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異世界湖畔。ボートに乗るよ。

 朝ご飯はナタリーがホットドックを作ることになった。

 梨音は、まだ起きてこないよ。

 けど、きっと疲れているだろうから起こさないでおこうってことになった。

 そうだよね、私はナタリーのアイテムボックスで運んでもらってたけど、梨音達は、旅をしてきたんだもんね。最後は死の森だし、大変だったはず。

「ありがとね、カイト、ナタリー」

「いいえ、いいんですよ、都代」

「ああ、気にする必要は無いよ」

「って、都代ちゃん。わたしもいますよ!?」

「あ、ごめん、師匠。師匠もありがとうね?」

「そんなついでみたいな・・・」


 キッチンでウインナーを焼いて、パンを少し焼く。

 トースターは無いから、カセットコンロを使うよ。フライパンでパンも焼く。

「はい、出来た」

 ナタリーが皿にホットドッグを積み上げていく。

「熱いうちにどうぞ」

「いただきまーす」

 一つ取って、がぶりと一口。

「おいしい!」

 すっごい適当に作ったホットドッグなんだけど、おいしい。なんでだろ?適当だから?

パンも普通にスーパーで売ってるやつだけど、焼いただけで、なんかそれっぽい。

 二つ目に手を伸ばす。

 カイトも一つ目を食べていた。

 師匠もハフハフって言いながら前足で押さえて噛みついて食べてる。なんかかわいい。

「久しぶりにフライパンなんて持ちましたよ」

 ナタリーが、ちぎったパンを口に入れながら満足そうに微笑んだ。うん、ホットドッグ、ちぎって食べるんだ・・・。


 梨音はお昼前くらいに、ようやく起きてきた。

「おはよー・・・」

 眠そうな顔。寝ぐせ付きっぱなしだよ。

「梨音、おはよう。眠そうだね?」

「あ、都代。うーん、なんか疲れがたまってたみたい。久しぶりに心配事せずに寝たから・・・寝過ぎちゃった」

「心配事?」

「そう。やっぱ異世界だとさ、敵襲があるかもだったし、旅の途中も気は抜けなかったし。でもここは安全だから」

「そっか。梨音も大変だったんだね。おつかれさま。それから、私を助けてくれて、ありがとう」

「いやいや、迎えに来てもらったのはこっちだし」


 ナタリーがキッチンから広間に入ってきた。

「準備出来ましたよ・・・。あ、梨音、おはよう。これから湖をボートで散策する予定なんですけど、一緒に行きますか?」

「ん、今日はやめとく。みんなで行ってきて」

「そうですか・・・。じゃあ、朝のですけど、ホットドックを置いていきますね。それとポテチとかそのあたりにある物は勝手に食べていいですからね」

「うん、ありがとう。キッチン、借りるね。お茶飲みたい」

「ええ。自由に使ってくださいな」


 桟橋に繋ぎ止められたボートは4人乗りだった。

 さっき、岸にひっくり返しておいてあったボートだよ。そうしておかないと雨水が溜まって痛んじゃうんだって。

 木製で結構重くて、私一人の力じゃ全然動かなかったんだけど・・・。

 ナタリーがアイテムボックスに収納して、それから桟橋でアイテムボックスから取り出したら普通に浮かんでる状態で出現した。


 アイテムボックスって、そういう使い方もあるんだ・・・。


 マウリツィオ師匠もボートには乗らないみたい。

 水に落ちたら大変だもんね。猫だし。

 ボートはオールもついてるけど、船尾にナタリーが大きな板のようなものが付いた箱を取り付けていた。

「それなあに?」

「あ、これですか?これはこちらの世界の船外機ですよ。魔道具になっていまして、漕がなくても進むんです。魔石で動きますよ」

「へえ。便利だねえ」

「まあそうでもないのですよ。これ、ひどく遅くて。スピードが出ないんですよ。ほとんどの漁師は、自分の手で漕いだ方が速いっていいますね。それでも改良すれば使えるようになるか、と一つ買っておいたんですけどね」


