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クリスマスイブ

最終話です。

一旦、これで完結といたします。

 二時になる頃、ナタリーが店のドアを開けてやってきた。

「お待たせしました、都代、カイト」

「お疲れ、ナタリー」

「お疲れ様、ナタリー!」

 ナタリーはファーの付いた黒っぽい毛皮のコートで現れたよ。

 店中のお客さんだけじゃなく、店の人達もチラチラとこちらを見ている気がする。

 金髪の人形のような美少女が、毛皮のコートに包まれて一人でファミレスに入ってきたんだから。

 めちゃ目立つ。

「雪、降ってきましたね」

「だねえ。積もるかなあ?」

「積もりそうですよ」

 外を眺めながらナタリーがつぶやく。その声は少し心配したような音色だった。

「どうしたの?」

「いえ、通路って、みんな山の中じゃないですか・・・」

「あ、そうか」

 折湊市は山に近く、海にも近い。

 地形的には、山に三方を囲まれ、残りの一方は海に面している感じ。折湊鉄道は、海から市街を抜けて山に入り、いくつかの集落を繋ぐ形でぐるりと回っている。

 途中までは電車で行けるけれど、最後の1キロくらいは徒歩になる。

 ナタリーは軽トラを使ったりしてるみたいだけど、それも雪が積もってしまったら難しくなるだろう。

「それだけじゃなくて、足跡の問題もありますよ。まだ山の中にはEPGの人達がいますから。こちらの足跡を付けられたら、通路が分かってしまいます」

「そ、そっか。それは危険だね」


 幸い、折湊市は太平洋に面した街だ。

 冬の雪も少ないし、冬の間、ずっと閉ざされてしまうってことは無い。


 ナタリーは、異世界通路の隠蔽魔法の研究をしていた。

 梨音と一緒にやってる。

 梨音は、ソロで異世界に潜っていたりする。時々、カイトも梨音と一緒に探索に出てる。私も、時々は行ってる。

 ナタリーは、魔法研究の傍ら、ホームセンターに良く行ってる。

 異世界で産業として作れそうなものの研究とかだね。最初はナイフや鋸なんかの刃物系が多かったけど、最近は圧力鍋とか保温調理器具とかを買っているのを見たよ。


「梨音は相変わらず?」

「ええ。元気にやってますよ。直接会いに来れないのを残念がっていました」


 クエスト報酬を換金するのに頼ったのは、線路の近くのおばあちゃん。

 以前にもお世話になったのだけど、今回は買い取りの人を紹介して貰ったよ。


 梨音は、レナータから5枚の金貨を貰っていたよ。

 クエストには参加していないけど、一番迷惑してるのも梨音だし、当面の活動資金の意味でお金を貰ったらしい。

 そのお金で、異世界でも使えそうな家具や道具を揃え、ナタリーの世界、ヴューテルシュミット村に家を借りた。

 そこで魔法が必要な時に村の人を手伝ったり、ナタリーの旅に付き合ったりしてる。もちろん、こっちに戻ってくることも多い。


「そういえば、EPGのことで気になることを聞きましたよ」

 ナタリーが声を潜めた。

「以前から、一部の人達が異世界へ行ったきり帰ってきていないって話は知ってるでしょう?」

「うん」

「カルステンは人手不足を理由に異世界で人材をスカウトし始めたそうです」

「うわあ・・・せっかく減ったのに・・・」

 山の中での探索では、EPGメンバーと思しき人に出くわすことも何度かあった。そのうち、何人かは梨音の知り合いでもあり、どっちかというと「異世界に帰りたい人」の方だったらしい。

 梨音は、異世界に帰る支援をすることを約束し、代わりに彼らはEPGの状況を教えてくれるようになっていた。

 ナタリーは、そういう人達を仲間に出来ないかと考えている。


 実際、もしも彼ら、元EPGメンバーが自分の故郷の世界を見つけたら・・・。

 彼らもまた、異世界へ戻った暁にはチートな知識で活躍することになるに違いない。その世界は、日本にも、ナタリーの世界にも影響は無いけれど・・・。


「それと、こっちの方が重要な情報なのですけど・・・」

「うわ、やな予感しかしない」

「まあ、そうなのですが・・・。EPGの母体、折湊監視制御システム室が、組織変革されるみたいです」

「どゆこと?」

 はてなマークが並んだよ。組織改革って何?

