異世界湖畔の朝
都代視点に戻ります。
目が覚めたら明るかった。
というか、眩しい!
半開きのカーテンから朝日が差し込んでいるよ。
「ん、良く寝た・・・」
眠る前は、すごく不安で堪らなかったのに。えっと、ナタリーが椅子に座ったまま寝落ちして・・・。で、どうしたんだっけ・・・。
昨夜のことを思い出し、はっと気が付いた。
ま、まさか・・・。
振り返るとカイトの寝顔があった。
きゃー、私、カイトと一緒に寝ちゃった。
うわわ・・・。
慌ててベッドから這い出ると、カイトを起こさないようにして部屋から、そっと出た。
うん、まあ・・・別に、何かやましいところがあるわけじゃないんだけど・・・。
だってほら、梨音とかに見られたらなんか、気まずい?ような?
廊下を歩いて広間に出た。
この部屋は大きな窓があって、お日様の明かりが差し込んでいて明るい。
少し肌寒さを感じて、入り口近くのコート掛けから自分の上着を取って羽織った。
まだ少しドキドキしている。
昨夜、ナタリーをベッドに連れて行って、自分も寝ようとしたのだけど寝付けなかった。
ちょっと外の空気でも・・・と思って部屋を出たのだけど、寂しくて、怖くて、気がついたらカイトの部屋の前にいた。
寝ているかもしれない・・・けど・・・。
ノックをしても出てこなかったら、諦めよう。
コンコンと控え目にノックをしたらカイトが眠そうな目で出てきた。
「起こしちゃった?」
そう聞いたけれど、カイトは「いや、大丈夫だ」と答えた。それから、寒いから中に入ったら?と言われて部屋の中に・・・。
その時点で、もう寂しい気持ちは無くなっていた。
カイトに、どうしたの?って聞かれたんだけど、なんか寝付けなくてって答えた。
カイトは、じゃあ都代が眠るまで話でもしようかって言ってくれた。
ベッド一つ、ちょっとした物入れの棚が一つ。
まるで学生寮の部屋のような狭い部屋だった。
ベッドに並んで座り、カイトと話をした。ローマからアンツィオに向かう軽トラから見た景色の話とか、途中で食べたピザの味とか・・・。
私はカイトに寄りかかり、何故か、とても安心して・・・寝てしまったみたい。
うー・・・。
恥ずかしいよぉ・・・。
カイトはどう思ってるんだろう。
夜中に部屋に来て、そのまま寝てしまった私のこと・・・。
なんか顔が熱いよ。
ちょっと外の空気に・・・。
ドアを開け、外へ出た。
「さむ!」
外の空気は冷えていた。
湿気を含んだ空気。というか朝靄が湖を撫でていく。
上りかけた太陽の光をキラキラと反射させて揺らめく湖面に白い霧が漂っていく。
幻想的に浮かび上がる岩山を背景に、静寂の景色が広がっていた。
なにこれ・・・。
見たことのない。感動する景色・・・。
まるで神様が現れそうな幻想的な景色だよ。
湖の上は、まるで主人公を待つ舞台のようにゆっくりとした動きで白い霧が踊っている。
私は言葉もなく目の前の景色に見惚れていた。
「おはよう、都代。綺麗な景色だね」
いつの間にか後ろにカイトが立っていた。
「あ・・・う・・・おはよ・・・」
振り向いたカイトの顔は、朝日に照らされて少し赤かった。たぶん、私は、素で赤いはず。でも、きっとこれならバレないね。
「すごく感動的な景色だね、カイト。私、こんなに美しい景色がこの世にあるなんて思わなかった・・・」
「そうだね・・・。この世・・・っていうか異世界だけどね・・・」
「ふふ。そうだったね。でも、すごく綺麗」
「ああ・・・」
私達は、並んで景色を見ていた。
とても、とても美しい景色だと、そう思った。
日が昇るまで、景色を眺めていたけれど、少し体も冷えてきたのでコテージの中に戻ったよ。
カイトがキッチンでコーヒーを淹れてくれるっていうから、私は椅子に座って待ったよ。
コーヒーはナタリー持参のインスタントの粉のやつ。
カップはコテージに備え付けの物。
お湯は・・・森から湖に注ぐ小川から水を引いていて、常に流れている。
ナタリーが言うには湧き水らしい。その水をポットに汲んで、カセットコンロで沸かした。
魔法でお湯にしようか?ってカイトに言ったのだけど、いや大丈夫って。
ま、コポコポとお湯が沸くのを見てるのも楽しいよ。
お湯が沸くのを待っていたら、マウリツィオ師匠が2階から降りてきたよ。
「お、都代ちゃん。おはよう。二人でモーニングコーヒーですかな?」
「な、師匠!な、な、なにを言ってるんですか!」
「ん?特別な意味など無いですよ?それとも都代ちゃんは、何かあったのですか?」
なんか、師匠の顔がにやけているような気がする・・・。
もう、知らない。
ナタリーも現れたよ。
「おはよう、都代、カイト。私もコーヒー・・・ん・・・お邪魔だったかしら・・・?」
「な、ナタリーまで!」
しかも、微妙にいつもと口調が違ってるし!
「おはよう、ナタリー。お湯は多めに沸かしてるから、3人分作るよ」
「ありがとう、カイト。向こうの広間で待ってますね。ほら、マウリツィオさん、行きますよ?」
そう言って黒猫師匠を抱き上げてキッチンを出て行った。
カイトと顔を見合わせると、カイトは、ぷっと笑った。
つられて私も笑ってしまった。
カイト、優しいな。
お湯が沸いたので、コーヒーを作っていく。
私の分は砂糖多め。ナタリーはブラック、でもコーヒー薄め。カイトは濃いめで砂糖少し。
カイトがナタリーと二人分を持って広間へ。私も自分のコーヒーを持って広間へ。
「はい、ナタリー」
「ありがとう、カイト」
ナタリーはテーブルの上に皿とミルクを用意していて、すでに師匠はミルクを舐めていた。
椅子に座ってコーヒーをすすった。
んー、なんか将来、結婚とかしたら、こんな家に住みたいなあ・・・。
カイトがいて、娘と猫がいて・・・。
ん?
私・・・何考えてるの・・・?
「都代?どうしました?顔が赤いですよ?」
ナタリーが少し心配そうな顔で私を覗き込みました。
「ううん、大丈夫!大丈夫!ちょっとコーヒーがね、うん、そうコーヒーが熱かっただけ!」