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異世界通路とEPG

 レナータは、研究所を抜け出した後も、勝手に異世界通路を作り続けていた。


 当初、原子力発電所並みの電力を必要としていた異世界通路魔法だったけれど、その後のレナータの研究により、消費魔力の軽減、無駄なエネルギーの排除などの効率化によって、超高圧送電線の側であれば十分なエネルギーを得られる程度まで電力消費を抑えていた。

 そこでレナータは20回以上の異世界通路魔法を使ったらしい。


 なんで「らしい」っていうのかというと、レナータ自身が、途中で数えるのを止めてしまったからだ。


 ちなみに、後から作った異世界通路は、レナータが魔法を使った場所の近くに開いた。

 

 可能性のありそうな世界に繋がった通路には、レナータ自身が転移の部屋を作成し、そうではない通路は放置した。


 そういう状態のため、EPGは異世界通路探しと、その対処に追われ、レナータを捜索するのは後回しになっていた。

 EPGにとっても、無秩序に異世界通路を作られても困るのだけど、通路だらけで魔法探知も出来ない上に、人手もなく、そもそも通路の先にいたら探すことさえ出来ない状態では、捜索するのに人員を割く方が無駄だと思ったらしい。


 それにレナータの目的ははっきりしていた。

 彼女は、自分の世界に帰りたかっただけなのだから。

 そして彼女自身が宣言していたことでもあるけれど、レナータが梨音と意識を入れ替えて戻ってきたなら、その時こそ、EPGの長年の悲願が叶う時でもあった。



---------------------------------


「つまりEPGの人達は、全体数さえわからない異世界通路を発見、調査することを最優先にしているってわけですね?」

 ナタリーがマウリツィオ師匠に確認する。

「その通り、ナタリー殿。異世界通路は、放っておくと崩壊して消滅しますからな!レナータ様が作りっぱなしにしていることは明白である以上、少しでも有益な通路を一つでも多く確保したいと思っているのですよ」


 梨音は、ナタリーとマウリツィオ師匠の会話を黙って聞いていたけれど、一区切りついたところでため息をついた。

「せっかく混乱して追及が甘くなっているのだから、私が帰ってもバレないんじゃない?」

「梨音、帰るって・・・何処に帰るつもりなんですか?」

「・・・」

 梨音は帰る家が無い。

 異世界転生者を探す実働部隊の責任者、それが梨音の義理の父親なのだから。


 梨音はため息をついた。

「でも、私は日本で生活したいの。3ヶ月、異世界生活したけど、不便だし、文化は違うし・・・」

「じゃあ、梨音、こうしましょう。しばらくは私と一緒に日本とこちらの世界を行き来しましょう。それで、日本に戻るためにはどうしたらいいか、調査を続けましょう。都代とカイトは日本に戻り、折湊市で起きていることを調査してください。マウリツィオ師匠は都代と一緒にいて、都代の安全だけは守れるように注意していてください」

「ナタリー殿、それが無難でしょう」

「僕はいいけど」

「私は構わないけど・・・。梨音は?」

 梨音は私達を見渡す。

「仕方ないわね・・・。私にはレナータの19年間の記憶がある。みんなの言ってることが正しいのはわかる。帰りたい気持ちはあるけれど・・・帰る場所がないのもわかってる」

「じゃあ、決まり!梨音、私は協力するからね!」

「うん。僕もだ。日本で泊るところが無かったら家に来るといい。うちの家は、梨音が泊まりに来たことを誰にも言わないって知ってるだろう?」

「うん・・・。けど、行かない。カイトの家を巻き込みたくない。私の関係者には監視が付いているかもしれないもの」

 ナタリーが難しい顔をした。

「可能性はありますね。カイトや都代は梨音に近いですから。家に行くのはリスクが高いでしょう」

「そっか・・・。僕はいい案だと思ったんだけど」

「焦らずに行きましょう。それと、せっかくレナータが開けた異世界通路です。レナータの世界とこちらの世界、隠蔽魔法をかけるのを最優先、続いて、他の通路でレナータが確保している物、それからEPGが未発見のもの。それもEPGに見つからないように隠しつつ、通路の維持が出来れば切り札に出来るかもしれません」

「そうですな。いずれ敵対することになるかもしれませんからな」



 話し合いは終わり、夜も遅くなってきたので寝ることに・・・。

 今後の連絡の取り方とか、気を付けることとか、そういうのは明日にしようということになった。


 梨音は二階に上がっていく。

 なんだかんだ言っても、今の梨音は落ち着いている。精神年齢はレナータと変わらないのだ。それは知識を共有しているから。基本性格が少し違うだけで、中身はそんなに差は無いのだ。

「梨音は大丈夫ですよ。ちゃんと私が注意をしていますし、ね」

 ナタリーが私の肩を叩き「私も寝ますよ」とマウリツィオを抱き上げ二階に上がっていった。


「ねえ、カイト」

「ん?」

「梨音もナタリーも、普通に私を置いていったけど・・・もう私はカイトと一緒に寝るってことで決定してるのかな?」

「ん・・・そうだな」

 まあ、いいんだけど。

 レナータは、カイトのいびきがうるさくて眠れないって言ってたけど、私は平気だし。

 それに、まだ一人で眠るのは怖いし・・・。

「じゃあ、カイト、寝ましょうか?」

「ああ」

 カイトが立ち上がり、私も後から続く。

 別に何かあるわけじゃない。

 ただ、私が眠るまで、カイトが見守っている、ただそれだけ。


 でも、それが今はとてもうれしい。

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