デビルイッチー軍団始動
絶対にあり得ない。
ムッちゃんが軍を率いて、部下を気遣うなんて。
越前国でお市に、妖怪の援軍を借りたムッちゃん改めキラームトゥー。
だけど僕は疑問があった。
ムッちゃんは大将ではあるが、自分の軍を持っていない。
そもそもの話、彼は格闘家であり個人種目の選手なのだ。
個人によるとは思うけど、彼は間違いなく人を率いるのに向いていないタイプである。
この世界に来てからプロレスを覚えたのだから、タッグマッチだって経験していないと思う。
共闘というのはした事はあっても、所詮1+1=2になっただけに過ぎない。
本当にタッグマッチが得意な人は、何倍にも力を高めてくれる人の事を言う。
更に言えばムッちゃんは、格闘ゲームで勝てなくて本物を学ぼうとするという、意味が分からない行動を取るような人間である。
ハッキリ言って、かなりおかしいだろ。
おかしいは言い過ぎかな。
言い方を変えれば、我が道を歩き過ぎだと思われる。
自分の正しいと思った事に、真っ直ぐ突き進む。
だから妥協もしないんだろう。
ただし、それに誰もがついていけるわけじゃない。
そう考えると、彼に人を率いるのは難しいと思う。
もし本当に他人を気遣う事が出来るようになったなら、彼は帝国に行って、成長したという事だろう。
信じられないけど。
熱かった。
ストーブに近づき過ぎに近い熱さを感じた。
その程度だと思うかもしれないが、自分の意思で離れられないんだぞ。
無理矢理ストーブ前に座らされて、動けないのと同じなんだぞ。
そんなの拷問だろ。
はっ!
そういえば、借りた服は!?
「アレ?焦げてない」
俺はベストを翻して、当たった箇所を見てみた。
なのに焦げた跡も無ければ、焼けた臭いもしていない。
もしかしてこの虎柄シリーズ、とんでもない装備なのでは?
「それがおかしいと言っておる!いくら威力を低くしているとはいえ、服が何ともないのはおかしいだろ」
「俺もそう思うけど。でも、本来は鬼のおっさんの着てる服みたいだからな。やっぱり領主が着る服は、頑丈なのかね?」
「鬼のおっさん?なるほど。柴田殿の服を借りているのか。しかし解せんな。ワシもここに来るとしたら、柴田殿とお市様だとばかり思っていたのだが」
ドワーフのおっさんが、微妙な顔をしている。
俺が来た事に対して、疑問があるみたいだ。
というよりもこのおっさん、関ヶ原で起きた戦いの結末を知らないっぽいな。
「・・・鬼のおっさんは、秀吉ってネズミの人にやられて消されちまったよ」
「そうか。柴田殿は消され・・・え?柴田殿が?木下殿に負けたというのか!?」
「そうだけど。アンタ、連絡来てないの?」
「おい、消されたとはどういう意味だ?」
このおっさん、話が噛み合わないな。
俺が聞いてるのに、それを無視して話してくる。
ただおっさんの顔を見た感じ、ネズミよりも鬼のおっさんの方を心配している気がするんだが。
「答えろ!」
「言った通りだよ。俺も実際は見ていないから知らないけど、魔法か何かで突然消されたって話だ」
「魔法で・・・。しかしそれも自業自得か」
この人、何を考えているのか、よく分からないな。
さっきまでは鬼のおっさんを心配そうにしていたのに、今は自業自得呼ばわり。
本音はどっちなんだ?
「おっさん、もしかして」
「お前は帝国の大将のはずだが、何故ここに居る?」
聞けよ、俺の話を!
どうして俺が何か言おうとすると、口を挟んでくるんだ!
「言え!」
イラッ!
このおっさん、嫌いかもしれん。
「今の俺は、キラームトゥーだ!帝国とは関係無いからな」
「ならばさっきの若造は何だ?奇妙な鏡を持っていたが、あの格好は騎士王国の騎士ではないのか?」
「あー、アレは・・・俺の子分だ。途中でしばき倒して、デビルイッチー軍団に入れたのだ」
「デビルイッチー軍団?」
「悪のカリスマデビルイッチーが率いる軍団だ」
「お前、頭大丈夫か?」
やっぱこのおっさん、ムカつくわ。
俺がせっかく気を利かせて、サマと騎士王国も関係無いという説明をしたのに、それよりもデビルイッチーに興味を示しやがった。
話を逸らすという意味では成功だが、どうにも噛み合わなくてイラっとする。
「とにかく!俺はアンタを潰すぜ。悪の軍団の一員としてな!ってアッツ!アチチチ!!何しやがる!」
おっさんは問答無用で、俺にビームを撃ってきた。
腹に命中すると、俺のヘソ周りが日焼けし過ぎた時のように真っ赤になっている。
「潰すと言うなら、先手を打って潰すまでよ」
「この野郎、許さアッチー!!」
「早く燃えんかい!」
このおっさん、容赦無さ過ぎる。
会話のキャッチボールというのを、しようとしてくれない。
こうなったら、こうするしかない!
「一時退散!」
俺は背を向けて、全力で走って逃げた。
あのまま我慢して突撃しても、多分おっさんを捕まえてぶん殴る事は出来たと思う。
しかし問題もあった。
それはビームを食らいながら、接近をする事になる。
借り物の服が焼けたり破けたりしたら、俺は姐さんに申し訳無い。
確実に安全に倒すとしたら、俺も武器を持って戦った方が確実だった。
「どけどけー!金棒は何処だー?」
ドワーフと妖怪の間をすり抜けるように走っていくと、俺はサマの姿を見つけた。
サマは鏡の盾を背負い、太刀でドワーフ達を斬っていた。
「サマ、俺の金棒は?」
「タケシ殿!あの折れた木の方です」
「タケシじゃない。キラームトゥーだ。間違えるなよ」
「それを言ったら、私はサマー・セイバーですよ」
剣を振り下ろすと、ドワーフが倒れた。
ん?
