二日目の夕飯アウトドア飯
美しい景色の中で。
季節は夏だったけど、高原の湖に浮かぶボートの上は、とても涼しい。
ちゃぷちゃぷと水音だけがしている。ボートは、少しづつ流されているようだったけど、あまり関係ない。どうせ何処かに行くつもりなどないのだから。
カイトが時々、オールを水に入れてボートの方向を変える。
静かに時間が過ぎていく。
ナタリーが、うとうとしてる。
「ナタリー、眠そうだね」
カイトに話かける。
「気持ちいいからなあ」
ナタリーを起こさないように、静かにボートを漕ぐ。ぎい、ぎいっとリズム良く響く櫂の音が心地よい。
ゆっくりと湖を回り、私達は2時間ほどでコテージのある岸に戻ってきた。
午後4時半。
今夜もバーベキューかな?
夕飯は芋煮会に決定。
カイトのお母さんの実家は山形で、秋に河原で芋煮っていうのをやるんだって。夕飯どうするって話をしてたら、外で食べる料理ってことでカイトが思い出したんだ。
「芋煮?」
「そうだよ」
「お芋さん、煮るだけ?煮っころがし?」
「煮っころがしじゃあないな。どっちかというと煮物というより鍋料理かなあ・・・。豚汁ってあるでしょ?あれが、醤油ベースで肉が牛肉で里芋がゴロゴロ入ってるって感じ?」
「ふーん。おいしい?」
「おいしいよ。あったまるし、〆にうどんを入れたりする」
聞いていたナタリーが、いいですね、やりましょう、と言い出した。
「材料はありそうです。里芋は持ってないのですけど・・・タロイモならありますね」
「タロイモ?」
聞き返したら、梨音が呆れた顔で言った。
「都代、聞き返してばっかりだね」
「えーいいじゃん。知らないことは素直に聞く方がいいよ」
「そうですね、素直に聞いてくれた方がかわいいですよ、都代。タロイモは里芋に似た芋です。というか、タロイモの一種が里芋なんですけどね。私のアイテムボックスに入っているタロイモは、シュッテルヴァイスビンゲン産のものです。おそらく日本の里芋よりも寒さに強い品種ですよ」
「寒さに強い品種とかあるの?」
「ええ。タロイモはどちらかというと熱帯地方のお芋さんですからね」
「へえ、そうなんだ。シュッテルバイス・・・なんだっけ?は寒い地方なの?」
「そうですね、大体日本の東北くらいの感じです。名前なんかはドイツっぽいんですけど、世界感は随分違いますよ」
「そうだね、なんかジャガイモ食べてる印象だったよ」
「都代は、ヴューテルシュミット村に来たことがありましたね。お肉たっぷりのバーベキューだったでしょう?あの日もタロイモを使った料理が出てきたんですけど・・・覚えて無いですか?」
うん、まったく印象に無いよ。ソーセージがおいしかったことしか覚えてない。
「中世ヨーロッパでは、穀物が主食で野菜で栄養を補っていたそうです。けれど、シュッテルヴァイスビンゲンでは、魔物肉の供給が多いですからね。肉食文化が浸透しているんですよ。それとジャガイモは無いのですよ」
「え?そうなの?なんか、中世のヨーロッパの人ってジャガイモが主食ってイメージだった」
「どこからそんなイメージが・・・。ジャガイモの原産地は南米大陸ですよ。コロンブスがヨーロッパにジャガイモをもたらしたんですよ」
「へえ!ナタリー、物知りだね」
「まあジャガイモの話はおいといて、タロイモで芋煮会ってことでいいですか?」
「いいよ!芋煮会、やろう!」
「レシピを書くから、みんなで用意してくれると助かるな」
「キッチンでやる?それとも外で?カイト兄ちゃん、ちゃんとレシピ覚えてる?大丈夫?」
「大丈夫だよ、何度もやったし」
みんなで外で用意をしていくよ。
昨日使ったバーベキューコンロを使うよ。
大きな鍋に水を入れ、そこに酒を少しと里芋・・・じゃなかった、タロイモとこんにゃくを入れて10分ほど強火で・・・。さっと灰汁を取ったら醤油を垂らし、牛肉を入れていくよ。
このお肉もシュッテルバイスビンゲン産なんだって。
たぶん、牛さんに似た魔物の肉なんだと思うよ。ナタリーが、肉を切る前に聖魔法をかけてたからね。ナタリーは、一応ですけどね、って言ってた。
別の鍋で作ったゆで卵も鍋に投入~。
お肉は2回に分けて投入する。灰汁を取りながらね。
二回目のお肉と一緒にネギを投入。
ネギを半分くらい入れたら、一緒に醤油、砂糖、酒を適量入れていく。味付けだよ。
5分くらい煮込みます。
最後に、残りのネギと味付けも二回目投入。
「さあ、出来たぞ」
カイトがいつの間にかエプロンをしていた。
「ぷ、カイト、なんでエプロン?」
「雰囲気だよ。鍋作る感じ出てるだろ?」
木で出来たお椀をナタリーが用意してくれた。
そして木で出来たオタマでカイトが芋煮をすくってくれた。
「はい、都代。暑いから気をつけて」
「ありがとう、カイト」
ナタリー、梨音にもお椀を渡すよ。
「マウリツィオさんは皿だな。ここに置くよ。はいどうぞ」
マウリツィオがテーブルの上に乗った。湯気の立ち上る皿を眺めながら、時々、こっちを見てた。
うん、猫舌だもんね、師匠。
「うまーい!」
芋煮、予想外においしかった。
醤油ベースの汁なんだけど芋と牛肉の旨味が良く出てる。それに確かに体の芯から温まるような感じがするよ。
「久しぶりだったけど、うまく出来たな。うん、うまいうまい!」
「芋煮は初めてですね。おいしいです」
「わあ、あったまるー。味噌ベースの豚汁もいいけど、芋煮はシンプルだけど深い味わいだねー」
みんな次々にお代わりをしていくよ。
しばらくして、みんなお腹いっぱいになってきた頃・・・。
「さあ、〆だよ」
カイトが元気よく言って、カレーのルーを手に取った。
「え?カレー?」
「そうだよ。うどんも投入する。カレー煮込みうどん、食べる人!」
「はい!」
勢いよく手を上げた。
ナタリーと梨音も手を上げた。
「にゃ!」
手は上がってないけど師匠も欲しいのか。
おなかが満足して、私はアウトドアチェアーに腰掛けた。
カイトも梨音も楽しそう。
私は椅子に腰かけながら、カイトと梨音を見ていた。
カイトは日本へ戻るって言ってくれた。
私は、安心して帰ることが出来る。
梨音は・・・どうするつもりなんだろう。
異世界通路は、壊さなきゃダメなんだろうか。
もうしばらくだけでも、あのままにすることは出来ないのだろうか。
ナタリーの世界への通路は、隠すって言ってた。
EPGはこの世界に価値を見出さなかった、とレナータは言ってた。
とはいえ、隠しておく方がいいに決まってる。壊れてしまったように見せかけるんだって言ってたけど。
もしそれが出来るなら、レナータの世界の通路も同じように隠せばいいんじゃないか?
あと少しで完結です。
どうも最後のまとめ方がぎこちないかも・・・。ごめんなさい。
https://ncode.syosetu.com/n1859go/
けもみみ転生~ もよろしくお願いいたします。