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友人

 中心街へ向かうにつれて街の活気は一層賑やかになっていった。

 それは必然的にアクアとフブキへの注目が増えることに繋がるが人目を気にしてか、話しかけてくるプレイヤーは生憎いなかった。


 先ほどの通りから打って変わり店の多さが目立つ。食事処はもちろん装備系であったり細かに分かれた専門店が多く建ち並んでいる印象を受けることだろう。

 アクア自身気になる店舗はいくつかあったのだが、如何せん手持ちが1000イェンしかないのだ。

 入っても冷やかすだけな上、欲しいものを見つけても買えない煩わしさに泣く泣くアクアは外からチラッと覗く程度で済ましていた。


「まずはお金だな、装備とか揃えないと流石にいつまでも初期装備じゃな」


 フブキはわかっているのか頷く。


「やっぱ冒険者とかに登録してクエスト受けるのかね、突飛押しのないクエストは無さそうだし…」


 周りの人を見る限りは特別何かしらの依頼に追われている人はおらず、観光気分で街を歩く人やどこかしらで稼いだお金で買い物をする人たちばかりであった。


 目的としていた大きな建物は中心地に設けられた広場から一つ外れた通りにまたがる様に建てられていた。


 大聖堂と呼ばれるような荘厳さというよりかは集会所のような多くの人を受け入れられるように造られた庶民的な見栄えである。

 入り口の横には【冒険者協会本部】と書かれた看板が出されており、それを見たプレイヤーたちで人は多く賑わっていた。


「ゲーム初日なだけあって、凄い人の量だな。フブキあんまり目立たないようにおとなしくしててな」

「キュ」


 小さく敬礼をしそのまま顔をアクアの胸に埋め羽毛の塊にしか見えなくなった。

 そんなフブキを撫でながらアクアは建物の中に入る。


 建物の中はまさしくギルドと呼ばれるような異世界らしさ満載であった。

 入ってすぐに机や椅子が広がりそこにはソロの人やパーティで座り談笑するプレイヤーが多くいる。

 そこを抜けると受付と左右に弧を描いた階段が受付を挟み込むようにあった。真正面に受付を見て左にはクエストを受けるためだろう電子掲示板、右には個人でなにか操作できる端末のようなものがある。


 建物の中には禍々しい魔族がいると思えば、可愛らしい魔族もいてヒューマンのアクアは目立つこともなくヒビキに関しても特に誰かに見られるということもなかった。

 なにより受付から伸びる長蛇の列の方に目線が行きプレイヤーを監視するような風変わりなものがいなかったのだろう。


 その列を見てみると、受付何か会話をした後にカウンターに置かれたプレートに手を置きスキャニングしその後一枚のカードを手渡されていた。

 流れから察するにあれが冒険者カードのようなもののようでクエスト受注などに必要になってくるのだとアクアは推察し、長々と続く列の最後尾についた。


 ただ並ぶ前に確信がないため誰かに聞いてみようとしたが話しかけるには少々おどろおどろしい見た目の人が多くなにも聞かずに並ぶことになってしまっていた。


 受付はテキパキと処理されており、長蛇の列も進みが早い。その分並ぶ人も同等に多いのでいたちごっこになってしまっている。


「お主も冒険者登録か?」


 アクアの後ろから突然声をかけてきたのは背の低いおじいさんだった。


「ええ、この列はその…登録の列で合ってるんですよね?」

「そうじゃと思うぞ?さっきこの列の受付から離れていった男が登録できたと言っておるのを聞いたからの、それに…」


 話をするおじいさん曰く、ここへ来る前に真っ先に街の外へ出ようとしたところ門番に身分証の提示を求められ、単独で外へ出るにはここの冒険者登録で発行される身分証がいるということだった。


 発行するにはフラグ立てしなきゃいけないのかとアクアは考えたが、おじいさんが

「外に行かないでここに来るものも多いじゃろうし大丈夫だろうて」

 と根拠のない進言ではあったがなんとなく納得したアクアはそのまま並ぶことにした。


 初対面でもこれだけ優しくしてくれるのかと初めて喋った女のマナーの悪さを改めて感じる。

 フブキも特別警戒している様子もなく、おじいさんは信用たる人物とアクアは心の中で位置付けていた。


「みなさん楽しそうですね」

「じゃな、発表されて1年待ったからの。IRはVRと違って全身の感覚も繊細に感じられるしのう。別世界にきてる感覚というのはたまらないものがあるのじゃろ、わしもその1人じゃ」


