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反則

 そういえば兄に、かつてこんな事を言われた。

 太田は一人にしちゃ駄目だと。


 その理由は簡単である。

 何もしなくなるから。

 別に怠けているというワケではない。

 むしろ太田は真面目な部類だろう。

 安土に居る人達は、基本的に皆真面目である。

 しかしその中でも群を抜いて真面目なのは、太田とゴリアテだと言える。

 又左も真面目ではあるが、彼は息抜きも結構している。

 長可さんは要領が良いので、自分の時間はしっかりと作っていた。

 慶次やロックは言わずもがな、コバや昌幸に関しては、仕事と趣味の区別がつかない。

 太田の話に戻すと、彼は真面目だ。

 だが、その真面目さ故に問題がある。

 アイツは何かを頼むと、それだけに没頭する癖があるのだ。

 例えば、野菜の皮剥きを頼んだとしよう。

 すると食べる分だけではなく、そこにある野菜全ての皮を剥いてしまう。

 正確に個数を言えば良いと思うかもしれないが、そうすると今度は、皮を丁寧に綺麗に剥く事に集中し始める。

 頼まれた事は、完璧にこなそうとするのだ。

 その点ゴリアテは違う。

 周囲と役割分担をするし、自分だけでやろうとはしない。

 完璧にこなす為には、自分以外の者も使おうとする。

 一人で全てをやろうとする太田と、周囲を上手く使うゴリアテ。


 二人とも真面目だけど、社交性といった面が違う気がする。

 だから兄は、太田を一人にしたら駄目だと言っていた。

 考えてみれば、食事も摂らずに習字に没頭していた事から、その一面が垣間見えていた。

 もしかしたら兄がゴリアテではなく太田にばかり気をかけていたのも、そういう面を見ていたからかもしれない。

 でも僕は、こうも思う。

 特別扱いしたから、ゴリアテに不満が溜まったんじゃないかと。

 これは僕も、同じ事が言えそうだけどね。

 願わくば、二人の関係がギスギスしない事を祈る。











 太田の胸当てが形状変化していく。

 胸当てから肩当てに変わると、太田はゴリアテのパンチに合わせてカウンターを入れようと構えた。

 そしてゴリアテの大振りのパンチに合わせて、自分の右拳を振り被る。



「ガアァァァ!」


「これでお終いです!」


「・・・そうはさせないけどな」


「な、なんですと!?」


 意識を失って、暴走をしていたと思われたゴリアテ。

 だが彼は知らぬ間に意識を取り戻し、太田へ振り被っていたパンチを止めてみせた。

 対して太田は、テレフォンパンチと呼ばれる大振りのパンチが止まらない。

 太田の大振りな右フックを、身を引いて避けるゴリアテ。

 背中が見えるくらい空振りをした太田に対して、ゴリアテは今度こそ本気の右ストレートを叩き込もうとする。



「これで終わりだ!」


「それはこちらのセリフですよ!」


 太田が迫ってきたゴリアテに向かって、背中から体当たりを打ちかます。

 まさか逆に距離を詰められると思わなかったゴリアテは、太田の体当たりでタタラを踏んだ。



「ぬおっ!?この技は!?」


「貼山靠という技ですよ」


「てんざんこう?」


「そして貴方には、これを食らってもらいます!」


 太田が右足で、強く地面を踏み締めた。

 そして縦にした右拳を、ゴリアテの鳩尾付近へと叩き込む。

 そして彼は叫んだ。



「イージス、解放!全ダメージ射出!」


