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オバケ

 吸血鬼。

 多分僕が知る中では、一番頼りになり、そして厄介な種族だ。


 ヴラッドさんは、秀吉達と権六達の戦いを見ていたらしい。

 彼が僕達に手を貸してくれたのは、あくまでもヒト族という共通の敵が居たから。

 だから今回はどちらにも肩入れせずに、見守るだけに徹していたようだ。

 でもそれは、ある意味助かったと言えなくもない。

 もし秀吉が吸血鬼達の強さを目にしたら、確実に仲間に引き入れている。

 下手をすれば空に浮かぶ僕に関する記憶の封印ではなく、それこそ洗脳という手を使ってでも、仲間にしようと躍起になりそうだ。

 陽の光に弱いという弱点があるが、だったら夜戦専門にすれば良い。

 こちらとしては夜に休む事も出来ない事で、疲労とストレスが増していっただろう。

 そう考えると、やっぱり彼等はこの戦いに関与するべきじゃない。


 ただし、直接戦闘に参加せずとも、手を貸してくれるくらいは良いと思う。

 それがギュンターの保護だ。

 秀吉にその存在を知られるのは怖いけど、戦場にやって来なければ問題無いと、僕は思っている。

 彼等の住む場所は、帝国と越前国の間に近い。

 秀吉からしたら仮想敵国である帝国と、権六を消して恨まれているのが分かりきった越前国に、わざわざ近付くとは思えない。

 だから間接的に手伝ってもらうくらいなら、大丈夫じゃないかなと思う。


 ヴラッドさんは様子を見てきたと言っていた。

 その感想を聞いていないが、手を貸さないと言ったのは秀吉が危険だと感じたからかもしれない。

 強いけど人数が少ない吸血鬼。

 やっぱり彼等には、トマト作りに精を出してもらってた方が、僕も嬉しいかな。









 ヨアヒムは透明な壁越しに、待っていると言った。

 どうやら通る事は出来ないが、声は届くようだ。

 彼が来れないとなると、トライクを僕が運転するのは危険かもしれない。



「悪いけど、ちょっと待っててくれ」


「何か食べ物だけは、残しておいてくれると助かるんだが」


 そういえば、ギュンターのせいで何も食べてなかったな。

 何故ならあの男の胃液の臭いと吐く姿を見ていて、食欲が全く湧かなかったからだ。

 しかしジェネラルゲロと別れた後は、今になって腹が減ってきている。



「肉焼いて食べててよ」


「分かった。中の話、楽しみにしているぞ」


 ヨアヒムに肉と調味料を渡した僕は、中へと入っていった。










 暗いな。

 しかも空気は重いし。

 俺こんな所で一人なの、嫌なんだけど。


(うるさいなぁ。何かあったら僕じゃ、対応出来ないでしょ)



 お前でも大丈夫だよ。

 何か居るって気配はしないから。


(油断大敵だよ。ほら、前見て進んで)



 俺は弟の策略により、洞窟の中をトライクでゆっくりと進んでいた。

 しかも一人で。

 もう一度言おう。

 一人で進んでいる。

 ハッキリ言って、物凄く怖い。


 何が怖いって、空気が重いんだよ。

 明らかに、何か出ますって雰囲気なのだ。

 霊感なんか無い俺でも分かる。

 ここはヤバイ。

 絶対に幽霊が出る場所だ。

 何が楽しくて、心霊スポットに一人で行かなきゃならんのだ。



(一人じゃないでしょ。僕も居るんだから)


 それはお前の理屈!

 実際には一人だろうが。



(分かったよ。だったら僕が、人形に入れば良いんでしょ?)


 それなら助かる!

 ほら、心の中で喋ってるのと違って、誰かと一緒だって感じられるし。



(オバケが怖いとか、子供かよ。・・・ん?アレ?)


 どうした?



(身体から出られない。何故だ?)


 は?

 ちょっと待て。

 人形には魂の欠片もある。


 え?