「都代にわかりやすく言うと、今までは異世界転生者を研究することで、長寿や転生を研究してチートに長生きしましょう、っていうお偉いさんたちの闇趣味的な組織だったのですよ」

「ああ、うん、そうだね」

 身も蓋も無い言い方だけど・・・。

「ですが、今や折湊市の山の中には多くの異世界通路がありますから。これは、手つかずの膨大な資源に成り得ます。異世界の向こう側で、石油、鉱物、木材を始め、いくらでも資源を取り放題に出来るかもしれません。逆に、折湊市が将来的に漠然と抱えている核のゴミ問題も、解決出来るかもしれません」

 うわ・・・えげつない・・・。

「どうやら、お偉いさん達は、お金儲けの匂いに群がり始めたようです。近い将来、異世界開発をする組織が発足するようです」

「でも、異世界通路は魔物のいる所に繋がるから・・・」

「魔法が必要・・・というわけでもないでしょう。日本には戦車だってミサイルだってあるのですから。都代がワイバーンをアイスミサイルで撃ち落とそうとしたように、携帯型対空ミサイルで撃ち落とそうとするでしょう。魔法使いなんて不要ですよ」


 ナタリーは1時間ほどで帰っていった。

 今日は状況報告に寄ってくれただけだ。

 ナタリーも今日は自分の世界に帰って、明日のクリスマスを家族と過ごすらしい。ナタリーの世界にもクリスマスがあるらしく、神の誕生した日っていう意味の祝日なんだって。12月25日から1月1日まで、神の誕生を祝うお祭りがあるそうだよ。

 ナタリーも神の誕生日と同じ、12月25日生まれだっていうこともあって、家に帰らなきゃいけないんだってさ。

 ナタリーが言うには、そもそも「ナタリー」って「神の誕生日」って意味なんだって。

 なるほど、ナタリーは生まれた時から伝説級だったんだね。


 カイトと私は積もり始めた歩道を自転車を押しながら並んで歩いていた。

「都代、寒くない?」

「うん、大丈夫。カイトは?」

「僕は平気だ」

 実は少し寒いよ。学校用のコートは、地味な指定のやつなんだ。校則的には、本当はコートは自由なんだけど、いちおう指定のやつを着てる。

 これがまた、薄いんだよね・・・。

 ナタリーが着ていた毛皮のコートが目に浮かぶ。

 あれは温かそうだったなあ・・・。


 でも、あれ、魔物の毛皮だけどね。

 ブラックムーンベアの毛皮だね。ナタリーの世界に繋がる通路の付近に出るんだよね。ナタリーが毛皮の肌触りを確かめてたから知ってる。熊の魔物なんだけど、毛皮はすごくいいんだよ、あれ。

