そうですね。確かに父や兄達は、明らかに貴方に敵意を持っています。でもワタクシはそんな事ありませんよ?」


「それはどうも」


 やっぱりはぐらかしている気がする。

 どうにも話が進まないな。


 ん?

 何か久しぶりに聞く音がする。

 何処からだ?


【お前のバッグだよ。スマホだろ】


 そうだ!

 久しく聞いてなかったから、忘れてたよ。

 どうせ電話かけてくるのなんて、神様だけだし。

 神様!?


「申し訳ない。ちょっと待っててね」


「誰からの電話ですか?」


「神様ですね」


 ん?

 え!?


「何で電話を知っている!」





「早く出た方が良いですよ?」

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