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金棒マグナム

 ゴーレムか。

 いつかは作ってみたいとは思っていた。

 でも先に知り合いに作られると、ちょっと悔しい気持ちになる。


 一益は最後の砦として、祠の前にゴーレムを置いていったらしい。

 確かにドワーフ達が祠より前でムッちゃん達を出迎えるのは、おかしな話だった。

 足の遅いドワーフ達が前に出ても、無視されて祠に向かわれたら、目も当てられないからね。

 そう考えると防御特化のゴーレムは、ドワーフ達にとても合っていた。


 しかし羨ましい。

 ゴーレムを作るって異世界に来たら、一度は作ってみたい物ランキングで上位に入ると思うんだよ。

 石や土で場合もあるが、やはり多いのは金属製だろう。

 元々はユダヤ教の伝承に出てきて、自律式の泥人形っていうのが本当らしい。

 それがゲームの影響等もあり、泥から石や金属製というのが、ゴーレムとして世間一般に知られている。

 確かに泥で作れるなら、それも面白いと思う。

 固形ではないので自由に姿も変えられそうだし、固さを変えられるなら防御力も上げられる。

 泥の場合なら斬撃や打撃なんか効かないと思うし、魔法もある程度の種類ならどうにかなる。

 水魔法や土魔法には強そうだけど、火魔法は泥が乾いて防御力が大幅にダウンしそうだな。


 なかなか考えてみると楽しそうではあるが、泥でどうやって作れるか、サッパリ分からない。

 だからこそ挑戦する価値はありそうだけど、現状ではそんな余裕は無いからなぁ。

 いつか落ち着いた時、僕もゴーレム作りに挑戦してみよう。









 サマの奴、勿体ぶりやがって。

 色々と悩んでいたのが、バカみたいじゃないか。



「ハッ!」


 巨人の腕を掻い潜り、正拳突きを足に叩き込む。

 動きも単調だし簡単だったのだが、確かに硬いな。



「タケシ殿でも壊せませんか?」


「硬いけど、壊せなくはないかな」


「本当ですか!?」


 嘘を言ってどうする。

 嘘吐いたところで、自分の首を絞めるだけじゃないか。

 こういうのは外側が硬くても、内側から破壊すれば良いんだよ。

 おっさんと戦った俺が、身を持って証明したからな。



「だから正拳突きではなく、内側に響くように。破っ!」


 内部へ波のように響いていく発勁。

 これならゴーレムも壊れるはずだ。

 フッ、またつまらぬ物を壊して



「タケシ殿、危ない!」


「へ?おごっ!」


「タケシ殿ー!?」


 ゴーレムの無茶苦茶な腕の振り回しが、俺の頭に当たった。

 倒れた俺にサマが叫んでいるが、心配している感じじゃない。

 バカにしている感じなのは、気のせいだろうか?



