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新たな来訪者

 蘭丸が抱いていたセリカへの苦手意識。

 それはオークと似ているからだという事だった。

 色黒で馴れ馴れしい。

 実際に会った事が無いのでどんな連中か分からないが、話を聞く限りでは、ただのパーリィピーポーだった。

 正直なところ、僕等も苦手なので分からなくはない。


 そしてセリカに好印象を持ってもらう為、蘭丸の好みを聞き出した。

 一言で言うとマザコンだった。

 でもあんな綺麗な母親なら、憧れても仕方ないとも思う。


 ちなみに蘭丸の情報を聞き出している間、セリカには母親の長可さんの所へと向かってもらった。

 母親から気に入られると、有利に働くかと思ったからだ。

 しかし、マザコンかもしれない蘭丸。

 その母親から嫌われでもしたら、決定的な駄目出しとなってしまうところだった。

 少し緊張しながら向かうと、逆に何故こうなったかという程の好印象。

 長可さんはセリカの事を気に入っていた。


 そしてセリカに蘭丸の好みを伝え、改善出来る点を報告した。

 すると全ての点で、ほぼ一致していた事が発覚。

 彼女を蘭丸好みの女性へと変身させ、僕は蘭丸を彼女の元へと案内したのだった。





 僕の家に到着して、各々が挨拶をしている。

 その中に、蘭丸どころか僕も見知らぬ綺麗な女性が立っていた。


「どちら様ですか?」


 驚いた顔の蘭丸に、その女性は会釈した。


「今日の食事は私が用意致しました。是非お召し上がりください」


 蘭丸の問いには答えず、来ている人達に勧める。

 まあ僕は誰だか分かっているわけだが。

 蘭丸はその子を目で追うだけで、訳も分からずに席に着いた。


「なあ、あの子って最初から安土に居た?」


「最初からではないが、ちょっと前から居たみたいだぞ」


 どうにも気になるのか、しばらく安土を留守にしていた僕に聞いてくる。

 普通ならしばらく居なかった者に聞いても、意味が無いと分かると思うのだが。

 蘭丸にはその余裕も無いようだ。


「おいしそう!ビビおじさんと一緒に食べるの、久しぶりだね」


 気付いたら今日は、軽い宴会といった形になっていた。

 ビビディさんには、城の進行状況や何か不足している物が無いかを確認したくて、来てもらった。

 チカも一緒だから、尚更嬉しいのだろう。


「冷めると勿体ないので、いただきましょう」


 長可さんの号令で乾杯をして、宴会のスタートとなった。

 甲斐甲斐しく飲み物や空いた皿を片付けるセリカを見て、蘭丸はとうとう本音を曝け出した。


「あんな子居たんだ。彼女もビビディ殿達の仲間かな?少し話がしたいなぁ」


「ほほぅ?話がしたいとな?」


 これはチャンスだ。

 一気に蘭丸を落としにかかろうではないか!


「すいませ〜ん!飲み物いただけますか?」


「は、ハイ!少々お待ちを」


 セリカに頼んで飲み物を二つ持ってきてもらった。

 そしてそれを蘭丸にドーン!


「あ!ごめんねごめんねごめんね〜!そのままだと風邪引くかもしれないから、着替えに行ってこいよ」


「なんか謝り方がムカつく」


「悪いんだけど、蘭丸にタオル渡しに行ってもらえる?」


「分かりました」


 そして二人で宴会場を後にする。

 二人で飲み会を抜けるとか、何だろう。

 過去の記憶でも似たような事はあったが、どうにも腹が立つというか羨ましいというか。


【覗きに行こうぜ!】


 それだ!

