歩んだ道
クラーケンか。
その発想は無かったなぁ。
一益はオリハルコンで、自分専用に多数のマジックアームを作り出していた。
ちなみにコバと昌幸の共作である皆のオリハルコン装備は、使用する本人の意見が強く反映している。
慶次なら槍だけど、彼は自分が得意とする伸びる槍を、更に進化させた仕様となっていた。
対して佐藤さんは、ボクシングでは遠距離攻撃が出来ないという苦手分野を克服する為に、エル・フィニートというかなり特殊なグローブにしている。
そして僕の中で一番変わっていると思うのが、水嶋の爺さんが考えた、姿を消す外套だ。
正直な話、武器ではない物を作るとは思わなかった。
しかしよくよく考えてみると、爺さんの能力は銃を自由に出現させる能力だった。
狙撃銃以外にも散弾銃も出せるようになっているし、今後も成長すれば新しい銃が出せるようになると思う。
そうなると確かにオリハルコンで武器を作るより、防具や補助的な物の方が役に立つと、本人は気付いていたのかもしれないね。
このように、彼等が武器や防具で強化を図ったのに対し、一益は装備出来る数を増やすという考えに至っていた。
これは水嶋の爺さんと似た考えではある。
だって一益は、強力な武器なら自分が作れると思っているのだ。
その武器を多数持てるようになれば、それだけ攻撃力が増す。
そういう考えなのだろう。
問題はそれ等を、本当に使いこなせるのかという点なのだが。
僕達もまだそこまでは分からない。
ただし、一つだけ疑問もある。
佐藤さんが左右のグローブを自在に操るのに、脳に相当の負担があった。
じゃあ12本という腕は、本当に自在に操れるのだろうか?
僕にはそれが、無理なような気がしてならないんだよね。
アレ?
世間一般の常識じゃないの?
映らなくなったテレビとか、バンバン上を叩くと映ったりするって、普通だと思ってたんだけど。
俺の家にあったCDプレイヤーも、音飛びが酷かったから平手でパシパシ叩くと、ちゃんと流れるようになったし。
ただし曲が一番最初に戻ったりしてたけど。
「バカだなぁ。持つ部分が壊れたからって、大鎚の威力が下がるわけじゃないんだ。だからビームも出るでしょ」
「馬鹿はお前だ!大鎚にしたって、振り下ろすには遠心力等を利用する。柄が無くなれば、それだけ力が入らずに威力は激減するのが当然だろうが」
ふむ。
なんとなく言ってる事は分かるが、小難しく言い過ぎだと思う。
要は威力が下がるのは当然だと言いたいんだろう。
でもそれは、大鎚の場合に限るはず。
「ビームなら関係無いよね」
「だから、引き金も無いのにどうやって出すというのだ」
「こうやって」
俺が砲口の反対側を強く叩くと、ビームが発射した。
右斜め上にあった腕に当たりはしたが、オリハルコンはそう簡単に壊れないらしい。
焦げついたような跡は残ったが、無傷に近いと思われる。
「それで出るのがおかしいと言うのだ!」
「でも、出るものは出るんだから。アンタ、そんな怒鳴り過ぎると、頭の血管がプッツンするぞ?」
「怒らせてるのはお前だろうが!ハッ!?まさか・・・そうか。これもお前の作戦というわけだな」
「はぁ?」
このおっさん、何言ってんだ?
「そうか。怒らせてワシの冷静さを奪う作戦なのだな?途中で気付いて良かったわい」
「いや、俺が言ったから気付いたんだろ?」
「黙れ!おっと、これも奴の手の内か。危ない危ない。タケシめ、思ったより頭脳戦を仕掛けてくる」
うん?
