11 私に付き合ってもらえませんか
看板娘のチャコちゃんの効果は絶大で、今日陳列した品物は全て完売となってしまった。
『いやー、お昼を待たずして今日の営業が終わってしまうとは。ミミ、表の看板を裏返してきてくれ』
ミミは「ん!」と頷き、トタトタと店の入口まで行く。
カランコロンと音の鳴る扉の表側に回り込み、少し高めの位置に掛けてある看板を、つま先立ちをしながらパタンと裏返した。
営業中から閉店に変えたのである。これでお客さんが間違って入ることは無い。
店内のお客さんも殆ど居なくなり、残るは会計中の中年男性客と、レジに並ぶ若い女性客だけだ。
パチパチとそろばんのような計算機をはじく店長。その指先は昨日よりはだいぶマシになっていて、買い物客を待たせる時間も短縮したぞ。
「まいどあり。次のお客さんどうぞ」
店長が最後の客を呼ぶも、商品の剣を持ったままジッと動かない。
どうしたんだろう?
俺は気になりその客を見ると、意外にもほっそりとした女性客で、胸は俺よりも控えめといった感じか。言っておくが、俺の自慢じゃないぞ。
見た目、とても冒険向きじゃない感じの人物だった。
『どうしましたお客さん。会計済まして下さい』
「……あ……あの、私」
胸の前で商品の剣を握りしめて、ためらう雰囲気の女性客。その手は若干震えていて、よっぽど剣が気に入らなかったのかな。
『あー、もう商品それでラスイチなんすよー。若干古い物だから特価品ですけどぉ、お姉さんにはちょっち使いづらいかな? どうします、次の入荷待ちます? 店長、次の入荷いつだっけ』
「んー、六日後かなあ。特別に予約、受け付けるよ」
『……って、言ってますけど。どうします? 次回の予約しちゃう?』
「あ、いいえ、買います。今すぐ買っていきますけど……」
『けど?』
女性客は何かを言いたいらしいのだが、しばらくモジモジしていた。
「じゃあお客さん、買うなら先に支払い済ましちゃいましょう」
店長がそう告げると、女性客は意を決した表情で俺の手を握ってきた。……なんで?
「店員さん、お願いがあります! 私と付き合って下さいっ!」
『……へ?』
こりゃあ、参ったな。
そんないきなり告白されても、唐突過ぎだし、それにお互いの事全然知らないでしょ。
もしかして一目惚れってやつですが? 二枚目は辛いなあ。
お姉さんだって、すらっとしていて体型も良いし、割と美人だし。どっちかと言えば俺の好みですよ。
それに比べてると俺なんて、世界最強とか言いながら弱くなっちまってるし、人付き合いだって悪いしさ。今なんてほら、女の子の姿になっているし…………って、
『え゛え゛えぇぇええぇーーっっ!!』
今の俺、女の子の姿だよ?
百合? ねえ、いきなり百合のお誘いなの?
「すみません言い間違えました。私のクエストに付き合って頂きたいのです。初心者のクエストです」
なあんだ、クエストに付き合うって事か。びっくりし過ぎてミミが一瞬『緊箍児』を締めたじゃないですか。
でも俺、今は戦える体じゃないしなあ。
間違ってモンスター倒しちゃったら、俺の命の危機だかんな。
などと俺が渋い顔をしていれば、店長がカウンターから出てきて低めの声で女性客に話掛けた。ダンディっぽく。
「お嬢さん、何か事情がお有りの様で。ささ、こちらに腰掛けて、お茶でも飲みながら詳しい話を聞かせてもらえませんか」
「すみません、ありがとうございます」
「この武器屋は、悩み相談も引き受けていますから。遠慮なく仰ってください」
いつからそんな商売始めたんだよ。
品物を売り切ってしまったので、すっかりリラックスモードに。
全員でテーブルを囲み、お茶をすすっていた。
「私はこの店の店長です。そしてこちらが店員のチャコ。チャコの妹ミミです」
あ、今から妹設定になったよミミ。
「で、貴女のお名前は?」
「あ、失礼しました。私の名前は藤島佳代子です」
『ブーーーーッ!!』
まんま日本人の名前に、思わず含んだお茶を噴き出してしまったぜ。
心配無い、全部店長の顔にかかったから。
「汚いなあチャコちゃん。勘弁してくれよ」
『ごめん、ごめん』
そしたらミミが真似して「ぶぅ~~っ」って、店長に向けて。
さすが無邪気な子供だ、真似っこしたくなるんだな。
「こらこらミミちゃん。悪いお姉ちゃんの真似しちゃ駄目だよ」
「ぶぅ~~っ」
あーあ、店長びしょ濡れ。
それはそうと、俺は初めて異世界転移された人物と遭遇したのだ。
しかも女性に。
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