14 初めての戦い
「よーし! いくわよ。えーーい!」
佳代子が目の前のスライムめがけて、剣を振り下ろした。
ぶしゅっと真っ二つになったスライムは、そのまま蒸発して消えてゆく。
佳代子は無事にスライムを倒したのだ。
『おー』パチパチパチ。
「や、やったー! チャコさんやりましたよ」
佳代子初めてのモンスター対決は、おぼつかない手つきながらもなんとか勝利を収めた。
まあ、相手はほぼ無抵抗のちっちゃなスライムだったけどね。
「うう……、これが戦闘。これが冒険の醍醐味なんですね」
佳代子は泣きながら感激している。ちょっと大げさだと思うのだが。
『まあなんにせよ、そうやって剣を使っていけば、大抵の初級モンスターは何とかなるぞ』
「ありがとうございます。これもチャコさんの指導のおかげです」
いやいや、剣の構えかたとか振り下ろしとか、基本的なことだし。
まだ大したこと教えていないんだよな。
佳代子は俺の手をとって大袈裟に喜んでいる。素直でなかなか良い子じゃないですか。
で、俺の相棒のミミはというと……おや? これまたちっちゃなスライムとにらめっこしているぞ。
スチャっとお子ちゃま用の剣を構えたミミは、どうやらスライムと一戦交えるつもりらしい。
ミミの持つ剣は、店長のお子さんのお下がり。子供でも戦闘出来るようにしっかりと刃が入っているんだ。子供用の剣にまで本物仕様にするとは、さすが武器屋のこだわりである。
でも刃物は危ないから、俺がちゃんと見張ってないとね。
『いいかミミ! さっき俺が佳代子さんに教えていた事、憶えているよな』
「ンッ」
『上から真っ直ぐに振り下ろせ。絶対に目の前の敵から絶対に目を離すなよ』
ミミは上に掲げた剣を一気に振り下ろす。
スカッ。
あーあ、外しちゃったよ。剣が短いからしょうがないけどな。
一発で倒せなかったのが悔しかったらしく、ミミは何度も剣を振ってスライムにアタックしている。
ムキになってブンブンと剣を振っているミミは可愛らしいし、スライムはじっとしていて何もしてこないようだから、このまましばらく様子を見ていることにしよう。
『ところで佳代子さんは、歳幾つなの?』
「えっと十九。大学一年生よ」
俺より二つ年上のお姉さんか。それにしては少し頼りないかな。きっと向こうの世界でもこんな感じだったんだろう。
『へえー。ちなみに何処の大学?』
「東垓 大よ」
『おーーっ! 佳代子さん超エリート。最難関大じゃないですか!』
天然でおっとりしているように見えて、実は頭がいいとか。すげえな佳代子さん。
「えへへ、すごいでしょ私。死ぬ気で勉強したからねー…………って、なんでチャコさんが大学のこと知っているんですか?」
やば! 俺はこの異世界人って事にしてあるから、日本の大学知っているのは変だよな。
「……もしかして、チャコさんて」
『あー、ほら、あれだ』
ああ、佳代子が疑惑の目で俺を見ている。ここはなんとか誤魔化さないと。
『……い、以前に佳代子さんと同じく、この世界に転移しちゃった人がいて』
「…………」
『その人に聞いたことがあったんだよ。うん』
「……あー、はいはいはい。そういうことね」
『そうそう、そういうこと』
ふー、あぶねー。上手く誤魔化せたぜ。
頭いい人のようだから勘付かれると思ったが、天然で助かったぜ。
一安心して胸をなでおろしていると、ミミの方からぶしゅりと切断の音が聞こえてきた。
「わあー、すごいミミちゃん。スライムやっつけたねー」
苦闘を繰り広げていたスライムを、ついにミミが討ち取った。
『おお、ついにやったかミミ』
と、次の瞬間。
ミミの全身が輝きだして、不思議な効果音も流れてきた。
「……ケンゾウ。スライム……倒せたぞ」
えーー! ミミが言葉を喋れるようになっているぞ!
しかも、少しはにかんでいるようにも見える。
これってやっぱり、レベルアップしているんだよな。きっと。