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禁足地

 あんまり見た事無かったな。

 バイクで乗り物酔いをする人に。


 僕達は光の先にある、北東の地へと向かっていた。

 同行者はヨアヒムとギュンター。

 帝都から北東というと、そこまで遠くはない。

 あわよくば一番最初に、クリスタルをどうにか出来るとまで思ったくらいだ。

 魔王として一番最初に解除しよう。

 そう焦った結果が、ギュンターの乗り物酔いである。


 運転中、肩を強く叩かれた僕は振り返ると、吐くという二文字を耳にした。

 それを聞いて危機を感じた僕はすぐに止まると、ギュンターは飛び降りながら口からスプラッシュした。

 まさかあそこまで余裕が無いとは。

 もう少し遅かったら僕は、頭から酸っぱいもんじゃを被っていたと思う。

 想像しただけで震えが止まらない出来事だった。

 僕も想像して顔を青くしていると、他人事であるヨアヒムは笑いを堪えていたけどね。

 だから二列目と三列目を交代させようとしたのだが、断固拒否されてしまった。


 その後、少しはペースを落としたのだが、やはり一度苦手意識を持ってしまったからか、ギュンターは事あるごとに吐き気を催すようになってしまったのだ。

 その結果が、この遅延である。

 空を見上げると、帝都を出た時より少し薄くなっていた。

 既にクリスタルを解除したという事だ。

 まだ到着すらしていない僕は、かなり焦りを感じていた。

 だが急ぐと、ギュンター改めジェネラルゲロがスプラッシュする。

 急ぐに急げない僕達は、凄くもどかしい気持ちを持っていた。

 それが今の状況にある。

 だから僕とヨアヒムは、ギュンターを置いていこうと決めたのだ。


 普通は風が顔に当たったりすると、あまり酔わないと言われている。

 外に居ると、車内に居るという閉塞感や臭いがしないからだとか聞いた事がある。

 それに運転している人は、自分で操作している感覚があるからか、三半規管等も加速したり曲がったりといった準備が出来ているから、酔いづらいらしい。

 だから後ろの人は多少は酔うとは聞いたけど、それにしてもこんなに苦手意識を持たれるとは。


 でも、こうも考えられそうだ。

 ヨアヒムはトライクを、戦力として欲しがっていた。

 正気を取り戻したヨアヒムが敵に戻るとは思いたくないけど、秀吉の策を省みる限り、それもあり得なくはない。

 だがジェネラルゲロのおかげで、多分トライクの輸出はされないだろう。

 もしヨアヒムが強行しそうになっても、彼なら止めてくれるはず。

 頑張れゲロ!

 ヨアヒムに立ち向かえるのはキミだけだ!

 でも僕の後ろで吐き気を催したら、もっと早く言ってほしい。

 ちょっと怖いから。










 うん?

 この感じだと、ヴラッドさんは問題無い?



「だから、彼は何者なのだ?」


「あ、あぁ、ゴメンゴメン。彼はヴラッド・レイ。越前国より北の方にある村の、村長さんだ」


「ヴラッドです」


「ヨアヒムだ」


 握手を交わす二人。


 僕は彼が吸血鬼という点をまだ説明していないのだが、今それを言うべきか、迷っている。

 吸血鬼は安土傘下ではなく、どの領主にも従っていない。

 僕達に協力をしてくれたのだが、他の領主達と違い傘下に入ったわけでもなく魔王を慕っているという感じでもない。

 要は、友人関係に近い。

 そんな彼等は、関ヶ原の戦いを含め帝国軍と戦った際、かなり凄惨な事をしていた。

 虐殺と言っても過言ではないレベルの戦場だったのだが、ハッキリ言えば帝国からしたら、とんでもない極悪人に見えてもおかしくない。



「セニョールヨアヒム。彼は相当弱っていますね」


「ヴラッド殿、頼めるか?」


「任せておいて下さい。乗り物には乗せず、私達が運びますよ」


「え?」


 ヴラッドさんが何か合図を出すと、突然大量のコウモリが集まり出した。

 そのコウモリがギュンターの周囲に集まると、ギュンターはコウモリに運ばれていく。



「陛下ー!!」


「なっ!?」


「大丈夫。落ちませんから」


「ち、違う!そうじゃない!」


 慌てるギュンターだが、ヨアヒムの興味は既に彼に無い。


 バレたかな?