 肩当てから光が放たれると、ゴリアテは物凄い勢いで吹き飛んでいく。

 数十メートルも弾き飛ばされると、既に意識が無いのか、ピクリとも動かない。


 そして二人の戦いを見守っていたミノタウロスとオーガから、勝敗が決した事を表す拍手が起こった。











 ゴリアテが目を覚ますと、目の前は青い空だった。



「そうか。俺は負けたのか」


 隣に座る太田を見て、敗北したのだと実感する。

 ゴリアテは上半身を起こすと、祠の話をし始めた。



「クリスタルは外すと良い」


「ゴリアテ殿がそう言うと思ったのか、他のオーガの方々の案内で、アイゲリア殿が向かいましたよ」


「アイツ等、仕事が早いな」


 苦笑いするゴリアテだったが、太田はそれを見て頭を下げた。



「どうした?」


「すいません。今回の戦いは、ワタクシの反則負けにしてもらえませんか?」


「ど、どういう意味だ?」


 二人しか居ないこの場で、ゴリアテは少し慌て始める。

 何故太田が頭を下げているのか、理由が分からなかったからだ。



「実はワタクシ、ゴリアテ殿のオリハルコンの防具の能力、少し知っていたんです」


「知っていた?」


 太田が少し俯き加減で頷くと、ゴリアテにある事を尋ねた。



「ゴリアテ殿、ワタクシのオリハルコンの防具の能力を知っていますか?」


「いや、知らない」


「ワタクシのオリハルコンの防具は、胸当て時に食らったダメージを蓄積する事。そして肩当てに変えると、そのダメージを攻撃として放出する事が出来ます」


「ダメージを、放出?」


「何か似ていると思いませんか?」


 ゴリアテはすぐに気付いた。

 自分の防具と太田の防具が、似たような能力だという事に。



「これは偶然・・・ではないよな?」


 ゴリアテの言葉に頷く太田。

 太田はその事に関して、ゴリアテに説明を始める。



「実はこの防具、コンセプトは同じなんです」


「攻撃を吸収、そして反射する能力か」


「はい。だからワタクシとゴリアテ殿は、同じ装備を頂く予定でした」


「しかし、俺は盾で太田殿は胸当てだぞ?防具という点以外、全く違うと思うのだが」


 すると太田は、恥ずかしそうに顔を背けた。

 不思議に思うゴリアテだったが、ちょっとした後に小声で太田が理由を話し始める。



「ワタクシ、その盾が上手く使えなかったんです」


「は?」


「その盾は、攻撃を盾で受け止める。もしくは受け流すと反射出来ますよね」


「その通りだ」


「でもワタクシ、盾で攻撃が上手く受け止められなかったんです」


 理由を聞いたゴリアテは、少し凹み気味の太田を気遣った。



「し、しかし太田殿はバルディッシュを持っているから!」


「そのバルディッシュが、盾になる予定だったんですよね。だから盾しか持っていなかったはずなのに、攻撃が受けられなかったんです」


「あ・・・」


 フォローしたつもりが、逆に傷口に塩を塗り込む結果になった。

 ゴリアテはあたふたと手を動かすが、何も言えない。

 それを見かねた太田は、説明の続きを始めた。



「ワタクシは器用に、盾で攻撃を受けられない。だからコバ殿は、攻撃を食らう前提の防具を作る事にしたのです」


「それが胸当てであり、肩当てになったと?」


「はい。さっき言った通り、胸当てだと吸収をします。肩当ての時に放出。どれだけダメージを溜められるか分かりませんが、ゴリアテ殿の攻撃をあのまま受け続けていたら、ワタクシの身体が先に壊れていたと思います」


