鬼に金棒
ヒール役か。
実はあんまり嫌いじゃない。
ムッちゃんはお市達を巻き込んで、ヒール役に転向する事にした。
巻き込まれた側は面倒かもしれないけど、お市は権六が消えて落ちていた気持ちが、多少なりとも和らいだと思う。
そう考えると、無駄な行為じゃなかったんじゃないかな。
それに微妙な話、今世間的には僕達はまさに悪役といった立場だ。
僕が勝手に魔王を名乗り、魔族を混乱させたという扱いになっている。
ヒト族の国である騎士王国でも、僕に味方をするかしないかでまた内乱が起きかけているし、王国はキルシェを筆頭に僕達には非協力的な立場を表明している。
連合に関してはリュミエールのおかげで、僕にというよりハクトに寄り添う姿勢を見せてくれているが、国民感情としてはあまり良いとは言えないかな。
そして帝国も、同様の感じである。
要は秀吉が旅で出会った人達は、僕に悪印象しか持たないように変わったのだ。
その僕の味方をしているムッちゃんやお市は、世間からしたらヒールと呼べるだろう。
まあ僕も、変身願望があるくらいだ。
魂の欠片で現れるレベルなのだから、余程なんだろう。
今思うと、自分の心の中が丸見えみたいで恥ずかしいが、ヒール転向というのはある意味僕のそれと似ている。
どうせならヒールになりきって、おもいきり悪い事をしまくってもらいたいものだ。
コイツ、段々容赦無くなってきたな。
まさか剣で叩かれるとは思わなかったぞ。
「どうしてタケシ軍団はダメなんだ?」
「どうしてもです。そもそも貴方、軍団って言ってますけど、私と貴方以外は妖怪です。お市様からお借りしているのだから、貴方の軍じゃないでしょう」
「う、うーむ・・・」
そう言われると、たしかに帝国兵じゃないもんなぁ。
俺が妖怪達を率いても、ある意味他人のふんどしで相撲を取るのと同じか。
お市の姐さんも鬼のおっさんの仇を取りたいのは分かるけど、それは秀吉にぶつけるのが筋であって、ドワーフを倒すのはちょっと違う気がする。
あくまでも協力として、ドワーフと戦うのに人手を借りている。
人数的にも、むしろ俺達が妖怪達に混ぜてもらうって言った方が、正しいかもしれない。
「じゃあデビルイッチー軍団で」
「ま、まあそれなら良いのかな?」
サマも自信無さそうに言っている。
でも三姉弟のトップは姐さんだし、これなら悪くないと思われる。
「じゃあデビルイッチー軍団で決まり!」
「そうか。まあ世間体的にも、妾が率いているとした方が良いじゃろうな」
「何故?」
「妾の名前なら、魔族同士の抗争と見える。しかしタケシの名前が先にあると、帝国が魔族と再び争っているとも取られかねない。そうなると、騎士王国も秀吉に協力する連中が、勝手に動き始めるやもしれん」
「なるほど。確かにトキド殿やウケフジ殿が、秀吉に協力すると言いかねません。流石はお市様です」
なるほど。
分からん。
サマが納得しているから別に良いんだけど。
コイツもコイツで、騎士王国の内部が大変なんだよな。
それでも俺に協力してくれるのは、かなり助かっている。
「この戦いが終わったら、陛下にお前の事を話しておくよ」
「何かフラグが立ったような?あまり良い気分はしないので、全て終わってからそういう話をしましょう」
「そうじゃな。まだ終わっていないのじゃ。だから二人には、コレを貸してやろう」
お市は俺とサマに、更にある物を貸してくれると言う。
本人が来れなくなったので、その代わりに戦力強化をさせてくれるみたいだ。
「鏡の盾?」
「すぐに割れそうだな」
「見た目はな。しかし光線は跳ね返すし、実はかなり硬い。太刀で戦うお主には、少し扱いづらいかもしれんが、これで怪我がしにくくなるじゃろう」
俺は鏡の部分を軽く叩いた。
確かに硬く、そう簡単には割れそうも無い。
「そしてお前にはコレじゃ」
「金棒!?」
まさかの虎柄ファッションに加えて、金棒まで授かるとは。
ヒール役にピッタリじゃないか!