 動き出したボートは、確かに遅かった。

 流されているのかな、と思うくらい遅い。音がしないから余計にそう思うのかも。

「ナタリー、漕いでもいいか?」

 カイトが、じっと沖を眺めながら言った。

「ええ、構いませんけど・・・」

 カイトがオールを手にして水を掻いた。

 ぐん、とボートが進んだ。あ、速い。

 ぐいぐいと速度に乗っていくよ。

「カイト、ボート漕ぐのうまいね!」

「うん。練習したからね、去年」

「去年?」

「折湊市に佐内湖っていう湖があるの知ってる?」

「ううん、知らない」

「あるんだよ、そういう湖が。そこで毎年、キャンプ合宿があってさ。ボートに乗れるから人気あるんだよ。高校生になったら参加出来るんだ」

「そうなんだ。じゃあ、カイトはそれで練習したの?」

 カイトが頷いた。

「都代が高校生になる頃には、僕は大学生だから・・・一緒には行けないけど、参加してみるといいよ。湖畔でバーベキューしたり、森で遊んだりもするから楽しいよ」

「昨日のバーベキュー楽しかったもんね!」

「ああ」

 そっか、カイトと一緒には行けないのか。少し残念だな。

 ん、でも、大学生って言った?カイト、日本に戻るって決めたの?


 その質問は、まだ言い出せなかった。


 ふっとした沈黙が訪れる。

 私は、ちょっと気まずくて、ナタリーに魔道具の事を尋ねた。

「この魔道具は水系魔法で動いているんですよ」

「水系?」

「ほら、私も魔法で水を出せるって言ったでしょ?あれです、あれ。魔道具から水が出るので、その出てきた水の勢いで進んでいるんです」

「・・・まじ?」

「ええ」

「そんなんじゃ遅いはずだよ・・・」

「ですよね。構造を知った時は愕然としました。こんなのいくら改良してもダメだろうって」

 ナタリーが苦笑してた。

 誰もボートの漕ぎ方がわからないかもって思って付けてみただけなんだって。

 予想外にカイトのボート漕ぎがうまかったので、ナタリーは魔道具を取り外してしまったよ。


 チャプチャプとボートに波の音が響く。

 湖の上、湖面に浮かんでいるよ。


 すっごい新鮮な景色。

 小さなボートは、まさに小舟。座っているとお尻の位置が丁度水面と同じくらい。

 まるで水の上に座っているような錯覚になる。

 広い湖の真ん中に、座っているのを想像してみて欲しい。


 すっごい新しい感じの景色だよ!


 湖畔からも見えた岩山が、湖面の向こうに見えた。

 水面が近い。

 揺れる水面に岩山が逆さに映り込んでいる。360度、水面。

 ボートに当たる水音だけの世界。


「カイト・・・」

「なに?都代」

「ううん、なんでもない」

 なんか呼びたくなってしまった。それだけだよ。

 ナタリーが、頬をポリポリと掻いていた。視線を私達とは逆の方へ・・・。

「カイト・・・」

「ん?」

「日本に戻る?」

「・・・ああ」

「梨音は・・・」

「梨音は関係ない。旅の途中、梨音とも話したけど、僕は都代を見守るべきだって言われたよ。梨音にはレナータの知識がある。どんな世界にいても、梨音はやっていけるから、と言われたよ」

「そう・・・」

「梨音には、ぶっちゃけ私の方が強いわよ、と言われたよ」

「・・・そう、なんだ・・・」

 確かに、梨音の魔力量はすごく多いみたいだけど・・・。レナータと同じ戦闘力があるとすると、かなりのものかもしれない。

 実際、日本で原子力発電所の電気を使って雷を落としたことがあるって言ってたもんね、カイト。

「カイトが日本に戻ってくれるのは嬉しい。私はカイトと一緒にいたいよ」

「ああ。もう都代を危険な目に遭わせないと約束するよ」

 ううん、と私は首を振った。

「大丈夫。私はカイトに会えるのが嬉しい」

 カイトは少し恥ずかしそうに目を逸らした。私は、そんなカイトの横顔をじっと見つめた。

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