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太田とゴリアテ

 僕ってあんまり、他人の事見てないのかな。

 まさか太田もゴリアテも、格闘技を習ってるなんて知らなかった。


 ゴリアテは大盾という防具を、両腕に装備している。

 その為彼の身体に合う大きな武器は、大盾に干渉してしまい装備が難しかった。

 僕の中では小太刀のような短い武器なら大丈夫じゃないかと思ったのだが、本人からすると扱いづらかったという。

 だから彼は武器を持たなかったので、今のような攻撃形態になった。

 しかしそれだけではやっていけないと気付いた彼は、佐藤さんにボクシングを教わっていたらしい。

 アウトボクサーである佐藤さんとゴリアテでは、タイプが違う。

 それこそ華麗なステップを踏んで、相手の攻撃を避けつつ殴るなんて真似は、ゴリアテには出来ない。

 でもパンチはパンチ。

 基本となるジャブやストレート、フックやアッパーは変わらないので、ゴリアテはそれ等の的確な動作を教わったようだ。


 それに対して太田は、バルディッシュという長物を武器として持っている。

 彼のパワーに合った豪快な武器だが、弱点もあった。

 それが懐に飛び込まれると、何も出来ないという点だった。

 勿論太田も、無手での攻撃の破壊力は抜群である。

 だけどそれを当てる術が無い。

 そこで現れたのが、素手での戦いのエキスパートであるムッちゃんだ。

 佐藤さんと違い殴るだけじゃなく、蹴ったり掴んで投げ飛ばしたり、関節技や絞め技まで使える。

 自分の弱点を理解した上で、太田もムッちゃんに格闘技を教わったみたいだった。

 そしてそれを知ったのは、ムッちゃんが安土を離れた後の話である。


 別に報告しなくても良い話ではあるよ。

 強くなる為に仲間から、教わってるんです。

 たったそれだけだから。

 でもね、重要じゃないかもしれないけど、世間話的にそういう話題を話してくれても、良かったんじゃない?

 ちなみに僕は知らなかったけど、兄は知っていたらしい。

 どうして教えてくれなかったんだ!