なんか俺がやったみたいになってるけど。
まあなんとなく、よく見られた気がするからこのままで行こう。
「腕に当たっても壊れないなら、大鎚を破壊すれば良いんだ!」
俺が大鎚を叩くと、ビームが飛んでいく。
そして俺は気付いた。
太鼓みたいに持ったら、もっとビームが出るかもしれないと。
「ワハハ!それそれー!」
思った通りだ。
脇に大砲を抱えて、それをリズム良く手で叩く。
ビームが沢山出るようになったぞ。
「や、やめんか!うおっ!?」
適当に叩いているから、狙った所には飛んでいかない。
でも数本の大鎚には当たり、案の定壊す事には成功した。
だったらこの調子で叩けば、全て落とせる!
「それそれー!ん?アレ?」
急にビームが出なくなった。
何度叩いても、ビームが出てこない。
何か詰まったかな?
「うおっあっちゃあ!」
砲口を覗き込んだ瞬間、ビームが飛び出してきた。
俺の顔面がビームで焼かれ、目は乾燥して涙が止まらない。
「今だ!」
「おごっ!ゲフッ!や、やべ・・・」
目が渇いて何も見えないが、明らかに大鎚でタコ殴りにされているのが分かる。
俺は頭と身体をを丸めて腕で守りつつ、この状況が打開出来るチャンスを待った。
しかし、一向に目は回復しない。
こんな事なら目薬ももらえば良かった!
「ガハハ!これでタケシも終わりだな」
反論したいが、下手に喋ると舌を噛む可能性がある。
悪口を言われまくっている気がするが、頭を何度か叩かれたからか、耳も変な感じになっている。
このままでは、一方的に殴られて終わってしまう。
俺の真の実力を見せる時が来たようだ。
達人なら目が見えなくとも、気配を察知してそれを避ける事が出来る。
俺だって色々な格闘技を習ってきたんだ。
やれば出来る!
「そりゃ!」
「むぅ!?」
俺はおもいきり腕を開くと、大鎚を弾いてそのまま今向いている方へと走り出した。
流石に俺が逃げるとは思っていなかったのか、おっさんが少し戸惑っているような声が聞こえた。
俺は目を閉じたまま振り返り、構えた。
全てを感じるままに、流れに身を任せる。
「来い!」
「そりゃ!」
「イデッ!アタッ!イデデデ!!」
だ、ダメだぁ!
全く感じないぃぃぃ!!
誰だよ、達人なら分かるって言った奴は!
俺だよ。
はあぁぁぁ!!
俺、何言ってんのかな・・・。
あ、ヤバイ。
側頭部をおもいきり叩かれて、地面に倒れた。
立とうとしたけど、腕に力が入らなくて起き上がれない。
「終わったな。このまま永遠に眠らせてくれるわ!」
あぁ、頭がクラクラする。
目の前がぼやけてるが、大きい何かが顔面に落ちてくるのは分かる。
それが顔面に直撃し、頭ごと地面にめり込んだ。
真っ暗だ。
痛みとかそういうのは感じない。
だけどフワフワした感じはある。
このまま身を任せれば、遠くへ飛んでいける気がする。
「士郎。起きろ」
誰かが俺を呼んでいる。
そういえば、士郎って呼ばれるのはいつぶりだろうか。
気付けばタケシという名前が定着して、俺の下の名前を呼ぶ人なんか居なくなっていた。
ケンちゃんとコウちゃんも、俺の事は小さい頃のあだ名でムッちゃんと呼んでくるし。
士郎って呼ばれたのは、道場の師範が最後かな。
「そうだ士郎。お前は私が教えた事を、何も見せていない」
「すいません」
「プロレスに没頭するのも良い。だが、お前が歩いてきた道を蔑ろにするのは、どうかと思うぞ?」
「俺が歩いてきた道?」
どんな道があったかな?
あんまり印象に残っていないけど。
「記憶に残らずとも、身体が覚えている。お前は様々な道を歩いてきたはずだ。考えずに身体が思うがままに動かすと良い」
「ハイ。師範」
師範?
