拍子抜け
しばらくフブキは鳴き続け、今は泣き疲れアクアの膝の上に乗り寝ていた。
どうして離れようとしていたのがフブキにわかったのか、アクアはわからないままだったがこれからは離れないようにしようと心の中で決めるには十分な出来事だった。
フブキが泣き静まってからアクアに詰め寄るプレイヤーは数多かった。
あまり詮索はマナー的にも許されることではないのだがそれでも気になるものは気になるようで職種や種族、フブキはあなたの何なんですかなど公園の注目の的になったのは言うまでもないだろう。
無論詳細など自分でもアクアはわかっていないのでなにを聞かれてもわからないの一言で流しきっていた。
天を仰ぐと雲ひとつない綺麗な青が広がっていた。
作られた人工の光景ではあるが少しだけ清々しい気持ちになるほど現実と大きく変わりはない。
アクアは大きく息を吐き、フブキを抱え予定通り依頼された目的の赤い点の見回りを始めることにした。
街中は一層プレイヤーで賑わっていた。
彼方此方にある店を見る者や非現実的な光景に仲間内で騒ぐ者など人それぞれにゲームを楽しんでいる。
アクアが向かう赤い点はそんな街の中でも大路地から外れた小道、建物と建物の間の薄暗い細道などプレイヤーもいない閑散とした場所ばかりであった。
「暗いなぁ」
一番側にあった目的の場所は建物の間の入り込んだ先にある。裏路地と呼ばれるような場所はじめじめと日の差してない日が続いているせいか地面がしっとりと濡れていた。
こういう場で事件などが起きやすいというのは誰が見ても理解できるだろう。だがそもそもこんな所へ来る人も巻き込まれては仕方ないと誰もいないことを確認してアクアはその場を後にした。
その後も似たような細道や、廃れたスラム街のような場所など如何にも何かありそうな雰囲気を効率よく巡っていくのだった。
数カ所に人がいたりしたがアクアの姿を見るなり散り散りになっていくあたり見回りの意味合いを表現しているのだろう。
最後の赤い点を確認し、結局何か起きるわけでもなく最初の依頼は終えた。
拍子抜けで気が緩む中、そこからすぐそばのもう一つの依頼されていた建物へと向かった。
怪しいというのには色々な捉え方がある。建物自体が歪な形をしているだとか周りの建物とは違う色合いをしている、庭の草木がここらに生えているものとは違うとかあげればキリのないほどその怪しさの感じ方は人それぞれだ。
「うわぁ」
「キュゥ」
アクアと目を覚まして顔を出しているフブキはあからさまに怪訝そうな声を上げていた。
2人の前には依頼された建物、ごく普通の3階建、強いて違和感をあげるにも特にそれと言っておかしなところもなく写真で見ているのであればいい建物ですねと言えるようなごく普通の建物だ。
しかし、2人の声の通り実際この建物から発せられる空気は明らかに危険を感じとれと言わんばかりに不穏な雰囲気を醸し出していた。
「これは…怪しい建物っていうよな」
ミリクの言っていた意味をアクアは理解してとりあえず中に入ることにした、鍵をもらっていなかったがドアノブに手をかけるとすんなりと玄関の扉は開いた。
もわぁっと建物内から嫌な空気が外へ流れてくる。
依頼がなければここで入るのをやめていたな。とアクアは考えながら一歩、玄関に足を踏み入れた。