 ヨアヒムは冷や汗を流しながら、ヴラッドさんの方を見ている。

 多分、ヴラッドさんが何者か勘付いたんだろう。

 しかしギュンターがあんな状況だというのに、声も掛けないまま運ばれていってしまった。

 ちょっと可哀想な気もする。



「そ、それにしてもヴラッド村長!僕を見ても、何とも思わないんですか?」


 僕はわざと大きな声で、話をぶった斬った。



「何ともとは?」


「気持ち悪いとか、嫌悪感とか」


「そんなの思いませんよ!」


 嘘を吐いている感じはしない。

 もしかして、ヴラッドさんって・・・。



「ヴラッド村長って、木下秀吉って人物に会った事ありますか?」


「知らないですね。どちら様ですか?」


 イエス!

 これはかなり大きいぞ。

 吸血鬼が敵に回っていたら、現状で対抗出来る軍は存在しない。

 それこそ僕とヨアヒム、ムッちゃんの三人で全員を相手にしないと、勝てなかったと思う。

 会った事が無いというのは、僥倖だった。



「吸血鬼」


 ギクッ!

 やはりバレてしまったか。

 帝国兵の仇だし、ヨアヒムは身構えるかな。



「ま、まあまあ!落ち着こうよ、ヨアヒムくん」


「俺は落ち着いている。だから彼を害そうなどと思っていない」


「そうなの?」


 両手を挙げて何もしないと証明するヨアヒム。

 僕はホッと胸を撫で下ろすと、彼はヴラッドさんに言った。



「ヴラッド殿、俺達と一緒に来てもらえないか?」


「何処へですか?」


「ここから北東。光の終着点だ」


「・・・申し訳ありませんが、お断りします」


 ヨアヒムは残念そうにした。

 ギュンターが飛んでいった時よりも、残念そうだ。

 まあ戦力と考えるなら、彼ほど強力な助っ人は居なかったんだけどね。



「そうか。理由を聞いても?」


「西の地で争いがありましたよね?ヒト族と魔族が争っているならいざ知らず、魔族同士のいざこざだと聞きました。私達は極力、その争いに巻き込まれたくないのです」


「確かに。争いの原因は、コイツと秀吉だな」


「そうなんですか?魔王様が先程聞言われた、秀吉という方と争っているのですね」


 やっぱり秀吉とは、まだ会っていないようだ。

 下手に戦場に引っ張り出すよりも、このまま隠遁生活を続けてもらった方が安全かもしれない。



「ヨアヒム、ヴラッドさんは敵じゃない。でも秀吉と会ってしまうと、この魔法が発動して敵に回りかねない。そうなったらどうなるか、君が一番よく分かるよね?」


「・・・そうだな。分かった。この話は無かった事にしよう。ヴラッド殿、ギュンターをよろしく頼みます」


「お任せ下さい。トメイトゥの美味しさを、彼に知ってもらおうと思います」


 乗り物酔いにトマトって効くのか?

 その辺は詳しく知らないけど、それで治ったらギュンターはトマト信者になりそうだな。



「村の場所は、魔王様が知っています。用事が済みましたら、お寄り下さい」


「ありがとうございます」


「それでは私は・・・っと、そうだ」


 ヴラッドさんは空を飛ぼうとした時、何かを思い出したのか急に振り返った。



「北東と言いましたよね?北東には私達も近寄らない、禁足地があります」


「禁足地?どんな場所ですか?」


「行けば分かります」


 なんか怖い言い回しだな。

 どういう意味だろう?



