表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1029/1299

魔王

 前魔王、ロベルト。

 どうしてこんな所に居るんだろう?


 僕達が招き猫を追って入った洞窟で、ロベルトという幽霊に出会った。

 前魔王だと言っていたが、僕と兄と神様しか知らない秘密を知っていた。

 その時点で彼が本物だと、疑いようは無かった。


 でも彼と出会って思った。

 意外とやさ男。

 魔王というからには、もっと筋肉質でめちゃくちゃ強そうだと思っていた。

 真面目な話、脳筋だと思ってたんだよね。

 僕達が初めに聞いた魔王は、又左の父親達を引き連れて、ヨアヒムに負けた人物。

 そして領主達から信用を得られなかった愚物。

 魔族だからと力押しでヒト族に挑み、敗死した残念な男。

 それが僕の印象だった。

 それがどうだろう?

 実際の彼は、話が通じるマトモな人物じゃないか。

 脳筋とは程遠く、身体も筋肉質じゃない。

 神様の所で見た身体よりも、細く見える。

 又左から聞いていた話とは違うが、エクスの友人だと言っていた魔王とはマッチしている。

 この事から、やっぱり彼は秀吉に何かをされたんだというのは確実だと分かった。


 でも彼の印象は、もう一つあった。

 少し僕と似ている。

 そしてちょっとだけ、パシリっぽさが見える。

 魔王じゃなかったら、あだ名はノッポで、焼きそばパン買ってこいよとか言われていそうな気がする。

 この世界に焼きそばパン無かったけど。


 彼とは親近感がある。

 出来ればもう少し深く話をしたいな。









 何人か居る。

 それで僕を待ち受けている。

 これがもし学校だったら、僕は間違いなく逃げてるね。

 だって何人か待ってるからって、呼び出しされてるわけでしょ?

 絶対カツアゲだもん。


 しかし今回は、招き猫が僕達をここに導いた。

 だからカツアゲは無いと言い切れる。

 まあ冗談はさておき、何人かで待ってるというのが気になるな。



「何人待ってるか。それも教えてもらえないんですか?」


「そうだね。私を含めて八人かな」


 結構多いな。


 それにしても、幽霊と一緒に居るからか、空気が更に重くなった気がする。

 他にも幽霊が居るんじゃないかと、ふとしたタイミングで後ろを振り返るけど、やっぱり誰も居ない。



「もうすぐ着くよ」


「アレ?ヘッドライトが」


 トライクの故障か?

 明かりが消えてしまい、真っ暗になってしまった。

 これはかなり怖い。

 消える前に見た感じ、障害物は何も無かったから徐行して進んでいるが、本当にこっちで合っているのだろうか?



「ロベルトさん。ロベルトさん?」


 返事が無くなった。

 真っ暗な中、僕の声しか聞こえない。

 もしかして、化かされた?



【このまま進むか?】


 どうしよう。

 これは困ったぞ。

 話をしていたのは事実だ。

 僕達二人が同じ夢を見ていれば別だが、今までの会話が夢だとは思えない。

 兄さんはどっちが良いと思う?



【俺なら引き返す。道案内って言っておいて、その役目を放棄してるんだ。付き合う必要は無い!そして怖い!】


 うむ。

 後者は同じ意見だ。

 よし、帰ろう!



