13 初級クエスト同行依頼
『なに言ってんだ店長! これから商品をバンバン売って、大儲けしなきゃだろうが』
そう、今の俺の目的は、この店の商品を売りまくって儲ける事。その際は、店舗の拡大も視野に入れなければならないだろう。
とにかく町一番の、いや、国一番の大富豪となって裏世界を支配するのだ。そしたら再び魔王討伐への道が開けるかもしれない。多分。
と、疚しいくも腹黒い野望を考えている俺。
そんな俺の心を折るかのように、店長が現状を告げる。
「チャコちゃん、店の心配は要らんよ。なにせ在庫も含めて商品全部売り切ってしまったからな」
あ、そうだった。次の商品入荷は六日後だったっけ。
「新しい商品が来るまで、仕事が無い。暇なだけだ。それなら一層の事、人助けをしても良いんじゃないか。なあ、佳代子さんや」
「ええ、店長さんがそう言って頂けると助かります」
いやいやいや、そうは言っても色々と問題があるでしょうが。
俺は男だし、幼いミミも連れて行かなきゃならない。どう考えても無理がある。
とりあえず俺の正体が佳代子にばれないように、店長の側まで行き耳打ちをした。
『佳代子さんは俺の事を女子だと思っているんだぞ、仕事以外でついていける訳無いだろう』
「なあに、その点に関しては心配いらんぞ、この件をオレが仕事と見做しているからな。まあ、出退勤プレートを青色のままにしておけば、その間はずーっと店員でいられる……と、取説に書いてあった」
『えー、マジでか……うーん、あまり乗り気はしないが、仕事なら仕方ないのか。それはそうと店長! その間の手当はちゃんと出るんだろ』
「おう、心配するな、そこはしっかりと出すつもりだ。でも報酬金額は、これから佳代子さんとの交渉次第だがな、ガハハハッ!」
もう内緒話の意味がない位に大きな声で笑い飛ばす店長。
ここ二日で大金を稼いだものだから、随分と気が大きくなっているのだろう。全く困ったものだ。
「では、チャコさんが私のクエストに付いてきて頂けるという事ですね」
『仕方ないそういう事だ。でも言っとくが、俺は戦闘のアドバイスは出来ても、実際の戦闘は出来ないからな。それと、妹のミミも一緒だから、それでも良ければだけど』
「妹さんも一緒なのですね」
『そうだ、訳あってな。俺とミミは離れることが出来ないんだ。それが嫌なら今回の依頼は諦めてくれ』
「いいえ、何も問題ありません。私が冒険者ギルドで受けてきたクエストは、これから冒険を始める人用のとても簡単な内容です。道中のモンスターもそれほど危険ではないと言われましたので」
店長が前のめりになり「へえ、そのクエストはどういった内容なのかね」と、佳代子に聞いた。
「アストカルの丘の渓谷に、ファスナー草という薬草の採取になります。なんでも万能薬の調合素材に必要とか言ってました」
「なるほどな。アストカルの丘までは、確かにモンスターはそれほど強く無いが、道中は何かと面倒だからな。時間のかかる割に報酬がイマイチだから、誰も受けたがらない類のやつだぞ」
「ここから歩きなら、往復で最短でも丸二日はかかると聞いています」
『え? そんなにかかるのか』
俺は驚いてしまった。最難関のモンスター討伐ならまだしも、簡単なクエストに丸二日を要してしまうとは、人気が無いのも頷ける。
「でもあれだぞ。初心者のレベル上げには最適だから、行っておいても損は無い筈だ。もしかすると、おチビちゃんのレベルも上げられるかもな」
『え、ミミの? そんなあ、ありえないでしょ』
「いやいや。世の中何が起こるか分らんぞ。現に汚れを洗い流しただけで、大きな変化があっただろう」
それはたまたま汚れと一緒に、呪いまで落ちちゃった訳で。
でも、何が起こるか分からないのは頷ける。俺と佳代子が異世界転移しちゃった位だしな。
「そうだ! 確かうちの娘と嫁が昔使っていた装備が何処かに仕舞ってある筈だ。チャコちゃん達はそれを装備してくといい」
そう言うと店長は、奥さんと娘さんが使っていたという装備を探しに、奥の部屋に消えていった。
佳代子は立ち上がり、にっこりと微笑む。
「では、よろしくお願いしますね。チャコさん。ミミちゃん」
こうして俺達は、異世界転移された佳代子のアドバイザーとして、クエストの同行をする事となったのだ。
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