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変化する考え

 印象と少し違った。

 佐藤さんは沖田と、かなり良い勝負をしている。


 僕の中で佐藤さんは、かなりスマートな戦い方をする人物だと思っていた。

 というより、アウトボクサーの印象がそうなのかもしれない。

 本物のアウトボクサーは知らないけど、マンガだとクールならキャラが多い。

 だからそう思っていたのかもしれないが、沖田と戦う佐藤さんは、その印象の真逆を行っている気がする。

 クールとは逆の、泥臭さが多く見れるのだ。


 アウトボクサーのイメージは、蝶のように舞い、蜂のように刺す。

 この言葉がピッタリだと思う。

 だけど今回の佐藤さんは、自らがダメージを負い、その代償に沖田に攻撃を当てている。

 左手を犠牲にしながらパンチを入れたり、沖田の武器である剣をへし折っていた。

 僕が知る限り、佐藤さんはこんな戦い方をする人物じゃなかった。

 もしかしたら、僕達に関する記憶を失った影響もあるのかもしれない。

 しかしそれを差し引いても、戦い方が違い過ぎる印象だ。

 おそらくそれだけの事をしないと、沖田には勝てないと考えたのだろう。


 人にはそれぞれの印象というのがあるからね。

 それとは全く違う事をされると、戸惑うし。

 イケメンアイドルがファンの前で鼻をほじり始めたら、困惑すふのと同じ。

 沖田も相当戸惑ったと思う。

 ただし、僕はこう言いたい。

 スマートなのは戦い方だけ。

 性格はモテたくて仕方ない、ただのおっさんですとね。










 ダウン。

 たしかこう言われたから、カウントが始まるはず。

 10秒には程遠い10カウントが始まり、その間に佐藤さんがやる気を見せたら、続行される。


 ここで疑問なのが、佐藤さん自身は倒れていても良いのかという点だ。

 彼は場合、エル・フィニートさえ動かせれば戦える。

 もしそれが許されるのなら、彼はリングに座り込んだままでも、戦いは続行されるという事だ。

 体力は回復させつつ、遠巻きに僕を攻撃する。

 こんなのが許されたら、僕に勝ち目は無い。


 そうなるとやはり考えられるのは、佐藤さんが完全に気を失う事。

 座ったままは駄目という判断をするかしないかは、リュミエール様の気分次第。

 やはり僕が勝つには、彼を完膚なきまでに叩くしかないのだ。

 だからこそ彼が気を失っていれば、僕の勝利は決まる。



「ワーン、ツー」


 動くな。

 そのまま寝ててくれ。



「フォー、ファーイブ」


「う・・・」


 動いた!

 呻き声を出して、手が動いたぞ。

 そうなると、リュミエール様がどう判断するかだ。



「シーックス、セブーン」


 よ、良かった。

 立たなくちゃカウントは止まらないみたいだ。

 いや、エル・フィニートを動かし始めたら、それも止まる可能性はある。

 僕は後ろを恐る恐る振り返り、エル・フィニートが空に浮かんでいるか確認した。



「エーイト」


 だ、大丈夫だ。

 やはり佐藤さんに、エル・フィニートを動かすまでの余裕は無かった。

 しかし僕は、その安堵から一転して驚くべき光景を目の当たりにする。



「た、立ってる!」


 そこには右手で折れた剣を腹から抜いて、貫かれた左手で流血した腹を押さえる佐藤さんの姿があった。



「ナイーン」


 か、カウントが止まらない?

 あっ!

 構えていないからだ!



「・・・やれるか?」


 リュミエール様が、俯く佐藤さんの顔を覗き込む。

 立ち上がったくらいだ。

 まだ戦う意志はあると判断すれば、このルールだと僕はもう敗北が確定する。


 しかしリュミエール様は、その場で両手を交差した。



「な、何?」


 誰もルールが分からないから、観ている人達も困惑している。

 まさか、無効試合とかにならないよね!?