 僕はトライクのハンドルを目一杯曲げようとすると、突然妙な音が聞こえてきた。



「鼓の音?」


 徐々にリズムが早くなってくる音。

 すると前方の左右から、光が照らされた。



「だ、誰!?」


 スポットライトのように光が交差する先には、誰かの後ろ姿があった。

 ゆっくりと振り返ると、それが手で顔を隠した老人だと分かった。



「魔王様の、おな〜り〜!」


「魔王!?」


 老人ではない誰かの声が、光の先から聞こえる。

 声と共に顔を見せる着物姿の老人。

 堂々とした姿を見る限り、この人も魔王なのだと分かる。



「誰!?」


 僕が尋ねると、老人はずっこける。



「知らんのか!」


「知らないよ!」


「おい!」


 老人がキレ気味に誰かを呼ぶと、すぐに左右から二人やって来る。

 後ろを向いてコソコソと話し始めた。



 僕は改めて、彼等を観察した。

 まず三人に共通しているのは、身体が少し透けている事から幽霊だという事だ。

 そして中央の老人だが、短い白髪で体格は大きくない。

 満を持して登場したのだから、この人が魔王なんだと思われる。

 だけど不思議な点がある。

 この人、おそらく強くないと思うんだよね。

 太田みたいに暴走して強くなる可能性は否定出来ないが、見た感じヒト族なんだよなぁ。


 それに対して左右の二人。

 こっちは雰囲気的に強そうだ。

 左は獣人族で、右はエルフ。

 三人とも幽霊だからか、魔力や気配といったものは感じない。

 でもこの二人に関しては、僕の中の何かが強いと感じていた。



 三人は相談を終えたのか、またこちらへ振り返った。



「ワシが織田信長である!」


「・・・え?」










 聞き間違いかな?

 この爺さんが織田信長?



「本物?信じられないんだけど」


「この痴れ者が!」


 うわっ!

 怒ると迫力はあるな。

 昭和のカミナリ爺さんって言われるなら、分からんでもない。



「織田信長って言われてもね。僕が知ってる織田信長は、月代にチョンマゲなんだよ」


「あぁ、なるほど。この姿だな?」


 僕が信用出来ないと言うと、老人は突然着物を脱いだ。

 すると脱いだはずの服はいつの間にか着替えたのか、別の服になっている。

 そして月代にチョンマゲの姿に変わっていて、気付けば老人から三十代くらいまで若返っていた。



「どうだ?」


「そんな感じですね。まあ織田信長本人を見た事無いから、本人か分からないけど」


「貴様、叩き斬るぞ!」


「おぉ!信長っぽい」


「へっぽこ丸、斬ってしまえ!」


 へっぽこ丸?

 隣のガタイの良い獣人が、恥ずかしそうに顔を背けてから怒っている。



「親父殿!俺はもう元服して、全然違う名前だっつーの!」


「知るか!ワシはお前が子供の時に死んどるんだ。だからお前はへっぽこ丸だ!」


「もう!」


 獣人が地団駄を踏んでいる。

 隣のエルフは見ないフリをしていた。



「もしかして、幼名がへっぽこ丸?」


「そ、そうだ」


「この人が付けたの?」


「そうだ」


「織田信長だと信じましょう」


「何故!?」


 この人は織田信長だ。

 織田信長は、子供に変な名前を付ける。



「九男は?」


「人だな」


「はい、織田信長!」


 本物だね。

 もう名前を付けるのが面倒になったのか、九男には人って名前だったのを覚えてる。

 現代ならこの九男、グレても文句言えないですよ。

 ガッツポーズしてるけど、子供の名前で信じてもらえるとかどうなのよ。



 ん?

 ちょっと待て。



「獣人の方、信長の子供って事は・・・魔王?」


「そうだ。俺は魔王フエン」


「そして私が魔王ジルバ」


「この人も?」


 エルフまで魔王なの!?

 僕が混乱していると、周囲が急に明るくなった。



「阿久野くん」


「ロベルトさん?」


 居たのか。

 というか、ライト照らしてたのって、この人なのね。



「もしかして、向こうの人も魔王?」


「アレ、私の父です」


「父親!?」


「どうも、カーリスです」


 軽く頭を下げてくるおじさん。

 僕はロベルトさんとおじさんを見比べると、確かにちょっと似ていた。

 この二人はダークエルフなんだな。


 そういえば、八人居るって言ってたような?