 少し離れた所でそっと見ていると、なかなか面白い場面に遭遇した。


「あああ、ありがとうございます」


「いえ、頼まれましたから」


「それでも!ありがとうございます」


 緊張している蘭丸だが、普段はこんな姿を見せない。

 だからか少し笑えてきて、今は自分の口を押さえている。


「笑ったら駄目ですよ。魔王様」


 後ろから小声で話しかけられて振り返ると、なんと長可さんが一緒に覗きに来ていた。

 更に後ろにはハクトとチカ、それとダビデとオーグというカップルも来ている。

 多過ぎだろ!と慌てていると、チカが見えないと騒ぎ出した。

 そんな事したら、なんて思っていたら、案の定隠れていたのに後ろから押し出されて、バレてしまった。


「お前等!何してんだ!」


「いや、厠は何処かな〜みたいな?」


「自分の家なんだから、分かるだろうが!」


「おっしゃる通りですね。じゃ、お邪魔なので退散するとしますか」


 さりげなく離れようとしていたが、青筋がこめかみに見えている蘭丸には通用しなかった。

 そんな時、神の一声が掛かる。


「蘭丸!」


「母上!?」


「あなた、その子の事が気に入ってるのですか?」


「気に入ってるというか、何というか・・・」


「ハッキリしなさい!」


 ストレートに聞いている。

 母親に色恋沙汰で首突っ込まれるって、ちょっと嫌だなぁ。


「ハイ!気になっております!」


「じゃあ婚約しなさい」


「え!?」


「え!?」


「え!?」


 蘭丸が、セリカが、そして僕も同じ事を言った。

 それくらいにぶっ飛んだ言葉だったからだ。


「このままズルズル行くよりは、さっさと婚約しちゃいなさいな。今は戦時下なのだから、いつ死んでもおかしくないのよ?」


 そう言われると確かに。

 なんて思ったが、現代日本から召喚されたセリカからしたら、話が明後日の方向過ぎて、頭がついていかないのでは?


