壊れた大鎚
ムッちゃんにも弱点はあったのか。
ムッちゃんを倒すには、幾つかの方法がある。
しかしそれを実行するのは、並大抵の事ではない。
まず一つ目に挙げるなら、遠距離から一方的に攻撃をするという事だ。
ムッちゃんは格闘技が得意だが、他はそこまで得意ではない。
総合格闘技のチャンピオンだからといって、野球やサッカーみたいな球技が得意なわけじゃないのだ。
だから豪速球は投げられるかもしれないけど、方向は定まらないと思われる。
なのでムッちゃんの攻撃範囲から外れた場所から、ずっと攻撃をすれば勝てなくはない。
しかし問題もある。
それは確実性に欠けるという点だ。
頭にばかり当てられるなら、ムッちゃんだって倒せると思う。
でも頭を守られたら、ほとんど倒せる可能性は皆無だろう。
それに遠距離から攻撃するにしても、弾数や魔力にも限りがある。
弾や魔力が無くなれば、一転してこちらがピンチになってしまう。
ムッちゃんの急所を的確に射抜く力があれば良いが、そうでなければ難しいという事だ。
そして二つ目に挙げられるのは、失神させるという事。
ムッちゃんの能力である超回復にも、弱点はある。
そのうちの一つが、気絶は治せないという点だ。
要はムッちゃんを絞め落とせば、彼は失神するという事である。
言葉にするのは簡単なんだけどね。
そしてムッちゃんは前述の通り、総合格闘技のチャンピオンだった。
コレがどれだけ難しい事を言っているのか。
佐藤さんやイッシー辺りにやってみてと頼めば、すぐに首を横に振るだろうね。
他にも心臓を止められれば殺せるとは思うけど、それこそ難しいだろう。
そう考えると大鎚による打撃というのは、ムッちゃん相手にはかなり有効な攻撃だと思う。
もしかして初めてムッちゃんを倒せるのは、僕達以外だとあの滝川一益なのかもしれないな。
待てよ。
俺の超回復は腕を斬られても重打撲を負っても、ものの数分で治るようなレベルだ。
しかし俺にも自分で知らない事実もある。
そのうちの一つが、さっき内臓には適用されない事だった。
そしてもう一つ、今知った事がある。
髪の毛も治らないという事だ。
もしかしたら時間さえ経てば治るかもしれないが、チリチリになった髪の毛が元に戻るとすれば、これを一度切らないとダメな気がする。
そうなると俺は、しばらく坊主頭になるという事だ。
「うわ、モフモフしてる。思いがけずにアフロになってしまった」
「間抜けなツラになりおったな」
「顔と頭は関係無いだろうが!そんな事言ったら、アンタ等だって短足とか呼ぶからな」
「短足ではないわ!種族的に、お前等ヒト族より短いだけだ」
やっぱり短足は気にしてたんだな。
まあ他の魔族と会う機会が増えれば、自分達の特徴が良いか悪いかくらいは気になるかな。
うちらだって背が高い低い、体重が軽い重いで色々と言ってるし。
それが普通なのかもしれない。
「さてと、サマもだいぶ進んだようだし。そろそろ本気で倒しに行くぜ」
「進む?」
あら?
ちょっと予想外。
おっさんなら俺の狙いに、気付いていると思ったんだけど。
俺は上に指を向けると、おっさんは訝しげにそちらを向いた。
そして何があるか気付き、顔を真っ赤にして怒り始める。
「貴様!謀りおったな!」
「別に騙したつもりは無いよ。ただおっさんが、勝手に騙されただけだろう?」
「ぐっ!」
俺が言うと、おっさんは大砲をサマが走っていった方へ向けた。
だが既に姿はとっくに見えない。
撃とうとしたが諦めたのか、大鎚へ形を戻した。
「いつから狙っていた?」
「別に狙ってないさ。ただ単に、逃げてもらうならそっちだよなって思っただけ」
そしてサマは俺が何も言わなくても、少し視線を上に向けただけで、気付いてくれた。
サマが走っていったのは、光が延びている先。
クリスタルとアポイタカラがあると思われる場所だ。
ここでドワーフ達が待ち構えていたとなると、おそらくもうすぐ近くにそれはあると思われる。
俺の勘違いかもしれないけど、それでも俺がおっさん達を足止めしていれば、サマならどうにかしてくれると、俺は考えていた。
「フゥ、頭が冷えたわい」
「なんだ、冷静になっちまったか」
「若造を逃したのは失態だった。だがおかげで、余計な事を考えずに済むようにもなった。タケシ、今はもうお前を倒す以外に、考える事は無い」
「そうかい。このキラームトゥーは、いつもより強いぞ」
「ふざけた格好をしている奴に、負けるつもりは無い!」
一益が大鎚を構えると、それをおもいきり地面に叩きつける。
すると周囲の地面から、続々と同じ形をした大鎚が現れた。
「な、なんだぁ!?」
大鎚が浮かび上がると、一益の後ろへ飛んでいく。
それは全部で11本もの大鎚だった。
「これぞ滝川高綱改、干支の大鎚だ!」
「干支の大鎚?」
なるほど。
自分が持っている物を含めると、12本になるからか。
だけど、そんな数だけあっても、扱えないでしょうに。
「扱えないと思ったな?」
ギクッ!
何故分かったんだ?