 リュミエール様が近付いてくる。

 僕に無効試合になる理由を説明をしようとでも言うのか?

 すると彼女は僕の右手を取り、急に上へ掲げる。



「勝者、沖田!」


「え?テンまで言ってないですよ?」


 僕は思わず、自分が不利になるかもしれないのに、理由を聞いてしまった。

 だが彼女から出てきた言葉を聞いて、僕はようやくどうして勝ったのか、理解出来た。



「アイツは既に気を失っている。無意識で戦う気で立ち上がったのかもしれないけど、それで戦いを続行するのは、アナタにフェアじゃないでしょ?」


「そうですか」


「何よ。あんまり嬉しくなさそうね」


 そんな事は無い。

 勝った事は嬉しいと思っている。

 ただ、僕が勝ったという実感が無いだけだ。

 しかし、周囲からの歓声が湧き上がると、ようやく自分が勝ったんだという気がしてきた。



「う・・・歓声?」


 佐藤さんが顔を上げた。

 意識を取り戻したらしい。



「もしかして、俺負けたのか?」


「そうよ。アナタが自分で言った10カウント。ナインまで来た時には、もう気を失ってたからね」


「そうか。ボクシングルールで負けたなら、俺に言える事は無い」


 佐藤さんは少し寂しそうに、それを受け入れた。

 しかしすぐに僕の顔を見ると、苦笑いをして見せた。



「ハァ、まさか連敗するとはね。やっぱ天才は違うな」


「何を言ってるんですか。僕の方こそ、あの時の敗北の借りを返せたと思ってますよ」


「敗北ねぇ。2回ともボコボコにされた俺は、何とも言えないな」


 佐藤さんが普通に話してくれている。

 もしかして、記憶を取り戻したのか?



「さて、これで勝敗は決したわ。クリスタルを破壊するけど、良いわよね?」


「クリスタル?」


 佐藤さんはリュミエール様に聞き返す。


 そうだった。

 僕は光を生み出しているクリスタルをどうにかする為に、佐藤さんと戦ったんだった。



「二人とも、目的を忘れてたわね・・・。ハァ、まあ良いわ。なかなか良いモノを見せてもらったお礼よ。アタシが直接、クリスタルを破壊してきてあげる」


「良いんですか!?」


「アナタが勝ったんだから、クリスタルを破壊する約束は守らないとね。それにアナタ、その怪我じゃしばらく動けないでしょ?」


 たしかにその通りだ。

 今も立っているのがやっとで、この場で倒れたいという気持ちが強い。

 佐藤さんの手前、それはしないけど。



「妖精族には、今回の戦いの説明してあるんでしょうね?」


「勿論ですよ。というより、貴女には逆らわないだろうし」


「そう。もし邪魔をするようなら、影だけ残して消滅させるから」


 彼女は空に浮かび上がると、ドラゴンの姿に戻り光ったと思ったら、既に居なくなっていた。



「なんか疲れたわ」


「そうですね」


 佐藤さんがその場に座り込んだ。

 僕もようやく休む事が出来る。

 同じくキャンバスの上に座り込むと、彼が変な事を口にし始める。



「クリスタルの守護か。何であんな役目、引き受けたんだろう?」


「え?」


「俺、安土の人間だぜ?秀吉殿の頼みを聞く義理は、無いはずなんだけど。何故かあの時、引き受けたんだよなぁ」


 佐藤さんの記憶が混濁している!?

