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巨人の倒し方

 まさにチートキャラ。

 どうしてこんな男に勝てたのだろうか?

 ムッちゃんが総合格闘技のチャンピオンなのは、周囲の人間で知らない者は居ない。

 しかし格闘技を始めた理由に関しては、そこまで多くはない。

 そして彼が始めたキッカケこそ、格闘ゲームで勝ちたかったという微妙な理由だった。


 彼が考えたのは、どうしてパンチやキックが上手く当たらないのか。

 何故流れるようにコンボが決まらないのか。

 そういう点だった。

 ではどうやったら、上手く当てられるようになるのか?

 普通なら、そのゲームをやり込むという考えに達すると思う。

 しかし彼は自分で身体を動かして、どうやったら繋がるか試してみようとなった。

 これだけは言える。

 相当残念な頭の持ち主だ。


 ちょっと考えてみてほしい。

 格闘技のチャンピオンだからといって、格闘ゲームが上手いか?

 サッカー選手やプロ野球選手だから、サッカーゲームや野球ゲームで強いのか?

 おそらくそう考える人は、居ないと思う。

 確かに有利な点もあるだろう。

 サッカーだったら、プロならではのパスやシュートコースを見つけたり出来るかもしれない。

 野球でもキャッチャーなら、プロならではの配球というのも考えられる。

 でもそれが出来るからゲームが上手いかと聞かれたら、僕なら首を傾げる。


 ムッちゃんはそうじゃなかった。

 そしてゲームのキャラに応じた格闘技を、一通り試していた。

 空手や柔道だけじゃない。

 相撲のようなものもあれば、中国拳法にコマンドサンボのような軍隊格闘みたいなものまで挑戦したらしい。

 ハッキリ言って馬鹿だと思う。


 でもそれを真面目に取り組んだからこその、総合格闘技のチャンピオンなんだ。

 これで頭も良かったら、完璧としか言いようが無い。

 さぞモテた事だろう。

 僕は改めて思った。

 馬鹿で良かったと。












 おっさんが心底驚いている。

 オリジナルって言ってたけど、ウネウネの持ってた10本の大鎚とは、違ったのかな?


 おっと!