 もちろん、デザインはこっちの世界のコートのカタログなんかを参考にして作らせたらしいよ、ナタリーが。

 それで、一緒に作った大人用のコートを向こうの世界のお母さんにプレゼントするんだって。


 家の近くまで歩いてきた。

 4時過ぎ。すっかり雪は本降りになってきた。

 カイトの頭の上にも雪が積もってる。

「カイト、動かないでね・・・」

 そっとカイトの頭の上の雪を手で落とす。

「都代も・・・」

 カイトが私の頭を撫でていく。雪がさらっと落ちた。

「ちょっと寒いね」

「だな・・・早く家に入ったほうがいい」

「うん・・・。じゃあ・・・今度は、いつかな」

「またメッセージを送って。バイトしてるわけでもないし」

「うん」

「じゃあ・・・また・・・」

「うん」

 私は、少しうつむいたまま、頷く。

 カイトは、自転車の向きを変えると歩き始めた。

 私は、その背中を見送る。


 数歩、カイトが歩いたところで、立ち止る。


「あ、忘れる所だった」

「え?なに?」

 カイトが振り向いて、こちらへ戻ってくる。

「これ、都代に・・・」


 カイトが小さな包みを差し出した。

「クリスマスプレゼント」

「わ・・・ありがとう」

「開けてみて」

「うん!」

 オレンジと黄色のラッピングを開くと、腕時計が出てきた。BabyGだよ。

「都代、ずっと時計してなかっただろ。あの夏の旅で壊して以来」

「うん・・・」

 欲しいとは思っていたけれど、何故か買えなかった。

 あの日、あの時、壊れた時計。

 怖かった。

 あの時の事がフラッシュバックすることが。

「大丈夫か?」

「カイト・・・大丈夫。嬉しいよ。これなら・・・次は壊さないようにする」

 カイトが苦笑する。

「当たり前だ」

 嬉しい。

 買えなかった時計。それも、ちょっといい時計。異世界で使っても壊れないタフな時計。そしてカイトがくれた時計。

「ありがとう!」

「どういたしまして」

 私は、babyGを自分の腕につけた。

「似合う?」

「ああ。似合うよ。いい感じだ」

 私は自然にほおが緩むのを感じた。


「じゃあ、今度こそ、僕は帰るから」

「あ、カイト!ちょっと待って」

 私はカイトを玄関まで引っ張ってきて、そこで待っててもらうと、部屋にダッシュした。

 バタバタと玄関に戻ると、ドアを閉めた。

 お母さんが訝しげに見てたからだ。

「カイト、私もプレゼント!」

「え?本当に?うれしいな、ありがとう」

 大きな紙袋に入ったプレゼントを手渡す。

 良かった、今日、これを渡せて。なんか言い出せなくて・・・。カイトはクリスマスのことなんて気にしていないかも、とか、私は彼女ってわけじゃないし・・・とか、いろいろ考えちゃったから・・・。

 カイトは中身を見る前から嬉しそうな顔だ。

 良かった。

「中を見て」

「うん」

 カイトが紙袋の中からバッグを取り出した。

「メッセンジャーバック。ティンバックってやつ」

「おお!これ欲しかったやつだ!」

 ロードバイクに乗るのにすごくいいって聞いたから。カイトがビアンキに乗る時に使ってくれたらいいなって。

「それと・・・そのバックには秘密があります」

「え?どういうこと?」

「中を開けてみて。そして、3つ目のポケットに手を入れてみて」

「うん・・・?」

 カイトは不思議そうな顔でバッグの中に手を入れる。

「え?これは・・・」

 そしてそのまま途中まで引き抜いたカイトの手には、グレートソードが握られていた。

「まさか・・・ナタリーに注文していた新しいやつか!」

「そうだよ。ナタリー工房謹製のグレートソード!そのバッグには、ナタリーから教わったマジックバックの魔法付与がしてあるの。ロッカー一個分くらいの荷物が入るよ」

「す・・・すげえ・・・」

「嬉しい?」

「すごく嬉しいよ。というか、めちゃ驚いた。こんなん願っても手に入らないやつだよ」

 カイトは興奮気味に私の手を握る。

「都代、本当にありがとう!こんなに嬉しいプレゼントは初めてだよ」

「いいえ、わたしこそ。カイトのくれた時計、大切にするね」

「ああ、僕も、大切に使うよ」


 しばらくお互いにお礼を言い合い、そして握手をして別れた。

 カイトを見送って家に入る。


 何か聞きたげなお母さんを無視して自分の部屋に入った。


 カイトからもらった時計。

 メタルな縁取りに薄いピンクの腕時計。流れ星のアクセントが描かれてる。

 すごく綺麗。


 自然と、にまにまと顔が笑ってしまう。

 カイトに貰った腕時計。


 コートを脱いで、制服のまま、ベッドにドスンと倒れ込む。


 そうだ、今夜は、これをしたまま寝よう。

 きっといつもより、良く寝られるよ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


ファンタジー初挑戦だったので、途中、いろいろありましたけど、

読んでいただいた皆様のおかげで最後まで書けました。


ありがとうございました!


とりあえず一度、完結しますけれど、続編を書きたいと考えています。



しばらくは、

https://ncode.syosetu.com/n1859go/

けもみみ転生~

を書いていきます。


なんか、とてもケモミミな話を書きたくなったのです。

ただそれだけです。


よろしければ、こちらもどうぞ御贔屓に・・・。

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