「もしかして、まだ居る?」


「今代の魔王。僕はテラ」


「もしかして妖精族?」


「俺はワッシャー」


「ドワーフまで!?この二人も魔王?」


 鼓を叩いていたのは、この二人のようだ。


 ここまでで七人。

 まだ一人残ってるんだけど。



「ロベルトさん。八人目は?」


「さっきからここに居るよ」


 上を見るロベルトさんに釣られて、僕も上を向いた。



「バァ!」


「うわぁ!」


「ハッハッハ!上手くいったぞ」


「このガキ!・・・ガキ?」


 僕の真上で逆さまに浮いているのは、鳥人族の子供。

 鳥人族だから飛んでいるというより、幽霊だから浮いているんだろう。

 その証拠に、翼は全く動いていない。



「俺はツィータ。よろしくな」


 名乗った子供が、信長の方に飛んでいく。


 全員が信長の横に並ぶと、信長がわざとらしく大きな咳をした。



「ウオッホン!ワシ等が魔王だ」








 こういう意味だったか。

 魔王が一人じゃない。

 これは確かにその通りだけど、予想の斜め上を行っていた。

 ただし、僕が彼等に呼ばれた理由は何だ?

 招き猫は、僕と信長を合わせたかった?



「それで魔王レンジャーの皆さんは、僕に何の用ですか?」


「魔王レンジャー!?何だそれは?」


「魔王が沢山居るから、魔王レンジャーです」


「なるほど。分からん。ロベルト」


「はい!ご先祖様!」


 ワッシャーから名前を呼ばれると、直立不動で返事をするロベルト。

 何かを察したのか、ロベルトさんが僕に近付いてくる。



「詳しく説明してもらえるかな?」


 あぁ、そういう感じ。



 魔王の中でも、年功序列があるらしい。

 それもそのはず、一つ上の代は親なのだ。

 という事は、その上は祖父や曽祖父に当たる。

 信長に至っては、伝説の魔王扱いだろう。



「というわけです」


「へぇ、揃ったら皆で必殺技か。全員生きてたら、本当にやってたかもね」


「それよりも聞きたい事があるんですけど」


「何かな?」


「僕は何故、ここに呼ばれたんでしょうか?」


 招き猫は滅多に姿を現さない。

 それが出てきたという事は、かなり重要な出会いであると僕は推測しているんだが。



「ちょっと待ってね」


 ロベルトさんは小走りで信長の下へ向かった。

 魔王レンジャーの話をしているのか、バズーカを撃つ仕草をしている。

 面白かったのか、ちょっと嬉しそうな顔を見せる信長。

 そして本題の質問に差し掛かると、ロベルトさんは微妙な顔をして首を傾げていた。

 信長がこちらを見ると、僕に手招きをしている。



「何ですか?」


「さっきの質問だがな、特に意味は無い」


「はい?意味は無い?」


「強いて言えば、ロベルトの身体を使っている輩の顔を、見てみたかった」


 な、何だそりゃあぁぁ!!

 今一刻も早く秀吉の魔法をどうにかしないといけないって時に、そんな理由で呼ばれた!?

 ふざけてるにも程がある!



「だったらもう、用事は終わりましたね。僕は先を急ぐから」


「おいおい、もう少しゆっくりしていけよ」


「初代様しか喋ってないじゃないか。俺達とも話していけよ」


 この人達は・・・。

 遊びで来てるんじゃないんだよ!



「悪いけど、急いでるから。秀吉の魔法をどうにかしないといけないんで」


「秀吉?」


 その言葉を聞いた信長の顔色が、曇り始めた。

 信長はロベルトさんを見ると、彼は頷いた。



「待て。詳しい話を聞かせろ」


「だから、急いでるんで。また今度でお願いします」


「貴様、ロベルトを負かした相手に、普通に戦って勝てると思っているのか?」


「・・・え?」


 信長はさっきまでの雰囲気とは全く違う、魔王と呼ばれるに相応しい顔をしていた。



「お前、創造魔法は使えるのか?」


「使えます」


「真か?」


「だから本当だって!」


 疑うような言葉に苛立って、声が大きくなってしまった。

 するとロベルトさんが、僕に向かって優しく問い掛けてきた。









「阿久野くん、君はまだ創造魔法の入口しか理解していない。本当の創造魔法を知っていたら、乗り物なんか必要無いからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