しかもおっさんがそう言うって事は、扱える手段があるって事だ。
そして俺の考えは、悪い方に当たってしまった。
「行くぞ!クラーケン、発動!」
おっさんが叫ぶと、背中から何かウネウネした物が大量に出てくる。
それは10本もの銀色の腕だった。
それ等はおっさんの背後にあった大鎚を掴んだ。
「ラストは・・・自分で持つのね」
両手に大鎚を持ち、背中から生えた手で10本の大鎚を持つ。
全部で12本の大鎚を持って、俺に攻撃をしようという考えらしい。
ハッキリ言おう。
腕が多過ぎて気持ち悪い。
「ガーハッハッハ!どうだ、我が研究の成果は?安土とは違うだろう?」
「そうなの?」
「なんだ、知らんのか」
おっさんは自慢がしたかったのか、俺に何が違うのか説明をしてくれた。
安土のオリハルコン型の武具は、大半が武器や防具にあてがわれて作られているらしい。
慶次だったら槍であり、佐藤さんだったらグローブ。
他の物も武器や防具に見立てられているらしく、各々が使いやすい専用の物になっているという話だった。
それに対しておっさんは、自分専用という点においては同じだが、考えの根本が違うらしい。
それは武器に見立てて使うのではなく、武器を使う為にオリハルコンの腕を作った。
そしてドワーフ特有の魔法である刻印魔法を駆使して、対複数人を想定した武器となったという話だった。
「対複数と言ったが、個人相手だと更にえげつないぞ。このようにな」
左右から2本ずつ、腕がこちらに向かってくる。
こんなに多くの腕を動かすのだ。
どうせ決まった動きしか出来ないに決まってる。
「って違うのかよー!うごっ!」
俺の中では所詮、腕が左右交互に叩きに来る程度だと思っていた。
しかし実際には、本物の腕と同じように意思を持っているかのように動いてきたのだ。
左の大鎚を避け、右の一本を左手で弾く。
しかし残りの大鎚が、弾いた大鎚の陰から俺に向かってきていた。
そして俺の両腕ごと、横からぶっ叩いてきた。
偶然だったら良い。
でもそれが2回続いたら、偶然とは言えない。
「くっそ!」
「ガハハハ!帝国最強と恐れられたタケシも、ワシのオリハルコン型マジックアーム、クラーケンの敵ではなさそうだな」
「ちょっと当たったからって、調子に乗ってくれちゃって」
なんて言ったものの、これかなりヤバイ。
左右からダブルで叩かれたからか。
内臓が揺さぶられた感がある。
腕の痛みは引いたけど、やっぱり気持ち悪い。
「次は8本で行くぞ」
「くっそ!」
タコみたいにウネウネした腕が、俺の左右や上から、狙い澄まして叩きに来ている。
特に一番ヤバイのは上だろう。
頭を殴られて気絶したら、サマを追い掛けられる可能性もある。
既に見えなくなったとはいえ、ドワーフ達にも乗り物があったらサマに追いつくかもしれない。
だから頭だけは、絶対に死守しないといけない。
「うごっ!ぐへっ!」
「さっきまでの威勢の良さは、何処へ行った?」
「こんのやろう!ハッハー!1本捕まえたぞ」
頭から叩き下ろしてきた大鎚を避けると、俺はその腕を掴んだ。
投げるにも懐が遠過ぎるので、やるならジャイアントスイングだろう。
「このっ!って、アレ!?」
腕がウネウネと曲がって、振り回せない。
俺の頭の上で、腕がクルクルと回るだけだった。
「対複数だと言っただろう。伸縮機能くらいあるわい。それに貴様が投げ技が得意なのは、知っているからな」
「マジかー」
「掴んでも無駄だ」
俺の得意技を潰したと、かなり優越感に浸るおっさん。
その間に大鎚が幾つも俺を狙って飛んでくるが、一つだけ間違いがある。
「たしかに投げられない。でもそれだけだよね」
「負け惜しみか?」
「おっさん、一つだけ間違えてる。掴んでも殴れないワケじゃない。そして俺は、投げよりも打撃の方が元々得意なんだ!」
俺は腕を掴んだまま、その先にある大鎚に掌打を叩き込んだ。
大鎚の柄の付け根が折れ、先の重い頭部分が地面に落ちた。
「な、何ぃぃぃ!?」
「すまんなぁ。偽ったつもりは無いんだけど」
俺は頭を拾い上げると、見回してみる。
すると頭と柄の付け根に近い場所に、妙なスイッチがある事に気付いた。
「何だコレ?」
スイッチを押すと、頭の部分が急に変形を開始する。
驚いてそれを落とすと、それは大砲の形に変化していた。
俺はそれを見て、思わず笑みが溢れた。
「イヒヒ、面白そうな物を手に入れてしまった」
「貴様、ワシの高綱改を良くも壊したな」
「どれどれ、どうやって撃つのかな?」
色々と見回してみたが、さっきと同じスイッチ以外に見当たらない。
するとおっさんが、ニヤニヤと勝ち誇った顔で言ってきた。
「馬鹿め。トリガーは柄の部分に取り付けてある。それが折れた今、大砲モードは使えはせんよ」
「なんだよ!じゃあゴミかよ!」
俺は手にしていた壊れた大砲を、おっさんの大鎚にぶん投げた。
狙っていた腕の隣の腕に飛んでいったが、運良く当たった。
すると壊れた大砲から、ビームが他の腕に発射して、命中する。
「・・・は?」
目を丸くするおっさん。
何が起きたか分からない様子だ。
「ビーム出るじゃん」
「そんなのワシ知らんぞ!」
俺はまた壊れた大砲を拾い、とりあえずバンバンぶっ叩いてみた。
「えいえい!ビーム出ろ!」
あ、出た。
「ぬおぉぉぉ!!ワシの作った物を、何故お前が理解している!」
「知らんがな。ただおっさんも知ってるだろうが、壊れかけの家電は、叩くと直るんだぜ」
「知らんわ!」




