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異世界通路と梨音

「都代、ちょっと相談があるんだけど・・・」

 お風呂の片付けが終わる頃、梨音がコテージに戻ろうとする私を呼び止めた。

「なあに?」

「カイトとナタリーも一緒に・・・」

 みんなで広間に集合。あ、もちろんマウリツィオ師匠も一緒ね。

 ナタリーがアイテムボックスから麦茶を取り出す。カイトがキッチンからグラスを持ってきて並べた。

「帰ってからの事なんだけど・・・」

 梨音が俯き加減で言い出した。

「梨音、私はシュッテルヴァイスビンゲンでしばらく過ごすのがいいと思います」

 ナタリーは、梨音をしばらく預かりたいと思ってる。

 梨音はナタリーを見つめる。

「まず第一に、梨音は日本に帰るリスクが高過ぎます。ですから、すぐに日本に戻るのはやめておいた方がいいでしょう」

「でも・・・。私は日本へ帰りたい。普通に学校に行って、普通に遊びたい。都代は帰るんでしょう?都代は良くて、どうして私はダメなの?」

「梨音・・・」

「梨音が日本に帰りたいと思ってることは知っています。けれど、今はやめておいた方がいいでしょう。レナータがいなくなったことは、EPGも気付いているはずです。梨音が今、姿を現せば、再度逃げられないように身柄を拘束される可能性が高いのです。レナータが姿を消す理由が、元の自分に戻るためなのですから、梨音が現れるということは、つまり、意識の入れ替え、魂の入れ替えに成功した、と言っているようなものです」

「ナタリー殿、その魔法は禁忌ですぞ。レナータ様と梨音ちゃんは記憶を共有する魂同士だったから成功したのです。まったく知らぬ赤の他人であれば、成功確率は極めて悪い・・・」

「そうなのですか・・・。つまり、VIPに使うためには、繰り返しの人体実験が必要というわけですね」

「・・・ナタリー殿・・・」

「レナータから聞いた話では、彼女は人体実験に参加するのを拒み、代わりに異世界通路を作ることを提案し、それはEPGに受け入れられました。レナータの思惑は、自分自身の帰還にありましたけど、EPGにとっては、異世界において人の寿命や転生を操るための魔法を直接探せるメリットもありました」

「そっか、レナータは人を説得するの得意そうだもんね」

「それと、レナータが言っていたことですけれど、今、EPGは混乱しているそうです。レナータの魔力がある限り、そして、折湊市の原子力発電所の電気エネルギーを利用して、異世界通路を開けまわったため、開いた異世界の調査が追い付かず、そこから溢れる魔素と魔物への対処で少しでも魔力のあるEPGメンバーは対応に追われているとか」

「レナータ様が最初に開いた異世界通路、それがナタリーちゃんの世界でした。最初の通路であるが故に綻びも多く、多くの魔法力で維持管理が必要と思われました。そしてEPG中心メンバーの一人、カルステンという男が調査のために、レナータ様と一緒に、この世界へ来たのです。レナータ様は土魔法で異世界通路の部屋を作りました。カルステンには、異世界通路の部屋を創造する魔法を教えたと言っていました。レナータ様ほど完璧には作れないものの、EPGの何人かは作成できるようになっているでしょう」

「EPGにとって誤算だったのは、レナータが実験に全く協力するつもりが無かったことです。レナータは、研究所に戻ると勝手に異世界通路を作り続けようとしました。レナータが言うには、研究所で10個以上の通路を作った、とか」




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 ナタリーとマウリツィオ師匠は、今回の旅に出る前にレナータと計画を相談しているし、旅から戻った後のことも話し合っている。

 私も聞いていないわけではないのだけど、話が込み合ってわかんない。

 でも、まとめると、こんな感じだ。


 EPGに拉致されたレナータは、寿命を延ばす実験や、魂の入れ替えをする実験に参加させられそうになった。でも、協力しているふりをして実績を出さなかった。

 実験が成功しない理由を聞かれたレナータは「材料が足りないからだ」と答えた。


 魔法実験に必要な材料・・・魔石を始め、異世界でしか手に入らない品々のことだ。


 レナータは、それを手に入れるには、異世界へ行かなくてはならない、と主張した。そして、異世界通路を作ることは可能だ、と。

 