 と思ったけど、僕がその頃何をしていたかというと、コバの所でゲーム三昧だった。

 それから僕は、何も言えませんでした。

 ゲームばかりやってると、特定の人としか話さなくなる。

 今回も反省するべき点ばかりでした。












 ゴリアテが膝を曲げると、伸ばす力を利用して身体ごとアッパーを太田の顔に叩きつけた。

 太田の顔が勢いよく、上を向いた。

 目の焦点が合っていない太田は、そのまま前のめりに倒れる。



「か、勝った?う、うおぉぉぉ!!」


 両手を挙げて、勝利宣言の代わりに雄叫びを上げるゴリアテ。

 だが太田は、その声を聞いてすぐに起き上がる。



「今のは、き、効きましたよ」


「馬鹿な!?完璧に入ったはずだぞ!」


「えぇ、だから効いてますよ」


 頭を振りながら立ち上がる太田。

 足元はまだおぼつかず、少しふらついている。

 拳を握り自分の足に叩きつけると、彼は平然とし始めた。



「さ、佐藤殿の話では、脳が揺らされれば身体を鍛えていても、起き上がれないと聞いていたが」


「それはワタクシも、タケシ殿から教わっております。だからこそ、ここを鍛えたのですよ」


 首を左手でポンポン叩く太田。

 ゴリアテはその時気付いた。

 太田の首が一回り太くなっている事に。

 肩と首が一体化したような形をしていて、鍛え方が尋常じゃないと分かったのだ。



「首を太くすると、脳へのダメージは軽減されます。そして首を絞められるのも困難になり、弱点が減るというのです」


「なんと!」


 戦っている最中だというのに、何故か説明を始める太田。

 そしてその説明に聞き入ったゴリアテ。

 二人はその時間が、お互いのダメージを回復させていたとは全く気付いていなかった。



「というわけで、鍛えた方がよろしいですよ」


「なるほど。助言に感謝する!」


 二人は握手を交わすと、再び距離を取った。








「そうなると、俺のボクシングは通用しないのか?」


「どうでしょうかね?」


 ゴリアテ殿のパンチは、本当に痛かった。

 タケシ殿のおかげで首を鍛えたが、問題はボディの方だ。

 脳と同じで内臓は鍛えられない。

 叩かれ過ぎると、ジワジワとやられると聞いている。


 ボディ攻撃を懸念する太田だったが、その心配はあまり必要無かった。

 何故ならゴリアテは、ボディ攻撃が得意じゃなかったからだ。


 オーガの中でも身体の大きなゴリアテ。

 相手は必然的に、小さな相手が多くなる。

 すると背が低い相手のボディを叩くには、自分も屈んだり小さくならなくてはならない。

 そうなると急所の一つである顎に、攻撃が入れられる心配がある。

 ゴリアテはそれを嫌がったのだ。


 ただし彼は分かっていなかった。

 これはボクシングではなく、何でもアリの戦いなのだ。

 武器を使えば顎にも攻撃は届くし、逆に言えば同じくらいの体格を持つ太田相手ならば、自分のパンチが太田のボディも普通に入れられると。



「攻撃してこないのですか?だったらこちらから行きますよ?」


「望むところだ。来い!」


 あの大盾とゴリアテ殿の戦闘スタイルは、ワタクシとあまり相性が良くない。

 バルディッシュは中距離からの間合いになるが、彼はその懐にいとも簡単に入って来られる。

 それもあの大盾が、全てを可能にしている。

 そしてバルディッシュの攻撃範囲が潰されるのなら、そのバルディッシュを手放せば良い。

 ワタクシはバルディッシュを遠くからゴリアテ殿に向かって投げつけた。



「武器を捨てるか!?」


「違いますよ」


 大盾で受け流した彼の懐に飛び込むと、両手を左右の腰に手をやった。



「コレならどうです!」


 腰から抜いたそれは、本来投げつける為に使用している。

 だが今回のような至近距離での接近戦でも、使えない事は無い。



「手斧か!だが太田殿、それを使いこなせるか?」


 驚きは与えられた。

 だが流石に安土の防衛を任されるだけあって、動揺はしていない。

 おそらくこのような両手に斧を持った連中も、相手にした経験があるのだろう。


 そして彼が言う通り、ワタクシは手斧で接近戦が出来る気がしていない。

 力任せに振り回した事はあるが、手斧を扱って戦う技術があるかと問われれば、無いと言える。

 しかし、意表を突くつもりで出したわけじゃない。

 手斧を扱っていたとある人物の動きなら、見た事があるからだ。



「コレでどうです!」


 ワタクシの左の手斧を横から胴を裂くように振ると、彼は右の大盾でそれを受け止めようとした。

 刃がこぼれる事を狙ったのかもしれないが、ワタクシは元々傷付ける為に狙っていない。

 右腕の鎖を断ち切る為に、右手の手斧で鎖を狙っていたのだ。


 大盾に当てる直前に、ピタリと止めた左の手斧。

 それを目の前で落とす事で、彼の集中をそちらに向けた。

 そして自由になった左手で右の大盾の縁を掴むと、そのまま左腕を開いた。



「何!?大盾狙いか!」


「ご名答」


「だが忘れてもらっては困る。俺の左手も自由だって事にな」


 ゴリアテ殿が構えを変えた。

 左足を後ろに引くと、腰の回転を利用して左フックをワタクシの顔面に叩き込んでくる。



「き、効いていない!?」


「ぬおぉぉぉ!!」


 パンチを食らいながらも、彼の右手の大盾を外す事に成功すると、返すその手で左腕の大盾も狙った。

 だがそれを嫌った彼が取った行動は、ボクシングでは使わない前蹴りだった。



「ぐっ!」


「危なかった!」


 右手の手斧を見ると、鎖を断ち切った事で刃こぼれが起きていた。

 だが狙い通り、一撃で切る事には成功した。



「そんな手斧で、どうやって切れると思ったのだ?」


「簡単ですよ。角度です」


「角度?」


「以前、イッシー殿が薪を割っている時に、見掛けたのです。あの人が斧で、鎖も切っている姿をね」


 ワタクシと違ってあの人は、あまり力も使わずに切っていましたが。

 それでもジッと観察した感じ、同じ角度から毎回切っている姿を見ていた。



「チィ!だが太田殿、この機能は知っていたかな?」


「機能?」


「ゴリアテシャイニングゥゥゥ!!」


「なっ!?」


 まさか大盾にクリスタルが!?

 ワタクシの目が、大盾から放たれた光に潰されてしまった。

 手斧を目の前にブンブン振り回したが、どうやら狙いは前じゃなかったらしい。



「ぬぅん!」


「ゴハッ!」


 ワタクシの身体が浮き上がった。

 そして真っ逆さまに、頭から地面に叩きつけられた。

 バックドロップを決められたらしい。

 頭を守る事も出来ず、何が起きたのか分からずに頭から落ちたワタクシだったが、やはり首を鍛えていたから少しはダメージを軽減出来た。


 しかし考えが甘かった。

 バックドロップは一度ではなかったのだ。

 彼は両手を離さずに足を蹴り上げると、バク転の要領で再びまた起き上がり、更にバックドロップを仕掛けてきた。


 それを5回程食らったワタクシは、流石に堪えたのか意識が朦朧としているのが分かる。



「ど、どうだ!?」


 ゴリアテ殿の息も上がっている。

 大技を連発したからか、少し疲れているようだ。



「き、効きませんねぇ」


 視界を取り戻したワタクシは起き上がると、ゴリアテ殿に言い放った。

 だが、様子がおかしい。

 視界の右半分に地面が見えて、左半分に空が見える。



「起き上がれていないではないか」


 意識はあるが、ダメージは残っていた。

 立ったつもりはあるのに、足に力が入らない。

 勝機と見たのか、ゴリアテ殿が大盾を拾いに行った。



「取らせない!」


「邪魔をするな!」


 咄嗟に足首を掴んだが、その手を執拗に蹴り飛ばしてくる。

 ワタクシは冷静さを取り戻すと、その手をすぐに離した。

 ゴリアテ殿が大盾を取りに走っていく。


 だが、一手遅い。

 ワタクシは足首を掴んだ時、近くにそれが落ちているのが見えた。

 だから手を放したのだ。



「今度はワタクシの番です」


 地面に倒れながらも、それをゴリアテ殿に向けると、ワタクシは叫んだ。



「太田、バアァァニングゥゥゥ!!」


 手にしたバルディッシュから、ゴリアテ殿に炎が放射状に向かっていく。

 大盾を拾い上げる前に、ゴリアテは炎に飲まれていく。



 勝った。

 ワタクシはそう思った。



「まさか最後の手段を取らされるとは」


 炎の中からゴリアテ殿の声が聞こえてくる。

 その声にはまだ余裕があった。



「悪いな太田殿。全てを返却させてもらう。オリハルコン型防具、アイギスの盾でな。跳ね返せ!アイギス!」


 ゴリアテ殿の声が聞こえると、炎は逆風に煽られたようにこちらへ向かってきた。

 このままだと、ワタクシもマズイ!



「最後の手段と言いましたか。だったらワタクシも、同様の手段を取りますよ」


「まさか、太田殿も!?」










「バルディッシュ、変化!出でよオリハルコン型防具、イージス!」

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