師範は死んでないぞ。
「オホン!やっておしまい」
「・・・俺じゃねーか!」
大鎚が顔面にめり込んだ。
普通に考えれば、即死する。
そして動かないタケシの身体を見れば、誰もが死んだと思うのが当然だ。
「帝国最強も、ワシの技術力には勝てなかったか。ワシの技術はコバ殿をも上回ったという事かな?ガッハッハ!!」
一益は勝ち誇り、豪快に笑い見過ごしてしまった。
指が微かに動き、その腕が大鎚をガバッと掴んだ。
「うおあぁぁぁ!!ゾンビか!?」
「勝手に殺すなよ」
俺は首を回してゴキゴキと鳴らすと、違和感があった。
どうやら首の骨が折れていたらしい。
以前であれば、死んでいてもおかしくなかったダメージだ。
だけど俺は復活出来た。
もしかして、超回復の能力も上がっているのか?
「どうせ瀕死の死に体だ。トドメを刺してくれる!」
「どすこい!」
どすこい?
何故か勝手に、自分の口から出た言葉だ。
それと同時に腰を落とした俺は、右の張り手を横振りに飛んできた大鎚にかましている。
「なんだと!?」
「ハッ!」
止まった大鎚に踵落としを入れ、地面に落ちたところを踏みつける。
そしてトドメの踏みつけで、大鎚の柄が折れた。
「貴様、よくも高綱改を!」
「ほわっちゃあ!」
勢いをつけて木を蹴り、三角飛びで一番高い腕の大鎚の柄を、下から蹴り飛ばす。
すっぽ抜けたように大鎚が空を舞うと、腕がそれを再び掴もうとしたので、掴んだ。
そして目の前には、さっき三角飛びで使った木がある。
「腕を結んだら、どうなるかな?」
「や、やめろ!」
焦っているという事は、おそらく切り離しは出来ないんだろう。
俺は腕を持ったまま木を一周し、腕を縛りつけた。
やはり伸びると言っても、限度があるみたいだな。
おっさんは逃げられなくなったみたいだ。
「この!まだまだ腕も高綱もある!」
「アタタタタ!ホアタァ!!」
襲ってくる大鎚を全て叩き落とし、近くに落ちた物は踏みつける。
自由自在に動かせると言っても、その速度は人並み程度。
落ち着けば見えないわけじゃない。
「ば、馬鹿な・・・。ワシのクラーケンが」
「10本の腕とおっさんの腕。合わせると確かに凄い数だが、所詮はおっさんのスピードでしか動かせない。これがもし、佐藤さんや鳥のオカマの人みたいなスピードで動かせるなら、流石の俺でも何も出来なかったな」
「あんな速さで動かせるはずが無かろうが!」
「それがおっさんの限界だって事だろ」
「ぐぬぬ!!」
言い返せなくなったからか、おっさんが歯軋りをしながら睨んでくる。
でも本当の事を言ったまでだ。
もしくはその遅い腕のスピードをごまかす為に、ビームを活用するべきだった。
そうすればビームを目隠しにして、大鎚で殴る事も出来たと思う。
まあ、今となってはあとの祭りってヤツだけど。
「さて、残るはおっさんの腕だけ。大鎚も2本だけど、どうする?」
「貴様、良いのだな?」
俺が手まねきすると、おっさんは左手の大鎚を落として、両手で1本の大鎚を持った。
「おっさんが負けを認められるように、その大鎚を砕いてやるよ」
「ふざけた事を言いおって。再び頭を砕いて、今度こそ永遠に眠らせてくれるわ!」
おっさんの大鎚が、間合いに入った。
お互いに手を出せば当たる距離だ。
俺は腰を落として、左手を前に出して右腕を後ろへ引く。
俺が避けないと分かり、渾身の一撃を決めようと考えたのか。
おっさんは大きく膝を曲げてジャンプすると、空中で一回転しながら大鎚を振り下ろしてくる。
「死ねぃ!」
「せいやっ!」
左手で頭の上に落ちてくる大鎚を受け流し、右拳を前に突き出す。
「ば、馬鹿な!オリジナルの高綱が砕けるだと!?」
「これが俺の最初に教わった技、正拳突き。今までとは違い、久しぶりに本気で打ち込んだ一本だ。どんなに硬い物だろうが、俺の拳は全てを打ち抜く!」