 え!?

 心霊現象!?



「うわー!うわー!」


 俺は思わず、アクセルを回した。

 トライクの明かりが、小さくなった気がする。

 スピードが上がり、視野が狭くなったからだ。

 でも大丈夫。

 周りが見えなくなるのが狙いだから。

 何か居たら、俺発狂しそうだから。



(ちょっ!危ない!そんなスピードで真っ暗な洞窟は、曲がれないだろ!)


 うっさい!

 だったら自分で運転しろ!



 危険な場所になった途端に、俺と代わりやがって。

 べ、別にオバケが怖いとかそういうんじゃない。

 一人なのが心細いというか、何か見たら怖いというか。



「バァ!!」


「え?」


 ちょっと待て。

 今何かが居た。

 高速で通り過ぎたから確認出来なかったけど、もしかして・・・。



「うわー!うわー!こえぇぇぇ!!」


「待てぇ待てぇ」


「うわー!変な声が聞こえるぅぅぅ!!」


 ヤバイヤバイ!

 俺は何も見てない。

 何も聞こえない。



(僕も聞こえた!ヤバイよ!もっと飛ばして!)


 分かってる!


 俺はフルスロットルにすると、声が遠のいていく。



「待てぇ!待てぇ!ちょ、待って。本当に待って!」


 声が追い掛けてきている。

 俺を呪い殺すつもりか!

 絶対に、絶対に俺の右手は緩めないぞ!



「待てって!待てって言ってんだろ!いやもう待って下さい!」


 何だ、このオバケ。

 キレたと思ったら、頼み込んできた。



(少しスピード緩める?)


 うーん。

 怖いけど、ちょっとだけスピード落とそうか。



 俺はアクセルを半分くらい戻してみた。

 顔が怖かったらすぐに全開にするつもりだけど、何というか怖いもの見たさ?

 最後の言葉で、ちょっとだけ親近感が湧いたし、興味が出てきてしまった。



「ま、待って。あ、居た」


 誰かが追い掛けてきたのが分かる。

 俺達がスピードを落としたのが分かると、嬉しそうな声だった。

 コレ、本当にオバケなのか?



「ハァ、やっと追いついた」


 俺は振り返ったが、トライクの後ろにはブレーキランプしかない。

 暗くて何も見えないので、本当にオバケなのか分からなかった。



「お前!待てと言ったら待てよ!」


 キレてきた!

 せっかくスピード落としてやったのに、怒ってきやがった。



「お前、誰だよ!顔を見せろ!」


 俺は後ろを見ながら言うと、声が聞こえなくなった。

 アレ?

 もしかして、本当に幽霊?



(・・・居ないね)


 ど、どうしようか?



(僕達を化かしに来ただけかもしれない。居なくなったなら関わらなくても良いと思うし、先へ進もうか)


 お前がそう言うなら、無視するのもアリだな。

 俺はアクセルを握ろうと、前を向いた。



「バァ!」


「うわあぁぁぁぁ!!!」









 黒い顔の男が、俺の目の前に居た。

 俺は全力でその男にパンチをしようとしたが、当たった感触は無い。

 やっぱりオバケだ!



「うおあぁぁぁ!!」

(うおあぁぁぁ!!)


「ハッハッハ!やっと驚いてくれたな」


「オバケだあぁぁ!!」

(幽霊だあぁぁ!!)


 怖ー!!

 おい、幽霊って魔法効くのか!?



(知るか!)


 使えない!

 この弟使えない!



「さて、本題に入ろう」


「オバケえぇぇ!!」


「うるっさいな!!」


「イテッ!な、殴られた!?ポルターガイスト?」


 幽霊に殴られるとか、初めての経験だ。

 思わず幽霊の顔を見ると、俺は何故か眉にシワが寄った。



「ん?この顔、何処かで見た事あるぞ」


「やっと落ち着いたか」


「えーと、どちら様ですか?」


 俺の記憶だと、見た事はある。

 だけど会った事があるかと聞かれたら、首を傾げる気がする。



「オホン!やっと会話が出来るな。私の名はロベルト。かつて魔王と呼ばれた男だ」










 魔王?