 僕は何故か分からないが、空を見上げた。

 気のせいか、少しだけ光が薄くなっている気もする。



「まあ別に良いんだけどね。そのおかげで、本気のお前とまた戦えたし。エル・フィニートまで装備して負けたのは悔しいけど」


「佐藤さんがエル・フィニートをもっと使いこなせるようになってたら、倒れてたのは僕でしたよ」


 お世辞ではなく本気でそう思う。

 それくらいあの武器は凄い。



「そうか。またいつか、本気でやり合えたら良いな」


「・・・」


 僕は敢えて無言で返した。

 本音を言えば、しばらくは御免だから。



 途中で頭の中から抜けていたが、目的だったクリスタルの破壊に関してはどうにかなったと思う。

 僕の役目は果たせたはず。

 あとは皆に任せて、少し休ませてもらおう。











 雪が深くなってきた。

 東が雪国だと聞いた事はあるが、帝国の東側は寒いだけであまり雪は降らない。

 日本に居た頃もあまり雪とは縁が無かったけど、こうやって見ると懐かしさもある。



「ワハハ!」


 雪だるまを作ってみた。

 なかなかの出来栄えだ。



「あの、タケシ殿」


「何です?」


「越前国に向かうのでは?」


 はっ!

 そういえば、越前国に顔を出せと言われていたんだったっけ。

 こんなところで油を売っていたら、またギュンター達に怒られてしまう。


 ちなみに同行しているのは、騎士王国で借りた若い騎士だ。



 実は帝都を出た後、地図を頼りに走って向かったのだが、おもいきり迷ってしまった。

 なんとなくたどり着いたのが、騎士王国だった。

 帝国の人間が一人で彷徨いているとも思われず、ただの迷い人に間違えられた。

 ただ、そんな俺の情報が何処からか耳に入ったらしく、やって来たのが騎士王の使者だ。


 今の騎士王国はとても危ないらしく、出来ればすぐに立ち去ってほしいと言われてしまった。

 俺が越前国を目指していると伝えると、やって来たのが彼である。

 騎士王の親類らしく、オケツ何たら・・・。

 何だっけ?

 シャマトフセ?

 左馬之助?

 とりあえず呼びづらかったから、サマと呼んでいる。



「もうすぐですよ」


「本当か?いや〜、助かったよ。サマが居なかったら、俺一人じゃ来れなかったね」


「私、サマじゃなくてシャマトフセなんですけど」


「お、本当に大きな壁が見えてきた」


「聞いてないし・・・」


 凄いな。

 越前国は難攻不落って聞いてたけど、これは納得だわ。

 ちょっと感動する。



「ちなみに、面会の約束は?」


「そんなのしてないよ。でもどうなんだろう?」


 してないよな?

 俺が越前国に行くって、電話してたりするのかな。

 してたら俺に一言くらい、言うと思うし。



「うん。多分してない」


「それはマズイですね。越前国は元々、封鎖的な領地です。下手をすると、追い返す為に攻撃されますよ」


「マジで!?それは困るな。でも約束の代わりに、手紙を預かってるんだけど」


「手紙ですか?」


 大事だから、絶対に無くすなと言われている。

 だからずっとパンツの中に入れておいたのだが、少し蒸れてしまったかな?

 サマに手渡すと、あからさまに嫌そうな顔をされたけど、見なかった事にしよう。



「えっ!?帝国の王様と魔王様の連名!?」


「そうなの?」


 裏を見ると、陛下とコウちゃんの字で名前が書かれている。

 サマはこれがあれば大丈夫だと言ってくれた。



「この手紙を見せれば、入れてもらえますよ」


「良かった。じゃあ行こう」



 俺達は馬鹿みたいに高い塀の前にやって来た。

 壁だと思っていたら、一応塀らしい。



「頼もう!」


 サマが大きな声で呼び掛けると、塀の中から妖怪が顔を覗かせた。



「私、帝国の・・・」


「へ、変態だー!変態が来たぞー!」


 サマが喋っている途中で、中に引っ込んでしまった。

 しかし失礼な奴だな。



「サマ、変態って呼ばれてるぞ」









「変態は貴方ですよ!何処に雪がこんなに積もる寒空の中、上半身裸で下半身はパンツの人が、こんな所に居ると思いますか!?ましてや魔族ではなくヒト族ですよ。あの人の反応は、私でも普通だと思います」

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