「なるほどね。だから俺のアイギスの能力を、知っていたという事か」


「すいません・・・」


 ゴリアテは少し考えたが、知られていたところで盾を使って防ぐ事には変わりないし、向こうだって盾を避けて攻撃しようという点も変わらない。

 結果的に太田が知っていても、特に有利という点は無いように思えた。



「どちらにしろ、負けてたかもな。しかし、アイギスとイージスか」


「名前の由来になった物は、実際には読み方が違うだけで、同じみたいですよ」


「そうなのか?じゃあ俺も、イージスが装備出来そうだな」


「ワタクシは盾が装備出来ないんだから、それはやめて下さいよ!」


「ハッハッハ!帰ったらコバ殿に、俺も肩当て形態に出来るか聞いてみよう」


「アハハ!それなら出来そうですね」


 ゴリアテが豪快に笑うと、太田も釣られて笑い始める。

 二人は一緒に寝転がると、空の光がまた薄くなったと感じた。



「もうすぐ消えそうだ。魔王様に関する記憶も、ほとんど思い出してきた」


「そうなんですか?」


「顔と名前は思い出せないが、会話や行動は分かる」


 顔にはモザイクが掛かったように見えないが、声は思い出していた。



「もうすぐ光も消える。残ったクリスタルは、一つといったところですかね。魔王様、もう少しですよ」


 太田とゴリアテは、空を見上げながら仲間が帰ってくるのを待つ事にした。












「ギュンター、置いていって良いか?」


「そ、それは勘弁を!」


 ヨアヒムから呆れ顔で言われたギュンターは、青い顔で言う。

 しかし僕も、ヨアヒムの意見に同意だった。



「悪いけど、これ以上の足止めは困るんだけど」


「し、しかし!」


 あぶら汗が額に滲むギュンター。



 何故僕とヨアヒムがこんなに困っているかというと、理由は単純である。

 ギュンターの乗り物酔いだ。



「あのさ、トラックは大丈夫なのにトライクは駄目って、何で?」


「し、振動が全然違いますよ!オエェェェ!!」


 話しながら吐くギュンター。

 確かに対モールマン戦で使ったトラックは、巨大で揺れも少なかった。

 それに対して今回は、急いでいるのもあって悪路を爆走していた。

 でもヨアヒムが平然としているのに対し、ギュンターはこれ以上はヤバいと根を上げたのだ。



「無理矢理乗せて進むか?」


「馬鹿野郎!運転してる僕に、後ろから酸っぱい胃液を食らえと言うのか!?だったらお前、二列目だからな」


「う・・・。やはり置いていこう」


「ちょ、ちょっと待って下さいよオエェェェ!!」


 語尾を伸ばすと同時に吐いている。

 なんという高等な吐き方だ。



「置いていくのは確定として、問題は安全な場所だな」


「そうだね。ここに置いてあったら、下手したら魔物に襲われるかもしれないし」


「私、置いていかれるのは確定なんですね・・・」


 今の弱ったギュンターでは、得意な弓もアテにならない。

 フラフラのこの状態で、マトモに射る事すら不安定だろう。



「せめて誰か一緒に居るなら良いんだけど。でも僕が姿を見せたら、危険な気がするんだよね」


「その言い方だと、近くに知り合いが居るのか?」


「もう少し南に行けば、多分居ると思うけど」


「だったらその者に、ギュンターを預ければ良いのではないか?」


「それはそうなんだけど・・・」


 でも大きな問題があるんだよね。

 彼等も僕に関する記憶が、封印されているかもしれない。

 そして敵対者になっていた場合、かなり危険だという事だ。



「俺とギュンターだけで、向かえば良いんじゃないか?」


「場所知らないでしょ」


「そうだな。うーむ・・・」


 二人で悩んでいると、突然声を掛けられた。



「何を困ってるんです?」


「いやね、ギュンターの乗り物酔いが酷くて、休ませたいんだよね」


「だったら村で休みますか?」


「それはありがたい!で、彼は誰なんだ?」


「え?うおあぁぁぁ!!ヴラッドさん!!」


 まさか会いたかったけど、会いたくなかった人物に会ってしまった!


 彼が僕に悪印象を持っていたら、かなり危険だ。

 吸血鬼のような戦闘力の高い連中が、全員敵に回ってしまう。



「じゃあ村に案内しますよ」


「え?ヴラッドさん、僕の事覚えてるんですか?」









「何を言ってるんですか?魔王様ですよね。乗り物酔いなら、トメイトゥが効きますから。新鮮なトメイトゥ、用意してありますよ」

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