しかし相当重いのか、妖怪が四人がかりで運んできた。
彼等から受け取ってみると、俺は思わず金棒を落とした。
「重いな!俺には片手では無理だ」
「ほう?両手なら扱えるとな?」
両手で握り力を入れると、持ち上げられた。
バットと同じ要領で振る事も出来る。
「うん。使える」
「す、凄いですね。私が持ったら、手首が折れそうです」
「ヒト族がこの金棒を持ち上げるのを見るのは、初めてじゃな」
マジか。
もしかして俺、記録を作ってしまった?
「その金棒なら、やっても良いぞ」
「どうして?」
「持ち主も、ほとんど使っていなかったのでな。金棒よりも扇子を持つ方が多かった。使わない物なら、くれても構わん」
「だったらありがたく頂きます」
使いこなせるか分からないけど、俺も強くなればブンブン振り回せるかもしれない。
ヒール役としては、コレでぶっ倒したいからね。
「滝川一益は妾達よりも弱いが、それは生身の力で比べた時じゃ。奴等が装備を揃えていれば、妾達も苦戦する。タケシよ、お前は強い。しかし驕るなよ」
「承知した。姐さん、行ってくる」
俺は足を前に踏み出した。
が、すぐに立ち止まり、振り返ってもう一つお願いをした。
「ゴメン、台車貸してもらえない?」
いや〜、締まらない旅立ちだったな。
金棒を持って歩くのが、あんなに辛いとは。
半日くらい担いで歩くなら、俺も我慢出来るよ。
でもこんな重い物を持って、何日も歩いて向かうのは無理。
だったら台車を借りて、押していった方が楽だ。
「借りられて良かったですね」
「まあな。もし借りられなかったら、俺は途中で木に立て掛けて、置いていったかもしれない」
「怒られますよ」
「分かってる。だから頼んだんだ」
後ろを歩く妖怪達は、笑いを堪えているように見える。
金棒をこんな形で運ぶ姿は、彼等の笑いのツボなのかもしれない。
だったらもう少し、この場を和ませるか。
「見て見て!金棒の重さと勢いを使って、ほら!めっちゃ進むぜー」
俺は台車を押しながら走ると、途中で台車に飛び乗った。
スケボーのような感覚で進んでいくと、目の前の木を避けようとして倒れてしまう。
「アタッ!うごっ!腹に金棒が・・・。重い」
俺が転んだところに、金棒が倒れ込んでくる。
狙っていたわけじゃないが、妖怪達は爆笑している。
「タケシ殿。大将なんだから、もっとしっかりしないと」
「タケシではない!キラームトゥーだ。でもな、これで良いんだよ」
「何が良いんです?」
呆れるサマに、俺は首に手を回して耳元で喋る。
「妖怪達も姐さんと同じなんだ。鬼のおっさんを失って、精神的に落ち込んでいた。これから戦うのに気持ちで負けてたら、勝てるものも勝てないだろう?」
「まさか、狙ってやっていたと?」
そういうわけじゃないけど。
でもサマの視線がとても熱い。
期待を裏切ると、後でまた何を言われるか分からないし。
そういう事にしておこう。
「そういう事だ」
「凄い。私にはそこまでの配慮が出来ていなかった!流石は大将ですね」
「うんうん。そうね」
目を輝かせているサマに、俺は流し気味に頷いた。
妖怪達も俺の考えに気付いたのか、ちょっと違う目で見られるようになった。
すると爺さんみたいな妖怪の一人が、俺達の方へ走ってくる。
「どうした?」
「大将、気付いてるか?ワシ等、何処からか見られてますわ」
「えっ!?」
サマが辺りを見回す。
俺も少し警戒をしてみたが、特に敵意や殺気といったものは感じない。