「もし近寄ったら?」


「化け物に食われるとか、神隠しに遭うとか。とにかく近寄らない事を、お勧めします」


「分かりました。近寄らないでおきます」


 僕が約束すると、ヴラッドさんは笑顔で応える。

 今度こそ挨拶を済ませた彼は、空を飛んでギュンターが飛んでいった方へと向かっていった。










「それで、禁足地には行くのか?」


「行くわけないでしょう!ギュンターのせいで遅れてるんだ。早くクリスタルをどうにかしないと」


 僕はギュンターを後ろに乗せて、一気にアクセルを全開にした。



 しばらく走っていると、トライクが走れるくらいの道が、二手に分かれていた。

 左へ行けば北東の方だが、右はやや東に進む感じだ。

 そして右側の道は、明らかに雰囲気が違っていた。

 見た目は変わらないのだが、少し進んだだけで空気が変わる。

 そして重い何かが身体にへばりつき、先に進めないような感じがするのだ。



「どうする?」


「いや、行かないって。早く北東へ・・・え?」


「どうした?」


 見間違いか?

 右の道の先に、何か動物が居たような。



「行きたくなったのか?」


「行きたくはないんだけど」


 妙に気になるあの後ろ姿。

 何だろう?



【行った方が良いと思うぞ】


 兄さん!?


【お前、聞こえなかったのか?】


 何が?


【そうか。俺の聞き間違いじゃなければ、アレは猫の鳴き声だ】


 こんな所に猫って・・・もしかして!?



「ヨアヒム、予定変更だ!」


「行くのか!?」


 僕が右の道に向かってアクセルを回すと、ヨアヒムは嬉しそうな声で反応する。

 何だろう?

 妙に楽しそうな気配なんだが。



「もしかして、ホラー系好き?」


「好きだな!メイド達が話していた城にまつわる怖い話とか、全部調べたくらいだ」


 コイツ、暇人だな。

 どちらかというと、兄が苦手なタイプなのに。

 よく行く気になったもんだ。



【身体の中だと、その違和感っていうの?全く感じないんだよね。だから全く怖くない】


 あ、そう。

 じゃあこのまま禁足地までガッツリ進もうか。



「おい、こんな所に猫が居るぞ」


「やっぱり招き猫!」


「商売繁盛でもするのか?この先に店があるのかもな」


 冗談を言うヨアヒムだが、僕にもハッキリと姿が見えた。

 こちらがある程度まで進むと、チラリと振り返って走り始める。



「しかし空気が重たい。怖いのが苦手な人なら、泣いちゃうレベルだよ」


「そうか?俺は楽しいけど。だから猫を見失わないようにしてくれよ」


 招き猫の行き先が、気になっているらしい。

 多分見失っても、また姿を見せてくれる気がしないでもないけど。



「猫が止まった!?洞窟があるぞ」


「トライクならギリギリ入れそうだ。このまま行くよ」


「光は俺に任せろ!ブッ!?」


「え?」


 トライクが急に軽くなった。

 ブレーキをかけて止まり振り返ると、ヨアヒムの姿が無い。

 まさか、興奮し過ぎて落ちた?



「おい!」


「何してんの!?」


 洞窟の外に座っているヨアヒム。

 僕はトライクを降りて戻ると、彼は怒りながら言った。



「俺のせいじゃない!ほら」


 ヨアヒムは洞窟に手を入れようとすると、見えないガラスのような物に遮られてしまう。



「何で!?」









「猫はこの中に入っていった。どうやら用があるのは、お前だけみたいだ。部外者は立ち入り禁止って意味なんだろう。残念だが、俺はここで待つ。招き猫がどんな猫なのか知らないが、お前が約束を違えてまで来たのだ。後で何があったのか、教えろよ」

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