傾奇者と中年サラリーマン
僕も大概、ズルイ奴だな。
ある意味弱みにつけ込んで、頼んでいるみたいなものだから。
ゴブリン達はマッツンの約束を守り、僕を敵として見ないでくれた。
彼が僕に協力すると言ってくれたからだ。
それは彼が居なくなった今も、約束を守ってくれている。
約束した本人が居なくなったのだ。
本来ならそんな約束、反故にしても良いと思う。
それこそマッツンが居なくなったのは、僕達のせいだと罵ってもおかしくない。
だけどゴブリン達はそれをせずに、僕達に協力すると願い出てくれた。
本当に彼等には頭が下がる。
しかもマッツンだけでなく、カッちゃんも彼等の目の前で消えてしまっている。
僕がゴブリンなら、罵倒だけでなく顔面をぶん殴るくらいはしてたかもしれない。
二人を失うというのは、それくらい大きい事のはずだから。
そもそもゴブリン達にとって帝国は、どうでもいい存在だろう。
それこそ滅亡しても、関係無いと言いそうなレベルだ。
でも彼等は、僕達に協力してくれる。
それだけマッツンとの絆を大事にしている証拠だろう。
本当なら帝国の守備なんか放り投げて、今でもマッツンを探したいんじゃないか?
秀吉に対して復讐したいんじゃないか?
僕の中で、そんな考えがグルグルと渦巻いている。
今回の件でゴブリンには、大きな借りが出来てしまった。
この戦いが終わったら、それを返さないといけない。
どんなお返しをするか、悩むところだけどね。
「便利屋風情が」
「便利屋の何が悪い。俺達に出来る事、お前等に出来るのか?」
言ってしまった。
普段なら言わないようなセリフだが、俺だってやれるというところを見せなくてはならない。
特に俺の部隊に、後から入ってきた連中には。
俺達は他の連中から、こう言われていると聞いた事がある。
便利屋だ。
得手不得手が特に無い、どんな仕事もこなせる連中。
それが蔑称なのか。
それとも敬称なのかは、俺には分からない。
しかし言われて思った。
多分蔑称だなと。
だから仲間達は、それをあまり嬉しく思っていない奴が居るのも事実だった。
そう思っている奴の大半は、後から入ってきた連中になる。
元々は髪の薄い連中の集まりだった俺達だが、若狭国の薬のおかげで人生が変わった。
髪が薄い人には、育毛剤ではなく発毛促進剤の方が効果がある。
育毛剤は、今ある髪の毛を育てるだけに過ぎない。
既に無い人には、ほとんど効果が無いのだ。
俺達がそれを知ったのは、皆による情報共有のおかげだと思っている。
だからこそ俺達の絆は、とても深い。
元々蔑まれていた連中も居る。
俺も含めてそうだった連中は、便利屋なんて呼ばれても何とも思わない。
むしろ光栄だと思っている。
しかし後から入ってきた連中は違う。
既に名前が知れていた俺達の中に、入ってきたのだ。
別に最初からフサフサでも、今は何とも思わないよ。
でも部隊の長として、そんな彼等の不満を取り除くのも、仕事のうちの一つだよな。
「お前等が花形なのは分かってるさ。でもな、お前達に出来ない事も出来るのが、俺達ってもんだ」
「違うな。お前達は拙者達がやらない事を、やらされているに過ぎないのでござる」
「そう思ってるうちは、俺達の凄さは分からんよ」
慶次に言われて分かった。
コイツもそう思っていたんだなと。
本音じゃないかもしれないけど、やっぱりショックだわ。
そして、俺達の力を見せつけてやらんといかんなとも思う。
「言い争っていても、無駄なのは分かった。お前達!クリスタルを破壊するぞ!」
「皆、イッシー隊を止めるでござる!」
俺と慶次の号令で、全員が前へ出た。
俺のトライク隊は、ハッキリ言ってどの部隊よりも練度は高い。
それは又左殿のハーフ獣人達よりも、上なのは分かっている。
トライクでのぶつかり合いなら確実に勝てるが、彼女達がトライクから降りれば、話は別だ。
身体強化によって自分の身体で戦う彼女達は、トライクよりも小回りが利く。
距離を取りながら広く戦いたい俺達だったが、行手を遮るように走り回る彼女達は、かなり厄介な相手だった。
しかし!
俺の仲間達は、その程度では屈しない!
「全員降りろ!」
よし!
