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転向

 やはり大将を解任した方が良いのでは?

 ムッちゃんは越前国の妖怪達の前で、尻を晒した。

 尻丸出しで許されるのは、ギリギリ小学校低学年くらいまでだろう。


 普通に考えてほしい。

 大の大人が、人前で尻を出す。

 逮捕案件である。

 しかしこの世界に、公然わいせつという罪は無い。

 あるとすれば、変態という称号がもらえるだけだ。

 自覚している変態なら、それも良い。

 問題はムッちゃんのように、自覚が無い変態だろう。

 そういう無自覚な人は、何が危ないのか分かっていない。

 故に尻を出しても、羞恥心というものが存在しないのだ。

 あのお市の前でも、尻丸出しで会える神経の持ち主。

 どう考えても、変態である。


 そして一番の問題は、そんな変態が帝国の大将を務めているという点である。

 まだマシなのは、ムッちゃんは顔が知られていない。

 悪堕ちヨアヒム時のムッちゃんは、ほとんど帝国から出ていないし、新生ヨアヒムの時もギュンターが口うるさく言っていた。

 だが今は違う。

 野生に放たれた変態だ。

 このまま暴走をすれば、彼はお市だけでなく、越前国全体で変態大将として名を知られる事になる。

 いや、もしかしたら騎士王国にも、シャマトフセ経由で伝わるかもしれない。

 外交問題に発展するとは思わないが、明らかに帝国の格を落とすという意味ではひと役買っているでしょう。


 現代日本で考えれば、本部長や専務常務くらいの役職だ。

 そんな人が尻丸出しで会いに来たら、どう思いますか?

 ムッちゃんは強いけどあまり尊敬されないのは、そういう理由もありそうな気がする。










 肌触りも良い。

 触っていて、撫でていたくなる。

 虎柄のパンツが、こんなに良い物だとは思わなかった。



「譲渡はしないぞ。あくまでも、貸すだけだ」


「えー。じゃあこのパンツとベスト、売ってくれないかな?」


「駄目じゃ。売り物ではないのでな」


 意外だな。

 こんな物にこだわりがあるとは思えないのに。

 俺、嫌われてる?



「何でダメなの?」


「・・・持ち主がまた、帰ってくるかもしれないではないか」


 俺はそこで、彼女に話を聞くのをやめた。


 俺は後悔した。

 少しサイズが大きいなとは思ったけど、これは彼女の旦那の服なのだ。

 旦那というのは、秀吉の手によって姿を消された鬼のおっさんの事だ。

 帰ってくるかもしれないというのは、それ彼女がまだおっさんが生きている事を諦めていないという意味だ。

 俺は話に聞いただけだが、でも希望はある気がする。



「鬼のおっさんだけどさ、俺はまだ生きてる気がするんだよね」


「当たり前じゃ!」


 ヤバイ。

 怒らせてしまったか。



「魔王様から話を聞いた感じ、あのタヌキのマッツンも一緒に消えたらしいじゃない。あの男、そう簡単に死なないと思うんだよ。だから一緒に居るんじゃないかな」


「タヌキと一緒に居て、何をするというのじゃ」


「え、えーと・・・宴会?」


 マッツンがおとなしくしているとは思えない。

 でも酒も無いのに、宴会じゃあ!とか言ってそう。

 俺は自分で、アホな事言ってるとは思った。

 だからまた怒られるかなとお市の顔色を窺うと、少し予報とは違っていた。



「また馬鹿な事を。じゃが、あのタヌキが一緒なら、そうかもしれんな」


「でしょ!そうだよ。だからさ、帰ってきたら俺、聞いてみるよ」


「何をじゃ?」


「この服、くれないってね」


「フ、フハハ。良いな。本人が良いと言うのなら、妾は何も言わんよ」


 お市が笑った。

 彼女が笑うのは久しぶりだったのか、警備に就いていた妖怪達も少し動揺している。



「よーし!じゃあ着替えよう」


「タケシ殿、ここで脱ぐのはやめましょう」


 あ、それもそうだ。

 しかも女性の前じゃないか。

 まあお市は全く気にしていないみたいだけど、警備から怒られそうだしね。








「着替えたぞ。どうだろう?」


 パンツの方は鬼のおっさんのサイズだからか、俺の膝丈より少し上くらいまである。

 逆にこのサイズ感が、アリな気がした。

 だがベストは逆だ。

 あまりに大きくて、ベストというよりちょっとしたコートみたいになっている。

 寒さ対策としては良いかもしれないが、戦う時には邪魔な気がする。



「長さが合っていないが、悪くないな」


「こういう服だと思えば、問題無いと思いますよ」


「まあ大きいからといって、切るのは許さんけどな」


 お市とサマの反応は、そこまで悪くない。

 個人的にはあまり自分に合っていない格好な気もするが、プロレスラーがしそうな格好ではある。

 自分のスタイルではないけどね。


 ・・・ん?

 自分のスタイルとは違う?



「そうだ!そうだよ!」


「どうした?」


「姐さんよ、俺に化粧してくれないか?」


「化粧を?とち狂ったか?」


「狂ってないわ!」


 酷い言われようだ。

 でも俺は思い出してしまった。


 あるベビーフェイスのプロレスラーが、顔にペイントしてヒール役をしていた事を。


 普段の俺も扱い的には、マスクマンとしてベビーフェイス側の方に当たる。

 だったらマスクを外してペイントをすれば、ヒールになれるんじゃないかと。

 まあこの時代、ペイントなんか出来ないと思うけど。

 だから代わりに、化粧をするのだ。



「というわけで、化粧してほしいんだけど」


「うむ。サッパリ分からん」


「私も何を言っているのか、全く分かりません」


「要は悪役として、ぶっ倒してやろうぜって意味だよ」


 悪役なら、普段やらない攻撃も出来る。

 それこそ凶器で額を割ったり、弱点を集中狙いしたり。

 それこそ毒霧も吹いてみたい!



