梨音の月曜日
前回に引き続き梨音視点です。
月曜日。
私は登校しました。
マウリツィオは校門のところまで一緒でしたわ。
「それではレナータ様、私は近くでお見守りいたしますので」
「そう、ありがと、マウリツィオ。じゃあまた後でね」
靴箱の前で立ち止まります。
梨音の記憶ではここなのだけど・・・?
上履きがないですね?
さらに記憶をめくると、過去にも同じようなことがあったみたいです。その時は校舎脇の花壇で見つかったみたい。
では、そこへ行ってみましょう。
「あ、あった」
あったのですけど、泥で汚れてしまっていました。このままでは履けません。
洗える場所を探します。グラウンド脇に水飲み場がありました。ここで洗いましょう。
バシャー!一気に水を流して上履きをずぶ濡れにします。
次は・・・と。ちょっと上履きから離れて・・・
「エアシュート!」
小規模風魔法を上履きの内側に発生させて、水分を吹き飛ばしましょう。上履きの周囲に細かい霧のようなものが発生しました。
「こんなものかしら?」
触ってみると充分に乾いていますけど、少し湿っぽい感じがします。
もちろん汚れも水と一緒に吹き飛んで綺麗になっています。
「ヒートブロワー!」
火魔法と風魔法の同時使用で、温風を当てます。
ブオーっという音とともに上履きが小さな竜巻の中でクルクルと回ります。
うん、いい感じ。
回転が遅くなったので上履きが落ちてしまう前に受け止めます。
「熱っ!」
ちょっと威力が高過ぎたようです・・・生活魔法は慣れないです。でも、焦げてしまうほどではなかったようで一安心です。
指でつまんで校舎に戻りました。
充分に冷えたので靴箱の所で履き替えて教室に向かいます。ちょっと温かくて気持ちいいかも・・・
「ん?」
教室に入ると、こちらを見て唖然としている女生徒がいますよ。何故か私の足元を見て隣と女生徒と何か言っていますね。
気にしません。おそらく上履きを花壇に投げ込んだ犯人でしょうけど。
社交界の嫌がらせに比べたら、こんなの子供騙しですわ。私は以前のお茶会でお菓子に剃刀を入れられたことがありますから。
あの時は、あやうく大怪我をするところでした。いつもなら「パクっ」と食べてしまうクッキーを、手で割ってから食べようとしたので指先を少し切るだけで済みましたけど・・・
ええ、いつも戦闘バカだとか、魔法オタクだとかと言われて育ちましたから。
食事マナーが悪い、と怒られた直後のことでした。
この時ほど、テーブルマナーの大切さを身に染みて感じたことはありませんでしたわ。
え?なんでそんな物騒なことをされたのかって?
侯爵家跡取りの男性と話をしていたから、ですって。
あの方は攻撃火魔法の名手で、ちょっとアドバイスを聞いていただけでしたのに。
そんなことを思い出しながら最初の授業の用意をしました。
さっきの女生徒が近寄ってきますね。
えっと彼女の名前は・・・塩崎美百合さん、ですね。
「倉本さん。どうして上履きを履いているの?それ、あんたのじゃないでしょう?」
・・・呆れますね。
「それはつまり、塩崎さんが花壇に投げ込んだ、と認めるということですか?」
「なっ、そんなことは言ってないでしょう!私は花壇にあんたの汚い上履きが落ちているのを見たから、今履いている上履きは何処から盗んできたのか、と聞いているのよ」
「これは私のです。洗って乾かしただけですよ?」
「そんな馬鹿なこと・・・上履きがこんなにすぐに乾くわけがないでしょう!嘘をつくんじゃないわよ」
私は肩をすくめて周りを見ました。周囲の生徒たちは黙ってこちらを見ています。
「しょうがないですね」
上履きを片方脱いで示しました。
「ほら、ここに名前、書いてありますでしょ?」
塩崎さんは名前をまじまじと見つめています。
花壇に投げ込むために持ち出したのですから、そこに名前が書いてあることを知っているはずです。
「お話は以上ですか?席に戻られてはどうです?」
「そんなはずあるわけない!」
そう叫ぶと上履きをひったくって窓の外へ投げた・・・つもりだったみたいだけど窓枠に当たって跳ね返ってきて窓際の席の、無関係の男子の頭に当たった。
「痛って・・・なにすんだよ」
上履きを掴んで、こちらに来る。
「これ、梨音ちゃんのだろ?ちゃんと名前書いてある。塩崎さんも、いい加減にしたらどうだ?いつも梨音ちゃんをいじめてるだろ?」
「い、いじめてなんか・・・」
そこでようやく周りの生徒たちが注目していることに気付く。
「う・・・覚えていなさいよ」
小さな声で言い捨てると離れて行った。
「梨音ちゃん、今日はすごく勇敢だったね」
あら?何かキラキラしてますか?イケメンっぽい発言です。
でも残念、さすがに12,3歳の男子に恋は出来ないですね。私、精神年齢は19歳の大人ですから。
ちゃん付けで呼ばれちゃってますけど・・・仕方ないですよね。梨音は小柄な女の子ですから。