「何処から見られているかは分からない?どうして分かったんだ?」
「分からないですわ。分かった理由は、ワシ等とは違う魔力を感じるからですわ」
「そっか。俺達はヒト族だし、妖怪とは違う魔力を感じれば、残るは敵側の魔力ってワケだな?」
「その通りですわ」
ただ爺さんが言うには、今回の兵の中に魔力感知に長けた者は居ない。
爺さんは年の功的な意味合いで、魔力を感じられたらしい。
しかし、次の瞬間に爺さんは叫んだ。
「何か来るぞ!」
妖怪達はまとまると、前面の連中が盾を持って防御態勢に入った。
それに伴いサマも同様に、鏡の盾を前に出している。
「砲弾だ!」
前方から山なりに飛んできたのは、大きな丸い弾。
ボーリングくらいの大きさがあるから、かなり重そうだ。
「堪えろ!」
サマが叫ぶと、全員の身体に力が入ったのが分かる。
砲弾が盾に当たると、重さと勢いで前方の連中が押されている。
どうやら重さだけで、爆発とかはしないらしい。
「む、無理・・・。うわっ!」
鏡の盾を一人で持っていたサマは、重さに堪えきれずに倒れてしまった。
何処から見ているのか分からないが、丁度倒れた場所に砲弾が飛んでくる。
「うわあぁぁぁ!!」
「ここは任せな。俺が金棒で、打ち返してやるぜい!」
台車から金棒を取り出すと、俺はそれを肩に担ぎ、砲弾に合わせておもいきりフルスイングした。
「あ・・・」
「オイィィィ!!アンタ、何やってんの!?」
「悪い。重過ぎてすっぽ抜けちゃった・・・」
俺のフルスイングは砲弾には当たらず、金棒は真っ直ぐに飛んでいってしまった。
しかし砲弾は運良くサマの真横に着弾し、難を逃れている。
「ギャアァァァァ!!」
前方から叫び声が聞こえる。
その直後、大木が折れて倒れていくのが見えた。
「俺の金棒が、敵の誰かに当たったっぽいな」
「まさか、狙っていたんですか!?」
「あ、当たり前だろう?」
「流石は大将!ってアンタ、さっきすっぽ抜けたって言ってたじゃないか!」
チッ!
やっぱりそこまで信じてくれないか。
「ま、まあ結果オーライよ。砲弾も止まったでしょ?」
「そういえばそうですね。今がチャンスか!全員、突撃するぞ!」
サマが太刀を掲げて叫ぶと、妖怪達は前方へまっしぐらに走っていく。
サマも遅れずに行ったので、俺は敢えて後方を警戒した。
「こういう時、挟み打ちとか狙ってくるんだよな」
冗談で呟いてみると、本当に何かが飛んできた。
俺はそれを目で追えず、地面に当たったのを見てから慌てて飛び退いた。
「まさか、オヌシがここに来るとはのう」
「アンタ、たしか滝川一益だったな?アンタが挟み打ち要員?」
「あまり賢そうではないオヌシに、これが読まれるとは思わなかったぞ」
賢くないのは自覚しているが、余計なお世話だ。
「アンタ一人か?」
「そんなわけ無いだろう」
やっぱり控えていたか。
でもそこまで数は多くない。
ドワーフのおっさん含めて、15人くらいか。
しかしこのおっさん、俺が誰だか分かってるのか?
「タケシ殿、帝国は魔族の争いに首を突っ込むつもりか?」
「違う!俺はタケシではない。俺の名は、キラームトゥー!ってアツッ!アンタ、人が喋ってる時に、何ビームなんか撃ってんの!?」
俺が名乗っている間に、このおっさんはビーム砲を俺に撃ってきやがった。
俺よりもヒールっぽいじゃないか!
「・・・今当たったよな?ワシの滝川高綱の光線に当たっておいて、熱いだけで済むのか?おかしいだろ!」