「私は心の準備が出来ております」


 頬を赤らめながら、承諾の意思を示した。

 交際どころかいきなり結婚か。

 まさに政略結婚があった戦国時代だな。


「蘭丸!乙女にこんな事言わせておいて、あなたが先に意思を示さないでどうするのです!」


「申し訳ありません!私も結婚の約束をお願いしたいと思っております!」


 背筋をピンと伸ばして、大声でその言葉を言ってしまった。

 長可さんは一瞬ニヤリと笑い、その後はいつもの笑顔に戻っていた。


「あら、そう。じゃあ、今日の宴会は婚約記念という事でよろしいですね?」


「はい」


 何だろう。

 この、やり込められた感は。

 僕主導で始めたはずなのに、気付けば長可さんの掌で転がされていた気がする。


【お前がこうも手玉に取られるとはね。俺なら何が何だか分からないまま、終わってそう】


 僕が今、まさに何が何だか分からないまま終わったよ。

 長可さん恐るべしだな。


「ちょっと!でも俺、まだ彼女の事よく知らない・・・」


「それじゃ柳生さん。式の日程はまた今度決めましょうね」


「分かりました。長可様」


「あら、もうお義母さんでいいわよ」


 蘭丸の事を無視し、セリカと勝手に話を進める長可さん。

 そして相手が誰なのかようやく分かり、開いた口が塞がらない蘭丸は、誰の言葉も耳に届かないのであった。



 翌日になり、長可さんが蘭丸を連れて訪ねてきた。


「魔王様にお願いがあるのですが」


「何ですか?」


「コレについてなんですが。まだまだ半人前の身なので、式はしばらく先にしようとなりまして」


 コレという名の息子を、二の腕を持って此方に差し出してきた。

 蘭丸は少しふて腐れたような態度である。


「早く結婚をさせたいので、一人前に育ててくれませんか?」


「え!?何で僕が?」


「魔王様と共に居れば、実戦経験が積めますから。エルフは長寿故に焦りなどを感じませんが、セリカさんはヒト族ですので。今回は急ぎ一人前になっていただきたいのです」


 完全に長可さん主体で話が進んでいる。

 おそらくはその話で揉めたのであろう。

 蘭丸の頬にはビンタされた後が残っていた。


「セリカさんは私が一人前の花嫁に育て上げます。なので魔王様は、蘭丸の事をよろしくお願いします。蘭丸!一人前になるまで、家に帰ってこなくていいから」


 それだけ言い残して、長可さんは帰っていった。

 僕、返事もしてないんだけどな・・・。


「蘭丸?」


「どうしてこうなった・・・」


「それは・・・何でだろね?」


「おーまーえーがー!何かしたんだろう!?」


 襟を掴まれ、ブンブンと身体を前後に振られる。

 子供の身体なので、物凄い勢いになっていた。


「が、頑張ろ?大丈夫。帝国との決着が着く頃には、立派に一人前って言えるから」


「それ、いつの話だよ」


 それっきりお互い無言になり、僕はそっと家の鍵を閉めた。



 後日、蘭丸はセリカと話をしていた。

 十日に一度、お互いに時間を割いて過ごす事にしているらしい。

 長可さんからは、半人前の男が女にうつつを抜かす暇があるなら、とっとと一人前になりなさいと言われているようだが。

 十日に一度というのは、その長可さんからの許可だった。

 極力避けていたセリカの事など何も知らなかったので、まずはお互いを知る事から始めているらしい。

 第三者である僕は、らしいというくらいしか知らないんだけど。

 他人の色恋沙汰に詳しくなっても、何の面白味も無いのでね。

 僕にも、あんな彼女がいつ現れるのでしょうか?

 その夢は叶うのかすら怪しいです。





 蘭丸の件が片付いたという事で、そろそろ長浜へと戻ろうかと考えている。

 ラビさんが偵知から戻ってくる前に、出来れば長浜へと戻りたいからだ。

 情報は鮮度が命。

 古い情報は、逆に命取りにもなりかねない。

 だからこそ、先に戻る必要があると思っていた。

 しかしその願いも虚しく、新たな火種がやって来る事となる。



「魔王様!少々よろしいでしょうか!?」


 又左が勢いよく駆けてきた。

 焦っている様子からして、急な案件のようだ。


「どうしました?」


「王国の一団が、安土へと向かっております!」


「一団?人数は?」


「おそらく千人以上は居るかと」


 うーむ、ちょっと微妙な数字だぞ。

 安土には魔族がどんどんと集まっていて、今では万にも届く人数だ。

 今でもその人数は増えており、町の拡張はズンタッタとビビディさんがノーム達と行っている。

 もはやオーガの町から都市へと、大きく変わっているのだ。


 そんな安土に千人、多く見積もっても二千は居ないと思われる一団で、この安土が落とせると思えない。

 では、何故安土へと姿を現したのか?

 しかもこのライプスブルク王国というのは、特に魔族を忌み嫌うヒト族が集まっている。

 というよりは、王族貴族が嫌っているだけかもしれない。

 そんな連中が、戦を仕掛けに来た?

 少ない人数で勝てるかも分からないのに?

 やっぱり皆目見当もつかない。


「どんな様子なの?」


「それが、安土が見えるある場所に陣を敷き、一向に動く気配は無いそうです」


「戦闘準備はしてます?」


「いえ、最低限の守備だけのようで、特には何も」


「城作りでも見学しに来たのかな?」


 どうやら戦う気は無いらしい。

 王国の軍の割には、随分とおとなしい気もする。

 小人族の連中にやった事を考えると、どうにも良い印象は無い。

 そういう連中だからこそ、あまり刺激するのも考えものだ。

 下手に藪を突くと、中から蛇が出てくるかもしれない。

 帝国と違い、装備がミスリルで固められているわけではないので、そこまで警戒する必要も無いのだが、玉砕覚悟で安土に攻撃されても困る。

 やはりここは、余裕を持って静観するのが一番だろう。

 なんて思っていたのも束の間、すぐに動きがあった。


「失礼します。王国側から、魔王様への謁見が申し込まれております」


「魔王様。如何致しましょう?」


 謁見ねぇ。

 この前の詫びかな?

 相手が相手だから、あまり気は進まないけど。

 ここで断ると、心が狭い奴って思われそうだし。


「分かった。会議場へと案内してくれ」



 というわけで、会議場に向かう事になった。

 いつもの服装より立派な物に着替えさせられ、魔王っぽく角の生えた王冠のようなモノを被っている。

 ちょっとダサい。

 しかしダサいと思っても、向こうからすると威厳のある姿に見えるらしい。

 会議場に入り、王国の一団が待っている部屋へと向かう途中、外交担当の長可さんから相手の詳しい話を聞いてみた。


「相手は誰か分かっているのか?」


「今回の代表者は、王国の姫君だそうです」





「姫!?」

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