 またヨアヒムみたいな奴が現れたな。



「はいはい。それで自称魔王様が、俺に何の用があるのかな?」


「誰が自称だ!私の身体を使っておいて!自称魔王はお前だろうが!」


「えっ?」


 この人、どうして俺達の秘密を知ってるんだ!?



(ちょ、ちょっと待って!周囲に敵意は感じないよね?)


 それは無いな。

 この人からも、攻撃してくる気配は感じない。



(だったら僕が話すよ)







「はじめまして、ロベルト・・・さん?それとも、魔王様と呼んだ方が良いのかな?」


「いや、ロベルトで良い。魔王は私だけじゃないからね」


「魔王が貴方だけじゃない?」


 どういう意味だ?

 魔王って、何人も居るものなの?



「魔王は一人しか居ないから、安心したまえ。今代の魔王は、一応キミ・・・えーと名前を聞いても良いかな?」


「あ、阿久野です」


「阿久野くんね。今はキミが魔王だよ」


 話してみると、かなり穏やかな感じだ。

 それにしても、どうして僕が魔王の事を考えていたのが分かったんだろう?



「私が阿久野くんの考えを読めているのが、気になるかい?」


「はい」


「心が読めてるんじゃなくて、表情からそんな気がしているんだよ。元々私の身体だからね」


 そういうものなのかな?

 まあ本人が言うんだったら、そうなんだろう。



「それで、今代の魔王が僕だというのは?」


「それは簡単さ。創造魔法を使ってるから」


 あぁ、そういえばそうだった。

 って、目の前で使ってないのに、どうして分かるんだ!?



「分かるよ。その身体には、私の魔力が混ざってるしね」


「そ、そうですよね」


 忘れていたが、この身体には元々かなりの魔力があった。

 本人の魔力だったら、すぐに分かるのも当然だ。



「それで、ロベルトさんは何しに出てきたんですか?」


「そうだった!私はね、道を案内する為に来たんだ」


「道?洞窟の先に、何かあるんですか?」


「その通り。道案内をするのは、下っ端の役目ってね」


 魔王が下っ端?

 もしかして、大魔王とか裏ボス的な存在が居るのか?


 この人からは敵意を感じないけど、もしかして裏ボスといきなり決戦になるとか。

 秀吉の件も片付いていないのに、それだけは避けたい。



「そんな固い表情をしないで。別に取って食おうってわけじゃないから。阿久野くんを害するつもりは無いよ」


「そ、そうですか」


 顔から読まれるって言うのは、本当みたいだ。

 兄にも読まれなかったのに、心が読まれているみたいでちょっと気持ち悪い。



「トライクに乗って下さい。そっちの方が早いですから」


「それは無理なんだよねぇ。私、死んでるから」


「うわっ!」


 ロベルトさんが指を下に向けると、そこには足が無かった。

 ほ、本当に幽霊だったのか・・・。



「幽霊だと分かった割には、怖がっていないね」


「いや、普通に会話が出来てるので。足が無いくらいなら、別に問題無いかなと」


 足が付いてなくても、あんなの飾りだと言う人も居るくらいだし。

 意思疎通が出来るなら、生きていようが死んでいようが、そこまで問題じゃない。



「それじゃ、案内お願いします。ところで、その先には誰が居るんです?」


「気になる?」


「そりゃ気になりますよ」


 だって魔王に道案内させるんだもの。

 自分を下っ端だと言うくらいだし、この先にはとんでもない人が居そうだからね。

 心構えくらいはしておきたい。









「そうだねぇ。実はまだ内緒なんだ。それを言うと、私が怒られるから。一つだけ言えるのは、一人じゃなくて複数人が待ってるよ。あとは行ってからのお楽しみだね」

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