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元々の宿敵

 反省すべき点ですね・・・。

 まさかゴリアテが、一緒に旅に出たいと考えていたなんて。


 ゴリアテの記憶の封印は、ある程度薄れていた。

 僕を思い出せなくても、魔王という存在に従っていて、安土の守護を司っていたのは思い出したらしい。

 しかしそれでも、問題はあった。

 それが太田との比較だった。


 僕の中で太田は、正直頼りない点がある。

 そもそも彼は、自分の興味のある事にしか執着が無く、ハッキリ言って周りが見える人物ではないと思っている。

 その証拠に自分の字が上手くなる事しか考えておらず、洞窟の中にずっと閉じ籠もっていたくらいだ。

 それに対してゴリアテは、周囲がよく見えるタイプである。

 仲間のオーガからも信頼されているし、他種族である長可さんともスムーズなやり取りが出来ていた。

 もしゴリアテが頭も筋肉で出来ているような人物だったら、文官として活躍していた長可さんとの衝突は避けられなかっただろう。

 ムキムキだからといって、考えまで凝り固まっているわけじゃない。

 これは太田もゴリアテも、当てはまる事だ。

 ミノタウロスとオーガという、魔族の中でも特に強い種族の二人。

 なのに、力こそ全てという考えではないというのは、かなり僕に近い考えだと思っている。


 さっきも言ったが、僕はゴリアテの事を考えて安土の防衛を任せていた。

 彼なら人を使う事が出来るし、緊急時には長可さんと連携が取れる。

 だから残していた。

 その結果、彼には僕が太田をエコヒイキしているように見えたのだろう。


 出来る男だから、話さなくても大丈夫。

 彼ならきっと上手くやってくれる。

 ずっとそう思っていた。

 でもそうじゃなかった。

 言い訳をすれば、ゴリアテも僕にちゃんと言ってくれたら良かった。

 でもそれは、彼のプライドもあったのだろう。

 彼の気持ちを配慮出来なかった僕が悪い。

 もっと言えば、そういう上下関係の機微に関しては、兄に気付いてほしかった。

 これも言い訳だよね。

 だから僕も、今後はもっと皆とのコミュニケーションを密にしたいと思います。











 ゴリアテ殿の顔は、少し呆然としている。

 まさか無駄な戦いだと分かっていても、ワタクシが話に乗ってくれるとは思わなかったのだろう。


 本来なら交渉をして、戦わずに済むのが正しいのは分かる。

 この場をやり過ごし、先に任務を終えてからゴリアテ殿の要求を飲むという考えも出来た。


 しかしながら既に光は薄くなり、ゴリアテ殿の記憶も戻りつつある。

 ワタクシがクリスタルを外すか破壊してしまえば、彼はまた自分の気持ちを押し込めるかもしれない。

 そうなれば彼はまた、自分の気持ちを押し殺して安土防衛の任を、全うしようとするだろう。


 だからこそ今なのだ。

 ワタクシは、彼の心の叫びを聞いてしまった。

 そして共感してしまった。

 立場を逆に置き換えて考えたら、同じ事を考えたと思う。

 それならば、彼の思いに全力で応え、ここで本気で戦うのが男ではないかと、ワタクシは思った。



「どうしたのです?やらないのですか?」


「俺のワガママを聞いてくれるのか?」


「ワタクシの我儘でもあります」


 彼がファイティングポーズを取った。

 やる気になったらしい。



「感謝する!」


「どういたしまして!」


 感謝の言葉と同時に投げられる大盾。

 それをバルディッシュで弾くと、大盾は大きく円を描いてゴリアテ殿に戻っていく。


 直接見た事は無かったが、やはり特殊な防具だ。

 まさに攻防一体と呼べる装備である。



「なかなか厄介ですね」


「この大盾を軽々と弾く、太田殿もな」


 彼の口角が上がった。

 ワタクシも口元が緩んでいるのが分かる。

 戦いはあまり好きではないが、何故か気持ちが高揚している。



「行くぞ!」


「おぉ!」


 ゴリアテ殿が身体を大きく振って、こちらに走ってくる。

 彼の攻撃方法は、基本的に素手になる。

 大きな丸い盾をものともせず振ってくる腕は、はち切れんばかりの筋肉だ。

 だが、ワタクシの武器はバルディッシュ。

 間合いが全く違う。

 だからワタクシは後ろへ大きく下がると、それに合わせてバルディッシュを振った。



「その程度では当たらんぞ」


「ムム!?」


 これは思った以上に厄介だな。

 頭から腰まで、スッポリ隠れる程の大きさのある大盾は、腕を少し曲げるだけでその守備範囲に入ってしまう。

 頭も胸も、言ってしまえば背中も守れるだろう。

 狙えるとしたら、ここしかない。



「これならどうです!?」


「甘いわ」


 ワタクシの下段の足払いを、丸い盾を上手く使っていなした。

 盾で守れない下半身なら行けると思ったのだが、やはり対策はしているようだ。



「今度はこちらの番だな」


 ゴリアテ殿のダッシュが速い!