「悪役か。だったら完膚無きまで叩きのめすのも、許されそうじゃな」


「お市様!?」


 アレ?

 断られるかと思ったら、意外と乗り気だぞ。

 だったら巻き込んじゃえ。



「どうせだから、三人揃って派手な化粧にしよう。悪役三姉弟みたいな感じでさ」


「三姉弟!?私も入ってる!?」


「面白い!お前達!」


 お市が誰かを呼ぶと、女中らしき人物が複数人入ってくる。

 お市はタケシに、どのような化粧をするべきかと問う。



「白をベースに、赤青黄の三色を使おう。姐さんが赤で、俺が青。サマは黄色ね」


「黄色確定!?」


「そういうわけじゃ。皆、派手に頼むぞ」


 女中は少し戸惑いつつ、お市の命令に従った。










「良い!姐さん、良い感じですよ!」


「そうか?」


 左目の周りだけ赤い星で覆われている。

 こういうレスラー、居そうだ。

 ちなみに俺は、右目の周りだけ青い星が描かれている。

 サマは顔の真ん中が黄色い星だ。



「リングネームも変えましょう。姐さんはお市だから、デビルイッチーとか」


「デビルイッチー。フフフ、良いな」


 適当に言っただけなのだが、満更でもない様子。

 だったらサマも決めてしまおう。



「サマの場合は、サマー・セイバーにするか」


「セイバーですか。ふーむ」


 あれあれ?

 散々グチグチ言っていたのに、名前を決めたら口元が緩んでるぞ。

 コイツも意外と嫌ではないな?



「最後に俺か。俺は武藤士郎だし、やっぱりグレートム」


「タケシ殿!」


「何?」


「なんとなくそれは、やめた方が良い気がします」


「何故?」


「どうしてもです!」


 強く念を押されてしまった。

 考えていたリングネームがダメなら、もう一度捻り出すしかない。



「じゃあ・・・」


 ダメだ。

 思いつかない。

 やっぱり最初に考えたグレートム



「タケシ殿!」


「分かったよ。でもそこまで言うなら、お前も何か考えてくれよ」


「えぇ・・・。じゃあブラックシローとか」


 コイツ、適当だな。

 顔に青が入ってるのにブラックって。



「姐さんも何か無いですか?」


「お前の仮の名か。武藤士郎というのが、本名なのじゃな?では、キラームトゥーとかどうじゃ?」


「キラームトゥー。良いですなぁ」


 悪くない。

 キラームトゥー。

 俺はこの顔の時は、キラームトゥーとして生きようと思う。










 俺の案で化粧をしたのだが、ある事に気付いた。

 明日出発するから、もう化粧は落とすしかないのだと。

 姐さんことデビルイッチーからも、そのまま寝ると肌に悪いと言われてしまった。

 おかげでサマからは、だったら化粧なんかする必要無かったじゃないかという正論を吐かれ、俺は聞こえないフリをして布団の中に入っている。



「サマ、お前は基本的に戦わなくて良いからな」


「私も自分の身を守る為に、戦いますよ」


「お前は姐さんを守れ」


「そういう意味ですか。その前に疑問があるのですが」


「何?」


「お市様は越前国を空けるつもりですかね?私としては、それは危険だと思うんですけど」


 言われてみれば、あの人自分の領地を離れて大丈夫なのかな?

 俺の中では、復讐する気満々でドワーフをぶちのめしたいって印象だけど。

 でも今更残ってくれなんて言ったら、激怒されそうだし。

 いや、それはサマに任せてしまおう。



「サマ、姐さんの説得は任せたぞ」


「また私ですか!?たまにはタケシ殿がやって下さいよ」


「んごーんごー」


「寝たフリかよ!この人、本当に大将なのか?」


 名前だけの大将です。

 なんて思っていたら、本当に眠くなってきた。









「妾は行けなくなった」


 翌朝、お市からそう告げられると、俺とサマは顔を見合わせた。

 まさか向こうから言ってくるとは、予想していなかったからだ。



「どうしてです?」


「妾が出れば、茶々を一人残す事になる。万が一妾が戻らなければ、あの子は本当に一人になってしまう」


 鬼のおっさんの件がある。

 彼女は自分の復讐よりも、子供を選んだのだろう。

 俺は彼女の言葉を聞いて、ケンちゃんとコウちゃんを思い出した。

 両親とも居なくなるのは辛いよな。

 だから俺は、彼女の判断が正しいと、心から思う。



「分かった。俺がアンタの代わりに、アイツ等をぶっ飛ばしてくるよ!」


「・・・任せたのじゃ」


「オウ!」


「でも化粧はされるのね・・・」


「当たり前じゃ!妾は行かなくとも、三人で戦うという、心は渡すつもりじゃぞ」


 サマは黄色い星が歪むくらい嫌そうな顔をしているが、俺は楽しい。



「妖怪の一部はサマ、お前に預ける」


「私に?大将であるタケシ殿ではないのですか?」


「アレは人を率いるような奴ではない。お主はまだ若造だが、見どころはあると思う。無駄に殺すなよ?」


 お市から直々に認められたからか、違う意味で黄色い星が歪んでいる。

 喜びが溢れていて、凄く嬉しそうだ。



「しかし大将はタケシじゃ。お前は奴の陰に隠れて、指揮を執ると良い」


「分かりました!お預かりします!」


 姐さんのおかげで、サマのやる気も上がった。



「よーし!タケシ軍団、出発だー!」


 俺がそう言うと、サマが鞘に納められた太刀で頭をぶっ叩いてくる。









「はい、それもダメー!!」

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