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依頼

 ミリクは特に何か喋るでもなくただ目的である部屋へまっすぐ向かっていた。

 二階は誰でも来ることができるようで一階のようにテーブルには人が集まっていた。

 ただ広さとしては狭くその奥に通路がありその左右に扉がいくつかありそれぞれ個室としてあるようであった。

 なにか不思議な雰囲気にアクアもミリクへ話しかける気にはならずただ付いていく、そして案内されたのは一番奥に作られた個室であった。


「失礼します。条件を満たした方をお連れしました」


 ミリクが部屋の中にいる人物へ話しかけるように閉まった扉へと話す。

 すると音もなくスッと扉は歓迎するように内側へ開いた。

 ミリクがお辞儀をして入る様を見たアクアも同じようにお辞儀をして入る。


 部屋の中にはプレジデントデスクのような重厚感あふれる机に書類を山ほど積み上げその間から小さく手を振る男性がいた。


「や、やぁ…ごめんね、汚くて」

「ちょっと、協会長!あれだけ書類の整理しなさいって言ったのに!何してんですか!」


 申し訳なさそうに出てきたのは鍛えられた屈強な肉体からは考えられないほど物腰の柔らかそうな色黒の大男だった。

 一体その体を書類のどこに隠していたのかとアクアは言いたくなった。がグッと踏みとどまり2人はそんなことを知る由もなく、ただ意見をぶつけ合うのだった。


「もう、いいです!!あとで片付けさせますからね!とりあえず今はアクアさん待たせてますから話進めますよ!」

「い、いや〜ミリクちゃんが片付けとかいい始め……。う、ううん、違うね!ごめんよ!そうだね、アクアくん?のことから始めようね!」


 キッと睨まれ大男は泣く泣く会話を終わらせアクアの方へ視線を向けた。


「あー、見苦しいところをみせてごめんね?僕はこの協会の協会長のブライトンです。君がアクアくん?」

「はい!そうです」


 ミリクもブライトンもプレイヤーではないだろう、このゲームが始まったばかりで受付も協会長なんて地位もあるわけがない。しかし違和感のないこの人らしさは最新型のAIと言ったところだ。


「ミリクくんにはちょっと頼みごとをしていてね。受付にたくさん並んでるからその中で登録証発行できない人を連れてきてって言ってあったんだけど、これがなかなかいなくてね」


 頬を人差し指で掻きながら申し訳なさそうに喋る。


「運良く君が出来なくて来てくれたようで何も知らないのにごめんね」

「あ、いえいえ。そんな気にしないでください。それよりも特別な登録証をもらえるって聞いたんですけど僕は何をしたら?」


 少し驚いたような顔でブライトンはにこやかに微笑んだ。


「よかったー。登録証発行にお願い事があることは聞いていたんだね。その説明するのも僕は緊張しちゃってどうしようかと思ってたんだ。やってほしいことは街の中の散策と一つだけ怪しい建物の中を調べてほしいんだけど…」


 アクアがどんな表情をするのか、恐る恐る覗くような感じでチラチラとブライトンは見る。


「僕はいいんですけど…その散策?には意味があるんですか?」

「あーそうだね、ちゃんと説明するね。まず散策だけど街中は平和といってもたまに事件が起きるから、その警備と言ったら重くなるけど見回り程度の気持ちで変なことしてる人がいたら止めてほしい。それが一つ目。」


 多分想像だがプレイヤーがやるわけではなくAIがランダムで発生させる小イベントだ。窃盗だったりがこの街でも起きるということだ。


「2つ目の怪しい建物なんだけど…調べるだけじゃなくてきっと戦闘になる。とは言ってもLv1の人でも簡単にモンスターがいるだけだからそんなに厳しいことはないんだけど少々厄介でね」


 どう話すべきかと考えながらブライトンはうーんと悩みながら慎重に言葉を選ぶ。


「数はそこそこいるんだよ、ダメージはくらわないけど数が多い。その上素材も落ちないし経験値にもならない。だから冒険者に頼んでもやってくれないんだ」

「散策はいいですけどそっちはめんどくさそうですね」


 だろうなという顔でミリクは頷いている。

 ブライトンも嘆息し、仕方なさそうな表情を浮かべる。


「だよね。だからこそ特別な登録証を報酬にしたんだよ。発行されるちゃうと登録証は決まっちゃうんだけどね、そうじゃない状態なら僕が特別に許可する登録証が発行できるんだよ」


「普通のと特別で何が変わるんですか?」


「あぁ、えーっと。まず登録証の色変えが自由にできて、協会登録のお店で割引が使える。素材買取も少しだけ値上げできるし、ランクも比較的優遇してあげられるね。その他にも色々あるけど優遇してもらえるようなことばかりだよ。強いて欠点をあげるなら特別なのって他の冒険者にバレると注目を浴びるってくらいかなー」


 まぁ利点はいっぱいあるよ。とブライトンは笑いながらアクアのほうを見るしかなかった。

 面倒くささに見合うのかというのは現状では判断がつかなかった。お店も協会登録の店を見てないので物の相場もアクアには理解できていなかったが後々を考えて今これを手に入れることは悪くないと至るにはそう時間はかからなかった。


「見回りと建物に巣食うモンスター退治をして調べるだけでいいんですよね?」

「あぁ、むしろこっちからお願いしたいことだよ」

「じゃあ…受けます。その依頼」


 アクアの発言で部屋の空気は一気に緩まった。

 それもそのはずでブライトンがあからさまにホッとした表情で椅子の背にもたれ安堵の表情を浮かべていたというのもある。


「ちょっと協会長!まだお客様のアクアさんがいるのになんて格好してんのよ!」


 ミリクが責め立てたく気持ちもアクアはわからないでもなかった。


「いや、ミリクくん?断られたらどうしようってすっごい気を張ってたんだよ。少しぐらい緊張の糸ほどかないと。ねぇ、アクアくん」

「えぇ、まぁ」


 先程までの威厳ある男性からただのおじさんにしか見えないギャップに思わず苦笑を浮かべるしかなかった。

 その後特に意味のない会話を数回し、ブライトンはアクアに幾度となくごめんねやありがとうを端々につぶやくのだった。


「あ、ところでステータスとかって確認したかしら?」


 ミリクがそんなことを言ってアクアはまだフブキの確認の時しか特にメニューを確認していなかったことに気がついた。


「一応しましたよ。ただ細かくはまだ確認しきれてないかな」

「ならちゃんと見とくことよ。よく初心者は何も見ないでモンスターに突っ込んで死んじゃうこと多いから」


 そう言って寂しそうな顔をするミリクはやけに人間味のある表情でそれはAIであることを忘れてしまうほどであった。


「ミリクくん?君もお客さんのいる前でする顔じゃぁないぞ?」

「あぁ、ごめんなさい、アクアさん」


 頭を下げると床に一滴の雫が落ちた。

 しかしそれに気づいたのはその場ではミリク本人以外誰もいなかった。


「じゃあアクアくん、少しばかり面倒かもしれないがよろしく頼むね。僕は今からあれを処理しないとだから」


 ブライトンは机の上に乱雑と積み上げられた書類の数々を指差し嘆息混じりの笑みを浮かべながらすごすごと机の方へ向かっていった。


「僕もそろそろ行きますね。建物の場所だけミリクさん教えてください」

「えぇ!では下の受付で地図渡しますね」


 先ほどの表情とは打って変わって溌剌とした声色と笑顔でブライトンに別れを告げ下の受付へと戻っていった。

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