EPGにとって、異世界通路は魅力的なものだった。


 レナータのいう魔法の材料が手に入るだけでなく、魔法の知識、魔術師、魔法士の人材スカウトも可能かもしれない。

 それに、EPGメンバーの何割かは、異世界転移で日本に来た人達だ。

 彼らが故郷に帰れる可能性もあった。もちろん、それは表向きの理由としては伏せられていたけれど・・・。


 レナータの異世界通路実験は了承され、準備が進められた。

 原子力発電所のエネルギーを使用する許可も得た。

 電力消費が少ない夜間に実験を行うことになり、レナータ達は最初の実験を成功させた。


 最初に実験で出来たのがナタリーの世界へ繋がった、この異世界通路だ。


 ここを調査したのはカルステンとレナータだ。


 調査結果は「魔法文明が低く、利用価値は無い。ただし魔素はあり、魔石回収は可能」


 調査を終えて帰還したカルステンとレナータは、異世界通路から折湊市へ魔物が数匹逃げ出したことに気付く。

 逃げ出した魔物への対処を他のメンバーにしてもらうための連絡をするとともに、異世界転移通路の異世界側の入り口に「転移の部屋」を設置することにした。

 異世界から日本へ魔物や、異世界の住人が迷い込んで来ないようにしたのだ。

 この時、レナータは通行を許可する人物の設定に、カルステンの目を盗んで私の名も追加した。


 マウリツィオ師匠は、この綻びだらけの異世界通路から溢れる魔素と逃げ出した魔物の反応にいち早く気が付いた。

 そこで、私に「バイト」と言って魔物と対峙させ、私の魔力開発を始めた。

 マウリツィオ師匠にとっては、私の魔法練習も自分自身の魔法研究の一つだったし、なんとなくレナータの意図も感じたから、だそうだ。


 レナータは利用価値が低いと判断された世界を放棄することを主張、次の世界に繋がる通路を作る準備に取り掛かった。

 カルステンは異世界通路の維持を行う実践と、通路周辺に現れる魔物から得られる魔石の回収を行っていたけれど、レナータが次の通路を開いたため、調査を打ち切った。

 その後、私がマウリツィオ師匠とナタリーの世界に行き、ナタリーと出会った。


 レナータは異世界通路を2つ作ったことで、魔法を改良するヒントを得る。

 通路作成の効率化だ。

 少ないエネルギーで、安定した通路を作る方法を見つけ、次々に実践していく。

 

 もちろん、通路の無計画な乱造はEPGに止められることになる。

 けれど、その頃にはレナータの通路作成は高効率化していて、もはや原子力発電所ほどのエネルギーを必要としなくなっていた。

 その頃には、10近くなっていた異世界通路の調査、管理にカルステンを始めEPGメンバーは忙しく働くことになっていた。

 レナータは、通路を作ったという実績もあり、研究を一足飛びに進歩させる可能性を生み出したとして監視も甘くなっていた。


 そしてレナータは、研究所を抜け出した。

 一応、目的は、異世界通路の状態確認と、転移の部屋の魔法作成だった。


 実は、研究所で原子力発電所の電力エネルギーを使って創造された異世界通路は、ある程度の範囲内でランダムな場所に開いてしまい、まずは異世界通路を見つけ出す調査が必要だった。しかし、異世界通路は、魔力が無いと通路の存在を感じ取れないのだ。


 何処に開いているのかわからない上に、魔力が無いと場所がわからないという異世界通路を捜索するために、魔力のある者は通路の捜索にあたり、冒険者や戦闘職、異世界調査が出来る者は、現地調査を行っていた。

 さすがにEPGメンバーだけでは手が足りず、現地調査には「実働部隊」も駆り出された。レナータ達、異世界人を探し出すための部隊だ。調査能力と多少の実戦経験があるためだ。


 そして、調査が進むうちに、研究所で行われた異世界通路創造実験の回数よりも、見つかった異世界通路の方が多いことが判明する。

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