 それどころじゃない。

 残心を決めたが、俺はまだ大鎚を壊しただけ。

 おっさんを倒したわけじゃない。



「まだだ!」


 やはり隠していたか。

 俺もよく知っているハンマーが、おっさんの背中から飛び出してきた。

 大鎚とは違い、小鎚は空を飛ぶらしい。



「行け!」


 規則正しく俺の周りを、等間隔で飛んでいる。

 後ろにも警戒していると、突然前から勢いよく飛んできた。

 それを掌打で叩くと、一つ目を皮切りに続々と飛んでくる。

 だがチョロチョロと鬱陶しいだけで、こんなのでは俺は倒せない。

 大鎚で頭をぶっ叩いても、死ななかったんだ。

 それくらいおっさんも、気付いてると思うんだが。



「まさか、狙いはあっちか!?」


 俺が小鎚に警戒している中、おっさんの姿が目の前から消えていた。

 それもそのはず、残しておいた最後の大鎚を拾いに向かっていたのだ。



「渡してたまるか!」


 俺は小鎚を無視して、おっさんの後を追った。

 等間隔で周囲を回るのをやめないのは、多分そういう決まり事があるんだろう。

 おかげで無視しているのに、一斉に飛んでくる事は無かった。

 と思ったけど、おっさんが何かをした途端に、小鎚が俺に襲い掛かってきた。



「ぬおぉぉ!?イタッ!イテテッ!邪魔だっつーの!はうっ!」


 顔面に集中して小鎚が飛んでくる中、1本の小鎚が俺の股間に命中する。

 他の小鎚は目眩しで、股間を狙った本命を見えないようにしていたらしい。

 金的を回避する術は色々と覚えてるけど、流石にハンマーで叩かれる事は想定してない。


 痛みと衝撃が股間を通り越して、ダブルで内臓にやって来た。

 このまま倒れ込みたい気分だけど、あのおっさんは許せない。

 俺に金的をかましてくれた後、振り返って一瞬笑いやがったからな。



「しつこいな!」


 俺が倒れなかったからか、小鎚が何度も股間に飛んでくる。

 超回復サマサマだ。

 少し走ったら痛みは無くなった。

 だけど俺が両手でガードしながら走っている間も、顔面に小鎚は集中して叩いてきている。

 おっさんとの距離は縮まっているが、このままだと追いつく事は出来ない。



「ええい!」


 俺はガードを解いて、腕を大きく振って走る事にした。

 バンバン小鎚が顔面に当たるが、全ては我慢である。



「な、何だと!?おのれ、バケモノめ」


「も、もう少し・・・」


 小鎚で叩かれて、顔は腫れ上がっている。

 しかしちょっとするとその腫れも引いて、またその上から叩かれる。

 痛みだけが継続してやってくるが、そんなものは慣れ。

 幸い回復した目だけは当たらないようにしていたからか、目標は見えている。



「この!」


 左腕を横に振り、俺に当てようとしてくるおっさん。

 だが俺はそれを掴んで、逆に手首を捻っておっさんを転がした。



「この技、ロック殿の!?」


「あー、合気道だね」


 地面に転がった一益は、呆然とする。

 転がるおっさんに手をヒラヒラと振った。



 そして俺は、おっさんよりも先に大鎚を掴んだ。









「へっへー。残念だったな」


 俺は勝ち誇りながら、その大鎚で何度も振って鬱陶しい小鎚をぶっ叩いた。

 数本は逃したけど、半分以上は壊したはず。

 転がるおっさんにゆっくり歩きながら近付いていくと、俺は言ってやった。



「俺の勝ちだな」


 武器を全て壊され、残った1本も俺が手にしている。

 おっさんが徒手空拳に強いとは、聞いていない。

 おっさんに勝ち目は無くなったのだ。

 しかしまだ余裕を見せるおっさん。



「それはどうかな?」


「何?ぬおっ!?な、何だ?」


 急に大鎚が自ら動き始めた。

 おっさんに向かって戻ろうとしているのか、俺はそれを拒否しようと両手で引っ張る。



「それ!」


「ぐはっ!そ、それはズルイ・・・」


 おっさんは両手が離せずにいる俺の股間に、パンチを入れてきた。

 痛みで顔が赤くなったり青くなったりしているが、まだ両手は離していない。



「離さんかい!しつこいぞ!」


「おっさんこそ負けを認めろ!」


 またパンチをしてこようとするのでそれを左膝で受けると、おっさんは拳を痛めたのか、苦い顔でたたらを踏んだ。



「チャンス!」


 おっさんの顔に左のミドルキックを入れると、おっさんは吹っ飛んでいく。

 すると大鎚が軽くなった。



「うぐっ!」


「悪いなおっさん。トドメだぜ」


 俺はおっさんの顔面に向かって、大鎚を振り下ろした。














「・・・あ、当たっていない?」


 おっさんは当たる直前に強く目を閉じた。

 俺はその顔面の横に、大鎚を振り下ろしていた。

 そして俺は、大鎚をそのまま手放した。



「何故だ?」


「別に殺す気は無いからな」


「戦場で敵に情けを掛けるなど、甘いわ!」


 急に起き上がり、大鎚に手を掛けるおっさん。

 しかし俺は、そのままおっさんの背後を取り、左腕を首に回して右腕で側頭部を押さえた。



「悪いなおっさん。殺す気は無いけど、負ける気も無いんだわ」


「ふ、ふぐぅ!」


 大鎚を手放し、俺の腕を掴んでくる。

 どうにかしてもがき、締め技から脱出しようと両足をジタバタさせているが、数秒するとおっさんは静かになった。



「落ちたか」


 ゆっくりと締め技を解き、おっさんが落ちている事を確認する。

 そして俺は股間をさすりながら、おっさんに言った。



「フゥ。結構キツかったなぁ。まあタップされても、技を緩める気は無かったけどね。だって俺、ヒールですから!」


 さて、サマを追ってクリスタルをどうにかするとしよう。











 俺が光の先へたどり着くと、そこには思いもよらない光景があった。



「サマ!?」


「た、タケシ殿!滝川殿に勝ったのですね!?」


 サマは動きながらも、俺を見て喜んでいる。

 剣で腕を弾くサマは、余裕があった。



「な、何してんだ?」


「見ての通りですよ。どうやら最後の砦として、こんなのを用意していたみたいです」



 俺が見た光景。

 それはサマが、小さな建物の前に立つ大きな金属の巨人を相手に、戦っている姿だった。



「大丈夫なのか?」


 余裕のある姿を見る限り、この巨人が強いとは思えない。

 しかしサマは避けるだけで、反撃はしていないのだ。



「それがですね、硬くて斬れないんですよ」


「金属だもんなぁ。それは仕方ない」


 でも俺は知っている。

 こういう時、この巨人に仕掛けがあると。



「サマよ、よく見るんだ。奴の額には、何か書いてあるだろう?」


「え?ほ、本当だ!」


 フフフ。

 ちょっと前にコウちゃんから、同じような話を聞いたからね。

 今日の俺は違うぜ。

 インテリジェンスなところも、サマに見せちゃおうかなー!



「額には、EMETHと書いてないかな?そのうちの頭文字であるEを削ると、止まるんだぞ」


「そ、そうなんですか?」


「そうだ」


 俺がそんな知識を持っているのが、そんなに信用出来ないのか。

 サマの声は疑っているように聞こえる。



「だからサマよ、Eの文字を削るんだ!」


「で、でも!」


「そういうの良いから。早くやっておしまい!」


「で、出来ませんよ!」


 サマは叫ぶと、ちょっとキレ気味になっている。

 この野郎、さっさとやりなさいよ!



「どうしてそんな事も出来ないんだ!」


「だって見て下さいよ!Eの文字なんか、何処にも見当たりませんよ!」


「へ?」


 俺はサマが戦う巨人を、もう一度まじまじと見てみた。

 言った通り、額には文字がある。

 が、よく見ると文字数が多いような?

 EMETHなら5文字だから、すぐに分かる気もするのだが。



「ぐ、ぐあうど・・・な、何て読むんだ?」


「タケシ殿、ガーディアンですよ」


「し、知ってるとも!サマを試しただけなんだからね!」


 ガーディアンか。

 たしか昔、そんな名前の大会に出たような?

 そんな事はどうでも良い。



 Eが無いんですけどぉぉ!?

 どうすれば止まるのかな?

 コイツ、どうやって止めれば良いのかなぁ!?

 えーと、Guardianか。



「タケシ殿、どうしましょう?」


「じ、Gを削ると、何か他の意味になったりする?」


「しませんよ」


「てすよね〜」


 だったら他の文字を書き足す?

 いやいや、それ逆に難しいでしょ。



「タケシ殿!」


「ちょ、ちょっと待って」


 他に手があるとしたら、一文字を削るのも足すのも無理なら、二文字以上足してみるとか?



「タケシ殿!」


「ちょっと待ってって!」


「タケシ殿!」


「ダアァー!!何よ!?」


「タケシ殿が殴って、破壊すれば良いのでは?」


「・・・」


「タケシ殿?」











「早く言ってよ!」

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