初期組と加入組
お互いにしてみれば、裏切者なんだよなぁ。
北に向かったイッシー達は、誰よりも早く接敵した。
帝都から一番近い場所なのだから、当然なのだが。
イッシー隊の面々はトライクの運転が上手いから、早かったとも言える。
そしてイッシーが知っていた情報通り、敵は慶次だった。
佐藤さんと共に頼まれていた担当箇所から、慶次の守る祠へやって来たイッシー。
何しに来たって話になるし、不審に思うのも分かる。
そんなイッシーは佐藤さんとの進軍中に、勝手に抜け出して帝国へ入ってきている。
彼は帝都へ簡単に入ってきたように見えるが、それも色々大変だった。
敵側であるイッシー達を素通りさせるには、それなりに連絡をしなければならない。
しかし表立ってそれを行うと、もしスパイが居たらイッシーが裏切者だとバレてしまう。
ギュンターは内々に各所へイッシー達の情報を送り、彼等が帝国へ入ってきても、攻撃はしないように話を通していたのだ。
いや〜、考えただけで面倒な作業だね。
それをやれるギュンターは、素晴らしいと思う。
ウチではそういう作業を、長可さんが担当していたけど。
今にして思うと、僕は皆におんぶに抱っこだったと改めて思い知ったよ。
そういう意味では、ギュンターに任せるように指示を出しているヨアヒムも凄いと言える。
領主としての僕と、王としてのヨアヒム。
うん、これは完敗だと自信を持って言えるだろう。
右手に持ったショットガンが、形をかえていく。
銃身が細く長く伸びていき、ショットガンと違いスコープが装着された。
そして驚くべきは、右手だけでなく左手のガントレットも変化していた事だ。
「二本持ち!?」
「食らえよ」
イッシーが引き金を引くと、左手のライフルから発射された弾が、慶次の右肩を貫通した。
撃たれた勢いで、右肩が後ろへ持っていかれる慶次。
膝をついて左手で右肩を押さえると、流血しているのを確認する。
すると慶次の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「やったな・・・。拙者を撃ったな!」
「撃ったさ。だがお前だって、俺を刺しているだろうが!」
「イッシー!」
慶次が左手だけで槍を持つと、再び槍を伸ばしてくる。
目の前までやって来ると、今度は八本ではなく四本の穂先がイッシーに襲い掛かった。
「四本程度なら!モードソード!」
スナイパーライフルから剣へと形が変わっていくと、それを両手に持って三本の刃を弾き返した。
だが残りの一本は、先程肩を刺された痛みの影響からか逃してしまい、脇腹を掠ってしまう。
「うっ!」
「ハハッ!身体強化も出来ないヒト族では、この程度の刃も堪えられないとは」
「うるせーよ。身体強化が出来ていても、貫通する弾なら撃てるんだよ」
槍が避けられなかった事に悪態を吐く慶次に対し、イッシーも売り言葉に買い言葉で応戦する。
険悪な雰囲気を醸し出す二人だったが、横に目を向けると他の連中の状況が、大きく変化している事に気付いた。
イッシー隊の一部が、慶次の率いるハーフ獣人と協力しているのだ。
イッシーと慶次が戦っている中、戦況は変わらずに膠着状態に陥っていると思われた。
だが途中から、イッシー隊の一部の連中が矛先を変え始めたのだ。
「お前達、何を!?」
「アンタ等はどうして、戦争を起こそうとしているガキを庇うんだ!」
「俺達は秀吉殿を支持する」
イッシー隊が内部分裂を起こすと、数で負けていたハーフ獣人達の勢いが増し始めた。
突然謀反を起こした面々に、困惑するイッシー隊。
そして彼等は、対立して理解した。
謀反を起こしたイッシー隊は、全員が後期加入組だと。
「お前等、イッシー殿と一緒に戦うって入ったんじゃないのかよ!」
「偽魔王に加担して、戦争を起こすつもりは無い!」
「イッシー殿は彼を魔王だと呼んでいた。だったら彼は魔王だろ!」
「アレは魔王じゃないだろ。秀吉様がそう言っていた」
味方同士で剣を向け合うイッシー隊。
ハーフ獣人達は内部分裂した事は理解していたが、どちらが敵でどちらが味方かまだ把握していない。
その為、困惑の色を隠せなかった。
そんな中、イッシー隊の一人からとある言葉が投げ掛けられる。
「お前達が信用するのは、秀吉殿の言葉か?」
「その通りだ」
「そうか。ではお前達は俺達とは違う。俺達が信用するのは、イッシー殿の言葉だ。彼があの子を魔王だと言うのなら、俺達はあの子を魔王だと信じる」
「そうだ。それが俺達、イッシー隊だ」
「詭弁を言いやがって!」
我慢の限界に達した謀反組が動いた。
そしてイッシー隊の言葉により、どちらが謀反を起こしたか理解したハーフ獣人達も、謀反組と協力し始める。
「数が五分五分になってしまったか」
「この裏切者共が!」
「イッシー殿を裏切ったのは、貴様等だろうが!」
罵り合いながら剣をぶつけ合う両者。
そこにイッシーがライフルを撃った音が、辺りに響き渡った。
「隊長!」
「慶次様!」
お互いに負傷しているリーダーを見て、声を掛ける両軍勢。
するとイッシーが、イッシー隊が分裂している事に気付いた。
「どうしてこうなった?」
説明を受けるイッシー。
状況を理解したイッシーは、大きく息を吸い、大声でこう叫んだ。