「効いてない?」


「効いてないですよ!何やってるんですか!」


 何で攻撃してる俺が責められるんだろう。

 ちょっと理不尽な気がするけど、まさか俺もこうなるとは思わなかったな。

 外側も内側も効かないんじゃ、どうしようもないぞ。



「もっと強い攻撃無いんですか?」


「あるにはあるよ」


「じゃあそれやって下さい」


 簡単に言う奴だなぁ。

 本当にあるにはあるが、一言で言うと自爆技。

 俺の身体がぶっ壊れるのを覚悟で、パンチやキックをすれば良い。

 どうせ回復するという俺だけの裏技なのだが、痛みは当然ある。



「それよりも、俺がコイツと戦っている間に、お前が祠に忍び込めば早いんじゃないか?」


「それも考えたのですが、背中をピッタリと入り口に張り付かせていて、隙間が無いんですよ」


 なるほど。

 だから攻撃範囲も短いのか。

 そうなると、結局倒す以外は考えられない。

 仕方ない。

 痛いけど我慢するか。



「ヒッヒッフゥ。せーの」


「あっ!」


「・・・何?」


 俺が覚悟を決めて骨折覚悟で構えると、サマは何かを思い出したように声を出した。



「金棒で叩いたら壊れませんかね?」


「・・・それだ!」










 ぶん投げた金棒を担いでゆっくり戻ると、サマはボーッとしていた。

 俺はサマが相手をしているところしか見ていなかったが、どうやら近付かないと何もしてこないらしい。

 遠くから小石を当てているが、無反応である。



「さてと、早速ぶっ叩いてみようじゃないの」


 俺が金棒を振り上げると、向こうも腕を回してくる。

 ラリアットのように腕を振ってくるタイミングで、俺は金棒を全力で振り下ろした。

 激しい金属音が鳴り響き、俺は目の前がチカチカした。



「うぎっ!こりゃ違う意味でキツイな」


「でも見て下さい!」


 サマが興奮気味に指をさすと、腕の動きが鈍くなっていた。

 金属音による耳鳴りがようやく治ると、壊れたブリキ人形のように、軋んだ音を立てているのが分かった。


 ちなみに金棒の方は、特に傷んでいる様子は無い。

 俺の正拳突きですら壊れない巨人なのに、それを叩いても壊れない金棒か。

 何で出来ているのだろう?

 姐さんなら知ってるかな?



「それ、もういっちょ!」


 今度は左腕を同様に叩くと、巨人はようやく動きを止めてみせた。



「止まったけど、どうやって入れば良いんでしょう?」


「それは・・・胴体を叩くしかないか」


 しかし懸念もある。

 腕は胴体と比べて、細いから曲がったんだと思う。

 でも胴体は、その倍以上の太さがある。

 全力で叩いても、腕が曲がった程度なのだ。

 胴体じゃあ無理だろうな。



「でも、諦めたらそこで試合終了だ。試しに全力フルスイング!っかぁ〜!手が痺れるぅ〜!」


 結論から言うと、無理でした。

 多分何十回と振り続ければ、壊れる可能性はある。

 しかし俺の腕も痺れてるから、数回に一回は休憩が必要になりそうだ。



「タケシ殿でも無理となると、私が振ってみるしかないのか」


「お前じゃ持てないよ」


「グボァ!な、何ですか!?この重さは!」


 金棒を下ろして地面に下ろし、サマが手に取ったので手放すと、サマは地面と金棒に挟まれるように倒れ込んだ。



「ぎ、ギブ!無理です!」


 サマを助けようと金棒を持ち上げると、持ち手の下の部分に何か隠してあるのが分かった。

 俺はそれを確認する為に手を離すと、サマが呻き声を上げる。




「ゴハッ!な、何してるんですか!急に手を離すとか、貴方は馬鹿なんですか!?」


「そうね。バカだから仕方ないよね」


「嘘です。助けて下さい」


 再び金棒に挟まれたサマが、悪態を吐いてくるので放置すると、すぐに手のひら返しをしてきた。

 この辺を見ると、騎士王の血筋だなぁと思える。



「それで、コレは何だと思う?」


「うーむ、スイッチでも無さそうだし。ちょっと触っても良いですか?」


 絶対に手を離すなよという前振りの後、サマはその部位に触れた。

 何度も俺の中のヒール魂が、手を離そうぜと囁いてくる。

 そうすればサマの慌てた笑える姿が見れるだろと、頭の中で言っていた。

 だが俺はそれをグッと堪えて、サマに調べさせた。



「あ、分かった。コレ、クリスタルを中に入れてるんですよ。ほら」


 俺が見つけた場所をスライドさせると、中にはクリスタルが埋め込まれていた。

 握る時に邪魔にならないように、こうやって中に入れていたのか。


 待てよ?