 カッカッカと豪快に笑うおじいさんにつられてアクアも笑みがこぼれる。


「自分じゃない自分になれるっていうのはどこか不思議な感覚ではありますけど、いいですよね。僕はヒューマン選んじゃって遊びがないですけど、かなり怖い見た目の魔族系選んでる人とか見ちゃうとやっぱそういう系にしておけば。なんて考えちゃいます」


 この協会へやってきて色々な種族を見たせいかアクアは若干ヒューマンを選んだことに後悔ではないが心残りを感じていた。


「まぁ、誰しもそうじゃよ、ないものはよく見えるんじゃ。ほれあの怖い顔した魔族の男見てみぃ?」


 指の刺されたほうを向くと威圧感のオーラ漂う魔族がいた、モデルは山羊の角を持つ悪魔だろう、細やかにパーツパーツを設定しておるせいかその顔は見るものをビビらせるには充分なほどに怖いものになっていた。

 そのせいで周りには人が寄って来ることもなくただ1人ポツンと空間が出来上がっていた。


「多分じゃが仲間を作りたいんじゃとわしは思っとる。があの顔じゃ皆怖くて近寄れん、その内見た目だけだとわかって仲間もできようが今はまだ難しいじゃろ」

「ですね、あれは夢に出そうですし」

「どんなにカッコ良くてもカッコ悪くてもどう転ぶかわからんのがゲームじゃ、だからヒューマンだからといって別に自分を蔑まんでもいいんじゃからな」


 よほどアクアが落ち込んだ様子だったのかおじいちゃんは励ますように喋るのだった。

 優しいプレイヤーだなと再認識し、アクアはフレンド登録できないかと申し出た。


「迷惑でなければでいいんですが…」


 アクアの謙虚な姿勢におじいさんは笑う。


「もちろん、構わんぞ。フレンドは出来るだけ信頼できるやつのほうがいいしの、えっと名前は…」

「アクアです。あとこの子がフブキって言います」


 首をすぼめて顔を隠していたフブキが名前を呼ばれ顔を出す。


「ほう、何かと思ったら生き物じゃったんか。可愛いの」


 頭を撫でられ目を瞑っておじいさんの手を受け入れる。


「わしはガンテツじゃ。まぁ見ての通りドワーフ…なんじゃがじつは秘密がある」


 そういって周りには聞こえないようにひそひそと声を小さくした。


「見た目がこの風貌なんだが実はヤングドワーフという種族でな、喋り方も敢えて爺臭くしとるだ」


 ドワーフは基本的に斧やハンマーを主体とした重撃をメイン装備として生産面では鍛治を得意としている。

 このドワーフにも細かな変化があり、その中でもヤングドワーフというのは素早さが高く剣や槍といったあらゆる武器が使えるが攻撃力が極端に低く戦闘向きではない。

 ただ鍛治に関しては特化しており通常ドワーフよりも品質が良いものができる。

 故にヤングドワーフは武器職人として重宝され近づこうとするものが多い。

 が、わざわざ生産種族へするものが圧倒的に少ないためにヤングドワーフとバレれば一気に多くの人に絡まれることになる。


 アクアはそれを知らないためにガンテツがわざわざそれを教えてくれたことにどう反応するか悩んだ。


「そ、そうなんですね。ドワーフも何種類かありましたから隠さなくてもいいんじゃ?」

「かっかっか。その様子じゃ知らんのじゃな」


 ヤングドワーフの立場を話すとアクアは自分の境遇と似ていることを知り、気があうわけだと感じる。


「僕もこの子のことでここに来る前に少し絡まれて、大変でしたよ…」

「じゃろうな、テイマーでもまだモンスターをテイムしてないのに、そんな中でいきなりこんな子連れてたらそりゃ絡まれるわい」


 まぁでも…と言葉を続ける。

「お主らじゃどうしようもないことじゃしな。困ったら逃げればいい、そこまでして追って来るようなら通報もできるしの」


「はい、今度からはそうします。な、フブキ」


 くわぁ〜っと口を大きく開け欠伸をするフブキが決まりポーズの敬礼を手抜きですると再び顔を埋めて丸くなった。


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