 盾の表面を滑らせるようにバルディッシュを振らされたワタクシの懐へ、彼は一気に入ってきた。



「フン!」


「グゥ!」


 彼の拳がワタクシの脇腹を直撃する。

 今まで食らった拳の中で、最も重いパンチだ。

 このままではマズイと後ろへ下がろうとすると、その足に合わせて更に飛び込んできた。



「逃がさないぞ」


「なんと!だがこれなら!」


 腹への連打を敢行するゴリアテ殿。

 彼が下への意識が集中している中、ワタクシは頭を後ろへ大きく引き、一気に前へと振った。



「ぐあっ!」


 頭が彼の鼻に直撃すると、彼は二、三歩後退した。



「み、見事ですね。いつの間にそのような格闘術を?」


「佐藤殿に教わったのだ。太田殿こそ、そんな技使ってこなかっただろうに」


「ワタクシもタケシ殿に師事しまして」


「なるほど。お互いに向上に努めていたワケだ」



 帝国最強と名高いタケシ殿は、あの魔王様をも手こずらせていた。

 そんなタケシ殿から学ぶ事はあると思い師事したのだが、まさかゴリアテ殿も同じような事を考えていたとは。



「フフ」


「ハハ」


 何故か笑みが溢れてしまった。


 するとゴリアテ殿が、突然横を向いた。



「お前達もやるか?」


 控えていた防衛隊の連中に声を掛けている。

 ワタクシ達の戦いを見て、興奮が抑えきれなくなっているらしい。



「皆さんも腕試しという事なら、丁度良い相手だと思いますよ?」


「太田殿、よろしいのですか?」


 ワタクシも後ろで見ていた、他のミノタウロスに声を掛ける。

 そしてゴリアテ殿に最終確認をした。


「良いんですよね?」


「こちらこそ、願ってもない相手だ」


「だそうです。皆さん、存分に戦って下さい」


 ワタクシとゴリアテ殿の許可が下りると、途端に怒号のような歓喜の声が湧き上がった。



「行くぞー!」











 相手はゴリアテ殿が率いている防衛隊のオーガ達。

 対してワタクシが率いてきたのは、アポイタカラの洞窟を守護するミノタウロスの一行になる。

 いや、率いてきたというのは語弊があるかな。


 そもそもワタクシは、帝国を一人で出発している。

 魔王様に電話で、アポイタカラを守るミノタウロスの一人であるアイゲリア殿に連絡を取っていただき、途中で合流した。

 率いてきたというよりは、待ち合わせをしたと言った方が正しい気がする。



 本来であれば、アポイタカラの守護から外れる事が無い彼等だが、敵が木下殿と分かり、魔王様が一時的に離れる事を許可していた。

 木下殿にはアポイタカラの洞窟は知られていないし、もし知られていたとしても、今まで襲撃された経験は無い。

 そう考えると、木下殿にあの地が重要だとは知られていない事になると判断したようだ。

 それでも心配は残るので、全員が出てきたわけではない。

 なので、オーガよりは数の面では負けている。


 しかし戦意はかなり高い。

 それもそのはず。

 彼等は元々、オーガとの戦いを望んでいたからだ。

 かつてオーガに敗れ鍛えていた彼等は、魔王様の要請によりアポイタカラの守護を任された。

 襲撃に備えていた彼等だが、敵は来なかった。

 それがようやく、自分の力を試す時が来たのだ。

 しかもその相手が、因縁のあるオーガである。

 やる気が出ないわけがない。



「アイゲリア殿、命のやり取りは無しですぞ」


「分かっています。しかし、興奮は抑えられそうもない。ようやくこの時がやって来た。皆の衆、力を見せろ!」


 本当に分かっているのだろうか。

 かなり危険な武器も持ち出しているが。

 オーガならそれでも死ぬ事は無いとは思うが、少し心配になる。



「・・・変わった武器を使う者達だな」


「えぇ。それも貴方達オーガに勝つ為に、手にしたと聞いていますよ」


「なるほど。合点が入った」


 彼等が使う武器はかなり特殊だ。

 トンファーに十手でも変わり種だが、モーニングスターという武器は扱いづらそうで、意味があるのか分からない。

 しかし初見の武器という意味もあって、防衛隊の戸惑いは隠せなかった。



「あちらはあちらで任せよう」


「そうですね。ワタクシ達はワタクシ達で、戦うとしましょうか」



 ゴリアテ殿が両拳をぶつけると、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 走っても下がられると分かったのだろう。

 ならばこちらの間合いに入った瞬間に。

 と思ったその時、彼は両腕を勢いよく交差させた。



「二つとも投げた!?」


 丸い大盾がクロスして飛んでくる。

 どちらもワタクシに直撃するコースだ。

 一つはバルディッシュで弾いたが、もう一つは避ける事にした。

 だが鎖のような物で繋がった大盾を、ゴリアテは手首を動かして操作すると、僅かに軌道が変わった。



「なんと!くっ!」


 腹から頭に軌道が変わった大盾を、頭の角で受け流す事に成功した。

 しかしゴリアテ殿には、それは想定内だったようだ。

 ワタクシが大盾に意識が向いている間に、彼はワタクシの目の前で戦闘態勢に入っていた。



「遅い!」


 左右のフックでワタクシの顔面を的確に狙ってくるが、それはワタクシもタケシ殿に師事している身。

 似たようなパンチを食らった経験があったので、対応出来た。

 しかし腑に落ちない。

 ワタクシにガードをされているにも関わらず、それでも攻撃を止めないのだ。

 彼が攻撃している相手が、もし又左殿や佐藤殿のような軽量な相手であれば分かる。

 しかしワタクシは、ゴリアテ殿とほとんど体格は変わらない。

 そんな相手にガードの上から攻撃を叩き込んでも、ダメージにはなりにくいはずなのに。

 まさか、何か企んでいる?



「気付くのが遅かったな」


「何ですと?がっ!」


 何か後ろから攻撃された!?

 何か硬い物が当たり、ゴリアテ殿に頭を預けるように前のめりになった。

 ワタクシは倒れつつ、上目でそれを確認する。



「大盾!?」


 そうか!

 左右のフックをずっと叩き込んでいたのは、戻ってくる大盾に意識を向けさせない為!

 今更ながら何という初歩的なミス!








「ようやく隙が出来たな。今の太田殿なら、俺の得意技も当たる。食らえ!佐藤殿直伝、ガゼルパンチ!」

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