「俺でも使えるのかな?」


「使い方を知ってるんですか?」


「多分」


 俺も詳しくは知らない。

 ただ他の人が使っている時に、皆が叫んでいるのだけは知っている。

 だから叫べば使える気がするんだけど。



「タケシ、バーニング」


 俺は小声で言った。

 何も起きなかった。



「何言ってるんです?」


「聞いてたのか!?恥ずかしい!」


 このやり方、出来なかった時が物凄く恥ずかしい。

 この気持ち、サマにも分からせる必要があるな。



「お前もやれ。火が出なかったから、次は氷だな」


「えぇ!?」


「俺がコイツを支えてるから、お前はフリージングって叫ぶんだぞ」


 ふふふ、嫌そうな顔をしている。

 だが甘えは許さない。



「シャマトフセ、フリージング!」


「・・・出ないね」


「恥ずかしい!」


 両手で顔を覆うサマ。

 耳まで真っ赤になっているくらい、恥ずかしかったらしい。

 しかし、これで俺も気が楽になった。

 失敗しても、分かってくれる同士が居るからね。



「他に何かあったかな。えーと、アレか。タケシ、シャイニング」


 淡々と言ってみたが、やはり出ない。

 もしかしてこのクリスタル、既に使えないとかってオチは無いよな?



「他には何があるんです?」


「俺が知ってるのは、4種類だけだぞ。次がラストだ。えーと、タケシ、ブロウイング」


 俺が言うと、金棒から突風が吹いた。

 その勢いで思わず前のめりになったが、俺とサマは使えた事で、顔を見合わせた。



「コレだ!」










 さて、使い方は分かった。

 しかし問題は、この魔法の使い道だ。

 風を起こす魔法で、どうやってこの巨人を倒すのか。

 俺とサマは、その事について話し合った。



「タケシ殿が振る時に叫んで、勢いを増すのはどうでしょう?」


「タイミング難しくない?俺が振るタイミングと合わなければ、当たった後に風が吹きそうだし」


「そしたらタケシ殿が風に乗ってジャンプして、超高高度から振り下ろすとか」


「俺の手が壊れるけど、出来なくはないな。でも狙うのは、胴体じゃなかったっけ?」


 話し合いが平行線になり少し飽きてくると、俺は変な事を言ってみた。

 するとサマも考えるのが疲れたのか、試してみようという話で進んでいく。



「とりあえずやってみましょうよ。それでダメなら、また違う手を考えましょう」


 最後は投げやりなサマの言葉に、俺は面白半分で賛成した。










 俺達は砂遊びを始めた。

 正確には砂ではなく、土なんだけど。

 大きな直角三角形を作り、角度を微調整で変えていく。

 いつになく真剣な眼差しを向けるサマと俺は、出来上がった瞬間に何故か抱き合った。



「完成した!」


「早速やってみましょう!」


 俺は金棒を、作り上げた直角三角形の上にそっと乗せた。

 あまり乱暴に乗せると、三角形が崩れるかもしれないからな。



「よし、準備OKだ」


「カウントダウンスタート!」


 俺は金棒の持ち手に、そっと手を添える。



「スリー、ツー、ワン!」


「タケシ、ブロウゥゥゥゥイングゥゥゥゥ!!!」


 ゼロのタイミングで俺が叫ぶと、金棒から猛烈な風が吹き出す。



「いっけえぇぇ!!俺の金棒マグナムゥゥゥ!!」


 金棒が土台である直角三角形を飛び出し、真っ直ぐに巨人の脇腹へと飛んでいく。

 激しい金属音が聞こえると共に、飛び出した金棒が俺達に暴風をぶつけてくる。


 しばらくすると金棒は、ゴトン!という鈍い音を立てて地面に落ちた。



「ど、どうだ?」


「タケシ殿、凄いですよ!ほら、人が潜り込めるくらいの隙間が出来てます!」


「おぉ!」


 まさか成功するとは思わなかった。

 俺の身体の大きさでは入れないけど、サマの身体なら無理すれば入れるくらいだ。

 良かった。

 これでようやく作戦を遂行出来る。



「流石はタケシ殿ですね。こんな作戦、普通なら思いつきませんよ」









「うん。そりゃそうだろうね。だってコレ、絶対使い方間違ってるもの。ちょっと疲れたから、遊び半分で言っただけだもの。でも成功したから、結果オーライだな」

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