マウリツィオの考証
なんだ、と問われてもマウリツィオにもわからなかった。
ただ、何か邪悪な感じがしたということだけ・・・。
それは、あの冒険者風の男が美男子だったから・・・
「きっと悪いやつに違いありませんな」
「何故ですか?師匠」
「わかりませんが、なんとなく」
「えー・・・」
「まあ、それはともかく、推測は3つくらい思いつきますよ。聞きたいですか?」
「うん!」
「じゃあ、まずは藪から出ましょう」
都代はマウリツィオを抱えたままミステリーサークルの中へ。相変わらず歪みは揺らめいているけれど、先ほどみたいに煙が噴き出していたりはしない。
「推測1。この歪みはレナータ様、もしくはレナータ様と協力した誰かが作った」
「なんのために?」
「それはもちろん異世界へ行くためです」
「梨音、帰りたいのかな?」
「生まれた故郷ですし、レナータ様はこちらの世界に馴染んでいたわけでもないですからな。それに、異世界に行きたいと思うのはレナータ様だけではありますまい。こちらの世界の人間だって、異世界へ行ってみたいと思うものは大勢います」
「ああ、それはわかるー」
「その結果、レナータ様は異世界への通路を開いた」
「けど、こんな場所に開けっ放し・・・?」
「いや、異世界の通路といっても、これはいわば空間と次元の歪みですから。世界の一部に無理やり風穴を開けたようなもんですからにゃー・・・失礼・・・噛みました」
「塞ぐ方法はないの?」
「自然に塞がりますよ、そのうち」
「それってどれくらいの時間が掛かるの?」
「わかりませんなぁ。実験データが少な過ぎますから」
「じゃあ、質問変えます。さっきの美男子は誰?」
「あんなものは美男子でもなんでも・・・いや・・・都代ちゃんは私のもの・・・」
「師匠?」
「失礼・・・」
「かみまみた?」
「・・・。先ほどの冒険者はレナータ様のお仲間の一人、ということになりますな。ほとんど聞き取れませんでしたが、通路から出てきた時に唱えた呪文は、歪みを維持するためのもののようでした」
「つまり、少なくとも、さっきの美男子は歪みのことを知っているし、維持する理由も方法も知っている、と」
「そうです」
腕組をして歪みを見つめる都代。
「それで、推測2は?」
「推測2。この歪みは自然発生的に出来た」
「ん?梨音、関係ないの?」
「推測ですよ。レナータ様が関係しているという証拠もないのですから」
「そっか。そうだよね」
「自然発生的に異世界と繋がる通路が開くことは、稀にあります。特にこの街では、ね」
「折湊市が?」
「ええ。この街は他の都市に比べて異世界転生者や転移者が多いのですよ。その多くは、長生き出来なかったり、捕まったりしてますけどね。とにかく事例が多いことだけは確かです」
「なんでだろう?」
「理由は・・・いや、推測を話すのはやめておこう。こちらはこちらで時間が掛かる」
「じゃあ、また今度話してよね」
「ええ。それで自然発生した異世界通路を通って、冒険者がやってきた。もちろん、異世界の冒険者だ。つまり転移者ってわけですな」
「じゃあ、こっちの世界を案内してあげなくちゃ!追いかけよう?師匠」
「な、いやです、駄目です。あんな何処の馬の骨ともわからないやつと都代ちゃんが一緒に・・・」
「師匠?」
「あ、失礼しました」
「かみまみ?」
「まあ、しかし、偶然通りがかっただけの異世界人なら、通路を通った後、歪み維持の呪文を唱えるのも、剣や防具を人目に付かないように布でくるむのもおかしいですし」
「そうかな?こっちの世界では武器はいらないし・・・」
「それを知っているのは、こちらの世界の人間だけです。さっきの冒険者の装備からして、この通路の向こうは良くて街と街の間のフィールド、悪ければなんらかのダンジョン、といったところでしょう。怪しげな通路があったからといって、無警戒に潜って来ることはないでしょうし、こちらに出た後は警戒するはずですよ」
「それもそうですね。とすると、偶然通りがかった冒険者であるはずはない」
「ええ。もしも向こうの冒険者だったとしても、こちらの世界にくるのは何度目かのリピーターのはずですな」
「なるほど、そうだよねえ」
「しかし、可能性は低いでしょう。何度もこちらに来ている冒険者なのだとしたら、荷物が少な過ぎます。身一つで異世界転移などしないでしょう?」
「・・・言われてみれば、さっきの美男子、荷物持ってなかったね。じゃあ推測3は?」
「推測3。この歪みは過去にこちらの人間が作ったもの、もしくは自然発生した歪みを塞がらないように維持してきたもの」
「その場合、さっきの美男子はどういう人になるの?」
「異世界通路を維持する管理人、といったところですかね」
「つまり・・・普段はこっちに住んでいて、定期的に異世界にいって、向こうの通路にも維持魔法掛けたりとかしているって感じ?」
「そうです。ルーティーンで仕事してる感じですね。けれども、これも見落としがあります」
「なんです?師匠」
「そんなに昔から異世界通路が開いてたのだとしたら・・・」
「開いていたのだとしたら?」
「・・・私が知らないはずがありません」
「え?」
「当たり前ですよ。私は、今日、ここから流れ出す魔素を追って来たのです。私は偶然にここへ来たわけではないのです。こんな規模で魔素が垂れ流されているのは、森にとって非常に悪いことなんですよ。弱った動物達が魔物化しかねないんですよ、本当は」
「さっきのヘルハウンドみたいに・・・?」
「ええ。だから、この説も却下です。私に気付かれないように、あんな大がかりの物を作り上げたり、消したり・・・有り得ません。それに、ヘルハウンドが出たのは私の知る限り初めてです。ずっと前からここに異世界に通ずる亀裂があったはずはないのです」