「お前、峰打ちで戦ってるの?」
「はい。今は敵とはいえ、彼等には騎士王国を助けてもらった恩もあります。それに彼等は、操られているだけのような存在。どうにかすれば、正気に戻るみたいですし。殺す必要は無いかと」
意外と余裕あるんだな。
もしかしてサマって、強いのか?
「逃がさんぞ、タケシ!」
「追いつかれた!?」
ドワーフのおっさんが、息を切らして俺を睨んでいる。
俺は走っていて気付いたのだが、ドワーフはどうやら足が遅いみたいだ。
妖怪達はそれが分かっているからか、素早さで翻弄していた。
金棒ももうすぐ手に入る。
だったらこのまま走って逃げれば、おっさん達は俺に追いつけない。
「じゃあな、おっさん」
「馬鹿な奴め。お前達、抜け!」
抜け?
ドワーフが剣を使うのか?
と思ったら、そっちか!
「タケシ殿、これは逃げ場が・・・」
「まさか、全員が銃を持ってるなんて」
俺は思わず両手を上げた。
何故そんな事をしたのか?
この世界の銃と言えば、火縄銃みたいな形が基本だったはず。
それがコイツ等が持っているのは、全員が拳銃と呼ばれるタイプの形なのだ。
こういう銃を突きつけられると、条件反射で手を上げてしまったわけだ。
一瞬驚いて怯んだけど、今の俺なら耐えられる。
拳銃に撃たれたところで、心臓と頭さえ守っていれば逃げ切れると思っている。
「フハハハ!拳銃なんて怖くねーぜ!」
「逃すな!」
おっさんの声に反応して、周りのドワーフ達が一斉に俺に撃ってきた。
「アチッ!レーザー光線!?」
「何故コイツは動けるのだ!」
「コイツ等、全員レーザー銃持ちかよ」
どうしてレーザーなのかは知らないが、幸いだった。
一斉に銃弾が撃ち込まれたら、運悪く関節とかに当たると回復は遅い。
膝や足首のような場所に当たり弾が体内に残ると、しばらく動けなくなるからな。
その点レーザーなら、貫かれなければ問題無い。
むしろ熱いだけで、結構耐えられる。
まだ未完成なんじゃないかと思うくらい、微妙な攻撃だ。
「金棒見つけた!オラァ!」
金棒を肩に担ぐと、俺は一番手前に居たドワーフに、喧嘩キックをお見舞いする。
吹き飛んでいくドワーフ。
周囲からレーザーを照射されるが、やはり熱さだけで痛みは無い。
「どうして効かんのだ!他を撃ってみろ!」
俺から妖怪の方に銃口を変更すると、一斉に照射が始まる。
レーザーに身体を貫かれた妖怪は、その場で倒れてしまった。
続々と倒れていく妖怪達。
「爺さん!」
「無理ですわ。あんなの避けられませんわ」
意外と撃たれたというのに、元気だった。
どうやら痛みは感じていないみたいだ。
身体の一部が、突然動かなくなったという感覚らしい。
「次はタケシの子分、お前だ」
「子分?」
サマは俺を見てくるので、俺は目を逸らした。
呆れたようなため息を吐いた後、サマの雰囲気が変わった。
「そういう武器を出してくるなら、私も手加減は無用ですね」
「まさか若造、お前も選ばれているのか?」
「宿れ!雷鳥!」
雷鳥?
天然記念物じゃなかったっけ?
そんな事を考えていると、サマの身体から電気が走った。
すると近くに居たドワーフにその電気が当たり、彼は感電して倒れてしまった。
「サマ、その姿は?」
「これが私のケモノ、雷鳥を宿した時の姿です」
緑がかった黒い鎧に、羽っぽい物が背中に見える。
空も飛べたりするのかな?
「ちなみに空は飛べません」
「飛べないんだ」
ちょっと残念だけど、それを覆すくらいサマの鎧は凄かった。
「撃て!」
「効きませんよ」
レーザーがサマに当たっているのに、全く効いていない。
そして鎧から電気がバチっと弾けると、それが撃ってきた連中に向かって飛んでいく。
撃たれたレーザーを電気にして、お返ししているみたいな攻撃だ。
「凄いじゃないの!」
「フフフ、サマー・セイバー、参る!」
ノリノリじゃないか!
跳ね返されると分かり撃つのを躊躇ったドワーフ達を、続々と峰打ちで倒していくサマ。
「良いぞ!流石はデビルイッチー軍団!」
「グハハ!悪の軍団サマー・セイバーが全員倒してくれるわー!」
「若造、調子に乗るな!」
「ぴぎゃっ!」
「あ・・・」
胸を張って調子に乗っていたところ、後ろからやって来たおっさんに、大鎚でおもいきりぶっ叩かれてしまった。
身体がくの字になって飛んだけど、大丈夫か?
「サマ?おーい」
泡を吹いて倒れている。
気絶してしまったらしい。
だがアイツは頑張った。
気付けばドワーフ達は、ほとんど倒れている。
多分妖怪とサマだけで、八割くらいのドワーフは倒したんじゃないだろうか。
「一撃で気を失うとは。貧弱な」
ムカッ!
やっぱりこのおっさん、嫌いだわ。
「おっさんこそ調子に乗るなよ。サマは四天王の中で最弱。姐さんの所までたどり着きたければ、四天王で一番タフな、このキラームトゥーを倒してみるんだな!実際は四人も居ないけど、そこは大目に見てね」