やっぱり気付いてくれた。
トライクに乗ってる事で小回りが利かないなら、同じ条件になれば良い。
トライクから降りて戦えば、条件は五分になる。
獣人である彼女達とは力の差はあるかもしれないが、こっちにも連携という強みがある。
「守備意識を高めにしろ」
やはり分かっている。
無理をして倒す事を考えるよりも、攻撃を受け流して疲れさせた方が良い。
特に彼女等は、こちらを翻弄しようと動き回っている。
耐えれば勝つ。
それは俺と慶次も、同じ事が言えるはずだ。
「ぬう。流石はイッシー隊でござる」
「お褒めいただき、ありがとよ」
「だが、拙者と彼女達を一緒にされては困るでござる」
慶次が槍を構えた。
その瞬間、俺へのプレッシャーが一気に増した。
気を抜いたら、奴の手はすぐに動く。
俺の頭や腹は、簡単に貫かれるだろう。
「やっぱり怖いな」
「だったら兵を引くでござる」
「そうはいかないんだよ!」
俺はトライクの後部座席から、槍を引き抜いた。
それを見た慶次は、顔が険しくなる。
「拙者に対して槍で勝てると?」
「どうだろうな」
「バカにするな!」
慶次が槍を上段に構えて、無鉄砲に突っ込んでくる。
と見せかけて、奴は下段への薙ぎ払いを狙ってきた。
まずは俺の足である、トライクを破壊したいのだろう。
「だけど、それも予想済みよ!」
槍を地面に突き刺して慶次の攻撃を防ぐと、すぐさま二の腕に装着していた苦無を投げつける。
慶次は身体を捻りそれを避けると、腰に差してある槍を取り出した。
「これは避けられるでござるか?」
慶次の得物である、伸びる槍だ。
アイツは手首を動かして、槍の軌道を自在に変えてくる。
先に動けば合わせられる。
だが、動かなくても食らってしまう。
「だったらコレだ!」
大盾を地面に置き、トライクの車体を全て隠す。
これなら軌道が変わっても、問題無いはず。
槍が当たれば、音で分かる。
しかし肝心の衝撃音がやって来ない。
「甘いでござる!」
「何!?」
慶次は槍を途中で手放していた。
伸びる槍が盾の横を通過していくと、元々持っていた通常の槍で俺の上を取っていた。
「チィ!」
俺はフルスロットルで盾から出ようとしたが、後輪が空転してタイムロスをしてしまった。
このタイムロスが響き、慶次の槍がトライクの左後輪へ突き刺さると、タイヤがバーストして制御不能に陥った。
ブレーキを掛けながら体勢を立て直すと、慶次はその隙を見逃さずに、伸びる槍を拾い追撃を仕掛けてきている。
俺はトライクを諦めて、飛び降りた。
間一髪、運転席の上を槍が通り過ぎていく。
「危なかった・・・」
「しかし、これで詰んだでござるな」
「何がだ?」
「トライクから降りたイッシー殿に、武器はほとんど無い。拙者、武器を取るのを見逃すほど甘くないでござるよ」
慶次の言う通り、今の俺にあるのは腰にある日本刀のみ。
槍と日本刀では、間合いが全く違う。
それに慶次の方が身体能力は高く、接近しようとしても逃げられるだろう。
「今ならまだ、許しても良いでござるよ」
「それは勝ってから言ってもらおうか」
「そういう態度に出るのなら、仕方ない。少し痛い目に遭ってもらうでござる!」
慶次が槍を高速で突き刺してくる。
殺そうとはしていないのだろう。
両肩や足等を狙ってきており、行動不能にするのが目的だと思われる。
俺は大きく後ろに下がり、槍の間合いから外れた。
追撃してくる慶次だったが、俺も反撃に出る。
「モードショットガン!」
「何!?」
銀色に光る右手のガントレットがゲル状に変化すると、俺の右手にはショットガンが現れる。
引き金を引くと、近付いてきた慶次に散弾がぶち撒けられた。
咄嗟に身体を小さくして地面に転がると、当たる箇所を少なくしているようだ。
それでも軽くはないダメージが、奴には入っているはず。
しかし慶次は俺の右手を狙って、槍を刺してきた。
「危なっ!」
「クッ!油断していると思ったのに」
考えが甘かった。
ダメージはあるが、軽かったらしい。
慶次は普通に立ち上がり、俺を睨みつけてくる。
「それがイッシー殿の、新しい武器でござるか」
「そうだ」
俺が今回使ったのは、俺専用のオリハルコンの武器であるトランスフォームガントレットだ。
オリハルコンは魔力を使って、形を変える性質がある。
俺には魔力がほとんど無いので、代用品としてアポイタカラを使用している。
「なるほど。その手甲、オリハルコンでござるな?」
「ご名答。俺が持ってるんだから、慶次だって持ってるだろ?」
「知っていたでござるか」
オリハルコン製の武器は、コバと昌幸殿が全て作っているのは知っている。
そして俺よりも先に、慶次や佐藤達に手渡されているのも知っていた。
そりゃ向こうの方が活躍しているから、先に渡されるのは分かる。
悔しくないと言ったら嘘になるが、俺はプラス思考に考える事にした。
俺の方が後に作られたから、性能は良いってね。
それともう一つ、俺にはある有利な点がある。
それはコバから、皆が持っているオリハルコン製の武器に関しての情報を、全て得ている点だ。
「イッシー殿に披露しよう!これが拙者のオリハルコン製の槍、八岐大蛇でござる!」
「え?」
マジか!
今まで使っていた伸びる槍が、既にオリハルコン製だったのか!
慶次が槍を伸ばしてくると、俺の目の前で槍の先端が一気に分裂を始める。
八本の穂先になると、それは各々が生きているかのように、俺の身体を襲ってきた。
「ぐあっ!」
俺もさっきの慶次同様に、身体を小さくして最小限のダメージで抑えようと試みたが、流石は慶次。
それでも的確に、肩や太ももといった箇所を狙ってきていた。
「お前、本気で殺そうとしてきたな?」
「手加減は出来ないでござる。それに拙者は、何度も戻ってこいと言った。それに応じなかったイッシー殿は、裏切者として粛清するでござるよ」
「裏切者?」
俺は今の言葉に、カチンと来た。
裏切ってるのは、コイツ等じゃないか。
魔法のせいとはいえ、どうして俺が裏切者扱いなんだよ。
「自称魔王のガキは、帝国と魔族の戦争を再び目論んでいる。それに加担するイッシー殿は、裏切者でござるよ」
「この野郎、アッタマ来た。誰が裏切者だ!お前等なんか何も知らない間に魔法掛けられて、勝手に記憶失ったアホ共じゃないか!俺達がどんな思いでこの魔法を解こうとしてるのか、分かってないくせに。俺達の怒りを食らえ!モードスナイプ、ツインバージョン!」
 