「増毛協会ぃぃぃ!ハッ!ハッ!ハッツモウ!!」
「ハッ!ハッ!ハッツモウ!」
「アレを許可する。行け!」
掛け声と共に、剣を空に掲げるイッシー。
それに合わせてイッシー隊も、同じ行動に出る。
謎の掛け声と行動に、謀反組は困惑した。
「所詮はハッタリだ」
「行くぞ!」
前へ出る謀反組。
ハーフ獣人達も本気で剣を交えたのを確認し、芝居ではないと確信すると、謀反組と協力を始める。
「アタシ達の方が前衛として強い。アンタ等は後ろから支援を」
「了解した」
チームとして機能をし始める謀反組。
イッシー隊は便利屋と呼ばれるだけあって、どのチームとも連携を取るのが上手かった。
前衛のハーフ獣人達の後ろから、槍で援護をする謀反組。
段々と押され始めるイッシー隊は、大きな怪我人は出ていないものの、それも時間の問題だと思われた。
しかし謀反組も知らないイッシー隊の力が、彼等に襲い掛かる。
「スカルプバーニング!」
「火魔法だと!?」
「サクセスブロウイング!」
「風魔法まで!」
突然魔法を使い始めるイッシー隊。
イッシー隊は多種多様な種族で構成されている。
しかし魔法が使える者は、エルフや妖精族の一部だけで、全員が使えるわけじゃなかった。
そこでイッシー隊には他の部隊とは違い、ある物が配備されたのだ。
それは越前国から定期的に仕入れられる事になった、クリスタルである。
又左達が使用するような大きさは流石に無理でも、それよりも小さなクリスタルは多くある。
小さなクリスタルの運用方法として、試験的に多種族で構成されるイッシー隊に渡されていた。
だが、まずは試験である。
その為慎重だったイッシーは、気心の知れた仲間である初期組にだけ、クリスタルを渡していたのだった。
「おい、どういう事だ!?」
「お、俺達も知らない!」
やはり裏切りは嘘だったのではないか?
ハーフ獣人達が謀反組に詰め寄ると、彼等は冷や汗を流しながら弁明する。
「今だ!リアップシャイニング!」
「ぐおっ!?」
「目が!」
混乱しているところを狙い、光魔法で目を潰すイッシー隊。
前衛のハーフ獣人達がほとんど直視し、謀反組もほとんどがやられている。
彼等はここぞとばかりに、攻撃を開始した。
「ハッ!ハッ!ハッツモウ!」
「勝負あったな」
「まだだ。まだでござる。拙者がイッシー殿に勝てば、全ては逆転するでござるよ」
お互いが若狭国の傷薬で治療をすると、少し身体を動かしやすくなった二人。
慶次は利き腕である右肩を回し、戦いに支障が無い事を確認する。
イッシーも貫かれた足には少し痛みが走るものの、肩の方はそこまでじゃないと判断した。
「良いだろう。お前の気が済むまで、戦ってやる」
「悪いが手加減は無理でござる。死んでも文句は言わないでほしい」
「ハッ!今更だな」
裏切者扱いされたのだ。
殺されるかもしれない事は、覚悟している。
殺す気で掛かってくると言われて、それが現実に近付いただけだ。
完全にイッシーを、敵とみなして対峙している慶次。
しかしイッシーの方は、少し違った。
彼は自分の役割を理解している。
慶次に勝つのが目的ではなく、祠の中にあるクリスタルを破壊して、魔法を止めるのが目的だと。
だからイッシーは、慶次の話に乗る事で、時間稼ぎに徹しようとしていた。
それも全て、イッシー隊が優勢になったのを確認したからだった。
自分が慶次を引き付けている間に、クリスタルの破壊を彼等に頼む。
それがイッシーの作戦だ。
「お前にトコトン付き合ってやるよ」
「だったらコレはどうでござるか!」
慶次は槍を構え腕を引くと、勢いよく前へ突き出した。
「噛みつけ八岐大蛇!」
慶次の槍が八本に分かれ始める。
すると慶次は、更なる一手を打ってくる。
「凍り付け!慶次、フリイィィィジングウゥゥゥ!!!」
「何だと!?」
八本の穂先から、氷の飛礫がイッシーに襲い掛かる。
トライクも無く足を痛めている自分に、コレを避けるのは不可能だと悟ったイッシー。
彼は大きく足を開き両手を左右の腰に置くと、再びこう言った。
「モードショットガン!ツインバージョン!」
両手の剣がショットガンに変わっていく。
だが散弾を撃ったところで、氷の飛礫を叩き落とすのは不可能だ。
それを見ていた慶次は、イッシーの行動に勝利を確信して口元が緩んだ。
「勝ったでござる!」
「まだ終わってない!」
イッシーは引き金を引く前に、再び大きく叫ぶ。
「イッシーバーニング!」
右手の引き金を引くと、すぐにまた叫ぶ。
「イッシーブロウイング!」
「クリスタルの同時使用!?」
左手の引き金が引かれると、二つの魔法が被さった。
炎が風に巻かれ、渦となって氷の飛礫と衝突を始める。
無数の氷が蒸発し、辺りは一気に蒸し暑くなった。
「まだだ!慶次フリイィィィジングウゥゥゥ!!」
慶次が更に叫ぶと、氷が更に増加していく。
衝突する炎の勢いが弱まり、イッシーも焦りを感じた。
「ちっくしょ!」
「拙者の勝ちでござる!」
慶次の勝ち誇った声を聞き、イッシーは苛立ちを感じた。
そして残っていた二発目を、同時に引き金を引く。
「ふざけんな!いつも俺達が裏で仕事してるからって、お前より俺が劣ってると思ってるんじゃねぇ!食らえよ!イッシー、フルバアァァァストオォォォ!!」




